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第11章 バカと天才は死んでも治らない

第260話 ゾンビと廃墟はいつでもセット

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【エンドポリス 入り口】
 エンドポリスに降り立つと、早速タクマは街を覗いて絶句した。
 所々腐食して崩れた民家、かつて人で溢れていたであろう中央の時計塔広場、そして辺りに散りばめられた血痕。まるである種のバイオハザードのような、無惨に殺されていったであろう街がそこにはあった。もちろん、命の気配など感じる事はあり得ない。

「まさかデルガンダルに、こんな場所があるとはのぅ……」
「ここまで来ると、本当にサイレントヒ──」
「お前様、それ以上は危ない気がするでありんす」

 おタツさんには悪いけど、確かにその例の静かな丘のように濃霧がかかっている。本当に、人間ではない怪異が現れる予感がしてたまらない。
 けどそれはそれで危ない匂いしかしないから、やめておこう。

「とにかく入ろうぜ。どうせ来たならアタシらが初の生存者になってやろうじゃないの」
「せやせや。ちょっと怖いけど、じぃじとタツ姐がおったら安心や!」
「うむ。どんな敵も一刀両断、妖だろうと屍だろうとナノ殿の為なら……それとアリーナ殿の為なら!」
「アタシはついでかよ!くぅ~、冷たいぜ!」

 とかなんとか言いながら、タクマ達は遂にエンドポリスの中に足を踏み入れた。
 すると早速、リュウヤは大声で「Dr.Z君出ておいで~!」と叫び出した。その声に驚き、タクマは咄嗟にリュウヤの口を塞いだ。

「バカ、こんなゾンビとか出そうな所で大声出しちゃダメでしょ!」
「そそ、そうですよ!ち、ちち、チビる所だったじゃあないですか!もう!」
「悪ぃ悪ぃ、ジョークが過ぎたな。ハッハッハ」

 ハッハッハ、じゃないっての。とは言っても、本当に人が居ないからか、リュウヤの笑い声にエコーがかかったように広がっていく。
 しかしその時、西側の住宅街から何かの崩れる音がした。それも、家一軒倒壊したような、重い音だ。

「キャアアアア!で、出ましたー!」
「落ち着けノエチビ。どこもかしこも腐ってんだ、崩れることなんて、当たり前、だろ」
「あ、アリリンの足元に毛虫」

 ナノが言うと、続いてアリーナがタクマに抱きついた。側から見れば、完全にノエルとアリーナに取り合われているようにしか見えない。
 だが、アリーナは抱きついたのがタクマだと気付くや否や、ノエルごと押し倒し、改めて吾郎にしがみ付いた。幸いノエルが上側になるように倒れたから良かったが、重いし痛い。体は痛くなくても、心が痛い。

「いやぁん、もうアタシ無理ぃ。帰る帰る~」
「アタシらが初の生存者になる!とか豪語してたのは、どこのどいつでありんすかね全く」

 また始まった。と思ったが、そんなことを言っているおタツも足が震えている。
 やはり相当怖いらしい。いや、こんなリアルバイオハザードみたいな所に来たら、誰だって怖い筈だ。何せお化け屋敷とは訳が違う。ここのお化けは脅かす前に、殺しにかかってくるのだから。

「おろ?タクマ殿、あの奥に人影が!」
「ん?あ、本当だ!」

 吾郎の指し示した方向には、黒い服を着た人影がいた。しかも、動きも泥酔した感じではない。きっと、唯一の生存者かもしれない。
 と思ったその時、突然リュウヤが駆け出してしまった。

「リューくん!どこ行くねん!」
「リュウヤさん!単独行動しないでくださいって!」

 突然の行動に、ノエルはリュウヤを呼び戻そうと叫ぶ。しかし、リュウヤにその声は届いていないのか、そのまま深い霧の中に消えていく。
 ああもう見てられない。タクマは急いでリュウヤの後を追った。

「ごめん皆!またどっかで合流しよう!」

 遠ざかりながら言い残し、リュウヤを追いかけた。微かにリュウヤの姿は見えるが、所々に転げ落ちている壊れた樽などの障害物に足を取られそうになる。やはり、濃霧の中走るのは危険だ。
 しかも、おまけにしては多すぎるくらい、雪まで降り積もっている。最近鮮血が飛び散ったのか、赤い雪が所々にあるが、まるで鮮血の状態で時が止まったように、その場に残っている。

「リュウヤー!おいリュウヤ!どうしたってんだよいきなり!」

 足元の障害物と氷の床を潜り抜けながら進むうちに、リュウヤの影が近くなってきた。そしてついに、彼を捕らえたタクマは、リュウヤの肩に手を置いて静止させた。

「いやぁ、あの人影なんか見覚えあった気がしてさ。それにしてもよぉ、どこだここ?」
「おま、まさか何も考えずに突っ走ったな?」
「おう!猪突猛進こそ、俺を体現するモノなのである!」

 得意げに言うな。
 それにしても、困ったものだ。来た道は完全に濃霧に遮られて、残してきた仲間達の姿は見えなくなっている。しかも、例の人影も気付けば消えており、2人仲良くおどろおどろしい廃屋立ち並ぶ住宅街跡に来ていた。
 こんなことなら、護衛に吾郎爺だけでも連れてくるべきだった。正直、怖くて怖くて、もう泣きたい。

「ま、Zをぶっ飛ばせば、この朝なのに夜の街とか言うアベコンベな世界にも朝が来るんだろ?ならさっさと、カチコミ行こうじゃあねぇの!」

 リュウヤはこんな状況でもお構いなく、ドカドカと進んでいこうとする。全く、相変わらず肝が座ってやがる。なんなら茶道でもしてるんじゃないかと思うくらい、命知らずにも程がある。
 しかしその時、ふとオニキスの言葉が頭をよぎった。
『アイツに伝えておけ、我慢すんなって』
 なんだか突然、今言わないといけないような気がした。

「なぁリュウヤ、今さら言うのも難だけど、我慢だけはするんじゃねぇぞ」

 そう言って、リュウヤを振り返る。しかし、そこにリュウヤの姿はなかった。
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