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第5章 白熱!アコンダリアトーナメント

第125話 約束?和食屋の意思

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「……あれ?ここは?」

 リュウヤは暗闇の中で目を覚まし、辺りを見回す。一体何処に迷い込んでしまったのだろうか。
 そうだ、自分の限界を過信し過ぎたせいで、オニキスに負けてここに来たのだ。
 ふと思い出す。

「やっぱ、死んだか。そうだよなぁ、あんなの食らったら普通、死ぬよな」

 もう過ぎてしまった事を嘆いても仕方ない。そう思ったリュウヤは、頭の後ろで手を組み、何もない空間に寝転んだ。
 やはり、星なんて無い。ただ、真っ黒な世界が広がっている。その一言でしか言い表せない。
 
『マスター……マスター……あなたはまだ死にません。いえ、死んではなりません』
「ん?」

 ふと、時計を見るようにして右腕を見てみると、ガントレットの手の甲に付けられた宝玉が光り輝いていた。

「うわぁ!な、なんだこれ!」
『マスター、起きるのです。まだ死んではおりません。早く、起きるのです』
「お前、本当に何者なんだ……?」
『マスター、あなたに仕える存在。やはりまだ、思い出せていないのですね』
「思い出すって……何の話だ?全然分からん」

 リュウヤは、語りかけてくる宝玉に、思い出せていない何かを訊く。しかし、宝玉は『あなた自身の力で思い出さない限り、意味はありません』と言うだけで、教えてくれなかった。
 一体何を思い出していないと言うのだろうか。何か忘れている事があるとでも?

「忘れ事、忘れ事……はっ!あーーーーーー!」


【病室】
「夜の出店の買い出し忘れてたぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 やっと思い出したリュウヤは、誰もいない病室の中で、大声をだして飛び起きる。
 そして、そのあまりの大きさに、待っていたタクマは驚いて後ろに転ぶ。

「や、やっと起きたか。大丈夫か?」
「え、ああ何とか。傷も……痛くない?」

 リュウヤは、攻撃を食らった筈の腹を触る。しかしそこに、オニキスと戦った時に負った傷は見当たらなかった。
 そう言えば、気絶する寸前、何かをかけられたような感覚があった。ただそれは、染みたものの、何処か痛みを和らげる、薬草のような香りがした。

「ごめんよタクマ。俺、約束果たせなかったわ。」
「何言ってんだ。オニキスが相手だったんだ、無事で帰るなんてのは難しい」
「だよな。アイツ、めちゃんこ強かったしな。ラウムちゃんが『化け物』って言うから、頭のここら辺に入れてたけど、化け物なんて可愛いもんじゃなかったぜ」

 リュウヤは、オニキスの強さを、自分が負けた事への反省、そしてタクマへのアドバイスとして語る。
 ただ、それは己を責めるものでもなく、オニキスへの恐怖を思い出して語るものでもなく、いつも日常的に話しをするような、リュウヤらしい気楽な話だった。
 当の本人が、負けたと言う結果を、あまり重く背負っていないからなのだろうか、それとも、心配させない為にあえて気楽を演じているのか、それは分からない。
 だが、聴いていて、すごく気持ちがいい。自分が既に戦ったんじゃないだろうかと思うくらい、なぜか心に響く。

「あんがとさん。俺、何か元気出た」

 タクマは、アドバイスを聴き、笑顔で礼を言った。でも、やっぱり怖い。リュウヤでさえも倒せなかった相手に、自分が敵うのかどうか、不安になってしまう。
 すると、その様子を見て、「タクマ。やっぱ怖い?」と、リュウヤに見抜かれてしまった。それに対し、タクマは正直に答えようとした。

「そりゃ、本物じゃないけど、相手はあの死神サマだ。下手したら鎌、いや剣で魂刈り取られるんだから。すげぇ怖いさ」
「だよなぁ、一筋縄で行く相手じゃねぇからなぁ」

 リュウヤは、頭の後ろで手を組み、ベッドに倒れ込んだ。その時、これ前にもやった事あるな、と言うデジャヴを感じた。
 そうだ、宝玉が喋った暗闇の中で、同じ動きをした。リュウヤは思い出す。

「なぁ、タクマ。一つ訊きたいんだけどさ、いいかな?」
「何?」
「俺のこの籠手?に付いてる玉さ、コイツが夢の中で、俺に『思い出せ』って語りかけてきたんだ、って話したらお前、笑う?」

 あの夢のように、ガントレットを顔の前に出して見つめながら、リュウヤは訊く。
 するとタクマは、フフッと笑いつつも「笑わない。信じるに決まってんじゃん」と答えた。

「嘘つけ笑ってんじゃねぇか!」

 つい吹き出した事を見逃さなかったリュウヤは、左肘をついて少し体を起き上がらせて言う。
 タクマは元気そうな彼を見て、また笑いつつ「メンゴメンゴ」と軽く謝った。
 
「けど、そうだろ?この世界は、日本ではありえない事が、ありえてもおかしくない世界なんだ。だから、あるって言うならある。ないって言うならないって、俺はそう信じる」
「そかそか。なら俺も、あるって言うならある。ないって言うなら、ないって信じるわ」

 普通ならありえない、と馬鹿にされるだろうな。なんて何処かで考えていたが、タクマが、そんな御伽噺まがいの話を信じてくれたお陰か、リュウヤは笑みを溢す。

「あっ、そうだ忘れてた!」

 すると、ふと和食屋の事を思い出したリュウヤは、立ち上がろうとした。しかしその瞬間、腰に痛みが走った。

「いだぁっ!」
「そうだった、リュウヤ。おタツさんからの伝言で、今日くらいは休めって。だからゆっくり寝てろ」
「あぁ。心はやりてぇってうるさいけど、体がこんなじゃ無理だ。すまねぇな、付き合わせちまって」
「いいって事よ。仇は俺が取る」
「おいおい、俺はまだ死んでねぇぜ?」

