婚約者は俺にだけ冷たい

円みやび

文字の大きさ
上 下
9 / 34
2

4

しおりを挟む


気持ち悪い。
頭が痛くて吐き気がする。
「明日から冬休みですが…」
今日も長い話しをしている校長のマイクを通した声が頭に響く。

奏多がそういうことを自分以外の子としているのは知っていた。
誘いに断らないと聞いたことがあった。
生徒と距離を取りがちな自分はその噂を誰に聞いたのか忘れてしまったがショックが大きかったのを覚えている。

それから奏多がΩの子や女の子といるのを見るたびにきっとそういうことなのだろうとわかっているつもりだった。

しかし今日、和泉に直接言われてリアルに想像してしまった。
今までは奏多の相手の子をあまり知らなかったから耐えられた。
和泉と少し話した後に聞いてしまったから急に知り合い同士がsexしているのだと生々しくに感じた。

今すぐここから出ていってベッドで横になりたい。
そして眠ってしまえば嫌なことを考えずに済むだろう。

「おい、大丈夫か」
余程顔色が悪いのか和弘が横からこっそりと支えてくれる。
大丈夫だと返事をしたいのに口を開けば朝食べたものが出てきてしまいそうで小さく頷いた。

付き合いの長い和弘には優一の体調が相当悪いことが伝わってしまったらしく今すぐ出ていかせてもらえと言われてしまう。

大丈夫だから、と安心させるように首を振って俯いていた顔を上げた。

今日を逃してしまえば奏多と会えるのは冬休みが明けてからになってしまう。
もう少しの時間しかないのなら一秒でもこの目に焼き付けておきたい。

こんな一人の生徒のことばかりを考えているのは教師失格だと思っていても視線が勝手に奏多を探してしまう。

奏多は友達たちとコソコソと話しながら小さく笑っている。
今日も元気そうだ。
奏多の笑顔につられて優一の口角もほんの少しだけ上がる。

奏多の顔を見ていると今日聞いたことも忘れて気持ち悪かったのがスッとマシになったような気がする。
「終わったらすぐ抜けろよ。お前クラス持ってないから大丈夫だろ」
周りに聞こえないように小さい声で心配してくれる和弘に今度は声を出してありがとうと呟いた。

その時、友達の方を向いていた奏多の視線が優一に向けられた。
その目は真っ直ぐだったが奏多の感情を読み取ることができなかった。

優一もその視線に囚われ、数秒の間大勢の生徒がいる中で奏多と二人だけになったような感覚に陥った。

が、それも一瞬でまたスッと奏多の視線はどこかへいってしまった。

奏多は何を思って優一の方を見たのだろう。
昔は奏多が何も言わなくても大体のことはわかっている自信があったが今は少しのこともわからない。
それが奏多と優一の今の距離を示していて心がズキリと傷んだ。



しおりを挟む
感想 104

あなたにおすすめの小説

君のことなんてもう知らない

ぽぽ
BL
早乙女琥珀は幼馴染の佐伯慶也に毎日のように告白しては振られてしまう。 告白をOKする素振りも見せず、軽く琥珀をあしらう慶也に憤りを覚えていた。 だがある日、琥珀は記憶喪失になってしまい、慶也の記憶を失ってしまう。 今まで自分のことをあしらってきた慶也のことを忘れて、他の人と恋を始めようとするが… 「お前なんて知らないから」

変なαとΩに両脇を包囲されたβが、色々奪われながら頑張る話

ベポ田
BL
ヒトの性別が、雄と雌、さらにα、β、Ωの三種類のバース性に分類される世界。総人口の僅か5%しか存在しないαとΩは、フェロモンの分泌器官・受容体の発達度合いで、さらにI型、II型、Ⅲ型に分類される。 βである主人公・九条博人の通う私立帝高校高校は、αやΩ、さらにI型、II型が多く所属する伝統ある名門校だった。 そんな魔境のなかで、変なI型αとII型Ωに理不尽に執着されては、色々な物を奪われ、手に入れながら頑張る不憫なβの話。 イベントにて頒布予定の合同誌サンプルです。 3部構成のうち、1部まで公開予定です。 イラストは、漫画・イラスト担当のいぽいぽさんが描いたものです。 最新はTwitterに掲載しています。

