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転校生

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朝、由衣からメールがあって今日の放課後に旧図書室で会いたいと言われた。
断りたかったが土日にも誘われていたのを断っていたので会えないとは言えなかった。

憂鬱だ。
由衣がいい子だと思うからこそ複雑な気持ちが生まれる。
由衣に対して抱きたくない感情を抱いてしまうし、できる事なら克也と関わりのある人とは接触したくなかった。

「はぁ…会いたくない……僕と会っても面白いことなんて何もないのになんで……はぁ」
ため息が気づけば出ている。

重い足どりで旧図書室につき、ドアをそっと開けると誰もいなかった。
少しホッとして息を吐きいつもの席に座る。

学校にいると克也からの強い視線を感じる。
無かったことにしたいのに視線が気になりつい見てしまうと隣には由衣がいる。
心が真っ黒になり忘れさせてもらえない。
何がしたいのか。

ボッーと外を見ているとドアが開いた音がして振り返ると由衣ではなく克也が立っていた。
「な…んで…」
克也は無言で近づいてくると裕也を抱き寄せた。

「会いたかった」
その言葉を聞いた途端色んなものがごちゃごちゃになり克也を強く押し返した。
「離せっ!!!お前とはもう会わない!!」
「それは許さない」
少し距離が出来たものの裕也の肩に置かれた克也の手にギュと力が入り肩が傷んだ。

「話しを聞いてくれ」
「何も話すことなんてない!初めから暇つぶしだったんだろ?お前が僕に飽きて僕を捨てた!それだけだ!!」
「それはちがうっ!!!」

克也が大きな声を出すところなんて初めての事で思わずビクッとしてしまう。

「悪かった、話しもせず急に連絡しなくなったらそう思われても仕方がないとは思う。でもお前に飽きた訳じゃないし飽きる予定もない」
「信用できない」
「だよな。でも話しは聞いてくれ」

この一週間、必死に無かったことにしようとしてきたのに急にこんなことになって心が追いつかない。
克也からお前はもういらないと切り捨てられた訳じゃない。
でも裕也にとって人と関わるというのは本当に大きな事だったのだ。

克也が余りに必死なので聞くだけなら…という思いと聞いてもどうせ口だけだという思いがグルグルして黙っていると克也は裕也が聞いてくれると思ったのか話し出す。


「まず、由衣とは番じゃない。俺が番にしたいのはお前だ、裕也」
「……はぁ?」
「でも由衣は家同士が決めた婚約者で解消する為に条件をつけられた。それが由衣を転校生として迎え入れる事とお前にしばらく会わない事。この土日でとりあえず婚約解消出来た、暫くはゴタゴタするだろうが」

話していることは聞こえてはいるが理解できない。
会えなかった理由を説明されてもそれをどこまで信じていいんだ?もし信じて克也にに捨てられたら絶対に自分は耐えられない。

「意味が分からない」
「分からないか?俺はお前が欲しいんだよ、自分のものにしたい」
「そんなこと信じられない!!絶対にお前は僕を捨てる」
「捨てない。お前は俺のモノだし俺はお前のモノだ」
ソッと頬に手が添えられ克也が裕也を見つめると裕也の目から涙が溢れてくる。
「嫌だ。信じたくない」

克也は裕也の目もとにキスをすると抱き寄せ頭を撫でる。
「説明しなくて悪かった」
「い…やだっ…!離、せっ、」
離せと言いながらも裕也の手は須藤の制服の裾を握っている。

「お前がなんと言おうと俺はお前を自分のモノにするし離さない。一生なんて言葉は嫌いだがお前の事は死んでも離さない」

本当に?

「お前が好きだ」
裕也はその言葉に何も返さず、克也に手をまわすことも突き放す事もせずただ立ったまま克也の腕の中で涙を流す。
克也はそれ以上なにも言わず裕也を抱きしめ続けた。



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