 リュウヤにツッコまれ、タクマはフフッと笑う。確かに死んではない。それはいい事だ。
 ただ、相手は一筋縄では行かない。タクマは覚悟を決める。


 一方、その頃。

【ノアの方舟 食事部屋】
「はぁ、疲れた」

 リュウヤを倒したオニキスは、テーブルに置かれていた骨つき肉を奪い取り、ガッツリと齧り付く。
 力を使い過ぎたせいで、腹が減って仕方がなかったのだ。
 
『おかえり、オニキス君。リュウヤ君との戦い、どうだったか聞かせてくれないか?』
「アイツか。アレ、本当に人間か?」

 オニキスは、野菜の籠からにんじんを取り出しながら訊く。するとαは、その質問に対して、うーん、と難しそうな唸り声を上げた。
 やはりあの男、尋常ではない何かがある。ガントレットを使った時、一瞬だけ姿を表した竜。一撃で相手を沈める力を持っていた筈のクリムゾン・クローを最大三発まで耐えた体。
 この技は、根性だけで片付けられるほどヤワな技ではない筈。じゃあ一体何なんだ?頭の中に沢山の謎が浮かび上がる。
 だが、分からないからこそ面白い。そして、追い込まれたからこそ楽しい戦いになった。

『確かに、彼の耐久力は恐ろしい。サレオスと言ったか、彼の剣をまともに食らって無事だった者は、そうそう居ないと聞く。それを、食らってもなお戦い続けられる。そう言った点から見て、彼はなかなかに分析のしがいがあると思わないかね?Z』
「えぇ、新たな研究対象を見つける事ができましタ。オニキス君の分析が終わってしまって、退屈な時間を過ごしていましたからネ」
「分析分析って、お前は女とか、そう言った欲はねぇのか?」

 オニキスは、煽るようにして言い、今度はリンゴに齧り付こうとする。すると、そのリンゴに、メスが突き刺さった。
 振り返ると、Zにメスを突き付けられた。

「オニキス君、少しは自分の立場を理解して欲しい物ですヨ?」
「それはこっちの台詞だ。俺はテメーの飼い犬になった覚えはない」
「何ヲ……?」
「やるか?久々に」

 Zとオニキスは、睨み合いながら武器に手をかける。
 一触即発の状態。そして、オニキスとZは、メス付きリンゴのメスが地面に刺さったのを合図に、両者とも武器を振った。
 何度も、メスと剣がぶつかり合う音が響き渡る。そして、大きな音を聞いたのか、寝ぼけたアルルが奥の扉から現れる。
 
「自分の実験結果が自分を超えるとは、全く思わなかっただろうな!」
「たわけガ!私がα様に選ばれた所以、その身を持って知るのでス!」
「わー、みんな頑張れ~」

 アルルは、止める事なく、ミイラになった男を抱き抱えながら応援する。
 すると、見るに耐えなくなったのか、ぶつかり合おうとする2人の間に、αが入った。

「あ、α様!」
「テメェ」

 勢いが強く、どちらも止まらない。そしてそのまま、αの手の平に、メスと剣が刺さった。
 しかし、αは力強い攻撃を受けたにも関わらず、『イテテ。君達、腕を上げたじゃないか』と、まるで蚊に刺されたかのような事を呟いた。だが、少しヒビの入った鎧の手からは、何か液体が流れ落ちている。
 それは、普通の人間ではありえない、赤ではない色をしていた。何色といえばいいのかは分からない。ただ一つ言えるのは、青や緑と言った人ではない存在の血ではない事だ。

『争い事は醜い者同士がするものだよ』
「い、いえ。私はただ……」
『君と女の子について、どんな関係があるのかは聞かない。けど、一々相手にするのは、はっきり言って馬鹿馬鹿しいよ』
「フッ。やっぱり、お前はαの犬っコロがお似合いだな」
『オニキス君もだよ。どうして仲良くしようとしないんだ?一匹狼も良いけど、この方舟に居るからには、みんな家族同様。仲良くしよう』

 αは、優しい父親のように、オニキスに語る。それに対しオニキスは、「へいへい」と適当に返事を返し、堂々と肉を持って、奥の扉を開けようとした。

『どこに行くんだい?』
「食後の散歩くらい、勝手に行っても良いだろ?」
『気をつけて……そうだオニキス君。この子の為にお使いを頼まれてくれないかな?』

 そう言って引き留めると、αはアルルを向かわせた。するとアルルは、背中から枯れかかった赤いバラを取り出し、オニキスに見せた。
 それを見て、オニキスは一瞬目を丸くする。

「行ってくれる?」
「……」
「ねぇ、聞いてる?」
「……」

 オニキスは何も答えない。ただじっと、赤いバラを見つめる。
 そして、その花から目を背けるように素早く顔を逸らした。

「悪い、他を当たれ。俺は散歩に行ってくる」
「そんな~。ちぇ、残念」
『彼が乗り気じゃないのなら、仕方がない。今度私が買ってきてあげよう。』
「マジで?α様ありがと~!」

 優しく言うαに、アルルは目をハートにして抱きつく。そして、真っ黒な鎧に顔をスリスリと擦り付けた。
 αは、そんな彼女に「やれやれ」と言いつつも、優しく動物を愛でるような手つきで撫でた。
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