上 下
116 / 295
第5章 白熱!アコンダリアトーナメント

第115話 ドクターストップ

しおりを挟む
 バン!
 食事をしていたタクマ達の耳に、物騒な銃声が響く。その音を聞いた五人は、何事かと立ち上がった。

「何の音でござる?かじのの演出でござるか?」
「カジノだったらここまで聞こえるような騒音は鳴らない。こいつぁハジキの音だ」
「はじき?おはじきでありんすか?」
「あぁごめん。ピストル、銃の事だよ。ホラ、昨日サイリョーって男が使ってたアレ」

 リュウヤが寿司を握りながら説明すると、おタツは「あぁ、リュウヤさんが向こう側から偶に持って来る“えあがん”とかのアレでありんすな」と理解した。
 流石は唯一日本に帰れる男。何でもアリなようだ。リュウヤはそう納得するおタツに、「けどこの音はエアガンなんて可愛らしいモンじゃない。マジモンだ」と言った。
 そう話していると、奥の方で大勢の人が騒いでいる声が聞こえてきた。

「今度は何ですか?」
「うるさくて食事に集中できないでござる」
「ん?あの人の群れ、こっちに来てないか?」

 タクマは、廊下の奥から流れ込んで来る人の波に異変を感じ、指を差す。だんだん、その騒がしい声が大きくなってきた。
 そして、その中から聞こえる、人一倍大きな声を聞いたタクマは、ホタテとタコ足の乗ったゲタ皿を置き、そちらの様子を見に行く。
 そこには、野次馬の波に逆らうブレイクと、野次馬を払い除けるメイジュの姿があった。しかも、ブレイクの背中には、女の子が居る。それも、耳と尻尾の付いた、見覚えのある姿だ。

「ブレイクさん!?ちょ、ちょっとすみません。道開けてください」
「お、タクマじゃねぇか!悪いけどコイツら退かしてくれ!急いでんだ!」
「わかりました!との事なので退けて!お願いします!」

 しかし、何度押し退けようとしても、野次馬達は増える一方で、なかなか退かす事は出来なかった。
 その様子を見ていた他の四人は、リュウヤ以外タクマの押し合いに加わり、リュウヤは「今から15分間、剣崎寿司無料だぜぇ!」と叫び、利益を犠牲に野次馬を引き付けた。
 だが、それでも剣崎の座席には限りがある為、引き付けられてもほんの数十人と、野次馬の量からしては少なかった。
 そんな時、タクマはある妙案が思い付いた。

「ノエル、ゴニョゴニョ……」
「成る程、分かりました!」

 タクマがこっそりとその旨を伝えると、ノエルは元気よくその場から離れ、遠くへ行ってしまった。

「た、タクマ殿!最強戦力であるノエル殿を抜かすとは何を考えているでござるか!」
「大丈夫だって吾郎爺。俺の知り合いには、すげぇ助っ人が居るんだ」

 タクマは野次馬を退けつつ吾郎に言う。

「何でもいいから頼む!早くしねぇとこの子が死ぬ!」
「「「うわぁぁぁぁぁぁぁ!!」」」

 残った3人は、力を振り絞って道を開けようとした。しかし、相手も反発しているせいか、なかなか押し切れない。
 もう駄目かもしれない。そう諦めかけた時だった。

「タクマさん!連れてきました!」

 ノエルの声だ。野次馬達がその声に一瞬振り返った時、皆一斉に顔が青ざめた。
 何故ならそこには、身長5m超えの規格外な背丈を持ったフランケンシュタインの怪物が、巨大な木槌を持って現れたからである。そう、武器屋のケンだ。

「「「「「ギャァァァァァァァ!!」」」」」

 邪魔ばかりしていた野次馬達は、武器を持って現れたケンを見て、悲鳴を上げながら逃げた。
 
「とにかくサンキューなケン!タクマ!」
「グッド……ラック……」

 ロード兄弟は、タクマ達に礼を言い、治療室側の廊下へ走り去っていく。
 更に、タクマ達も、ロード兄弟の後を着いて行った。何故なら、その背負っていた女の子が、ナノだったからである。
 

【治療室前】

 ナノを引き渡してから数分後、診断結果を知らせる為、絵に描いたような医者が扉から現れた。
 
「親父、あの子の容態は?」
「うーん。一応早めに見つけて連れて来れたから、命に別状はないけど、銃による傷は治すのが少し難しい。だから、このトーナメントが終わるまでは動けないかな」

 その話を聞いて、おタツは絶望の表情を浮かべる。“怪我をした彼女の出場はどうなるのか”と言う事だ。
 おタツは「じゃああの子の出場は……」と訊いた。
 すると医者は、その問いに対して、無言で首を横に振った。やはり無理なようだ。

