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第6章 恋する乙女に花束を

第147話 隠された恋の巣

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 タクマは、ナノと共に恐る恐るカーテンの中へと入った。
 そして、辺りを見回してみると、絵に描いたような怪しい占い屋のような空間が広がっていた。
 真ん中にはピンク色の水晶玉が置かれており、奥の棚には、魔女のようなオカルトチックな物が飾られている。

「な、何やここ……気味わるいで……」
「俺がついてる。何かあったら、すぐ後ろのカーテンから逃げるんだ」

 タクマはそう言い、念の為まだゲートが開いているかどうか確認した。
 すると嫌な予想が的中し、カーテンのかけられた入り口は、レンガ造りの壁に変化していた。つまり、閉じ込められてしまったのだ。

「こうなったら、嫌でも探索しないとダメみたいやな」
「だな。ナノ、とにかく俺から離れたらダメだぞ?」
「う、うん」

 怖くなったナノは、タクマの手を繋ぎ、占い部屋の探索を行った。
 まずは、気になっていた水晶玉を見てみた。確かに色はピンクがかっているが、他のオーブのようなどこか不気味な力は感じられなかった。となると、ただの水晶玉で間違いない。
 そして、棚の装飾品も探索してみた。
 魔女帽子を被った猫の置物に人の脚が入った鍋、保健室や理科室に置いてありそうな6分の1スケールの骨格標本など、きっとメアが好きそうな物ばかりが並んでいる。
 だが、特に怪しい様子はなかった。

「収穫なし、か」
「どうする?帰れんとなるとウチら……」
「しっ、何か来る!」

 微かに聞こえる物音を聞き取ったタクマは、急いで隠れられる場所を探した。
 すると、運の良いことに、隣の薄暗い部屋の中に、床に着くほど長いテーブルクロスのかけられたテーブルがあった。

「あそこだ」
「そこは嫌……」
「今はその要望には応えられない!ごめん!」

 幽霊でも居るかのような目でテーブルのある部屋を見るナノは、そう言ってもその場から離れようとはしなかった。
 タクマは仕方なく、ナノの目を隠し、急いでテーブルクロスの中に隠れた。
 するとその時、カツン、カツンとヒールのような音が聞こえてきた。

「来た」

 地味にではあるが、ヒラヒラした部分から、赤いヒールを履いた女の脚が見える。だが、まだよく見えない。
 恐る恐る、片目を出すようにしてテーブルクロスを上げて見る。すると、あの日見たフードの人物と同じものを纏っているのが見えた。

「やっぱりビンゴか。良ければ顔を拝ませてくれ……」

 タクマは彼、または彼女が素顔を晒してくれる事を祈った。すると、運が良いことに、その人物が仮面を外した。
 そして、その素顔を見て、タクマは驚いた。なんとその顔は、リオとそっくりだったのだ。

「そんな……」
「いや違うで。確かにあの顔、リオリオだけど、匂いが違う。いや、匂いがない」

 ナノは素顔を見てそう言った。確かに顔は瓜二つなくらい似ているが、昨日や一昨日、少なくとも彼女は赤いハイヒールを履いていなかった。
 更に、身長もメアと同じくらいだったのが、彼女はリオと比べて少し背が高い。
 ナノほど聴力や嗅覚に自信はないが、見た感じそう思える。

「それで、ユ……ジョンちゃん。エモノは見つかったかしら?」
『まずまずではありますけどね。着々と恋愛感情を奪えていますわ』
「あらそう。それなら良かったんだけど、例のオーブは今どこにあるの?」

 ここからは見えないが、女と話をしている。しかしこのどこかギャルじみた声、ピアとフォルテではないのは確かだが、聞いたことのある声をしている。
 一体何処だ?思い出せ、思い出すんだ。
 タクマは脳を働かせ、必死に聞き覚えのある声と合わせていった。
 するとその時、ヒールがこちらに向かってきた。

『あの長髪野郎!ヤツがアイツらに真実の眼を渡したせいで!また場所を変える羽目になった!』
「ひゃっ!まぁまぁ、そんなに怒らないの。場所変えるくらいどうって事ないでしょ?」
『違う!この場所は見つかる確率も低く、人も多い最高の一等地だったの!それをあの男、台無しに……』

 乱心なご様子の女は、テーブルの上に載っていた燭台などをガラガラと落とした。それにより、タクマから見て右側のクロスが上がってしまう。
 そして、それと同時にドサリと、何だか柔らかいものが落ちてくる音がした。

「大丈夫よ。困ったらお姉さんに任せなさい。第一、情報広めたのは私と、恋愛感情を奪ってる貴方の奴隷ちゃん達なんだから」
『そ、そうですわね。取り乱して申し訳ありません。アルル様』
(アルル……?)

 あの2人が言っていた首謀者の名、クィーンサキュバスのアルル。やはり絡んでいたようだ。
 だが今は出られない上に、彼女が何処に居るのかすら分からない。なればここは、誰もいなくなるまで様子を見るしかない。

「ウフフ、行ってらっしゃい。ジョン・ドゥさん」
『その名で呼ぶな。名前を思い出せないから仕方ないがな』

 そう言い、ジョンと呼ばれた女は、部屋を後にした。
 
「はぁ、わざわざα様が復活さしてくれたってのに、どうしてここまで人の恋愛感情に執着するんだろ。不思議な子」

 アルルは独り言を呟き、スタッとタクマの前に降りた。テーブルの上に居たようだ。
 するとその時、アルルはふぅ~と一息ついてから、靴先をタクマに向けた。

「さて、そろそろ出てきたらどう?可愛い可愛いネズミちゃん」
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