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第8章 復讐の死神

第194話 禁じられし名

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 鋭い視線でギルドから見送られた後、タクマは誰も見ていなさそうな路地の壁に手を当て、何度も息を吐いた。
 心臓がバクバク動いて、視線の圧で息ができなくなりかけ、ストレスで死にそうになる。すると、偶然こちらの様子を見に来たデンジと再会した。しかも、まだ気分が優れない状態だったために心配された。

「おい大丈夫か?タクマ少年」
「は、はい。ちょっと、好きになれない状態だったもので上がっちゃいました」
「そうか、やっぱりか。手間をかけさせてすまなかった」
「やっぱり?じゃあまさか、そっちも?」

 やっぱりと言う言葉を聞いて、タクマは訊き返す。するとデンジは、何を言うわけでもなくゆっくりと頷いた。謁見するまでもなく門前払いされたと付け加えて。
 やはり“オニキス”が禁句である事は確かなようだ。しかし一体、何故オニキスが禁句なのだろうか。今となっては有名な賞金首、危険人物だというのに何故そうまでして語らせないのか。
 タクマは考えた。するとその時、ギルドから出てきた青年がこちらに声をかけてきた。

「おーい、ちょっといいですか?」
「おや?知り合いかい?」
「いえ、知りません」

 声をかけてきた男は、兵士のようなキリッとした服を着ていたが、戦いをするようには見えなかった。戦闘向きの服にしても、武器を持っていないのが決定的だった。別に筋肉がスゴいわけでもないため、デンジのような情報科の人間だろう。
 すると男は、辺りを警戒した後に二人へ近付き、こちらへと案内を始めた。

「この先に私の家があります。ここでは危険ですから、そこで茶を飲みながらお話を」
「は、はぁ。ご馳走になります」

 タクマとデンジは頭を下げ、男の後をついて行く。綺麗な民家のある側と別方向だ。

【男の家】
「ささ、どうぞどうぞ。ごゆっくり」
「どうも。ところで、あなたは一体?」
「申し遅れましたね。私はワトソン・ジャック、フォーデンの情報科幹部です。それで、台所を整理してるのが……」
「父のロックだ。よろしくな」

 男、もといワトソンとロックは笑顔で自己紹介をした。勿論、タクマとデンジも自己紹介をして、握手を交わした。

「それで、話というのは?」
「オニキスの事です。彼が一体、どうしたって言うんです?」
「実は、奴がメルサバを襲撃して、次はフォーデンを襲うと予告したんです」
「そんな……そう、ですか」

 正直に話すと、ワトソンは悲しそうに俯き、組んでいた両手を強く握りしめた。あまりにも気になり、タクマはついオニキスとの関係を訊いてしまった。
 やはりワトソンはショックだったのか動かず、何も喋らない。と思っていると、台所に居たロックがトレイの紅茶を出しながら代わりに教えた。

「ワトとオニは親友で、同じくフォーデン騎士団の同期だったんだ」
「親友?」
「はい。私と彼は、父が友人同士だった事もあって、その繋がりから自然と仲の良い親友の関係になったんです」

 ワトソンは声を震わせながら話す。

「誰よりも優しくて、動物にも好かれていて、喧嘩や争いを嫌っていて、昔から厚く信頼されていたんです」
「誰よりも優しい、ですか」

 タクマはワトソンの言葉を聞いて、心の中で驚いた。あの最強を狩る為なら手段を選ばない狼犬のようなアイツが、優しくて信頼される人間には思えなかったからだ。
 しかしワトソンの目に偽りは見えない。きっと何かあって、そこで変わったのだろう。タクマは続けて彼の話を聞いた。

「でもある日、親衛隊長のガラに両親を殺されたんです。それから彼は行方を晦まして……」
「殺された?どうして」
「反逆罪と言う名目でしたが、きっと違うでしょうね。ガラは気に入らない人間を迫害する卑しい奴でしたから、権力を使って己を正義に仕立て上げ、彼の信頼を地の底に落としたのでしょう」

 そう言っていると、ロックは棚に飾られていた写真立てを取り、それを二人に見せた。
 写真の中には、白く動きやすそうな服を纏い、肩を組む二人の男が写っていた。一人は変わらずワトソンと分かるが、もう一人は分からなかった。髪が短く、人の良さそうなイケメンに見える。
 しかしよく見てみると、雰囲気がどことなくオニキスに似ていた。シャキッとした青眼に、安心を覚える顔。何から何までオニキスとは違うが、何故だか同じ人であると確信できる。
 
「家族を何より愛して大事にしていたから、殺されたショックで自殺したんじゃないかと思っていたけど、生きていたのか……」
「ところでその、ガラって人はどうなったんです?流石に、権力にしても嘘だったら──」

 しかし、タクマが質問を最後まで言う前に、ロックが首を横に振った。

「オニの信頼が逆転し、彼は一躍英雄になってしまった。まあその後、妻と子供を残して死んだが、きっとオニは知らないだろうな」
「成程な。つまりは、信頼していた奴が実は反逆者で、裏切られたから二度と口にするな。と言うワケだな?」
「そう、なります」

 ワトソンは呟き、悲しそうに写真を見つめる。彼がそんな事するはずない、と小さく言って。
 そうしていると、ロックはデンジに手配書を持っているか訊き、手配書に目を通した。

「ロックさん、どうかしたんですか?」
「ああいや、ずっと前アコンダリアでコレと同じような奴を見た気がしてね」
「父さん、それは本当かい?」
「でも、酷く暴れていたし、アレはオニじゃなかったよ」
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