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降参

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克也のしつこいキスのせいで授業に遅れそうだ。
「…っ、時間ないのにっ、!」
「走らないと間に合わないぞ」
生徒会長は欠席しても大丈夫なので克也は座り直し手をヒラヒラ降る。

克也のせいで時間がギリギリになったのに自分だけ急がないといけないのは何ともイラッとくる。
こういう時、A組だったなら成績さえ落とさなければ休めたのにと後悔する。

息が上がっているのを深呼吸して落ち着かせてソッと教室のドアを開けたつもりだったのにしっかり音は鳴ってしまってクラスの殆どが振り返った。

その目線に怯みそうになるも軽く頭を下げ急いで席に座る。
目立つつもりはないのにしっかりこうして目立つようになってしまった。

克也といる代償というか、まぁ、バレてないからこれくらいで済んでいるが克也の恋人が裕也だとバレたときには…それはもう考えたくない。
それでも離れるという選択肢はもうなくなった。

克也がこの学校にいるのはあと四ヶ月しかない。居なくなった後は生徒の克也への関心も心なしかマシになる気もする。
だけど、いつバレてもいいように気持ちの準備をしておかないといけない。

そんな事を考えながら授業を聞いているとポケットに入れていた携帯電話が震えた。
コッソリ開くと結衣から今日の放課後遊びに行こうとメールが届いていた。
それに了承の返事をし、またボッーと授業に戻った。


「会いたかったよ!!」
「うん、僕もだ。今日はどこに行くんだ?」
「僕の知り合いがお店をしててね!ケーキが美味しいんだ!克也から裕也くん甘いもの好きだって聞いたから誘ってみたんだー」

基本的にニコニコしている結衣はいい意味で周りの空気を緩くする。
きっと、結衣と一緒にいる人は幸せになれる。
「乗って!」
黒の車が停まってあり、それに乗り込み運転席にいる人に挨拶した。

「克也とはどう?変な事されてない?」
「…………大丈夫、かな」
「なに!その間!絶対なんかされてるやつじゃん!」
「いや、なんというか、その…、スキンシップが多いというか、距離が近いし、しつこくてウザい時があるっていうか………」

克也との事を人に言うつもりはなかったのに結衣の勢いが凄くてついつい口から出てしまった。
「あー、でも克也ほんとに裕也くんが好きなんだね!知ってるけど!!」
どういうことか分からずハテナマークを浮かべる裕也に結衣が教えてくれる。

「だって、克也それなりに今までシてきてるけど皆言ってたよー優しいけど一度寝れば終わりだって、笑顔で無かったことにされるらしいよー」
「……、」
「それに比べて今ではウザがられるくらいイチャイチャしてるんでしょー?裕也くん、無敵だ!」
「イッ!チャ、イチャはしてないっ!!」
結衣からしてみればやはり只の惚気にしか聞こえないのだろう。

「まぁ、困ったことがあったら何でも言ってね!二人のことで一番力になれるのは僕だと思うし!それに、克也の惚気もこの調子でぜひ僕にいっぱい聞かせてね!」
「………惚気…、言ったつもりはないんだけど…」
無自覚で惚気ていたのに気づいて手で顔を隠した。恥ずかしすぎる。

チラッと結衣を見るとニコニコしているのでたまには聞いてもらうのもいいか、と思い直した。



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