259 / 295
第10章 ゼロの開始点
第258話 メグる真実
しおりを挟む
────あれ、ここは?
目を覚ますと、そこは紫色に染められた部屋だった。いや、正確には紫色に“灯された”部屋だ。それに、何だか外がひんやりとしている。雪や氷の寒さではない、何かが居そうな、背筋に来るタイプのひんやりだ。
それに、よく聞くとグツグツゴポゴポと、何かを煮込むような怪しい音も聞こえてくる。
「うっ、うぅ……」
「タクロー、お前大丈夫か?」
起き上がって早々、アリーナは訊いた。振り返ると、そこには長机の上でタクマとノエルの復活を待つ6人の姿があった。
まさか、さっきのブツ切れの記憶も、夢だったのか?いや、頭は痛いし、何より夢なら宿屋で目覚めないとおかしい。
そんな風に考えていると、ガチャリと扉が開いた。そして、タクマはそこにいた人物を見て目を丸くした。
何故ならその男は、オリーブだったのだ。
「オマエ、大丈夫ダッタノカ?」
「丁度あの後、気絶したアンタらに薬飲ませて、家に上がらせてくれたんよ。この人だろ、オリーブって兄ちゃん」
リュウヤの問いに、訳もわからず頷いた。戦ったことがあるからよく分かる。目の下の隈、ボサボサの髪、メア顔負けの悪趣味ロッド、完全にビンゴだ。
「頭打ッテ、死ンダト思ッタノニ」
「頭を、打った?それって、夢の?」
タクマが訊くと、オリーブは一瞬硬直しつつも、うんと頷いた。
「オマエ、多分アノ時一回死ンダ」
「は?」
「アレハ、夢ジャナイ」
その時、タクマの頭が再び痛み出した。さっきまで感じていたものではなく、無理矢理記憶を引き出されているような、そんな激痛だった。
しかし、その痛みによって、夢の記憶が鮮明に浮かび上がってきた。メアがシュシュを無くして髪を下ろしたまま聞き込みに行った世界線、アリーナが恐ろしい買い物をしようとしていた世界線、そしてオリーブを追って頭を打った世界線。どれも今日だと“思い込んでいた”記憶ばかりだった。
「ど、どう言うことなのじゃオリーブ。此奴は死んではおらぬぞ?」
「それにウチら、昨日エスジネスに来たばっかやで」
「……はぁ、これだからアホ共は」
頭にハテナを浮かべていると、突然オリーブは人が変わったように低い声で話し出した。あまりの豹変っぷりに、タクマ達は硬直してしまった。
「ここからは真面目に話させてもらおう。俺達は今、どういう訳か同じ日を繰り返している」
「同じ日を、繰り返す?何それ無限ループって奴か?」とリュウヤ。
「まあ、そんな考え方で間違ってはいない。しかも、厄介な事に最近はどこで振り出しの時間に戻るか、俺にも分からなくなった」
そう言って一旦話を区切ると、オリーブはノエルが寝ているベッドの下から集めのノートを取り出した。そこには、これまでの同じ日が繰り返し続いた時の時間が記されていた。
『11月XX日 1回目 午後22時40分』
『11月XX日 2回目 午後19時27分』
こういった調子で、ループが発生した時間が書かれていた。しかも、その一番下の新しく書かれた記録には、驚くべきものが記されていた。
「11月XY日、4回目、午後18時42分。11月XY日、5回目、午後15時59分。この日付、今日の事でありんすよね……」
読み上げたおタツの顔が、段々恐怖に怯える顔へと変わっていくのがよく分かった。それもそうだ、ついさっき今日が始まったと思った矢先に、突然同じ今日を何度も繰り返していたと言われ、その証拠も見せられたのだ。
嘘だと思いたくても、あのオリーブがこんな真面目に話して、タクマの頭にもその記憶が残っていると分かった今、そんな逃避は通用しない。
「しっかしまぁ、何でアンタはその事知ってんだい?」
「まさか、今この時を含め、今日を6度も繰り返していたなど、見当もつかなかったでござる」
不覚そうに、吾郎は目を瞑る。するとオリーブは、まあ仕方がない、と首を横に振り、腕を捲った。
すると、腕に付いていた文字型の傷が露わになった。
「痛そう。この傷、どうしたんだ?」
タクマが訊くとオリーブは、もう一方の腕を見せた。そこにも同じく、傷文字が刻まれている。
「ノートをなくして困っていた日に、試しに腕に掘った傷だ。夢でつけたはずの傷が、それも文字型のが付いている事に違和感を覚えて、俺はこの繰り返し現象を発見した」
「じゃあつまり、タクマと野江ちゃんが、頭痛が痛いって泣いて倒れたのも、その何度目かの今日に傷を負うようなことがあったから、って事か?」
「そういう事だ」
その話を聞くと早速、リュウヤはオリーブの手を強く握り、顔を近付けた。
「教えてくれ!今の俺たちにはエンドポリスの場所を知る必要があるんだ!」
唐突なお願いに、オリーブは固まってしまう。何故ループの話からエンドポリスの話になる。
オリーブも最初は引き剥がそうとしていたが、リュウヤは真剣な表情で「頼む」と連呼し、遂には机に頭を叩きつける勢いで頭を下げた。理由はどうあれ、必死である様子はひしひしと伝わった。
「おいもうやめとけってリョーマ。お前も頭痛が痛い?ってのになるぞ」
「頭痛が痛くてもなんでもいい、とにかく頼む!この通り!」
