上 下
207 / 295
第8章 復讐の死神

第206話 決着と絆

しおりを挟む
「ぐぉあああああ!!」

 爆発の反動で、オニキスは遠くへ投げ飛ばされる。タクマはオニキスに勝利した。
 そしてタクマは、もう戦う必要ないと判断し、クリムゾンを解除した。しかし、クリムゾンを解除した瞬間、貧血で一瞬気絶しそうになった。するとその時、誰かの呼ぶ声が聞こえてきた。

「タクマ殿~!」
「タクロー、無事か~?」

 特徴的な武士語、相変わらず名前を間違う奴。吾朗とアリーナだ。つまりあっちも、戦いが終わったらしい。
 振り返ると、ボロボロになってはいるが、何事もなかったように再会を喜ぶ皆が立っていた。

「うっ、うう……」
「あれ?オニキスさんが倒れてる?」
「と言う事はまさか、タっくんが勝ったん?」

 そんな話をしていると、オニキスはゆっくりと立ち上がろうとした。しかし、力が入らず、後ろにパタリと倒れる。
 ──ったく、こんな時に晴れるのかよ。折角雨の音にかき消されると思って断末魔でも上げてやろうと思ったのに。
 
「おめでとう、言い値の首はテメェの物だ。持っていけ」

 剣を失った俺に、もう戦う事はできない。アレが手足と同じだったから、折られたって事は手足を失ったのと同じ。それに、どうせ生きてたって、俺はじきに死ぬ。
 それに、アナザーを騙った上にフォーデン転覆を狙った。処刑は免れない。
 だったらせめて、最強狩りとして最後に、認めた奴に賞品を渡してやろう。それが元最強の、責務だ。
 そう思い、オニキスはタクマの斬首を待った。タクマはうんともすんとも言わず、剣を持ってゆっくり近付いていく。

「タクマ、お主分かっておるのか!?」
「そ、そうでありんすよ!例え賞金首だったとしても、斬ったら貴方は人殺しでありんす!」
「……そうだな」

 後ろからの怒鳴り声に、タクマは暗い口調で答えた。

「おいタクロー!何とか言えよ!」
「タっくん!嘘……?」

 二人が叫ぼうとした時、女子陣の前でリュウヤが道を塞いだ。それを抜けて止めに走ったメアの腕も掴み、首を横に振った。
 
「コイツは奴とタクマ、漢と漢の事情だ。部外者の干渉は許されない」
「いやしかしだなリュウヤ君」
「まあ見ていてください。皆さんも、信頼していない訳じゃないでしょう?」

 ノエルの言葉に打たれた5人は、山ほどある言いたい事を喉に留まらせ、タクマとオニキスのやり取りを見守った。
 その頃、タクマはオニキスの足元に立ち、彼の顔を見下ろしていた。もう全てやり切った、後悔はないと感じ取れるような清々しい顔をしている。

「早くしろ!今すぐ首を斬れ!」

 オニキスは叫んだ。その声は避難所の方まで響き渡り、そこで戦いが終わるのを待っていたワトソンの耳にも入ってきた。
 すると、叫び声を聞いたワトソンは、荷物を父親のロックに託し、走り出した。

「ワト!どこに行く!」
「ごめん父さん!俺行かなきゃ!」

 ──オニキスが叫んでから3分が経過した。だが、一向にタクマは足元に立ったまま動かなかった。
 そうなって来ると、そろそろ止めていたリュウヤも心配し始める。まさか金に目が眩んだんじゃあないだろうかと。
 するとその時、タクマはレンガとレンガの間に剣を突き立てた。そして、オニキスの前に左手を差し伸べた。

「そんな物騒なものはいらない」
「……え?」
「ごめん。俺、人の首を斬る覚悟だけは持ち合わせてないんだ」
「ふざけるな!だったらいい、俺がこの手で斬る!」

 そう言うと、オニキスはタクマの手を払い除け、突き刺さった剣を引き抜こうと手を伸ばした。
 だが、それに勘付いたタクマは剣を抜き、そっと鞘に戻した。
 そして、オニキスに向かって「聞け!」と怒鳴った。

