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しおりを挟む気持ち悪い。
今すぐ、うずくまって飲んだもの全てを吐き出してしまいそうだが教師としてそれを道端でやってしまうことだけは避けたい。
和弘の肩に担がれながら家までの帰路をゆっくりと歩く。
「うっ、出そう」
歩くと身体が揺れて気持ち悪さが増してしまうせいで今にも出てきてしまいそうだ。
優一は酔っても楽しくなるのではなく割と早く覚めてしまうタイプなので今の現状をしっかりと頭で理解してしまい、いくら相手が和弘でもさすがに申し訳ない。
「悪い…」
奏多がイチャイチャしているのも無視されることもいつものことなのに今日はやけに悲しくなってしまった。
その八つ当たりを全て受けてくれる和弘には感謝しかない。
「ほら、あとちょっとだから頑張れ!」
気持ち悪さからなかなか足が進まない優一を和弘が引きずるようにして進んでいく。
酔っ払いの介護なんて面倒な事を嫌な顔ひとつせずにしてくれる和弘に恋人がいないのが本当に不思議だ。
世の中にはみる目のない人たちばかりなんだろうか。
こんなにいい奴なのに一人なのが可哀想で何故だか泣けてきた。
「ほんとにありがとうなぁー」
和弘の肩に回っていなかった手を和弘の身体に回して抱きしめてやる。
和弘も一人で寂しい思いをしている時があるかもしれないから少しでも気が紛れればいい。
「なっ、なんだよ」
「いや、ほんと、感謝してるんだよ」
俺は出来損ないのダメダメの奴なのにこんないい友達がいて幸せだ。
「まだ酔ってんな、お前。そんなに感謝してるなら今日はお前の奢りな」
当たり前だと頷くと和弘の手も優一の背中に回ってきて宥めるようにポンポンと叩いて身体が離れた。
「お前と結婚できる奴は幸せだなー」
「そうかー?三十歳までにお前が結婚してなかったら俺がしてやるよ」
おお、してくれしてくれと二人で冗談を言って笑い合いながら家までの最後の曲がり角を曲がった先にはなんと奏多がいた。
その表情には学校でいつも浮かべているような笑みはなく、ただ感情がないような顔で和弘と組まれている腕を見ている。
「えっ、」
アルコールがまだ残っている頭ではなんの言葉も出てこずただ、変な空気が流れてしまう。
「おー、藍沢。こんな遅い時間に高校生が出歩いちゃいけないだろ。子供は早く家に帰れ」
どこか喧嘩腰なように聞こえなくもないそのセリフは奏多にもそう聞こえてしまったらしくわかりやすいほど顔を顰めた。
「赤谷先生こそ。こんな時間まで教師が飲んでるなんていいんですか?」
「明日は土曜日。学校の最寄りじゃないこの駅じゃ生徒もいないし全然いいだろ」
奏多はチラリと和弘の肩にぶら下がったままの優一を見た。
「それは先生としてどうかと思いますけどね」
久しぶりに優一のことを奏多が口にしてくれたのに無様な格好で恥ずかしくて顔が上げられない。
なんでこんな時に奏多に出会ってしまうのだろう。
優一がここまで酔うのもこんな時間まで飲んでいるのも何年もぶりなのにその珍しい一回が当たってしまう。
神様は優一に意地悪だ。
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