上 下
260 / 295
第10章 ゼロの開始点

第259話 死ぬ気なホンキ

しおりを挟む
「起きろー!エンドポリスの場所を見つけたぞー!」

 ガンガンガン!ガンガンガン!鉄と鉄を叩き合わせるような騒音が、三三七拍子を演奏する。
 あまりのうるささに、全員が耳を抑えながら起き上がる。

「な、何だよリョーマ。まだ夜中の3時じゃあねぇか!」
「うぅ、もう食えへんて……」
「やっと起きたか。ほら、今すぐ出発だ!無限の彼方へ、さあ行くぞ!」

 どこの宇宙飛行士だ。そう思いながらも、タクマ達はリュウヤに急かされて出動の準備をさせられた。
 
「それにしてもリュウヤさん、まだここに来たばっかりなのに、探索しなくて良いんですか?」
「えっ、あっ、それは……」

 ノエルの純粋な質問に、ゲン担ぎのカツ丼を揚げていたリュウヤは言葉を濁した。すると、集中が途切れたのか、珍しく悲鳴を上げた。

「あっづ!」
「リュウヤ殿が油で火傷など、珍しいでござるな」
「しかも、全部焦げ焦げじゃ」
「お前様、熱でもおありで?」

 おタツは心配して額を触る。しかしリュウヤは、おタツの手に強い念を送り、バチンと火花を散らした。

「熱は出ちゃあねぇ。でも、俺っちはめっちゃメラメラ、熱気十分だぜ!」

 熱い。熱すぎる。未だかつてないほどに熱血になっていやがる。何がリュウヤを熱くさせたのか。
 不思議そうに見つめていると、リュウヤはそのまま焦げ焦げのカツ丼を風呂敷に包むと、そのまま扉に直行した。

「待ってくださいよリュウヤさん!」
「フーハッハッハッハッハ!お前達のカツ丼は、この怪盗ツルギーヌ・リュパンが預かったぞ!」
「いや別にリューくんのだから持ってってもええけど」
「とにかく、早く来いって事か」

 全く、周りくどくて何を言いたいのか分からない。それにしても、まさか一日が始まろうとしているこんな夜更けにエンドポリスの場所を探し当てるなんて。だって今夜中の2時だぞ。どうやって情報を手に入れた。
 まあ、理由はどうあれ見つかったのなら万々歳だ。

 ──一行は、リュウヤに導かれるままに、早速門の外へと向かった。やはり時間が時間というのもあって、街はかつての白黒テレビのように、モノトーンで幻想的な雪景色となっていた。街灯だけがぽつりぽつりと灯る街道、白雪と混じって灰のような色になった屋根、道を覆い尽くす白い砂漠。まさに、故郷に帰って来たような感じがする。
 しかしそんな懐かしさも束の間、辺りの雪が暴風でぶわりと吹き飛んだ。空を見上げると、誰が手配したのだろう、真っ赤なドラゴンが飛んできた。ドランタクシーだ。
 
「あ!ドラゴン、いつの間に用意したん?」
「まあついさっきな。とにかく、さっさと向かおうぜ!エンドポリス!」

 こうして、一行はエンドポリスへと飛び立った。
 ドランタクシーは初めて使うはずなのだが、リュウヤは乗り込んで早速「こっから北北西、崖に頼む」とドラゴンに伝えた。

「リュウヤ殿、どらごん慣れしているでござるな」
「ま、まぁな。だって俺っち、“リュウ”ヤだもんな」
「理由になっておらぬぞ。そもそも、リュウヤお主、最近おかしいぞ?」

 メアは直球で言葉を投げかける。しかし、リュウヤはその事に対して何か言い返す訳でもなく、焦げたカツ丼を食べ「うまい!うまい!」と一口食べるごとに叫んだ。煉○さんか。
 最早、リュウヤは何も聞いてないんじゃないだろうか。不思議とそんな気がする。
 とその時、ぐぎゅるるる、と誰かの腹の虫が鳴き出した。

「おお、すごく大きな鳴き声でありんすな」
「あ、アタシを見てんじゃあねぇ!」
「う、ウチもちゃうで。まだ、お腹空いとらん」
「じゃあこの音って……」

 ノエルはきょとんとした目を、吾郎に向けた。すると吾郎は、耳を真っ赤にしながら「いかにも」と呟くように答えた。

「何だい。ほら皆も、食え食え~!」
「うむ!いただきます!」

 そう言うと吾郎は、リュウヤからカツ丼を受け取り、早速食べた。
 それに続いて、タクマ達も食べる。
 すると、カツのジューシーな肉汁が飛び出し、おコゲと合わさって新たな味を作り出した。