「アンタ、言ってくれたろ?“お前は強くなれる”って。俺、そう言われてすっごく嬉しかったんだよ」
「知るか!だからどうした!」
「だから今度は、俺がアンタを信じる番だ。アンタはまた優しくなれる。なんて」

 タクマはあの日オニキスが言ったように言い、しゃがみ込んでからもう一度手を差し伸べた。

「いいのか?ここで殺さなかったら、いつか後悔するぞ?それでも──」
「それでもいい。その時は、また今日みたいに本気でぶつかり合って、必ず止めるから」
「ったく、とんでもねぇバカだな、お前」
「よく言われる」

 タクマは嘘偽りのない笑顔を見せながら言った。その顔を見て、オニキスは全てを思い出した。

(そうだ、全部思い出した。どうして俺が、こんなバカを気にしていたのか、どうしてタクマに拘っていたのか。それは、羨ましかったからだ)
(そして、俺が欲しかったのは、最強の力でも、ましてやα一味でもなかった。本当に欲しかったのは、タクマやそのおまけみたいな、大勢でバカをやれる、自由な“野郎共”の友情だったんだ。それが羨ましくて俺は……)
「ったく、くだらねぇよ。クソが」

 オニキスは言いながらタクマの手を使って立ち上がり、目を見せずに手を降り払った。
 そして、道を塞いでいたメア達にわざと肩をぶつけ、9人に背中を向けた状態で足を止めた。

「俺は迷惑な存在だ!だからテメェの仲間になる気はこれっぽっちもねぇ!」

 背中を向けたまま、オニキスは叫ぶ。絶対に、表情は見せたくないから。止めたくても、涙が止まらないから。
 それを聞いたタクマは、そう言うだろうと予測していたかのように、大きく息を吸い込んだ。そして、小指を天に掲げた。

「じゃあ約束!やる事全部終わらせたら、コピーもクリムゾンも無しで、どっちが最強かガチンコ勝負だ!それまで、俺は誰にも負けない!だからオニキスも、勝ち続けてくれ!」

 タクマはオニキスの背中に向かって大声で約束した。いい加減な約束にならないよう、絶対忘れないよう、仲間に聞こえるように。そして、ワトソンにも聞こえるように。
 するとオニキスは、その約束にYESともNOとも答えず、右手の人差し指と中指を合わせて2回振った。そして最後に「ばーか」と罵倒し、影の中へと消えていった。

「全く、相変わらず素直じゃないですね」
「まあでも、もうアイツからは悪い気配を感じなくなったと思うなぁ。知らんけど」
「はぁ?リョーマ、知らねぇのにいい加減な事言ってんなよ!」
「何はともあれ、一件落着に変わりはない。暫くは……おろ?」

 騒がしい中、吾朗は優しい顔を崩さず言う。そして、彼らの中でメアだけが消えている事に気付いた。
 人数確認をしても、メアだけが居なかった。

「じぃじ?どうかしたん?」
「ああ、メア殿の姿が見当たらなくて」
「メアちゃんなら、タクマさんが約束した後“お花摘み行きたい”と」
「お花?あぁ、もしかしてそれはト──」
「はいダメー!おっさんは黙ってろ!」

 メアの行方を伝えたところ、デンジは納得したように手を叩き言おうとした。折角オブラートに包んでいたものが台無しになるため、アリーナからのチョップを食らい黙らされた。

「こらアリーナ、殴っちゃダメでしょうが!」
「ハハハ、やはり君達は本当に面白いよ」
「マジですか?いや~、照れちゃいますね。ね、タクマさん」
「んだな」

 タクマは、そっと剣を鞘に戻し、影に笑いかけた。もう居ないと分かっていても、そこにオニキスが居たような気がしたから。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い

平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。 かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。

