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最終章 セイギの在り方
第289話 ノエルの覚悟
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【水の街 ウォル】
生まれ故郷に戻ったノエル、彼は緊張しながらも実家──メリィの扉を開けた。店はまだ営業中で、母親は優しい笑顔で接客をしていた。
「ママ、ただいま」
「あら? ああノエちゃん、おかえりなさい。お友達はどうしたの?」
「皆故郷に帰ったよ。時期が時期だし──」
ノエルは不満がかったような暗い顔をしながら母に言う。すると、何かを察した母はカウンターから出て、彼の両頬を優しく撫でた。
「いいの。言いたくないなら言わなくて。お母さんちゃんと解ってるから」
「でも……」
そこまで言って、ノエルは口を閉ざした。
やはり言えない。いくら世界を守るため戦いに行くと覚悟を決めても、いざそれを実の母親に伝えるのは、非常に心苦しい。そんな感情が彼を襲う。
母は俯くノエルに一瞬不安げな表情を見せるが、すぐに笑顔になってショーケースから袋詰めのクッキーを取り出した。
「ノエちゃん、これ新作クッキーなんだけど、食べて元気出して」
「ママ、でもそれ商品じゃ……」
「何言ってるの。ここはノエちゃんの家でもあるでしょ? 遠慮しないで、ほら」
母に押され、ノエルは受け取ったクッキーの袋を開ける。すると、アールグレイの香りがほんのりと漂った。
その香りを嗅いだノエルは、ふと昔のことを思い出した。
「これ、パパがよく作ってくれた奴だ」
「やっとパパの味に近付けられた気がするんだけど、どう?」
懐かしさを胸に、ノエルはゆっくりとクッキーを口に運んだ。
サクッ。軽い音と共に砕ける食感。口の中に広がる上品な味わい。そして最後に鼻腔を突き抜けるアールグレイの香り。
どれも昔のまま。いや、それ以上だった。
ノエルはその昔懐かしい味に、静かに涙を流した。それを不思議に思い、母は訊く。
「ノエちゃん、もしかしてお友達と喧嘩しちゃったの?」
「……ううん。ちょっと息抜きしよって話になってね」
その言葉は本当だった。しかし、ノエルの悩みはまだ心の中に残っていた。
無理もない。一週間後、大きな戦いに赴くのだから。最悪、その戦いで命を落とすかもしれない。
そう思うと、母親には口が裂けても言えなかった。
それだけじゃない。愛する仲間を失うかもしれない。愛する故郷であるウォルの皆も、殺されてしまうかもしれない。そんな恐怖がノエルを襲う。
「大丈夫よ」
悩んでいると、母は言う。その顔は赤子をあやすような、とても優しく安心感を覚えるようだった。
「ママ……?」
「ノエちゃんが何を抱えてるのか、ママは分からないけど、タクマ君達となら何とかなるわよ」
言うと彼女は、戸棚から一冊のアルバムを取り出した。開くとそこには、タクマ達の活躍を記した新聞のスクラップ達が出迎える。
フォーデンのオニキス討伐、メルサバでのラスター退治、アコンダリア優勝の記事。ページを捲るたびに、これまでの思い出が蘇ってきた。
よく見ればタクマ達の写真は日付を追う毎に仲間が増え、最後の写真にはひっそりとオニキスが映った9人の集合写真まで残っていた。
「安心しなさい。私だって若い頃はノエちゃんに負けないくらいすごく強い魔法使いだったんだから! それにパパだって、世界最強の格闘家だったのよ!」
「そ、そうなの!?」
生まれて初めて聞いた事実に、ノエルは口をあんぐりと開けて驚いた。母はオーバーなリアクションを取ったノエルを笑い、ぐっと親指を立てる。
「だから行ってきなさい。そして、みんなを連れてウチのお菓子屋に来なさい! たーんと激ウマスイーツ用意して待ってるから!」
