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第10章 ゼロの開始点

第256話 ショニチの捜査

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「のわー!大変じゃー!」

 次の日の朝、メアの悲鳴に皆が目を覚ます。まさかエスジネスにまで魔物が現れたのか、最悪の事態を想定し、タクマは剣を握る。
 しかし、振り返ってみるが、特にそんなことはなく、ただメアがベッドの下を漁っていた。前の客のものなのか、「むっちりバニー」と書かれた雑誌が何冊か出土されている。

「なんだこりゃ、タクローが変態でしたって話か?」
「誰が変態だ。それで、どうしたんだメア?」

 エロ本を誰の目にも届かないようにこっそり隠しつつ、タクマは訊く。しかしメアは、タクマの声掛けには気付かないまま、お得意の柔軟性を生かしてベッドの下を漁り続けていた。
 よく見ると、普段サイドテールにしている髪が、今日は珍しく下ろされている。まあ、寝る時には外しているから当たり前なのだろうけど。

「タクマ殿、アリーナ殿、食事の用意ができたでござる。おろ?」
「ああごめん吾郎爺、ちょっとメアが立て込んでてさ」
「うーん、ちゃんと昨日この下に置いた筈なんじゃがのぅ」

 吾郎が部屋に入ってきてもお構いなし、自販機の下からお金を発掘しようとする人のように、メアは独り言を呟きながら何かを探し続ける。
 だが、諦めたのか、ため息を吐いて立ち上がった。

「おお、お主らいつの間に」
「なあメイ、何探してたんだ?」
「シュシュじゃ。昨日ランプ台の上に置いた筈なんじゃが、なくなってしまってのぅ」
「シュシュって、いつも付けてたあの赤い奴か?」

 タクマが言うと、メアは首を縦に振った。そして、最後に広く見るために振り返り、部屋を後にした。
 一応、金髪はメアしか居ないが、サイドテールのないメアの髪は肩よりも長く、一瞬別人と錯覚してしまう。
 しかも、その一瞬の中で、メアの髪が黒になったような気がして、懐かしさがタクマを襲った。
 ……あれ?この感じ、なんか前にもこんなことがあったような気がする。するとその時、メアの悲鳴を聞きつけたリュウヤがスッと姿を表した。

「何探してんの、メアちゃん?」
「妾のシュシュがないのじゃ。ここに置いたはずなのに!」
「お前様、見なかったでありんすか?」

 すると、リュウヤはまるで最初から在処を知っているように、メアが探しているベッドとは逆方向のベッドの下を探った。そして、メアが無くしたシュシュを発見した。

「あー!妾のシュシュじゃ!」
「リュウヤさん、どうしてそこに落ちてるって?」

 ノエルが訊くと、リュウヤは一瞬黙り込んでから鼻を指した。そして「野生の勘だ」と言った後に、何故か「あーまーぞーん!」と誤魔化すようにポーズを取った。
 相変わらず、リュウヤのテンションには置いていかれてしまう。それにしても、最近リュウヤの様子がおかしい。これは何かのサインだって、リュウヤの爺ちゃんに教えられたような気がしたけど、思い出せない。
 考えていると、突然頭を誰かに強く叩かれた。リュウヤだ。

「何ボサっとしてんだタクマ!ほら皆も、朝飯できたから、冷めねぇうちに来いよな!」

 そう言うと、リュウヤはマ○クのように助走をつけて、ビュビューンと走り去ってしまった。

 ──それから、食事を済ませたタクマ一行は、エンドポリスの手掛かりを探しに、エスジネスの探索をすることにした。
 一方は図書館から旧式の地図を探しに、もう一方はギルドや地元の人達からの聞き込み調査に向かう。

「にしても、図書館ったって結構広いでありんしょう?お前様、ホントに大丈夫でありんすか?」

 おタツは頬に手を当てながら、心配そうに訊く。
 おタツが心配するように、「図書館」と看板の掛けられた施設は、大金持ちの邸宅のような大きさを誇っていた。
 屋根の下には何本もの氷柱を携え、3階分はあるであろう窓は、意思を持つ生き物のように、無数の目で行き交う人々を見守っている。勿論、目の前のタクマ達も例外ではない。
 しかしリュウヤは、そんな魔女の家を前にしてもお得意のやる気パワー全開でグッドサインとウィンクをして見せた。

