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第11章 バカと天才は死んでも治らない

第281話 たとえ時が戻ろうとも

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「まずいな。このままじゃ皆ガキ所か赤子にまで戻されるぞ。ニワトリ女、今ならヒヨコ娘に戻れるぜ?」
「んだとテメェ!?助けてやった恩も忘れたか?」
「こらこら喧嘩しないでくださいってば!それより──」
『ええい!貴様ら全員、最も屈辱的な死を持って私に詫びてもらおう!《タイム・リバース》!』

 その瞬間、メア達は緑色の光線に直撃してしまった。ゆっくりと時が戻り、気が付けば皆身体の年齢が10年戻っていた。
 メアは純粋な8歳、ノエルは幼くても男か女か分からず、アリーナは6歳のちびっ子に、オニキスは優しそうな好少年になってしまった。

「え?あなた誰ですか?」
「俺だよ俺、オニキス!ったく、あの野郎俺らの事本気で子供にしやがった」

 オニキスは本気でイライラしているようだが、見た目と中身が全く噛み合っておらず、無理して悪ぶっている子供にしか見えなかった。
 しかし子供に戻されても、中身がそのままなら戦いはできるはず。そう思いアリーナはマントから武器を取り出した。
 だが、そこから出てきたのはただの鉄鉱石だった。

「うわ、何だこれ!」
「ああ!妾のナイフも、剣も全部石になってるのじゃ!」
『フハハハハ!どうだ驚いたか!貴様らの時を戻すだけでなく、貴様らの武器をも加工前の姿に戻せるのだ!』
「服はそのままガキサイズだがな」
『それは言ってはいけない!』

 オニキスの皮肉に対し、ナルシエルは部が悪そうに答える。だが彼らが戦えなくなったのは確か。ナルシエルは不敵な笑い声を上げ、トドメの最大火力砲の準備を開始した。身体の装甲が中心に集まり、大砲のようなものに変わる。そして、ハイヒール状に変形させた脚を地面に刺し込んで体を固定すると、エネルギーの充填を開始した。
 
「どどどど、どうするんですかこの状況~!私達死んじゃいますよ~!」
「グズグズすんな猫娘!とにかくどっかに身を隠せ!」
『無駄だ!お前達がこの最終兵器から逃れる事は不可能だ!どれだけ逃げようと、ホーミングで確実に焼き払う!』
「畜生……あれ?おいメア、アタシのダーリンは知らねえか?」
「だーりん?そう言えば吾郎爺、見ないのぅ」
『充填率50%。さあ、無様なネズミのように必死で逃げ回るがよい』

 必死で笑みを抑えながら、ナルシエルは必死で負け確定の鬼ごっこをする子供達、もといメア達を見る。
 しかしその時、突然視界に『error』の文字が現れた。よく見ると、胸の大砲が斬り落とされていた。

「拙者を忘れたなどとは言わさぬでござるよ、カラクリの妖よ」
『なっ、貴様は……』
「だ、ダーリン!?」

 なんとそこに居たのは、めちゃめちゃ若返った吾郎爺だった。いや違う、吾郎青年だ。
 渋い服装はそのままに、太陽のように煌めく刀を構え、眼帯はなく、髭は全く生えていない。まさしく、人斬り時代の吾郎そのものだった。

『い、一体どう言う事だ!?ジジィは特に幼くしたつもりなのに!』
「悪いが拙者は孤児でな、師匠の元で四人の弟子と共に同じ釜の飯を食い成長した。故に、どれだけ歳を戻されようと拙者の強さは変わらぬ」
『おお、おかしい!私の計算に間違いはなかった!その剣だって、ただの鉄の塊に戻る筈!』
「戻るわけがない。この刀は師匠の形見、そして拙者が背負うべき罪。貴様の奇怪な光で戻せるほど若くはないでござる」