「……うん!」
ノエルは目に涙を浮かべながら、満遍の笑みを浮かべて頷いた。
生まれ故郷に戻ったノエル、彼は緊張しながらも実家──メリィの扉を開けた。店はまだ営業中で、母親は優しい笑顔で接客をしていた。
「ママ、ただいま」
「あら? ああノエちゃん、おかえりなさい。お友達はどうしたの?」
「皆故郷に帰ったよ。時期が時期だし──」
ノエルは不満がかったような暗い顔をしながら母に言う。すると、何かを察した母はカウンターから出て、彼の両頬を優しく撫でた。
「いいの。言いたくないなら言わなくて。お母さんちゃんと解ってるから」
「でも……」
そこまで言って、ノエルは口を閉ざした。
やはり言えない。いくら世界を守るため戦いに行くと覚悟を決めても、いざそれを実の母親に伝えるのは、非常に心苦しい。そんな感情が彼を襲う。
母は俯くノエルに一瞬不安げな表情を見せるが、すぐに笑顔になってショーケースから袋詰めのクッキーを取り出した。
「ノエちゃん、これ新作クッキーなんだけど、食べて元気出して」
「ママ、でもそれ商品じゃ……」
「何言ってるの。ここはノエちゃんの家でもあるでしょ? 遠慮しないで、ほら」
母に押され、ノエルは受け取ったクッキーの袋を開ける。すると、アールグレイの香りがほんのりと漂った。
その香りを嗅いだノエルは、ふと昔のことを思い出した。
「これ、パパがよく作ってくれた奴だ」
「やっとパパの味に近付けられた気がするんだけど、どう?」
懐かしさを胸に、ノエルはゆっくりとクッキーを口に運んだ。
サクッ。軽い音と共に砕ける食感。口の中に広がる上品な味わい。そして最後に鼻腔を突き抜けるアールグレイの香り。
どれも昔のまま。いや、それ以上だった。
ノエルはその昔懐かしい味に、静かに涙を流した。それを不思議に思い、母は訊く。
「ノエちゃん、もしかしてお友達と喧嘩しちゃったの?」
「……ううん。ちょっと息抜きしよって話になってね」
その言葉は本当だった。しかし、ノエルの悩みはまだ心の中に残っていた。
無理もない。一週間後、大きな戦いに赴くのだから。最悪、その戦いで命を落とすかもしれない。
そう思うと、母親には口が裂けても言えなかった。
それだけじゃない。愛する仲間を失うかもしれない。愛する故郷であるウォルの皆も、殺されてしまうかもしれない。そんな恐怖がノエルを襲う。
「大丈夫よ」
悩んでいると、母は言う。その顔は赤子をあやすような、とても優しく安心感を覚えるようだった。
「ママ……?」
「ノエちゃんが何を抱えてるのか、ママは分からないけど、タクマ君達となら何とかなるわよ」
言うと彼女は、戸棚から一冊のアルバムを取り出した。開くとそこには、タクマ達の活躍を記した新聞のスクラップ達が出迎える。
フォーデンのオニキス討伐、メルサバでのラスター退治、アコンダリア優勝の記事。ページを捲るたびに、これまでの思い出が蘇ってきた。
よく見ればタクマ達の写真は日付を追う毎に仲間が増え、最後の写真にはひっそりとオニキスが映った9人の集合写真まで残っていた。
「安心しなさい。私だって若い頃はノエちゃんに負けないくらいすごく強い魔法使いだったんだから! それにパパだって、世界最強の格闘家だったのよ!」
「そ、そうなの!?」
生まれて初めて聞いた事実に、ノエルは口をあんぐりと開けて驚いた。母はオーバーなリアクションを取ったノエルを笑い、ぐっと親指を立てる。
「だから行ってきなさい。そして、みんなを連れてウチのお菓子屋に来なさい! たーんと激ウマスイーツ用意して待ってるから!」
「……うん!」
ノエルは目に涙を浮かべながら、満遍の笑みを浮かべて頷いた。
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