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第5章 白熱!アコンダリアトーナメント

第124話 接戦!死神と剣を交えし侍

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『それでは皆様お待たせいたしました!準決勝第2回戦!これより開催いたします!』
「おっ、そろそろか。何か、すげー長かったなぁ」

 何の話をしているのかは言わないが、リュウヤは控え室に置かれていたコップで水を汲み、ゲン担ぎに一杯飲む。
 午前中の傷はもう既に癒えているのか、何処も痛む所はない。とにかく今は、オニキスを倒す。その事だけを考えよう。
 奴は化け物。確かに怪しい斬撃系の技を使っていた。アレがどのような原理で使われているのかは分からないが、あのアドバイスを参考にするのが先決だろう。

『まずは西コーナー!強運を持つ相手や最強の盾使いを、気合で乗り越えた異国の和食屋!最強狩りを倒し、真の最強狩りとなるのは彼なのか!リュウヤ選手!』
「うっし、死んでねぇけど、メアちゃんとラウムちゃんの仇、いっぺん食らわせてやるか!」

 観客がリュウヤの登場を祝う中、リュウヤは呟く。すると、東側の門が開き、その影の中から、オニキスが現れた。

『どんな相手の攻撃をも掻い潜り、一撃で仕留めてしまう最強狩り!目の前に立つ最強の和食屋を狩り、最強狩りの称号防衛なるか!最強狩りの死神、オニキス・キング!!』
「出たな死神!」
「お前……誰だ?」

 まさかの返答に、リュウヤはずっこける。確かにあまり面識はなかったけども、この期に及んで「誰?」なんて答えは想像してなかった。
 リュウヤはつい、オニキスに「リュウヤだ!剣崎龍弥!タクマの親友にして、おタツを妻に持つ和食屋見習いだ!」とツッコミを入れるように自己紹介した。するとオニキスは、思い出したのか「あぁ、トカゲ娘の相方か」と納得したように呟いた。
 その頃……

「へっくしゅん!」
「おタツさん、大丈夫ですか?」
「誰かが嫌な噂をしてるでありんす」

 まあまあそんな事はさておき、リュウヤは刀を抜いた。長篠一文字、織田信長の名にかけて、負けられない。だから頼む、力を貸してくれ。
 リュウヤは刀に祈る。すると、その刀、長篠一文字はその祈りに応えるように、キラリと、今にも沈みそうな夕焼けの陽を反射させた。
 
「ま、お前がどれくらい強いのか、見定めてやろう。来い」

 ゴングが鳴り響く。勿論、相手に先制を与える為か、オニキスは剣を取ろうとはしなかった。なら、お言葉に甘えて一撃を与えるまで。
 リュウヤは地面を蹴り、疾風のような速さでオニキスに一撃を与えた。与えた筈だった。しかし、よく見ると、刀はオニキスの剣に、それも鞘に入れられたままの剣に防がれていた。

「なっ!お前、一撃を与えるって約束じゃないか!」
「そんな事いつ言った?だが、この速さと剣技、本気を出しても良さそうだな」

 その時、オニキスは本物の最強に会った事を喜ぶような笑顔を見せた。その笑顔は、誰がどう見ても、絶対良い奴と思える笑顔をしていた。しかし、その背後には、今までに感じたことも無い、負の感情が化身として現れたような何かが居た。
 危機を感じたリュウヤは、オニキスを踏み台にして、緊急回避をした。

「ここからは俺のターンだ!」
「来やがれ!」

 オニキスは、リュウヤに言われる前から動き出し、リュウヤの細い刀に重い一撃を加えた。リュウヤはそれを防ぐが、あまりの攻撃の重さに、地面が凹んでしまった。
 
(コイツ、この一撃を喰らってもなお平気でいる……!?)
「悪いね、生憎親戚の農家の手伝いで重い物には耐性があってよぉ!」
「フッ、俺の一撃をはね返すとは、なかなかの腕前だな」

 一旦退却したオニキスは、もう一度剣を構える。今度こそ危ない攻撃が来る。そう予想したリュウヤは、初めから防御する体制へと入った。
 すると、オニキスはその予想通り、剣を片手に、軽々しくこちらへ近付いてきた。軽く、そして速い動き。ただ、その一撃一撃がさっきの攻撃のように重い。
 それでもリュウヤは、諦める事なく刀で弾き返した。まるでバネのように、オニキスの剣を弾き返す。しかし、リュウヤの腕が限界に達し、刀ごと弾き飛ばされてしまった。

「〈クリムゾン・クロー〉!」
(しまった!)

