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第9章 怠惰魔城に巣食いし怪人
第229話 姫の覚悟と眠りし力
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「彼奴、そんな事を考えておったのか」
キャシーから全てを聞いたメアは、呆れ返った表情を浮かべながら、左こめかみに手を当てた。
それもそうだ。あの女、丁度目の前に当人の娘が居るからとやかく言うのもどうかと思うが、ここまで傍若無人すぎたらもう救い様がない。しかも、我が娘をダシに使うどころか、自分の意思で加担するまでほぼ監禁に近いような事をするなんて、本当に親なのかどうか疑ってしまう。
「気に食わねぇデブ野郎だと思って見てたが、まさかそこまで性根が腐ってたとはな。殺す価値もない」
「ちょっとオニキスさん、それは言い過ぎですよ!あんな人でも、キャシーさんのお母さんなんですから」
「お……」
鼻で笑うオニキスに、ノエルは頬を膨らませて言った。キッパリと“あんな人”と遠回しに罵倒しているのは置いといて、お母さんと言う言葉がオニキスの胸に刺さり、一瞬後ろめたそうに顔を下げる。
しかしその時、タクマの中に大きなモヤが生まれた。
──何故、母が不利になるような事を?
仮にキャシーを、計画書と共に無事メルサバへ護送したとする。そして、計画書を証拠に有権者達──国王──に開示したとすると、サージ王女は確保されるだろう。しかも、これほどの大罪であれば、処刑は免れない。
とどのつまり、全てを奪われた元貴族を救うためでも何でも、母親もカプリブルグも危うい状況に陥ることとなる。下手をすれば、キャシー本人も。それなのに何故、こんなに危険な事をしようと思ったんだろうか。
「キャシーさんは、お母さんについてどう思ってるの?」
「えっ?」
「いやその、もし奴隷の事全部話したら、お母さんだけじゃなく、君も危ないよなぁって思って……」
「それは……」
タクマはたまらず訊いた。しかしキャシーは、タクマの言葉を聞いて無言になってしまった。
するとオニキスはため息を吐き、「お前もか」と声を出した。
「亡命するだなんだ言っといて、結局自分は助かりたい、公表するけどお母さんは助けたい。そんなところか?流石は世間知らずのお嬢様だ」
「ちょっとオニキス、何を言い出すんだ!」
「やめるのじゃ女もどき、キャシーがどれだけ苦しい思いをしたのか……」
いきなりの罵倒に、タクマ達は注意する。しかしオニキスは、二人の言葉をあえて無視し、そのままキャシーに向かって言葉を吐いた。
「辛い思いをした?そう言ったら、お前のお友達は『辛かったね辛かったね』って慰めてくれるだろうな。だが、現実は違う!誰もそんな悲惨な過去なんざに興味はねぇ!テメェの悲劇のヒロインの演技はなぁ、何の意味も為さねぇんだよ!」
「オニキスさん、もうやめてください!」
「黙れ!大体、テメェらの根性は甘ったるい!だからこうやって甘い考えしたバカが生まれるってのが、何故わからない!皆が皆、どんな奴でも話せばわかるなんて、そんな夢物語があったら誰も苦労はしちゃいねぇんだ!」
ノエルが止めに入るも、胸にオニキスの指と言葉が突き刺さり、押し返される。
更に、彼の目は本気だった。本気で、喝を入れている。