異世界は流されるままに

椎井瑛弥
ファンタジー
 貴族の三男として生まれたレイは、成人を迎えた当日に意識を失い、目が覚めてみると剣と魔法のファンタジーの世界に生まれ変わっていたことに気づきます。ベタです。  日本で堅実な人生を送っていた彼は、無理をせずに一歩ずつ着実に歩みを進むつもりでしたが、なぜか思ってもみなかった方向に進むことばかり。ベタです。  しっかりと自分を持っているにも関わらず、なぜか思うようにならないレイの冒険譚、ここに開幕。  これを書いている人は縦書き派ですので、縦書きで読むことを推奨します。

異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた

りゅう
ファンタジー
 異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。  いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。  その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

王宮で汚職を告発したら逆に指名手配されて殺されかけたけど、たまたま出会ったメイドロボに転生者の技術力を借りて反撃します

有賀冬馬
ファンタジー
王国貴族ヘンリー・レンは大臣と宰相の汚職を告発したが、逆に濡れ衣を着せられてしまい、追われる身になってしまう。 妻は宰相側に寝返り、ヘンリーは女性不信になってしまう。 さらに差し向けられた追手によって左腕切断、毒、呪い状態という満身創痍で、命からがら雪山に逃げ込む。 そこで力尽き、倒れたヘンリーを助けたのは、奇妙なメイド型アンドロイドだった。 そのアンドロイドは、かつて大賢者と呼ばれた転生者の技術で作られたメイドロボだったのだ。 現代知識チートと魔法の融合技術で作られた義手を与えられたヘンリーが、独立勢力となって王国の悪を蹴散らしていく!

異世界でのんびり暮らしたい!?

日向墨虎
ファンタジー
前世は孫もいるおばちゃんが剣と魔法の異世界に転生した。しかも男の子。侯爵家の三男として成長していく。家族や周りの人たちが大好きでとても大切に思っている。家族も彼を溺愛している。なんにでも興味を持ち、改造したり創造したり、貴族社会の陰謀や事件に巻き込まれたりとやたらと忙しい。学校で仲間ができたり、冒険したりと本人はゆっくり暮らしたいのに・・・無理なのかなぁ?

転生調理令嬢は諦めることを知らない

eggy
ファンタジー
リュシドール子爵の長女オリアーヌは七歳のとき事故で両親を失い、自分は片足が不自由になった。 それでも残された生まれたばかりの弟ランベールを、一人で立派に育てよう、と決心する。 子爵家跡継ぎのランベールが成人するまで、親戚から暫定爵位継承の夫婦を領地領主邸に迎えることになった。 最初愛想のよかった夫婦は、次第に家乗っ取りに向けた行動を始める。 八歳でオリアーヌは、『調理』の加護を得る。食材に限り刃物なしで切断ができる。細かい調味料などを離れたところに瞬間移動させられる。その他、調理の腕が向上する能力だ。 それを「貴族に相応しくない」と断じて、子爵はオリアーヌを厨房で働かせることにした。 また夫婦は、自分の息子をランベールと入れ替える画策を始めた。 オリアーヌが十三歳になったとき、子爵は隣領の伯爵に加護の実験台としてランベールを売り渡してしまう。 同時にオリアーヌを子爵家から追放する、と宣言した。 それを機に、オリアーヌは弟を取り戻す旅に出る。まず最初に、隣町まで少なくとも二日以上かかる危険な魔獣の出る街道を、杖つきの徒歩で、武器も護衛もなしに、不眠で、歩ききらなければならない。 弟を取り戻すまで絶対諦めない、ド根性令嬢の冒険が始まる。  主人公が酷く虐げられる描写が苦手な方は、回避をお薦めします。そういう意味もあって、R15指定をしています。  追放令嬢ものに分類されるのでしょうが、追放後の展開はあまり類を見ないものになっていると思います。  2章立てになりますが、1章終盤から2章にかけては、「令嬢」のイメージがぶち壊されるかもしれません。不快に思われる方にはご容赦いただければと存じます。

処理中です...