上 下
1 / 6

俺、ゲームの世界で頑張ります

しおりを挟む
 ▪️壊れる日常

『今日のログインボーナスは1000コインよ。明日は回復薬が貰えるわ!楽しみにーーーー

 タンッ。

「さて……そろそろメンテ明けの時間か」

 いつダウンロードしたか忘れるレベルのゲームを閉じると、俺は座り直してスマホを机に置いた。
 時刻は15:58、否が応にもテンションが上がりそわそわと時計を何度も確認してしまう。
 そう、何を隠そう俺が今ガチで力を入れている超人気アプリ『エタニティ・ラスト・テイルズ』の大型アップデートが終わりつつある。
 このアプリは大手ゲーム会社が社運を賭けて制作した超ビッグタイトルである。どのテレビを見てもCMが流れ、駅前には大きなポスターも貼ってあるくらいだ。
 今回の大型アップデートは特に注目を集めており、新キャラの実装、大型のギルド戦開放、新規サーバーの拡張と、リリース2年目を飾るに相応しいラインナップと言える。
 それ故のボリュームの多さに、初の丸二日がかりのメンテナンス実装となった。
 本来ならもっと早い段階で終わる筈だったが、メンテ明け→バグ対応のコンボにより結果的に延長を喰らうお約束付きだ。
 この場合、お詫びアイテムを大量に貰えるので攻略サイト上でも「お詫び石はよ!」のワードが飛び交っていた。
 そして俺はと言うと、今回実装キャラの内の一体である『激ヤバ女神ヴェルダンディ二世』を手に入れる為、バッチリ課金をして準備を整えていた。
 10連ガチャ換算で合計150連。これだけ引けば一点狙いでも引く事は可能だろう。貯めたお年玉を全てはたいたのだ、もう後には引けない。

 ーーさぁ、メンテが開ける。

「祭りの始まりだ!!」

 歓喜の声と共にアプリを起動する。しかし次の瞬間、スマホの画面より溢れた光が突如として部屋を包み込んだ。
 何だ? 何がどうなっている?
 その光の眩しさに俺は薄目すら開ける事が出来ずに、無抵抗のまま佇むしかなかった。

 ◆

「…………うっ、ここは?」

 見た事が無い風景。
 おかしい、俺は確かに自分の部屋に居たはずだ。しかし今はどうだ? 広大な大地に広がる草原の上に座り込んでおり、手元には自分のスマホだけが握られていた。

「夢……じゃない。まさか……これってアニメとかで良く有るヤツじゃ!?」

 俗に言う、『ゲームの世界に引き込まれる』系のアレである。
 現に明らかに現実世界とは異なる場所にいるのだ。その証拠に空を見上げれば太陽が3つ有る。こんな現象はリアルで有る筈が無い。

「やばい……なんかテンション上がってキターー!!」

 誰しも妄想しただろう。自分の好きなゲームの世界に転移して無双する姿を。
 そして俺はついに叶えてしまったのだ。「エタニティ・ラスト・テイルズ」の世界に転移して、このゲーム内で無双出来るという密かな夢を!

『……あの、貴方が「津田 将生つだまさき」さんですか?』
「えッ!?」

 突然、誰かに話しかけられる。
 振り向くと、俺の目線の高さに小さな女の子の姿があった。
 身体はサッカーボール程の大きさで、背中には四枚の羽が生えている。それは正に『妖精』以外の何者でも無かった。

『ええと、津田さん?』
「は、はい! 津田です!!」
『よかった、私は貴方を待ってたんですよ? この世界を救う「救世主」として』

 聞いた? ねぇ聞いた奥さん?
 救世主だって、この俺が救世主。
 憧れのエタニティ・ラスト・テイルズの世界に舞い降りて、更には救世主ときた。完璧じゃないか、この世界は僕を欲していたのだ。

『では津田さん、いきなりですが貴方には使命が与えられました。この世界の救世主として、この地に住む人々を救って貰えますか?』
「……ふっ、愚問だよ妖精ちゃん。この津田将生、命を賭して、このエタニティ・ラスト・テイルズの世界を救ってみせるよ」
『え、あ……違いますよ?』
「……ん?」
『いやだから、この舞台になってるゲームは「エタニティ・ラスト・テイルズ」では無くーーーー「ヘコヘコクエスト」です』
「ヘコ……え、なんて?」
『だから、ヘコヘコクエストです』

 拝啓、お母さん。
 どうやら俺は得体の知れないゲームの世界に放り込まれたようです。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

3歳で捨てられた件

玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。 それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。 キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

チート薬学で成り上がり! 伯爵家から放逐されたけど優しい子爵家の養子になりました!

芽狐
ファンタジー
⭐️チート薬学3巻発売中⭐️ ブラック企業勤めの37歳の高橋 渉(わたる)は、過労で倒れ会社をクビになる。  嫌なことを忘れようと、異世界のアニメを見ていて、ふと「異世界に行きたい」と口に出したことが、始まりで女神によって死にかけている体に転生させられる! 転生先は、スキルないも魔法も使えないアレクを家族は他人のように扱い、使用人すらも見下した態度で接する伯爵家だった。 新しく生まれ変わったアレク(渉)は、この最悪な現状をどう打破して幸せになっていくのか?? 更新予定:なるべく毎日19時にアップします! アップされなければ、多忙とお考え下さい!

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました

東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。 攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる! そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

処理中です...