「大丈ブイっての。盛り上げ屋!リュウヤ!」
「ザ・清楚!ノエル!」
「一段目担当!ナノ!」
「お宝サーチアイ!アリーナ!」

 4人は戦隊ヒーローのように名乗る。ダメだ、全然安心できない。むしろ何かやらかしそうで怖い。特に、アリーナに関しては絶対目的以外のものを持ち出す気満々だ。強盗はやめるって宣言はどこに行ったんだ。
 しかしその時、また脳裏に何かがよぎった。そして、よぎった跡に「アリーナと共に行動しろ」というメッセージが残った。さっきのリュウヤといい、メアのシュシュの件といい、今日は何かとデジャヴが多い。それに、何か大事な事を忘れているような気がする。

「よーし!そうと決まればプレシャス探すぜ冒険じゃーい!」
「待て待て待てぃ!ちょっっと待てぇい!」

 タクマは図書館に入っていこうとする四人の前に立ち、一旦編成を考え直すように言った。
 すると、出鼻を挫かれたアリーナが、あからさまにヘソを曲げて、不満そうにタクマに顔を近づけた。悪いが顔を退けてくれ。
 そう思いながらも、タクマは一つ提案をした。

「ここは吾郎爺がアリーナの代わりについてくれないか?」
「えっ、拙者でござるか?」
「そうじゃな。アリーナなら、何をしでかすか分かったもんじゃないからのぅ」
「何か言ったかメイ?」

 次にアリーナはメアと額を当て合い、ジリジリと睨み合った。こら喧嘩しない。
 とにかく、ここで彼らに行ってもらわないと困る。タクマは二人の仲裁に入り、アリーナを連れて先に聞き込み調査へと向かった。

「全く、何なのじゃタクマの奴は?」
「はて。アリーナ殿では何かダメだったでござろうか」
「ま、アイツなりの考えってのがあんだろきっと。とりま気ぃ取り直して、探索全開じゃー!」

 そう言って、図書館探索隊の四人は飲み込まれていった。まあ、吾郎がいるならなんとかなるだろう。

 ──それから、リュウヤ達四人は図書館の中を必死で探索した。まずは旧地図を探そう。そこに答えが載っている。
 と信じて探したものの……

「すみません、地図は現在禁書コーナーにありまして、一般のご入場はご遠慮させて頂いております」
「マジかよ、俺っち“キンショ”ック」

 リュウヤは頭をどつかれたように後ろへ仰け反り、そのままドテンと倒れてしまった。それに呆れながらも、ノエルは続けて「そこを何とかお願いします。今の私達には必要なんです」と交渉を試みた。
 だが、職員の女性は「そう言われましても」と、困った様子で頬を撫でた。

「ダメみたいやな。コレじゃあタっくん達に顔向けできへんわ」
「安心するでござる皆。きっと見つかるでござる」

 吾郎は皆を鼓舞し、女性に頭を下げた。そして、女性が見えなくなったことを確認した吾郎は、近くの読書スペースに他3人を集め、こっそりと会議を始めた。
 
「きっと見つかるって、全部禁書コーナーですよ?」
「おっ、まさかまさか、禁書コーナー踏み入っちゃう?オッホッホ、吾郎爺、お主も悪よのぉ~」
「まさか、じぃじはそんな悪い事せえへんって……」
「流石リュウヤ殿、話が早い」

 まさかの吾郎の返答に、3人は驚いた。特にリュウヤは、冗談で言ったつもりの事を何の躊躇いもなく言った吾郎の姿を見て、口をあんぐりと開けて驚いていた。勿論、大声を出してはいけないため、皆喉元に出た声を押し殺した。