「ああもう!わかった、分かったよ!ほら、エンドポリスはここにある!」
押し負けたオリーブは、苛立ちながらも壁に貼ってあった地図を叩きつけ、星印の描かれた場所を指さした。
そこは、エスジネスから北北西、ペルドゥラス最果ての崖の上に描かれていた。しかもその上には、オリーブの字で「エンドポリス」と記されていた。
するとリュウヤは、唐突に近くのナイフを抜き取り、奥の個室に逃げてしまった。
「りゅ、リューくん!」
「お前様、どこにいくでありんすか!」
「来ないでくれ!エンドポリスの場所が分かったんならこれで万々歳だろ。だったら、ちゃんとメモしねぇと!」
ザク、ガス、痛々しい音と共に、リュウヤの痛みを殺すような声が聞こえてくる。更に、血の匂いまで漂ってくる。
まさかリュウヤ、あのナイフで……
「リュウヤ!」
タクマは名前を叫び、扉を開けた。しかしその時、突然意識がプツリと途切れた。
目を覚ますと、そこは紫色に染められた部屋だった。いや、正確には紫色に“灯された”部屋だ。それに、何だか外がひんやりとしている。雪や氷の寒さではない、何かが居そうな、背筋に来るタイプのひんやりだ。
それに、よく聞くとグツグツゴポゴポと、何かを煮込むような怪しい音も聞こえてくる。
「うっ、うぅ……」
「タクロー、お前大丈夫か?」
起き上がって早々、アリーナは訊いた。振り返ると、そこには長机の上でタクマとノエルの復活を待つ6人の姿があった。
まさか、さっきのブツ切れの記憶も、夢だったのか?いや、頭は痛いし、何より夢なら宿屋で目覚めないとおかしい。
そんな風に考えていると、ガチャリと扉が開いた。そして、タクマはそこにいた人物を見て目を丸くした。
何故ならその男は、オリーブだったのだ。
「オマエ、大丈夫ダッタノカ?」
「丁度あの後、気絶したアンタらに薬飲ませて、家に上がらせてくれたんよ。この人だろ、オリーブって兄ちゃん」
リュウヤの問いに、訳もわからず頷いた。戦ったことがあるからよく分かる。目の下の隈、ボサボサの髪、メア顔負けの悪趣味ロッド、完全にビンゴだ。
「頭打ッテ、死ンダト思ッタノニ」
「頭を、打った?それって、夢の?」
タクマが訊くと、オリーブは一瞬硬直しつつも、うんと頷いた。
「オマエ、多分アノ時一回死ンダ」
「は?」
「アレハ、夢ジャナイ」
その時、タクマの頭が再び痛み出した。さっきまで感じていたものではなく、無理矢理記憶を引き出されているような、そんな激痛だった。
しかし、その痛みによって、夢の記憶が鮮明に浮かび上がってきた。メアがシュシュを無くして髪を下ろしたまま聞き込みに行った世界線、アリーナが恐ろしい買い物をしようとしていた世界線、そしてオリーブを追って頭を打った世界線。どれも今日だと“思い込んでいた”記憶ばかりだった。
「ど、どう言うことなのじゃオリーブ。此奴は死んではおらぬぞ?」
「それにウチら、昨日エスジネスに来たばっかやで」
「……はぁ、これだからアホ共は」
頭にハテナを浮かべていると、突然オリーブは人が変わったように低い声で話し出した。あまりの豹変っぷりに、タクマ達は硬直してしまった。
「ここからは真面目に話させてもらおう。俺達は今、どういう訳か同じ日を繰り返している」
「同じ日を、繰り返す?何それ無限ループって奴か?」とリュウヤ。
「まあ、そんな考え方で間違ってはいない。しかも、厄介な事に最近はどこで振り出しの時間に戻るか、俺にも分からなくなった」
そう言って一旦話を区切ると、オリーブはノエルが寝ているベッドの下から集めのノートを取り出した。そこには、これまでの同じ日が繰り返し続いた時の時間が記されていた。
『11月XX日 1回目 午後22時40分』
『11月XX日 2回目 午後19時27分』
こういった調子で、ループが発生した時間が書かれていた。しかも、その一番下の新しく書かれた記録には、驚くべきものが記されていた。
「11月XY日、4回目、午後18時42分。11月XY日、5回目、午後15時59分。この日付、今日の事でありんすよね……」
読み上げたおタツの顔が、段々恐怖に怯える顔へと変わっていくのがよく分かった。それもそうだ、ついさっき今日が始まったと思った矢先に、突然同じ今日を何度も繰り返していたと言われ、その証拠も見せられたのだ。
嘘だと思いたくても、あのオリーブがこんな真面目に話して、タクマの頭にもその記憶が残っていると分かった今、そんな逃避は通用しない。
「しっかしまぁ、何でアンタはその事知ってんだい?」
「まさか、今この時を含め、今日を6度も繰り返していたなど、見当もつかなかったでござる」
不覚そうに、吾郎は目を瞑る。するとオリーブは、まあ仕方がない、と首を横に振り、腕を捲った。
すると、腕に付いていた文字型の傷が露わになった。
「痛そう。この傷、どうしたんだ?」
タクマが訊くとオリーブは、もう一方の腕を見せた。そこにも同じく、傷文字が刻まれている。
「ノートをなくして困っていた日に、試しに腕に掘った傷だ。夢でつけたはずの傷が、それも文字型のが付いている事に違和感を覚えて、俺はこの繰り返し現象を発見した」