「いいか?お前も助かり、国も奴隷も助かって、母親は刑期までブタ箱暮らし。そんな都合のいい話はあり得ない。どれだけお友達が慰めて匿おうと、極悪ペテン師の娘なんて知り辺りゃあ、お前も悪人として見られんだ!そんな自分が叩かれると覚悟すらしてねぇ奴が、国を守ろうなんて、ナメた口聞いてんじゃねぇ!」
「オニキス……」
タクマは彼の言葉に、熱い情熱を感じた。きっと彼女の葛藤が、オニキスの過去と重なったからこそ、キツくなったのだろうと。
実際、これから先カプリブルグが、サージ王女がどうなるかなんて、誰にも分からない。処刑と言っても、結局は“かもしれない”の範疇だ。
「でも、私は罪を償ってほしいんです!処刑されるかもしれないけど、私は、私は!お母さんが、大切だから!」
「だから何だ!」
「だから!たった一人の娘として、会ったことのないお父様の代わりとして、それは違うって教えたいの!」
キャシーはオニキスの声量に負けないよう、必死に叫んだ。
彼の言う通り、私は自分だけ助かりたいってどこかで思っていた。けど、皆を見捨てて逃げるなんて、私にはできない!傲慢でも強欲でもなんでも良い、私は私にできる事を、死ぬ気でやる。
それにきっと、母は死ぬかも知れない。それでも、何か一つだけでも、やれる方法があるなら、それを見つける。無謀でも、なければ作る。それが、私のやりたい事。
心の中で、キャシーは必死に唱えたのだろう。だが、彼女の心の声は、どういった原理か、タクマ達の胸の中に直接響いてきた。
「……何だ、やればできるじゃあねぇか」
「えっ?どういう事じゃ?」
「オニキスさんまさか」
さっきまでの怒りを抱いた姿が嘘かのように、オニキスはキャシーの頭を撫でた。そして、素直になれない素振りで「怖がらせてすまなかったな」と謝罪した。
そして、背中を向けたまま、匂ったんだよ、コイツから、とタクマ達に言った。
「失礼だぞオニキス、女の子に向かって臭うなんて」
「お前馬鹿か?俺が言ってんのは、コイツの中に眠る“力”の匂いだ。誰もタバコ臭い話はしてねぇ」
「力、ですか?」
「お前らも知ってる筈だ。強いってのは、ただ力の強い奴の事だけじゃあねぇ。“ココ”が強い奴だって、十分に強い。だろ?」
オニキスはそう言いながら振り返り、胸を2回叩いた。その瞬間、脳裏にロード兄弟との記憶が再生された。
そうだ。この台詞、俺達を送り出す時、ブレイクさんが言っていた、本当に強くなる方法。けど、どうしてオニキスが二人の言葉を?
「オニキスさん、それって?」
「さぁな。その事はまたどっかで会えた時に教えてやる」
そう言うとオニキスは剣を抜き、動きやすいようにわざとスカートを引き裂いた。するとその刹那、タクマ達の周囲に凄まじい風が吹き荒れ、真っ赤な火花が飛び散った。しかも、その火花に照らされた顔は……
「あっ、あの人……私の部屋に来た……」
『困るなぁ、彼には誰とも干渉してはいけないと、釘を刺した筈なのに』
「あ、α!?貴様何故ここに!」
なんと、αが剣を持ってそこに居た。やはり、顔も見えなければ機械音声のような抑揚のない声。感情が読み取れない筈なのに、背筋が凍りつくような覇気を感じる。
するとαは、オニキスを蹴り飛ばし、キャシーに刃を向けた。
『本当に申し訳ない。でも、彼の事を知る人間は、消えてもらわなくちゃいけないんだ』
「やめろα!そんな事してみろ、俺がアンタを斬る!」
「私だって、リオさんとの約束の為なら、例えアナタだとしても殴ります!」
『君達も懲りないね。私から挑戦状を出した時に、私の強さを理解してくれると思っていたのに』