「そんな……仲間を助ける為に頑張ってたのに……」
「流石に拙者達で彼女の仲間全員を助けるのは難しいでござるし、どうしたものか……」

 タクマは頭を抱えた。彼女が仕方なく棄権する事になったのは、こちらも回りくどい作戦でオーブを集めなくて済む事になる。しかし、タクマには誰かを見捨てると言う選択肢はなかった。
 いや、あったとしても絶対に選ばないだろう。
 
「先生、あの子に話があるので、ここで待ってていいですか?」
「目が覚めるまで居てもいいけど、時間かかるよ?」

 医者は眼鏡を掛け直しつつ言う。その問いに、タクマは「はい」と正直に答えた。そして、一緒に来てくれた3人にも、どうするか目で訊いた。
 
「残念ながら、拙者達はリュウヤ殿の手伝いをせねばならぬでござる」
「ウチも。リュウヤさんの手伝いで……」
「私はチェイPに呼ばれてるので……」
「そうか。じゃあ俺はここで待ってる。メアの事もあるし。」
「そうでござるな。では、頼むでござる」


 ──それからタクマは、人が居なくなった午前0時以降も待った。人は居らず、警備の黒服が魔導式ライトを持って不審者が居ないか探している時間帯だから多分それくらいは経っただろう。
 何だかウトウトしてきた。まぶたが重くなる。
 ちょっとくらい目を瞑っても……
 タクマは目を瞑った。そして、次に目を開けた時、辺りの小窓から朝日の光が差してきた。更に、その周りで小鳥が囀っている。

「ん?あっ、やべぇ寝ちまった」

 タクマはまるで某結果まですっ飛ばす能力を使われた時のような状況に一瞬驚くが、すぐに冷静になった。流石にこの世界に結果だけを残す力を持つ存在は居ない、と。
 いや違う。ナノちゃんだ。ナノちゃんの容態が今は一番大事だ。
 
「先生居るかな……」

 タクマは後で謝ろうと思い、こっそりと扉を開けた。しかし、そこに医者の姿はなかった。もう終わったから帰ってしまったようだ。
 すると、ドアが開いた音に気付いたのか、メアの隣のベッドで寝ていたナノが「何や?」とゆっくり起き上がった。

「おじゃまします。ナノちゃん、大丈夫?」
「アンタらが助けてくれたんやろ?お陰で何とかなったで。おおきに」

 ナノはタクマに頭を下げる。しかし、頭を上げてすぐ、涙を溢した。やはり、ドクターストップとはいえ、今までの頑張りがこんな形で終わったのは相当のショックだったようだ。
 タクマはナノの背中に手を当て、その気持ちを理解した。

「約束してもいい?」

 タクマは、治療室の壁にかけられた時計の方を見ながら、ナノに訊く。それに対し、ナノは「何や?」と訊く。

「もし俺達が勝ったら、君にお金をあげる。あの時君と交わした約束の逆の約束だ」
「けどアンタらは……」
「俺達の狙いは最初からオーブだけ。500億なんて、正直貰っても困っちゃうんだ」

 タクマはナノに顔を向け、冗談を言うように笑った。その顔を見て、ナノも面白い兄ちゃんやな。と笑顔を返した。

「だから、君も頑張ってね。俺は次の戦いに行くよ」
「いってらっしゃい」
「行ってきます」

 そう言い、タクマは手を振りつつ、部屋の外へ出た。

「アイツ、なかなかのいい男やないか」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】言いたいことがあるなら言ってみろ、と言われたので遠慮なく言ってみた

杜野秋人
ファンタジー
社交シーズン最後の大晩餐会と舞踏会。そのさなか、第三王子が突然、婚約者である伯爵家令嬢に婚約破棄を突き付けた。 なんでも、伯爵家令嬢が婚約者の地位を笠に着て、第三王子の寵愛する子爵家令嬢を虐めていたというのだ。 婚約者は否定するも、他にも次々と証言や証人が出てきて黙り込み俯いてしまう。 勝ち誇った王子は、最後にこう宣言した。 「そなたにも言い分はあろう。私は寛大だから弁明の機会をくれてやる。言いたいことがあるなら言ってみろ」 その一言が、自らの破滅を呼ぶことになるなど、この時彼はまだ気付いていなかった⸺! ◆例によって設定ナシの即興作品です。なので主人公の伯爵家令嬢以外に固有名詞はありません。頭カラッポにしてゆるっとお楽しみ下さい。 婚約破棄ものですが恋愛はありません。もちろん元サヤもナシです。 ◆全6話、約15000字程度でサラッと読めます。1日1話ずつ更新。 ◆この物語はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。 ◆9/29、HOTランキング入り!お読み頂きありがとうございます! 10/1、HOTランキング最高6位、人気ランキング11位、ファンタジーランキング1位!24h.pt瞬間最大11万4000pt!いずれも自己ベスト!ありがとうございます!

辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~

Lunaire
ファンタジー
壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。 辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。 しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。 他作品の詳細はこちら: 『転生特典:錬金術師スキルを習得しました!』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/906915890】 『テイマーのんびり生活!スライムと始めるVRMMOスローライフ』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/515916186】 『ゆるり冒険VR日和 ~のんびり異世界と現実のあいだで~』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/166917524】

婚約破棄と領地追放?分かりました、わたしがいなくなった後はせいぜい頑張ってくださいな

カド
ファンタジー
生活の基本から領地経営まで、ほぼ全てを魔石の力に頼ってる世界 魔石の浄化には三日三晩の時間が必要で、この領地ではそれを全部貴族令嬢の主人公が一人でこなしていた 「で、そのわたしを婚約破棄で領地追放なんですね? それじゃ出ていくから、せいぜいこれからは魔石も頑張って作ってくださいね!」 小さい頃から搾取され続けてきた主人公は 追放=自由と気付く 塔から出た途端、暴走する力に悩まされながらも、幼い時にもらった助言を元に中央の大教会へと向かう 一方で愛玩され続けてきた妹は、今まで通り好きなだけ魔石を使用していくが…… ◇◇◇ 親による虐待、明確なきょうだい間での差別の描写があります (『嫌なら読むな』ではなく、『辛い気持ちになりそうな方は無理せず、もし読んで下さる場合はお気をつけて……!』の意味です) ◇◇◇ ようやく一区切りへの目処がついてきました 拙いお話ですがお付き合いいただければ幸いです

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

王子は婚約破棄をし、令嬢は自害したそうです。

七辻ゆゆ
ファンタジー
「アリシア・レッドライア! おまえとの婚約を破棄する!」 公爵令嬢アリシアは王子の言葉に微笑んだ。「殿下、美しい夢をありがとうございました」そして己の胸にナイフを突き立てた。 血に染まったパーティ会場は、王子にとって一生忘れられない景色となった。冤罪によって婚約者を自害させた愚王として生きていくことになる。

【本編完結】さようなら、そしてどうかお幸せに ~彼女の選んだ決断

Hinaki
ファンタジー
16歳の侯爵令嬢エルネスティーネには結婚目前に控えた婚約者がいる。 23歳の公爵家当主ジークヴァルト。 年上の婚約者には気付けば幼いエルネスティーネよりも年齢も近く、彼女よりも女性らしい色香を纏った女友達が常にジークヴァルトの傍にいた。 ただの女友達だと彼は言う。 だが偶然エルネスティーネは知ってしまった。 彼らが友人ではなく想い合う関係である事を……。 また政略目的で結ばれたエルネスティーネを疎ましく思っていると、ジークヴァルトは恋人へ告げていた。 エルネスティーネとジークヴァルトの婚姻は王命。 覆す事は出来ない。 溝が深まりつつも結婚二日前に侯爵邸へ呼び出されたエルネスティーネ。 そこで彼女は彼の私室……寝室より聞こえてくるのは悍ましい獣にも似た二人の声。 二人がいた場所は二日後には夫婦となるであろうエルネスティーネとジークヴァルトの為の寝室。 これ見よがしに少し開け放たれた扉より垣間見える寝台で絡み合う二人の姿と勝ち誇る彼女の艶笑。 エルネスティーネは限界だった。 一晩悩んだ結果彼女の選んだ道は翌日愛するジークヴァルトへ晴れやかな笑顔で挨拶すると共にバルコニーより身を投げる事。 初めて愛した男を憎らしく思う以上に彼を心から愛していた。 だから愛する男の前で死を選ぶ。 永遠に私を忘れないで、でも愛する貴方には幸せになって欲しい。 矛盾した想いを抱え彼女は今――――。 長い間スランプ状態でしたが自分の中の性と生、人間と神、ずっと前からもやもやしていたものが一応の答えを導き出し、この物語を始める事にしました。 センシティブな所へ触れるかもしれません。 これはあくまで私の考え、思想なのでそこの所はどうかご容赦して下さいませ。

魔境に捨てられたけどめげずに生きていきます

ツバキ
ファンタジー
貴族の子供として産まれた主人公、五歳の時の魔力属性検査で魔力属性が無属性だと判明したそれを知った父親は主人公を魔境へ捨ててしまう どんどん更新していきます。 ちょっと、恨み描写などがあるので、R15にしました。

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

処理中です...