「おいおい。今のは俺っちの冗談が過ぎた。流石にマズイぜ、な?」

 リュウヤにしてはまともなことを言う。しかし吾郎は、リュウヤの肩に手をポンと置いて、イケイケの顔をしながらグッドサインを出した。

「リュウヤ殿、言っていたではござらぬか。バレなきゃ犯罪じゃないんですよぉ、と」
「あっ、そう来るのね」
「リュウヤさん、吾郎爺になんて事を教えたんですか」

 言われてみれば、隠し味のイタズラを止められた時、吾郎爺にそんなこと言った気がする。まさかノリで言ったことが回り回って俺っちの所に帰ってくるとは思わなんだ。
 そうして、リュウヤ達は普通のコーナーを見るフリをして、禁書コーナーに続く階段に向かった。勿論そこには立ち入り禁止の立て看板があったが、リュウヤ達はあえてそれを無視し、ズカズカと入り込んだ。
 辺りを見回してみても、通常階のように紫を基調とした内装が続いていた。

「ねぇ吾郎爺、早く帰りましょうよぉ。バレたら怒られますって」
「何だよノエし、猛ってんのか?」
「おちょくらないでくださいよリュウヤさん!もう……」

 戻ることを提案しながらも、ノエルは3人の後をついていく。それにしても、前の3人はまるで洞窟探検でもしているかのように、迷いなく歩みを進めている。
 とその時、ノエルが階段を登り切ったと同時に、突然足元の絨毯が浮かんだ。

「へっ?きゃっ、な、何ですかコレ」
「まさかこれ、ウチらを追い出す罠!?」
「ハッハー、やられたぜ。よーしお前ら、追い出されねぇように逃げるぞ!」

 そう言うと、リュウヤは一目散に走り出し、曲がり角を曲がった。と思うと、そこから本の爆撃を受け、吹き飛ばされて帰ってきた。しかも、リュウヤを殴り飛ばした本達は、ノエル達に向かって飛びかかってきた。

「りゅ、リューくん!」
「あだだ、まずいわこりゃあ。折角行けたと思ったのによぉ」
「それより、早くこれを退かないと、絨毯がすぐそこに……」

 噂をすれば何とやら、吾郎が振り向いた先には、既に絨毯が来ていた。
 
「はわわわわ、も、もうダメです~!ごっ」

 無慈悲に、白い禁書がノエルの頭に直撃した。そして、ノエルとリュウヤの二人を心配する暇もなく、四人は絨毯に捕まり、そのまま窓から放り投げられた。
 
 ────一方その頃、タクマ達も同じくエンドポリスに関する情報の聞き込みに回った。しかし結局、皆「知らない」の一点張りで、知っていそうだが教えてはくれなかった。
 そして、約束のカフェでの中間報告。他の3人がコーヒーを頼む中、タクマだけは頼まなかった。

「えーっと、ウィンナーコーヒー二つに、アイスコーヒーお一つ、でございますね?」
「うむ。しかしタクマ、お主は飲まぬのか?」
「えっ?ああ、今日はそんな気分じゃなくってさ」
「珍しいでありんすなぁ。いつもなら、アメリカンといの一番で言うのに」

 これには理由がある。それは、この後俺の視界に懐かしい奴が現れるからだ。根拠はないが、何故かそんな気がするのだ。
 すると案の定、奥に影のようなオーラを纏った学生が、ひょっこりと路地裏に繋がる所からこちらを見ているのが見えた。

「悪い、急用思い出した。先に結論言っとくと、収穫なしだったー!」
「何だタクローの奴、昨日来たばっかの所に急用なんてできるもんなのか?」
「さぁのぅ。タクマ、意外と隠してること多いから、妾には何もわからぬ」

 ──そして、タクマはオリーブの後を追いかけた。なんとなく鮮明に思い出せてきた。確かこの先はバザール。この時間からちょうどオークションが始まるから、人だかりができる。
 しかし、彼の気配を掴んだ今、そう簡単に見逃す筈はない。

「グッ、ツイテクルナ!」
「待ってくれ、話がしたいんだ!」
「ヤメロ、クルナ!クルナ!」
「お願いだ、今お前の力が必要なんだ!」

 タクマは必死に声を上げた。視線がこちらに向いてるが、それでも声をかけ、追いかけた。何故ならオリーブは、アコンダリアで『近くの廃墟が好き』と紹介されていた。つまり、それがエンドポリスについての事なら、彼が誰よりも一番その場所について知っているという事になる。
 しかしその時、突然足がもつれてタクマは転んでしまった。しかも、その頭のところにははみ出たレンガがあり……
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