そう言い、αは剣を振った。しかも、その剣はかつてオニキスが持っていた例の魔剣が握られている。だが、やらなければ。その強い意志を力に変え、タクマは剣を防いだ。そして、金属音が響く前に、ノエルのアッパーが炸裂した。
何とかαに怯みの一撃を入れた所で、メアとタクマはキャシーと共に後退した。
「あ、ありがとう……ございます……」
「礼なら後で聞く。とにかくここから逃げるのじゃ!」
『なかなかのコンビネーションだ。けど、逃すつもりは無いよ』
するとαは廊下を力強く蹴り、今度はメアと2人の首を刈り取る勢いで飛び込んだ。
ダメだ、動きが速すぎて対処できない!タクマの視界はスローモーションに変わっていき、その刹那に複雑な構えをこなすαを、タクマはただ茫然と見ているだけだった。
しかしその時、タクマの腹にヒールのような細いものが刺さり、ノエルの方に蹴り飛ばされた。
「ちょっとタクマさん、重いです!」
「ご、ごめん。けどこれ……」
「ったく、世話の焼ける。運良く俺に勝てたからって、思い上がってんじゃねぇぞ!」
この声まさか、タクマは目を丸くして驚いた。なんと、負傷していた筈のオニキスが、タクマの前で剣を構えてαと交戦していたのだ。
αもこの展開は予想していなかったのか、なかなかやるな、と楽しそうに呟いた。
「オニキスお前……」
「勘違いするな。俺はただ、コイツが気に入らないだけだ。それに、さっきから臭って仕方ねぇ。罪源の、ドロドロした嫌な臭いが!腹立たしい!」
『君も気付いているようだね。この感じ、怠惰の罪源の復活が近いみたいだ』
「な、なんじゃと!?やはり彼奴、利用して……」
「とにかく、αをどうにかしないと──」
危機を感じ、ノエルは杖を構えた。しかしその時、オニキスは「来るな!」と叫んだ。
「コイツは俺の獲物だ。茶々入れる奴は、例え敵じゃなくても斬る!分かったらさっさと失せろ!」
『良い心がけだ。さて、どう調理してあげようかね』
「オニキス、さん……」
「あーもう、それで死んでも妾は責任取らぬからな!」
タクマ達はオニキスに言われた通り、キャシーを連れてその場から消えた。口調は強いが、誰よりもαの脅威を知っているから、そしてかつては彼と組んでいたからこそ、彼らを逃したのか。はたまた、本気を出すのに邪魔だから追い払ったのか。そんな事はどうだっていい。
ただ今は、引き受けてくれたアイツの意思を無駄にしないために、逃げる。アイツならやってくれると信じて。
「けど逃げるったって、何処に逃げるつもりなんですか?」
「なんとなくは決まってる。キャシーさん、キッチンがどこか知ってるかい?」
キャシーから全てを聞いたメアは、呆れ返った表情を浮かべながら、左こめかみに手を当てた。
それもそうだ。あの女、丁度目の前に当人の娘が居るからとやかく言うのもどうかと思うが、ここまで傍若無人すぎたらもう救い様がない。しかも、我が娘をダシに使うどころか、自分の意思で加担するまでほぼ監禁に近いような事をするなんて、本当に親なのかどうか疑ってしまう。
「気に食わねぇデブ野郎だと思って見てたが、まさかそこまで性根が腐ってたとはな。殺す価値もない」
「ちょっとオニキスさん、それは言い過ぎですよ!あんな人でも、キャシーさんのお母さんなんですから」
「お……」
鼻で笑うオニキスに、ノエルは頬を膨らませて言った。キッパリと“あんな人”と遠回しに罵倒しているのは置いといて、お母さんと言う言葉がオニキスの胸に刺さり、一瞬後ろめたそうに顔を下げる。
しかしその時、タクマの中に大きなモヤが生まれた。
──何故、母が不利になるような事を?