 地面に着く前に、リュウヤは龍の爪のような斬撃を食らってしまう。まるで、最強の龍に爪で腑を抉られるような激痛が走る。今にも気絶してしまいそうなくらい痛くて、そして辛い。
 だが、まだ踏ん張れる。踏ん張らなければならない。

「フッ、やっぱりコイツの最強も自称だったか。」
「……うぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!まだ、まだ終わらせねぇ!」
『な、なんと!オニキス選手の必殺技、クリムゾン・クローを食らったと言うのに、立ち上がったぁぁぁぁ!!』
「何っ!?」

 おかしい。普通ならあんな一撃を食らえばダウンするはず。いや、下手をすれば命を落としかねない。それなのに立ち上がるなんて。
 まさかの事態に、オニキスは一瞬驚く。しかし、いくら瞬きをしても、真実は変わらなかった。リュウヤは立っている。
 しかも、さっきより強くなったのか、今度は逆にリュウヤが攻めてきた。

「お前、何故無事でいられる!」
「そんな事俺が知るか!俺流料理剣!〈微塵斬り〉!」

 リュウヤは、己の俊敏さを極限まで引き出し、長い刀を鞭のように扱って攻撃を与える。
 速い。さっきまでのトロい動きが嘘かのように速い。α以外に押された事のなかった俺が押される?ありえない。
 だが、あり得ないからこそ面白い。最強はこうでなければならない。ずっと求めていた。楽しい。楽しい。楽しい!

「ならば俺も!食らえ!」

 オニキスは、右手から時空を歪める力を放ち、リュウヤの動きを強制的に止めた。
 リュウヤの体が、まるでゴムのおもちゃのようにぐにゃりと歪む。そして、その隙に、クリムゾン・クローで、歪んだリュウヤに斬りかかった。
 
「ぎゃぁぁぁぁぁ!!」

 これでもうリュウヤは復帰できない。出来るはずが無い。一度耐えられたのが例えまぐれだとしても、二度まぐれで助かる事などあり得ない。
 しかし、吹き飛ばされ、口から血を吐き、服を血で汚している状態でもなお、リュウヤは立ち上がった。

「確かに化け物だな、お前。こりゃ痛くて耐えられねぇわ」

 リュウヤは、口に溜まった血を吐き捨て、まるで何事もなかったかのように呟いた。
 いや、そんなはずは無い。2撃も食らって無事なはずが無い。
 だが、それ故にやり甲斐があると言う物。

「ならば仕方ない!〈クリムゾン・ストロン〉!」

 オニキスは、本気を出した。自分の右腕を斬り、そこから流れ出た血で、己の剣に力を注ぎ込む。
 リュウヤも、それを見て「痛そうだなぁ」と呟きつつ、あの時ゲットしたガントレットを見てみる。すると、ガントレットに嵌められた黄色の玉が光った。

「もしかしてこれって!」

 何かに気付いたリュウヤは、宝玉に人差し指と中指を同時に当て、自分の中にある力を注ぎ込んでみた。感覚的には分からないが、多分ガッ!と全身の筋肉を強く使ってみれば何とかなる。そんな適当な感じで力を注いでみた。
 するとその時、体に電流パワーのようなものが巡り出した。

「やっぱりそうか、アイツの力が使える!」
「終わったか。なら遠慮なく行くぞ!」

 オニキスは、赤黒い霧を纏った剣で、リュウヤに攻撃を仕掛けた。
 それに負けず、リュウヤも刀で応戦する。まるで全身が、雷のように速く動けるようになった気がする。
 
「〈雷電・ぶった斬り〉!」
「なんのこれしき!〈クリムゾン・スラッシュ〉!」

 リュウヤの技と、オニキスの技がぶつかり合う。それにより、辺りに凄まじい風が巻き起こる。それだけでなく、リュウヤはドラゴンのように、蹴りを放った。
 
「ぐっ!」
「さぁ、おまんの罪を数えるぜよ!」
「数えられるもんならなぁ!」

 そう言ってから、リュウヤは雷の如く素早く動いた。そして、その度にオニキスに斬撃を与えていった。
 しかし、だんだん限界が近付いてきたのか、一瞬意識が飛びそうになる。耐える事はできていたが、流石にもう、これ以上耐えるのは難しい。

「これで最後だ!〈長篠の舞〉!」
「そこだっ!」

 オニキスの声が聞こえたその時、同時に体の動きが止まってしまった。オニキスの時空を歪める力なのだろうか。まずい、ここで何かを食らえば負けてしまう。
 動け、動け!しかし、動かなかった。

「ぐはっ!」

 やっと動いた。しかし、今までの我慢が帰ってきたせいで、立ち上がれない。
 そうか、あの時奴が攻撃を仕掛けなかったのは、力を使わせる為、あえて。
 ガントレットの力がどんなものなのか、解明する前に負けてしまった。畜生。畜生。

「俺のクリムゾン・クローを耐えた事は褒めてやろう。だが、自分の限界を知らないからこうなった。学べ」

 オニキスに顔を覗き込まれる。顔から血を流している事から、自分がやった攻撃は無駄ではなかったようだ。だが、彼の言う通り、今回の敗因は自分の限界を過信し過ぎていたから。
 リュウヤは、反省しながら眠りについた。

「畜生……畜生……!」
(ごめんタクマ。やっぱり、コイツ強いわ)
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