ストロボ

煉瓦
BL
攻めの想い人に自分が似ていたから、自分は攻めと恋人同士になれたのでは? と悩む受けの話です。

【本編完結済】蓼食う旦那様は奥様がお好き

ましまろ
BL
今年で二十八歳、いまだに結婚相手の見つからない真を心配して、両親がお見合い相手を見繕ってくれた。 お相手は年下でエリートのイケメンアルファだという。冴えない自分が気に入ってもらえるだろうかと不安に思いながらも対面した相手は、真の顔を見るなりあからさまに失望した。 さらには旦那にはマコトという本命の相手がいるらしく── 旦那に嫌われていると思っている年上平凡オメガが幸せになるために頑張るお話です。 年下美形アルファ×年上平凡オメガ 【2023.4.9】本編完結済です。今後は小話などを細々と更新予定です。

【本編完結】偽りの麗人と不機嫌な侯爵様

ましまろ
BL
ある日妹が泣いた。「こんな醜男と結婚なんて絶対嫌!!」どうやら、許嫁の容姿が気に食わないらしい。 断固拒否の姿勢を示す妹の身代わりとして隣国の侯爵家に嫁ぐことになったオメガの肇。美しい妹とは違い地味で冴えない自分では相手に拒絶されてしまうと考えたが、予想に反して先方は花嫁の交換を承諾。さらには、顔合わせの先で対面した未来の夫は、肖像画とは似ても似つかない絶世の美男子だった。 あれよあれよという間に結婚式当日を迎え、侯爵夫人となった肇。しかし夫である侯爵は肇の容姿に不満があるらしく、常に機嫌が悪く口数も少ない。 初夜も失敗に終わり落ち込んでいた肇の元に占い師を名乗る女が現れ「相手の理想の姿になれる」という薬を渡され── 後継を産むため平凡オメガさんが頑張ったり空回ったりするすれ違いラブコメです。 冷徹美形アルファ×不憫平凡オメガ ※序盤、主人公が虐げられる描写があります。 ※オメガに対する差別的な発言などが含まれます。 2023.4.23 本編完結しました。今後は小話などを不定期で更新予定です。

【完】100枚目の離婚届~僕のことを愛していないはずの夫が、何故か異常に優しい~

人生1919回血迷った人
BL
矢野 那月と須田 慎二の馴れ初めは最悪だった。 残業中の職場で、突然、発情してしまった矢野(オメガ)。そのフェロモンに当てられ、矢野を押し倒す須田(アルファ)。 そうした事故で、二人は番になり、結婚した。 しかし、そんな結婚生活の中、矢野は須田のことが本気で好きになってしまった。 須田は、自分のことが好きじゃない。 それが分かってるからこそ矢野は、苦しくて辛くて……。 須田に近づく人達に殴り掛かりたいし、近づくなと叫び散らかしたい。 そんな欲求を抑え込んで生活していたが、ある日限界を迎えて、手を出してしまった。 ついに、一線を超えてしまった。 帰宅した矢野は、震える手で離婚届を記入していた。 ※本編完結 ※特殊設定あります ※Twitterやってます☆(@mutsunenovel)

狂わせたのは君なのに

白兪
BL
ガベラは10歳の時に前世の記憶を思い出した。ここはゲームの世界で自分は悪役令息だということを。ゲームではガベラは主人公ランを悪漢を雇って襲わせ、そして断罪される。しかし、ガベラはそんなこと望んでいないし、罰せられるのも嫌である。なんとかしてこの運命を変えたい。その行動が彼を狂わすことになるとは知らずに。 完結保証 番外編あり

誰よりも愛してるあなたのために

R(アール)
BL
公爵家の3男であるフィルは体にある痣のせいで生まれたときから家族に疎まれていた…。  ある日突然そんなフィルに騎士副団長ギルとの結婚話が舞い込む。 前に一度だけ会ったことがあり、彼だけが自分に優しくしてくれた。そのためフィルは嬉しく思っていた。 だが、彼との結婚生活初日に言われてしまったのだ。 「君と結婚したのは断れなかったからだ。好きにしていろ。俺には構うな」   それでも彼から愛される日を夢見ていたが、最後には殺害されてしまう。しかし、起きたら時間が巻き戻っていた!  すれ違いBLです。 初めて話を書くので、至らない点もあるとは思いますがよろしくお願いします。 (誤字脱字や話にズレがあってもまあ初心者だからなと温かい目で見ていただけると助かります)

処理中です...