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第9章 怠惰魔城に巣食いし怪人

第214話 新大陸!ヨーソロー!

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「どうだいナノナノ、寿司は美味いかい?」
「うん!すんごく美味しい!ねね、もっと新ネタないの?」
「あたぼうよ!ナノナノの為に変わり種だ!ほーれ!」

 リュウヤはナノのリクエストに答え、卵寿司ならぬどんぐり寿司を用意した。勿論、人でも食べられるマテバシイのどんぐりを使っている。
 周りは過激レベルに変わりすぎている変わり種に驚くが、ナノは嬉しそうにどんぐり寿司を手に取り、美味しそうに口に入れた。しかし、食べようと思う冒険野郎は誰一人として現れなかった。
 それにしても、リュウヤだ。全く攻撃が効いていなかったαをも退ける力、あの光の腕がなんだったのか気になって仕方がない。けど、全くと言っていいほど、これまでのリュウヤと何ら変わりがない。寿司の味も変わらず極上だ。

「あら?ねぇ皆さん、大陸が見えてきましたよ!」
「何!?ノエチビ、そいつぁ本当か?」
「ちぃと貸せい」
「あっ、メイテメェ!」

 メアが望遠鏡を奪って見た先には、なんと大きな街が築かれていた。白と青を基調としたデザインの城、ヨーロッパの貴族が暮らしてそうな程綺麗な石造りの家々、優雅に茶を嗜む国民。
 更に、アルゴでもメルサバでも見られない、塔のように高く聳える像が街を見下ろしている。

「アレがカプリブルグですか?」
「あのアホデケェ親父像が目印だ。間違いねぇ」
「って事は、そろそろアレを下さないとダメではござらぬか?」

 トロピカルジュースを片手に、吾郎は海賊旗を指差した。アリーナが書いたであろうドクロマークの旗。しかし、賞金首と言われる程有名なのであれば、旗を見ただけでバレてしまう。
 するとアリーナは、マントから熱線砲を取り出し、豪快に旗を撃って焼失させた。更に、ふとアリーナを見ると、αが置いていった青いドレスを身に纏い、ロングの青髪ウィッグで別人──アルビス(仮名)──に変身していた。
 余程旗を下す作業が面倒くさかったらしい。

 ───────────────────────
【カプリブルグ 船着場】
「えーっと、見ない船ですね。私有船ですか?」

 船着場に到着するや否や、見張り番の男がボードを片手に現れた。怪しい船が来たかどうか、職務質問をしているらしい。
 それも、何かあった時用にしては鋭く研がれた鋼の剣を腰に刺している。とんでもなく厳重らしい。いや、ここで変な奴を止めなければ、国が滅びかねないから当然か。

「あの、何かこの国であったんですかい?」
「リュー君何訊いとん?余計に怪しまれるやろ」
「それが実はつい7ヶ月ほど前、アリーナ率いる女海賊団がジェミニ王像の右目に埋め込まれたベテルサファイヤを奪い去る事件が起きましてね。それからうるさくしろと国王からの命令で」

 その話を聞くと、アリーナはそっぽを向いてスゥーっと細く息を吸った。やはり心当たりがあるらしい。
 しかし、変な態度を取れば却って怪しまれると、アリーナは作り笑顔で「私の船ですわ」と答えた。

「ほぉ、見たところどこかの令嬢に見えますが、貴方様は何方の?」
「あっ……」

 しまった。言われてみれば確かにアリーナはどこかの令嬢のように見えるが、そこまでは想定していなかった。ここに来るまでに色々あったせいで打ち合わせもしてなかったのが凶と出てしまった、なんて言い訳を言っている余裕もない。
 ここはアルゴやメルサバを出すか?それとも他の国?いや、仮にも舞踏会、各国の令嬢を呼んでいるに違いない。とどのつまり、変に国名を出せば却って怪しまれる。ではここは日本や大和の異世界地名を出せばいいのか、といってもそう上手くはいかない。
 この厳戒態勢だ。失言だけでなく、見張り番にとって面白くない返答をしてしまえば即刻帰国させられてしまう。わざわざαがここにあると教えてくれたようなものなのに、万事休すだ。

「いえいえ、コレはただの衣装でっせ。俺ちゃん達はそう、辺境の地からやって来たサーカス団です!」
「リュウヤさん!?私達はサーカス団で──」
「そそそ、そうでありんす。拙者は秘境・大和から仲間を引き連れ遠路はるばるやってきたのでありんす」

 何を思ったのか、リュウヤはおタツと吾郎を前に立たせ、某3人戦隊のポーズを取らせた。だが待て、サーカスと言ってもそんな器用な事なんて一度もした事ないぞ?
 大丈夫かと見てみると、リュウヤの目はめちゃくちゃ泳いでいた。絶望的だ。

「サーカス団ですか。そんな人を招き入れると言った話は聞いておりませんが、もしそうなら芸の一つを、ここでお見せしてくれませんかね?」
「かしこま!ちゃんメア、ちゃんメア、ナイフ貸して」
「お、おう。てか、何するつもりじゃ?」
「そりゃメアちゃん、大道芸と言やあコイツだろ!」

 そう言うと、リュウヤはメアから借りた投げナイフを上空に投げ、ジャグリングを披露した。
 まるでナイフが踊っているように、軽やかに動いている。

「おお、リョーマすげぇ……のですわ。そんな隠し芸を持っていたなんて」
「いや違う、アレは……めっちゃ焦ってる!」

 タクマの驚く通り、リュウヤは冷や汗を流しながらジャグリングを披露していた。やはり完全なるぶっつけ本番のようだ。
 とはいえ、初めてとは思えない程の慣れた手つきでやっている。
 と感心していると、リュウヤの手元が狂ってしまい、ナイフが飛んでしまった。そして、それはリュウヤの頭に突き刺さってしまった。おまけに、残りのナイフも突き刺さった。

「ギャー!頭にナイフがー!」
「なんて無茶な真似をしたのじゃ!」
「ナイフが刺さってるけど死んでない。これってもしかして、ありえナイフ?」

 タクマ達が悲鳴を上げて騒ぐ中、リュウヤは何事もなかったかのようにそれを引き抜き、パァッと駄洒落を放った。しかし、あまりにも寒すぎたせいで、氷河期並みの寒波が襲いかかった。
 もう駄目だ。ここまで来ちまったら怪しまれるのも仕方がない。諦めて他を当たろう。
 そう考えていた時、見張り番の男は咳払いをした後「よろしい」と言った。

「その不死身芸やつまらぬギャグも大道芸の一つなのだろう。ならば疑う余地などない」
「と、言う事はおっちゃん?」
「ようこそカプリブルグへ!観光を楽しんで、良き思い出を作りたまえ」

 こうして、タクマ一行は目的地 カプリブルグへと到着した。
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