 見た目は青年、しかしその言葉にはどれも重みがあった。
 だがそれだけではない。吾郎は動揺しているナルシエルと会話している中で、ひっそりと刀を仕込ませていたのだ。

「《奇稲田・星命の太刀 釜斬り》」

 そう言って鞘に戻した時、ナルシエルの時戻しビームを放っていたユニットが斬り崩された。
 すると時を戻されていた四人の姿が戻り、同時に鉄の塊になっていた武器も元に戻った。勿論それは吾郎も例外ではなく、貫禄のある爺に戻った。

「さすがは吾郎爺!頼りになる男じゃ」
「よーし、勝手に時を戻された恨み、ここで晴らしちゃいましょう!」
『コイツら……なんて奴らだ……!』

 元に戻ったメア達は一気に攻撃を仕掛けてきた。しかも、時を戻した事が影響して、彼らの能力も強化されてしまっていた。
 オニキスは血の量や鮮度が良好になり、アリーナはハイテンションで色んな武器を扱い、ノエルの拳は弾丸のように強くなり、メアの闇の力も強大なものに進化していた。

「どらどらどらどらぁ!汚物は消毒してやらぁぁぁぁ!!」
「ふんっ!たぁっ!ケー・オーッ!!」
『そうはさせるかぁッ!私の全てを出し切ってでも!お前達は確実に潰す!』

 ナルシエルはプライドをズタボロにされた怒りを燃料に変え、ミサイルや迎撃ユニットを余す事なく展開して反撃を開始した。
 しかし、ミサイルは5人を認識する前に全て空中で爆発し、花火となるだけだった。

「〈ナイフド・スコール〉!今じゃ女もどき、吾郎爺!」
「楽しいなァ!《クリムゾン・ブレイズ》!」
「一郎、裕治、美加理、志之。皆の想い、拙者が全て請け負う!」

 吾郎は一瞬目に映った走馬灯の中で、かつての兄弟弟子の事を見た。名前のない孤児を集めた師匠は変人だった。剣については一流だったが、毎晩女遊びに耽っては酔って帰ってくる。それを5人で介抱してはダメな大人だと笑いあった。
 だがそれも、師匠が焼き殺されて全てが壊れた。拙者だけが禁忌を破って復讐の鬼と化し、統一戦で圧倒した。しかし同時に、止めてくれた仲間も斬り殺した。更に、統一戦の結果は故郷が焼き払われて終わり、国は敵に飲み込まれ大和となった。
 思えば若い頃など後悔しかない。兄弟や師匠を裏切り、禁忌を破ってまで復讐を果たしたものの結果は敗北。死にたいと思って竹林で過ごして30年、それは変わった。
 守るべきものができたのだ。不思議な人ばかりだが、人斬りだと分かっても手を差し伸べてくれた。

『そんな薄っぺらい剣で何ができる!《グロウディングブレード》!!』
「これが拙者の戦う理由だ!《伊弉冉尊・無限地獄の太刀》」

 その時、吾郎の刀が真っ黒になった。しかしすぐに光を取り戻し、七色に光を反射させた。まるで吾郎の半生、死にゆく心が甦っていくように。
 それがオニキスの剣と一緒に合わさり、ナルシエルの上半身と下半身を分断した。

『何ッ……』
「今でござる!皆、奴の頭を叩け!」
「がってん招致の助です!どぉぉぉりゃぁぁぁぁ!!」
「アタシの必殺!ドカ蹴りッ!」
『それだけはダメだ!はぁっ!』
「往生際の悪い!《ナイフド・スコール フレア》!」

 アリーナとノエルが一撃を加えようとした時、ナルシエルは最後のミサイル砲を放った。だが、そう来る事は予測されており、メアの炎を纏ったナイフの雨によって正確に撃ち落とされてしまった。
 そして、二人の重たい一撃が加わり、ナルシエルの首が弾け飛んだ。
 中からはナルシエルの頭サイズの小人が飛び出し、一緒に入っていたオーブが砕け散ったのを見て甲高い声で発狂した。
 つまり、本体はロボットではなくこの小人、彼?が本当のナルシエルだったのだ。

『嘘だ……ワタシの……ボクちゃんの鎧が……』

 物悲しそうな声を残し、ナルシエルは鎧ごとオーブに再吸収された。
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