夢物語

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第二章

夢の続き

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彼は小さい頃から色々な夢を考えるのが好きだった。幼稚園生の頃は自分がヒーローになって沢山の人を救っている夢を考えていた。おそらく本気でヒーローになりたいと思っていたんだろう。映画に出てくる正義の味方――おおよそ怪獣が地球や人々を壊しにやってきて、好き勝手暴れてる最中にヒーローが遅れて登場し、見事撃退して世界に平和をもたらす。ありふれた話だがその圧倒的な強さとロマンに心惹かれる子供も少なくはないはずだ。彼は親にこう言った。

「ぼく、こんなかっこいいヒーローになりたい!!」

それに対し親は言った。

「おぉヒーローになりたいのか!かっこいいもんなぁ!きっとなれるぞ!!」

そして小学生の頃は自分がサッカー選手になって世界と戦っている夢、ないしは自分がキャプテンとなり優勝を目指すという夢を考えていた。これもまた、おそらくテレビなどで中継されてるワールドカップなどに心を打たれたのだろう。その白熱した試合を見終わった後に目を輝かせて、彼は親にこう言った。

「ぼく、将来はサッカー選手になりたい!!」

そして親はこう言った。

「おぉサッカー選手になりたいのか!いいなぁ、父さん応援するぞ!」

また彼は中学生の頃に自分が億万長者になって欲しいものを全部手に入れている夢を考えていた。自分が宝くじで一等が当たり億万長者になり、豪邸に住み召使いを雇って世界のありとあらゆるご馳走を食べ尽くす。南国の海辺に別荘を建てそこでバカンスを過ごす。豪華客船で世界一周、いや宇宙旅行まで考えていたかもしれない。彼はある日親に言った。

「ぼく、大人になったら億万長者になりたい!!」

「へぇ~億万長者ねぇ。なれるんじゃない?社長のお父さんを超えられるように頑張ってね!」

親は彼の言ったことを否定しなかった。それどころか応援までしてくれる。彼はそれに満足した。

彼は高校生になると今度は、女の子にモテまくりの自分を夢として考えた。確かに彼自身、小さい頃はそうでもなかったが今は太っていて、髪もボサボサで不潔感があり、お世辞にもかっこいいとは言えなかった。文武両道、人に優しく思いやりがあり、おまけに顔までイケメンで女の子からは王子様と呼ばれている自分を想像した。そしてある日親にこう言った。

「俺、女の子にモテたい!!」

そして親は彼に対し自信満々に言ってくれた。

「おぉ~ついにそういう事を言う日が来るとは!心配するな、うちはお金もある!それに父さんの息子なんだから自然と人は寄ってくる!だからいつか必ずモテ期がやってくるぞ!!」

彼はその反応にまた満足した。

大学生になると今度は、有名な人になりたいと思った。テレビに出てるような芸能人やアイドルはもちろん、総理大臣にまでなれれば自分を知らない人はいなくなるだろうと考え、自分が有名人になって色々な人からチヤホヤされている夢を抱いた。そして彼は親にこう言った。

「俺、有名人になりたい!!」

すると親は笑顔でこう言った。

「あなたならきっとなれるわよ!家柄の良いお母さんの息子だもの。その日が待ち遠しいわあ」

それから三十年ほどの月日が流れたある日、彼は顔面を蒼白にして勢い良く階段を駆け下り一階に向かっていた。

「どうしたのよそんなに慌てて」

「ッッ母さん!俺さっきさ、久しぶりに夢を見たんだけど、それが今までにないくらいに恐ろしい夢だったんだ…幽霊とかじゃない、なんかこう精神的にくる感じ。まるでその人の人生を迫体験してるかのようだったよ」

「あらかわいそうにねぇ、一体どんな夢だったの?」

「あのね…なんか夢に出てきたそいつは、ただひたすらに自分の夢を他人に語るだけ語って満足して、結局現実では何もしない、何も成し遂げないで家に閉じこもったまま孤独に死んでいったんだ。想ってくれる人もいなかったみたいで、最終的には誰にも相手にされなくなっていたよ。なんかそれを見てて俺まで苦しくなっちゃった」

「あらあら、それは恐かったでしょうに。でも夢で本当に良かったわね」

「うん、いや本当に良かったよ…ホッとした」

そう言うと彼はようやく気持ちが落ち着いたのか、安心した表情を浮かべると二階に上がり、薄暗いカーテンを閉め切った埃の舞う自分の部屋に入ると、ドアを閉め再びベッドに横になった――。
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