「じゃあつまり、タクマと野江ちゃんが、頭痛が痛いって泣いて倒れたのも、その何度目かの今日に傷を負うようなことがあったから、って事か?」
「そういう事だ」
その話を聞くと早速、リュウヤはオリーブの手を強く握り、顔を近付けた。
「教えてくれ!今の俺たちにはエンドポリスの場所を知る必要があるんだ!」
唐突なお願いに、オリーブは固まってしまう。何故ループの話からエンドポリスの話になる。
オリーブも最初は引き剥がそうとしていたが、リュウヤは真剣な表情で「頼む」と連呼し、遂には机に頭を叩きつける勢いで頭を下げた。理由はどうあれ、必死である様子はひしひしと伝わった。
「おいもうやめとけってリョーマ。お前も頭痛が痛い?ってのになるぞ」
「頭痛が痛くてもなんでもいい、とにかく頼む!この通り!」
「ああもう!わかった、分かったよ!ほら、エンドポリスはここにある!」
押し負けたオリーブは、苛立ちながらも壁に貼ってあった地図を叩きつけ、星印の描かれた場所を指さした。
そこは、エスジネスから北北西、ペルドゥラス最果ての崖の上に描かれていた。しかもその上には、オリーブの字で「エンドポリス」と記されていた。
するとリュウヤは、唐突に近くのナイフを抜き取り、奥の個室に逃げてしまった。
「りゅ、リューくん!」
「お前様、どこにいくでありんすか!」
「来ないでくれ!エンドポリスの場所が分かったんならこれで万々歳だろ。だったら、ちゃんとメモしねぇと!」
ザク、ガス、痛々しい音と共に、リュウヤの痛みを殺すような声が聞こえてくる。更に、血の匂いまで漂ってくる。
まさかリュウヤ、あのナイフで……
「リュウヤ!」
タクマは名前を叫び、扉を開けた。しかしその時、突然意識がプツリと途切れた。
0
お気に入りに追加
140
あなたにおすすめの小説
ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い
平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。
ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。
かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。
異世界は流されるままに
椎井瑛弥
ファンタジー
貴族の三男として生まれたレイは、成人を迎えた当日に意識を失い、目が覚めてみると剣と魔法のファンタジーの世界に生まれ変わっていたことに気づきます。ベタです。
日本で堅実な人生を送っていた彼は、無理をせずに一歩ずつ着実に歩みを進むつもりでしたが、なぜか思ってもみなかった方向に進むことばかり。ベタです。
しっかりと自分を持っているにも関わらず、なぜか思うようにならないレイの冒険譚、ここに開幕。
これを書いている人は縦書き派ですので、縦書きで読むことを推奨します。
異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた
りゅう
ファンタジー
異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。
いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。
その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
王宮で汚職を告発したら逆に指名手配されて殺されかけたけど、たまたま出会ったメイドロボに転生者の技術力を借りて反撃します
有賀冬馬
ファンタジー
王国貴族ヘンリー・レンは大臣と宰相の汚職を告発したが、逆に濡れ衣を着せられてしまい、追われる身になってしまう。
妻は宰相側に寝返り、ヘンリーは女性不信になってしまう。
さらに差し向けられた追手によって左腕切断、毒、呪い状態という満身創痍で、命からがら雪山に逃げ込む。
そこで力尽き、倒れたヘンリーを助けたのは、奇妙なメイド型アンドロイドだった。
そのアンドロイドは、かつて大賢者と呼ばれた転生者の技術で作られたメイドロボだったのだ。
現代知識チートと魔法の融合技術で作られた義手を与えられたヘンリーが、独立勢力となって王国の悪を蹴散らしていく!
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
攫われた転生王子は下町でスローライフを満喫中!?
伽羅
ファンタジー
転生したのに、どうやら捨てられたらしい。しかも気がついたら籠に入れられ川に流されている。
このままじゃ死んじゃう!っと思ったら運良く拾われて下町でスローライフを満喫中。
自分が王子と知らないまま、色々ともの作りをしながら新しい人生を楽しく生きている…。
そんな主人公や王宮を取り巻く不穏な空気とは…。
このまま下町でスローライフを送れるのか?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる