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第3章 食の国、大和の魔王

第43話 迷いの竹林、骸骨の兵士

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ガルキュイから南東まで戻った辺りにある大和竹林、またの名を『迷いの竹林』
その名の通り、秘境の地である大和へ続くと言われる竹林だ。
だが、それと同時に「入った者は絶対に帰って来られない」と言う噂まで立つ、謎に包まれた場所でもある。
確かに、普通ならこの辺りは森や林がある筈だ。だがそれが、不自然に竹林となっている。
それに、ミソ・シールもとい味噌汁や、アルゴの料理人が会得したうどんなど、二度と帰れない場所の食文化が何故メア達の暮らす世界に知れ渡っているのか。
タナカトス伝説関連だとか、異世界だから何でもあり的屁理屈だとしても、流石にこれはやりすぎにも程がある。ガバガバだ。

「にしても高いなぁ、頂点が全然見えないわ」
「ここがうどんの国へと続く“ちくりん”とやらか、地縛霊とか沢山居そうじゃな」

二人は、骸骨兵士狩りのクエストを忘れ、初めて見る竹林を見上げていた。
そんな中、ノエルは涙目になりながら、タクマの手を引く。
様子がおかしいノエルに、タクマは「どうした?怖いか?」と優しく声をかける。
しかし、ノエルは「怖くありませんっ!!」と何故かキレ、ネイルをするのには最適なほど綺麗な爪で、タクマを引っ掻き回した。

「分かった!ごめんて!そんなに怒らないで!」

オニキスの猫娘発言で、ずっと「ノエルの何処に猫要素があるのか」と疑問に思っていたが、今なら1000ぱー……いや、100%理解できる。
まあ、それはそれとして、確かに不自然な竹林であるせいか、見れば見るほど、竹林の訳がわからない謎に恐怖心を覚えてしまう。ノエルはこれを見て……?
そこでタクマは念の為、メアに「何か感じるか?」と訊く。

「むむむ……幽霊ではないが、呪いに似た力があるようじゃ」
「呪い?もしかして……」

それを聞いたタクマは先日、ノエルが蒼のオーブから恐ろしい気を感じて怯えていた事を思い出し、メアにその時の話をした。

「む?蒼のオーブが呪詛を唱えていたじゃと?」
「あぁ、ノエルがウォルの脱衣所で感じたんだ」

そして、タクマは鞄から、その呪詛が聞こえた蒼のオーブを取り出す。
メアはそこに手を当て、その気が同じものか調べた。

「むむ……むむむ……むむむむむ……」
「どうだ?」
「……微妙に違いはあるが、この気配はオーブと見て間違いない」
「そうか、とにかく入って確かめよう」

そう言って、三人はタクマを筆頭にして、竹林の奥へと進んでいった。


【大和竹林】
「のうタクマ、一つ訊いて良いか?」
「……何だ?」

後ろから声をかけるメアに、タクマは遅れて返事をする。

「なら訊くが、タクマ……」
「迷ったな?」

メアの鋭い発言に、タクマは一瞬ビクッと体を震えさせる。
そう、図星である。タクマ達は完全に迷ってしまったのだ。
それを聞いたノエルは、泣き喚き、タクマをぽかぽかと叩く。

「何普通に迷ってるんですか!私達ここで老いて死ぬんですか!!」
「痛い痛いっ!落ち着けって!ごめん!ごめんって!」

そうもみくちゃになっていると、どこからともなく、何かが近づいてくる音がしてきた。
それだけでなく、「ガシャガシャ」と鎧が擦れる音も聞こえてくる。

「そんな事しておる場合ではないぞ、霊の気を感じる」

そう言って、メアは投げナイフを取り出して構えた。
タクマとノエルも、武器を取り出して互いに背を向け合い、どこから現れても対策出来るように構える。

「ごめん、俺が迷ったばかりに」
「私こそすみません、取り乱してつい……」

特に嫌な予感的なものはしないが、二人は背を向けながら謝罪しあう。
するとその時、急にタクマの方角から足軽兵のような魔物が飛び出してきた。
紅色の甲冑に笠のような兜、所々錆びのある刀、理科室とかにありそうなくらい綺麗な骨。
間違いない、コイツこそが『骸骨兵士』だろう。

「はっ!やっ!」

タクマは、まず相手の動きを見て、その中の隙を見つけ出すためにも、骸骨兵士の斬撃を避けた。
相手は一体、隙を突いた後にメアとノエルの魔法を使えば倒せるだろうか?
そう考えながら、タクマは骸骨兵士の攻撃パターンを読み取ろうとする。

(複雑だが、確実に俺を一方的に狙っているな……)
「メア!まずは後ろから投げナイフで鎧の紐を切ってくれ!」
「了解じゃ!どりゃりゃりゃりゃりゃ!!!」

メアはタクマに言われた通り、骸骨兵士が纏う鎧の紐を狙って投げナイフを投げた。
そして、その投げナイフは胴体の紐を切り、骸骨兵士の鎧が剥がれ落ちる。

「しめた!〈閃の剣〉!!」

タクマは叫びながら、骸骨兵士の腰椎に剣を入れた。
だが、タクマの入れた剣は真っ二つにすることはなく、ただ「ガン!」と鋼鉄にぶつかったような音を出す。

「何故だ、ロウじゃないのか!?」

タクマは焦り、骸骨兵士をとにかく斬った。
しかし、何度剣を当てても、骸骨兵士からは「ガン!ガン!」という音しか出てこない。
そう、さっき〈閃の剣〉が効かなかったのは、ロウの有無じゃない。
そもそもコイツの骨が鋼鉄のように硬いから、効かなかったのだ。
しかし、それに気付いたと同時に、タクマは骸骨兵士の回し蹴りをもろにくらってしまった。

「タクマさんっ!!」
「ぐっ……まだまだ……」

タクマは、蹴られた肩の痛みをぐっと堪えながら立ち上がる。
だが、剣を構えると同時に肩へ激痛が走る。まるで岩を投げつけられた後のような激痛、今にも腕が肩から崩れ落ちてしまうのではないかと思うくらい痛い。

「無理するでない!《メガ・ドゥンケル》!」

タクマにトドメを刺そうとする骸骨兵士を引き付けるために、メアは《メガ・ドゥンケル》を放った。
しかし、骸骨兵士はすぐにメアの方へ向き、闇の気弾を真っ二つに斬ってしまった。
そして、二つになった気弾はそのまま左右に離れ、爆発する。

「魔法を……斬ったじゃと……!?」

メアが驚いていると、骸骨兵士は自分の刀に赤い霧のような物を吹きかける。
すると、次第にその刀はぽぉっと赤い光を放ち始め、その刀をタクマに向けて振った。

「危っ!!……!?」

タクマは激痛であまり言う事を聞かない体を無理やり動かして避ける。
そして、ふと奴の方を見ると、骸骨兵士が空振った剣が地面に大きな切れ込みを入れていた。
もしあんなのを食らっていれば俺は……
タクマの中に恐ろしく無惨なビジョンが浮かび上がる。
しかしそれだけではなく、タクマはあの赤い霧のような物をふと思い出した。
そう、もしアレが魔法ならコピーが使える、と。

「一か八か!《コピー》!」

タクマの勘は当たり、地面から現れた光が魔法陣を形成した。
『己が魔力を相棒に捧げし時、汝は一時的な力の増幅を得るだろう。叫べ、我が名はストロン』、魔法陣にはそう書かれている。
力の増幅、バ【規制】ルトみたいなバフ魔法か。

「ノエル!コイツで好きにやってくれ!《コピー・ストロン》!」

タクマはノエルに向けて、骸骨兵士の出した霧と同じ物を放った。
それをノエルは、杖を捨てて自分の拳に纏わせ、骸骨兵士の前でどっしりと構える。

「何を考えておるのじゃ、奴に任せて……」
「俺の考えが正しければ、これでアイツはお陀仏よ」

タクマは痛めた肩を押さえながら、集中するノエルをただ見つめる。
そして、そこに骸骨兵士が斬りかかろうとした時、ノエルは眼を開けて「どっせい!」と叫びながら、骸骨兵士の肋骨に正拳突きを撃ち放った。
それにより、骸骨兵士の骨は全てバラバラになり、ノエルの手元に骸骨兵士のドクロが落ちてきた。

「よっと、これで1万ゲットですね!」
「だな、にしてもこんなのをあと9体ねぇ……」
「じゃが、迷ってしまっていてはクエストどころではないぞ?」
「……だな」

タクマはメアの肩を借りながら立ち上がり、先へ進もうとする。
するとその時、骸骨兵士のドクロが勝手に音を立て始め、塵になってしまった。

「あ、崩れちゃいました……」
「待て、何か来るぞ」

メアは何かに気付き振り向く。
すると、骸骨兵士が最後に出した音を聞いたのか、竹林の奥から9体の骸骨兵士が現れた。
タクマ達は、死んだ目をしながらその兵士達をじいっと見つめる。

「増えちゃいましたね」
「じゃな、やばいのがやばいのを大量に呼び出したな」
「流石にアレは無理がある」

そう言い合い、三人は同じ方向へと走った。
無理無理無理無理、流石に一体でもキツかった相手を9体同時は絶対無理だって!
タクマは必死の思いで逃げた。
しかし、それでも骸骨兵士は真っ直ぐに追いかけてくる。

「誰かぁぁぁ!!!オタスケェェェ!!」

すると、ボコッ!と言う音と共に、地面がなくなってしまった。
そう、落とし穴に嵌ってしまったのだ。

「うわっ!何だこれ!!」
「誰じゃ、こんな所に落とし穴作った奴は!」

だが、落とし穴に落ちたからか、骸骨兵士達の「ガシャガシャ」としたやかましい音が小さくなっていく。
しかし、間一髪だったと思うも束の間、穴の側面から煙が発生した。

「ごほっ!がはっ!何だこれ!」
「これは……催眠ガス……!?」

ノエルはそう言ってすぐ、催眠ガスによって倒れてしまった。
そして、その数秒後にもメアが倒れてしまう。

「くそ……誰か……」

そう言いながら、タクマも倒れてしまった。
そんな中、誰かがその穴の中を覗き込んで何かを言っている。

「おっ、コイツはデッケェイノブタが取れたなぁ!」
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