「あ!美味しい!」
「あたぼうよぉ!どんなに焦げても、俺っちには美味くする才ってのがあるんだぜてゃんでぃ!」
「自分で言うのか。ま、確かに美味いからそうなのじゃが」

 そんな感じでたわいもない会話をしていると、東側から真っ赤な太陽が登ってきた。しかし、登ってきた崖の一角、エンドポリスがある位置には、夜の暗闇のような暗雲が街を覆っていた。
 しかも、近くに太陽があると言うのに、まるでその光を遮断するかのように、そこだけが真っ暗闇だった。

「お前ら、あの黒い所って……」
「エンドポリス、Zの本拠地だ」

 リュウヤは、摘んだカツを飲み込み、洋画の台詞を真似して言った。それを聞き、一行は気を引き締めた。
 最も危険なマッドサイエンティスト、死人が魔物になるウィルスをばら撒いた、恐るべき悪魔。そして、謎に包まれた地、エンドポリス。
 Zの暴走を止め、世界に平穏をもたらすか。自分達が死に、エンドポリスの住人となるか。二つに一つ、出来るならば前者でありたい。

「ふぅ。食ったことじゃし、逝くとするかの」
「メア、縁起でもない事言わんでくれよ」
「あんな所が死に場所なんて、ウチ死んでも嫌や」
「その為にも、この忌まわしき悪夢を断ち切らなければ、死んでも死にきれぬ」
「死ぬ死ぬって、お前らの方が縁起でもねぇっての。ま、どうせやるなら、アタシも死ぬ気で付き合ってやるぜ!」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】言いたいことがあるなら言ってみろ、と言われたので遠慮なく言ってみた

杜野秋人
ファンタジー
社交シーズン最後の大晩餐会と舞踏会。そのさなか、第三王子が突然、婚約者である伯爵家令嬢に婚約破棄を突き付けた。 なんでも、伯爵家令嬢が婚約者の地位を笠に着て、第三王子の寵愛する子爵家令嬢を虐めていたというのだ。 婚約者は否定するも、他にも次々と証言や証人が出てきて黙り込み俯いてしまう。 勝ち誇った王子は、最後にこう宣言した。 「そなたにも言い分はあろう。私は寛大だから弁明の機会をくれてやる。言いたいことがあるなら言ってみろ」 その一言が、自らの破滅を呼ぶことになるなど、この時彼はまだ気付いていなかった⸺! ◆例によって設定ナシの即興作品です。なので主人公の伯爵家令嬢以外に固有名詞はありません。頭カラッポにしてゆるっとお楽しみ下さい。 婚約破棄ものですが恋愛はありません。もちろん元サヤもナシです。 ◆全6話、約15000字程度でサラッと読めます。1日1話ずつ更新。 ◆この物語はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。 ◆9/29、HOTランキング入り!お読み頂きありがとうございます! 10/1、HOTランキング最高6位、人気ランキング11位、ファンタジーランキング1位!24h.pt瞬間最大11万4000pt!いずれも自己ベスト!ありがとうございます!

辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~

Lunaire
ファンタジー
壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。 辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。 しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。 他作品の詳細はこちら: 『転生特典:錬金術師スキルを習得しました!』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/906915890】 『テイマーのんびり生活!スライムと始めるVRMMOスローライフ』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/515916186】 『ゆるり冒険VR日和 ~のんびり異世界と現実のあいだで~』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/166917524】

婚約破棄と領地追放?分かりました、わたしがいなくなった後はせいぜい頑張ってくださいな

カド
ファンタジー
生活の基本から領地経営まで、ほぼ全てを魔石の力に頼ってる世界 魔石の浄化には三日三晩の時間が必要で、この領地ではそれを全部貴族令嬢の主人公が一人でこなしていた 「で、そのわたしを婚約破棄で領地追放なんですね? それじゃ出ていくから、せいぜいこれからは魔石も頑張って作ってくださいね!」 小さい頃から搾取され続けてきた主人公は 追放=自由と気付く 塔から出た途端、暴走する力に悩まされながらも、幼い時にもらった助言を元に中央の大教会へと向かう 一方で愛玩され続けてきた妹は、今まで通り好きなだけ魔石を使用していくが…… ◇◇◇ 親による虐待、明確なきょうだい間での差別の描写があります (『嫌なら読むな』ではなく、『辛い気持ちになりそうな方は無理せず、もし読んで下さる場合はお気をつけて……!』の意味です) ◇◇◇ ようやく一区切りへの目処がついてきました 拙いお話ですがお付き合いいただければ幸いです