仮にキャシーを、計画書と共に無事メルサバへ護送したとする。そして、計画書を証拠に有権者達──国王──に開示したとすると、サージ王女は確保されるだろう。しかも、これほどの大罪であれば、処刑は免れない。
とどのつまり、全てを奪われた元貴族を救うためでも何でも、母親もカプリブルグも危うい状況に陥ることとなる。下手をすれば、キャシー本人も。それなのに何故、こんなに危険な事をしようと思ったんだろうか。
「キャシーさんは、お母さんについてどう思ってるの?」
「えっ?」
「いやその、もし奴隷の事全部話したら、お母さんだけじゃなく、君も危ないよなぁって思って……」
「それは……」
タクマはたまらず訊いた。しかしキャシーは、タクマの言葉を聞いて無言になってしまった。
するとオニキスはため息を吐き、「お前もか」と声を出した。
「亡命するだなんだ言っといて、結局自分は助かりたい、公表するけどお母さんは助けたい。そんなところか?流石は世間知らずのお嬢様だ」
「ちょっとオニキス、何を言い出すんだ!」
「やめるのじゃ女もどき、キャシーがどれだけ苦しい思いをしたのか……」
いきなりの罵倒に、タクマ達は注意する。しかしオニキスは、二人の言葉をあえて無視し、そのままキャシーに向かって言葉を吐いた。
「辛い思いをした?そう言ったら、お前のお友達は『辛かったね辛かったね』って慰めてくれるだろうな。だが、現実は違う!誰もそんな悲惨な過去なんざに興味はねぇ!テメェの悲劇のヒロインの演技はなぁ、何の意味も為さねぇんだよ!」
「オニキスさん、もうやめてください!」
「黙れ!大体、テメェらの根性は甘ったるい!だからこうやって甘い考えしたバカが生まれるってのが、何故わからない!皆が皆、どんな奴でも話せばわかるなんて、そんな夢物語があったら誰も苦労はしちゃいねぇんだ!」
ノエルが止めに入るも、胸にオニキスの指と言葉が突き刺さり、押し返される。
更に、彼の目は本気だった。本気で、喝を入れている。
「いいか?お前も助かり、国も奴隷も助かって、母親は刑期までブタ箱暮らし。そんな都合のいい話はあり得ない。どれだけお友達が慰めて匿おうと、極悪ペテン師の娘なんて知り辺りゃあ、お前も悪人として見られんだ!そんな自分が叩かれると覚悟すらしてねぇ奴が、国を守ろうなんて、ナメた口聞いてんじゃねぇ!」
「オニキス……」
タクマは彼の言葉に、熱い情熱を感じた。きっと彼女の葛藤が、オニキスの過去と重なったからこそ、キツくなったのだろうと。
実際、これから先カプリブルグが、サージ王女がどうなるかなんて、誰にも分からない。処刑と言っても、結局は“かもしれない”の範疇だ。
「でも、私は罪を償ってほしいんです!処刑されるかもしれないけど、私は、私は!お母さんが、大切だから!」
「だから何だ!」
「だから!たった一人の娘として、会ったことのないお父様の代わりとして、それは違うって教えたいの!」
キャシーはオニキスの声量に負けないよう、必死に叫んだ。
彼の言う通り、私は自分だけ助かりたいってどこかで思っていた。けど、皆を見捨てて逃げるなんて、私にはできない!傲慢でも強欲でもなんでも良い、私は私にできる事を、死ぬ気でやる。
それにきっと、母は死ぬかも知れない。それでも、何か一つだけでも、やれる方法があるなら、それを見つける。無謀でも、なければ作る。それが、私のやりたい事。
心の中で、キャシーは必死に唱えたのだろう。だが、彼女の心の声は、どういった原理か、タクマ達の胸の中に直接響いてきた。
「……何だ、やればできるじゃあねぇか」
「えっ?どういう事じゃ?」
「オニキスさんまさか」
さっきまでの怒りを抱いた姿が嘘かのように、オニキスはキャシーの頭を撫でた。そして、素直になれない素振りで「怖がらせてすまなかったな」と謝罪した。
そして、背中を向けたまま、匂ったんだよ、コイツから、とタクマ達に言った。
「失礼だぞオニキス、女の子に向かって臭うなんて」
「お前馬鹿か?俺が言ってんのは、コイツの中に眠る“力”の匂いだ。誰もタバコ臭い話はしてねぇ」
「力、ですか?」
「お前らも知ってる筈だ。強いってのは、ただ力の強い奴の事だけじゃあねぇ。“ココ”が強い奴だって、十分に強い。だろ?」
オニキスはそう言いながら振り返り、胸を2回叩いた。その瞬間、脳裏にロード兄弟との記憶が再生された。
そうだ。この台詞、俺達を送り出す時、ブレイクさんが言っていた、本当に強くなる方法。けど、どうしてオニキスが二人の言葉を?
