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最終章 セイギの在り方
第288話 メアの覚悟
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【アルゴー城】
タクマ一行を見送ったメア。一人になった彼女は、この日初めてアルゴー城の自室に入った。部屋は誰も使っていないはずなのに生活感があり、本棚や机の上には、メアが好きそうなゴスロリ系ファッションの本やホラー小説などが置いてある。
そして、部屋に一つだけ付けられた大扉。そこを開くと、かつてメアが住んでいた幽霊屋敷、もとい現ナノの義兄妹の住む館が彼女を迎えた。
「嘘、これって……」
「どうだメア、ここからでも昔の家が見えるだろう?」
メアは目の前の光景に驚きつつも、声の主の方に振り返る。するとアルゴー王はにっこりと笑い、メアの頭に手を乗せた。
その手の位置は王の胸ほど。もう二頭身、メアより高かった。それでも王は一瞬の驚きの後、優しく撫でながら言った。
「見ない間に、成長したみたいでパパは嬉しいよ」
「……やめるのじゃ。こんな時に、そうそれっぽいこと言うの」
「まあ良いじゃあないか。こうして数ヶ月ぶりに会えたんだし、たまにはな」
「たまに、のぅ。そう、じゃな」
メアは、王の言葉をうまく返せなかった。何故なら、メアがこれから行く先で起きる結果、そこで何が起こるか分からないからだ。
相手はあのαでありアナザー。8つのオーブの力を持ち、魔法も絶大なものばかり。カプリブルクの海上で戦った時も、あのオニキスですら勝てなかった相手。それを止める上で、命が尽き果てるかもしれない。
その結末は確かに怖かった。しかしメアは自分が死ぬという結末より、大切な仲間が死に、世界を救えないという結末の方が怖かった。
すると、しんとした静寂の中、王はひとつ息を置いてそれを破った。
「実はなメア、パパはタクマ君達とハクラジュに行くことを反対したかった」
「えっ?」
「相手はとてつもなく強いのだろう? 幾つもの国を滅ぼし、カプリブルクもその手にかけた悪魔。もしソイツに娘が殺されたなんて聞いたら、パパはきっと……」
しかし、途中で言葉が詰まり、王は黙ってしまう。
普段は凛々しく、それでいて娘には甘々な親バカ国王。もしメアが死んだら、王は魂の抜けた人形になってしまう気がする。メアは王の言葉の先を想像し、密かに笑った。
(やっぱり妾がいないと、ダメなんじゃのぅ)
その時、メアの中にあった不安が晴れた。それはまるで、ずっと続いていた豪雨の中、一筋の日光が差し込んできた時のように。その光は2本、3本と増え、最後にはパァッと明るい空が広がる。
「大丈夫じゃよパパ。妾が今までどんな強い奴と戦ってきたと思っておるのじゃ?」
「そうさ、メアはパパが寝る間も惜しんで心配するほど弱くはない。何せメアはパパ、そしてママの自慢の娘なのだからな!」
言うと、二人は笑った。ガハハ、と高らかに、そしてさっきまでの不安が嘘だったように、楽しそうに。
しかし王は、再びメアの方を向くと彼女の両肩に手を置いた。
「パパ?」
「ただ一つだけ、パパのわがままを聞いてくれないか、メア」
「……ふっ。無事に生きて帰って来い。じゃろ?」
図星を突かれ、王は驚いて目を丸くした。メアはため息を吐き、やれやれと両手を上げて言った。
「パパは心配性じゃからのぅ。どうせそんな所だろうと思ったのじゃ」
「いはやは、娘には敵わんなぁ。お前の母さんも、嬉しいだろうな」
王は言いながら、空を見上げる。雲一つない青空、一週間後もこの空が同じように青く、皆で同じ空の下再会を喜びたいと願いながら。
タクマ一行を見送ったメア。一人になった彼女は、この日初めてアルゴー城の自室に入った。部屋は誰も使っていないはずなのに生活感があり、本棚や机の上には、メアが好きそうなゴスロリ系ファッションの本やホラー小説などが置いてある。
そして、部屋に一つだけ付けられた大扉。そこを開くと、かつてメアが住んでいた幽霊屋敷、もとい現ナノの義兄妹の住む館が彼女を迎えた。
「嘘、これって……」
「どうだメア、ここからでも昔の家が見えるだろう?」
メアは目の前の光景に驚きつつも、声の主の方に振り返る。するとアルゴー王はにっこりと笑い、メアの頭に手を乗せた。
その手の位置は王の胸ほど。もう二頭身、メアより高かった。それでも王は一瞬の驚きの後、優しく撫でながら言った。
「見ない間に、成長したみたいでパパは嬉しいよ」
「……やめるのじゃ。こんな時に、そうそれっぽいこと言うの」
「まあ良いじゃあないか。こうして数ヶ月ぶりに会えたんだし、たまにはな」
「たまに、のぅ。そう、じゃな」
メアは、王の言葉をうまく返せなかった。何故なら、メアがこれから行く先で起きる結果、そこで何が起こるか分からないからだ。
相手はあのαでありアナザー。8つのオーブの力を持ち、魔法も絶大なものばかり。カプリブルクの海上で戦った時も、あのオニキスですら勝てなかった相手。それを止める上で、命が尽き果てるかもしれない。
その結末は確かに怖かった。しかしメアは自分が死ぬという結末より、大切な仲間が死に、世界を救えないという結末の方が怖かった。
すると、しんとした静寂の中、王はひとつ息を置いてそれを破った。
「実はなメア、パパはタクマ君達とハクラジュに行くことを反対したかった」
「えっ?」
「相手はとてつもなく強いのだろう? 幾つもの国を滅ぼし、カプリブルクもその手にかけた悪魔。もしソイツに娘が殺されたなんて聞いたら、パパはきっと……」
しかし、途中で言葉が詰まり、王は黙ってしまう。
普段は凛々しく、それでいて娘には甘々な親バカ国王。もしメアが死んだら、王は魂の抜けた人形になってしまう気がする。メアは王の言葉の先を想像し、密かに笑った。
(やっぱり妾がいないと、ダメなんじゃのぅ)
その時、メアの中にあった不安が晴れた。それはまるで、ずっと続いていた豪雨の中、一筋の日光が差し込んできた時のように。その光は2本、3本と増え、最後にはパァッと明るい空が広がる。
「大丈夫じゃよパパ。妾が今までどんな強い奴と戦ってきたと思っておるのじゃ?」
「そうさ、メアはパパが寝る間も惜しんで心配するほど弱くはない。何せメアはパパ、そしてママの自慢の娘なのだからな!」
言うと、二人は笑った。ガハハ、と高らかに、そしてさっきまでの不安が嘘だったように、楽しそうに。
しかし王は、再びメアの方を向くと彼女の両肩に手を置いた。
「パパ?」
「ただ一つだけ、パパのわがままを聞いてくれないか、メア」
「……ふっ。無事に生きて帰って来い。じゃろ?」
図星を突かれ、王は驚いて目を丸くした。メアはため息を吐き、やれやれと両手を上げて言った。
「パパは心配性じゃからのぅ。どうせそんな所だろうと思ったのじゃ」
「いはやは、娘には敵わんなぁ。お前の母さんも、嬉しいだろうな」
王は言いながら、空を見上げる。雲一つない青空、一週間後もこの空が同じように青く、皆で同じ空の下再会を喜びたいと願いながら。
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