「不細工なお前とは婚約破棄したい」と言ってみたら、秒で破棄されました。

桜乃
ファンタジー
ロイ王子の婚約者は、不細工と言われているテレーゼ・ハイウォール公爵令嬢。彼女からの愛を確かめたくて、思ってもいない事を言ってしまう。 「不細工なお前とは婚約破棄したい」 この一言が重要な言葉だなんて思いもよらずに。 ※約4000文字のショートショートです。11/21に完結いたします。 ※1回の投稿文字数は少な目です。 ※前半と後半はストーリーの雰囲気が変わります。 表紙は「かんたん表紙メーカー2」にて作成いたしました。 ❇❇❇❇❇❇❇❇❇ 2024年10月追記 お読みいただき、ありがとうございます。 こちらの作品は完結しておりますが、10月20日より「番外編 バストリー・アルマンの事情」を追加投稿致しますので、一旦、表記が連載中になります。ご了承ください。 1ページの文字数は少な目です。 約4500文字程度の番外編です。 バストリー・アルマンって誰やねん……という読者様のお声が聞こえてきそう……(;´∀`) ロイ王子の側近です。(←言っちゃう作者 笑) ※番外編投稿後は完結表記に致します。再び、番外編等を投稿する際には連載表記となりますこと、ご容赦いただけますと幸いです。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

王子は婚約破棄をし、令嬢は自害したそうです。

七辻ゆゆ
ファンタジー
「アリシア・レッドライア! おまえとの婚約を破棄する!」 公爵令嬢アリシアは王子の言葉に微笑んだ。「殿下、美しい夢をありがとうございました」そして己の胸にナイフを突き立てた。 血に染まったパーティ会場は、王子にとって一生忘れられない景色となった。冤罪によって婚約者を自害させた愚王として生きていくことになる。

【本編完結】さようなら、そしてどうかお幸せに ~彼女の選んだ決断

Hinaki
ファンタジー
16歳の侯爵令嬢エルネスティーネには結婚目前に控えた婚約者がいる。 23歳の公爵家当主ジークヴァルト。 年上の婚約者には気付けば幼いエルネスティーネよりも年齢も近く、彼女よりも女性らしい色香を纏った女友達が常にジークヴァルトの傍にいた。 ただの女友達だと彼は言う。 だが偶然エルネスティーネは知ってしまった。 彼らが友人ではなく想い合う関係である事を……。 また政略目的で結ばれたエルネスティーネを疎ましく思っていると、ジークヴァルトは恋人へ告げていた。 エルネスティーネとジークヴァルトの婚姻は王命。 覆す事は出来ない。 溝が深まりつつも結婚二日前に侯爵邸へ呼び出されたエルネスティーネ。 そこで彼女は彼の私室……寝室より聞こえてくるのは悍ましい獣にも似た二人の声。 二人がいた場所は二日後には夫婦となるであろうエルネスティーネとジークヴァルトの為の寝室。 これ見よがしに少し開け放たれた扉より垣間見える寝台で絡み合う二人の姿と勝ち誇る彼女の艶笑。 エルネスティーネは限界だった。 一晩悩んだ結果彼女の選んだ道は翌日愛するジークヴァルトへ晴れやかな笑顔で挨拶すると共にバルコニーより身を投げる事。 初めて愛した男を憎らしく思う以上に彼を心から愛していた。 だから愛する男の前で死を選ぶ。 永遠に私を忘れないで、でも愛する貴方には幸せになって欲しい。 矛盾した想いを抱え彼女は今――――。 長い間スランプ状態でしたが自分の中の性と生、人間と神、ずっと前からもやもやしていたものが一応の答えを導き出し、この物語を始める事にしました。 センシティブな所へ触れるかもしれません。 これはあくまで私の考え、思想なのでそこの所はどうかご容赦して下さいませ。

処理中です...