「オニキスさん、それって?」
「さぁな。その事はまたどっかで会えた時に教えてやる」
そう言うとオニキスは剣を抜き、動きやすいようにわざとスカートを引き裂いた。するとその刹那、タクマ達の周囲に凄まじい風が吹き荒れ、真っ赤な火花が飛び散った。しかも、その火花に照らされた顔は……
「あっ、あの人……私の部屋に来た……」
『困るなぁ、彼には誰とも干渉してはいけないと、釘を刺した筈なのに』
「あ、α!?貴様何故ここに!」
なんと、αが剣を持ってそこに居た。やはり、顔も見えなければ機械音声のような抑揚のない声。感情が読み取れない筈なのに、背筋が凍りつくような覇気を感じる。
するとαは、オニキスを蹴り飛ばし、キャシーに刃を向けた。
『本当に申し訳ない。でも、彼の事を知る人間は、消えてもらわなくちゃいけないんだ』
「やめろα!そんな事してみろ、俺がアンタを斬る!」
「私だって、リオさんとの約束の為なら、例えアナタだとしても殴ります!」
『君達も懲りないね。私から挑戦状を出した時に、私の強さを理解してくれると思っていたのに』
そう言い、αは剣を振った。しかも、その剣はかつてオニキスが持っていた例の魔剣が握られている。だが、やらなければ。その強い意志を力に変え、タクマは剣を防いだ。そして、金属音が響く前に、ノエルのアッパーが炸裂した。
何とかαに怯みの一撃を入れた所で、メアとタクマはキャシーと共に後退した。
「あ、ありがとう……ございます……」
「礼なら後で聞く。とにかくここから逃げるのじゃ!」
『なかなかのコンビネーションだ。けど、逃すつもりは無いよ』
するとαは廊下を力強く蹴り、今度はメアと2人の首を刈り取る勢いで飛び込んだ。
ダメだ、動きが速すぎて対処できない!タクマの視界はスローモーションに変わっていき、その刹那に複雑な構えをこなすαを、タクマはただ茫然と見ているだけだった。
しかしその時、タクマの腹にヒールのような細いものが刺さり、ノエルの方に蹴り飛ばされた。
「ちょっとタクマさん、重いです!」
「ご、ごめん。けどこれ……」
「ったく、世話の焼ける。運良く俺に勝てたからって、思い上がってんじゃねぇぞ!」
この声まさか、タクマは目を丸くして驚いた。なんと、負傷していた筈のオニキスが、タクマの前で剣を構えてαと交戦していたのだ。
αもこの展開は予想していなかったのか、なかなかやるな、と楽しそうに呟いた。
「オニキスお前……」
「勘違いするな。俺はただ、コイツが気に入らないだけだ。それに、さっきから臭って仕方ねぇ。罪源の、ドロドロした嫌な臭いが!腹立たしい!」
『君も気付いているようだね。この感じ、怠惰の罪源の復活が近いみたいだ』
「な、なんじゃと!?やはり彼奴、利用して……」
「とにかく、αをどうにかしないと──」
危機を感じ、ノエルは杖を構えた。しかしその時、オニキスは「来るな!」と叫んだ。
「コイツは俺の獲物だ。茶々入れる奴は、例え敵じゃなくても斬る!分かったらさっさと失せろ!」
『良い心がけだ。さて、どう調理してあげようかね』
「オニキス、さん……」
「あーもう、それで死んでも妾は責任取らぬからな!」
タクマ達はオニキスに言われた通り、キャシーを連れてその場から消えた。口調は強いが、誰よりもαの脅威を知っているから、そしてかつては彼と組んでいたからこそ、彼らを逃したのか。はたまた、本気を出すのに邪魔だから追い払ったのか。そんな事はどうだっていい。
ただ今は、引き受けてくれたアイツの意思を無駄にしないために、逃げる。アイツならやってくれると信じて。
「けど逃げるったって、何処に逃げるつもりなんですか?」
「なんとなくは決まってる。キャシーさん、キッチンがどこか知ってるかい?」
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