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第3章 食の国、大和の魔王

第41話 恐怖の大首領

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一方その頃、αof S達もまた次の活動を始めようと動いている。
だが、その首領的存在であるαは、何故かトランプタワーを作っていた。

「申し訳ございませんα様、今回の作戦は失敗に終わってしまいましタ」

そこに、Dr.Zがαからの罰覚悟で頭を下げる。
蒼のオーブを用いて砂漠を寒くさせ、それによってスコルピオを急成長、そしてすぐにゴーレムでウォルを破壊する作戦。
オーブといい、これほどまでα様からの支援もあった大作戦だ。
しかし、それが失敗に終わった上に、タクマ館にオーブを奪われ、なんなら起死回生に使える筈だったトーテムまで自滅した。
そんな事を聞けば、死よりも恐ろしい罰を与えられるに違いない。
そう心の中で思いながら、ビクビクしているZに対し、αはゆっくりと「Dr.Z」と名を呼んだ。

「は、ハイ……」

Zは今にも消え入りそうな声で返事をし、これから来るであろう罰を全て受け入れる覚悟を決めていた。

「頭を上げよ」
「エ……?」
「いいから早く頭を上げよ」

Zはαに言われた通りに、黙ってゆっくりと硬くなった身体を起こした。
しかし、それでもまだ硬直しているZに対し、αは「そう硬くなるな」と言う。

「このトランプタワーを見たまえ」
「トランプタワー……ですカ?」
「我ながら、歪んだところなど一切ない、真っ直ぐな忠誠心に似た素晴らしき塔だ。君もそう思わないかね?」
「は、はァ……」

急にトランプタワーを見るように促されたZは、何の意図があるのかは分からないが、αの話にしっかりと相槌を打ちながら聴いた。
きっとα様の意味深な話、絶対にタメになる話だろう。そう信じて、Zは聴くことに集中する。

「しかしそんな真っ直ぐな塔も、欠陥の一つや二つあると言った理由で一々取り除いてしまえば、全てを失う羽目になりかねない。こんな風にな」

αは一度話すのをやめ、タワーの1番下を支えるカードを二枚抜き取った。
勿論、それによって立派なトランプタワーは崩れ落ちる。
そして、またさっきの話を続けた。

「私は何があろうと切り札を大事にする。だから君の失敗一つに怒鳴り散らし、すぐ殺すほど器は小さくないから安心したまえ」

αはそう優しめな声で言いながら、トランプタワーから抜き取ったカードを、Zの手にそっと持たせる。
Zがそのトランプを裏返すと、そこにはjokerと書かれていた。
ジョーカーは万能の切り札、つまりそれを渡された私は大事にされている。
そう解釈をし、Zが体の力を緩めて喜んでいると、αはもう一枚のカードを、Zに向けてギリギリで外れるように投げた。

「ヒッ!」
「そろそろ出てきたらどうだね、死神くん」

αは、Zの影に語りかける。
すると、どこからともなく低い笑い声が聞こえてきた。

「俺の得意とする〈影隠れ〉を見破るとは、なかなかやるじゃねぇか」
「その声、いつの間二!?」
「お前がいつまで経ってもアジトの場所を教えないんでねぇ、勝手につけさせてもらった」

すると、Zの影が勝手に伸び出し、そこからオニキスが現れた。

「〈影隠れ〉とは、実に面白い。まるで忍者だね、気に入った。」

その称賛に対し、オニキスはわざと大袈裟に「有難きお言葉」と言い、深々とお辞儀をした。
そして、体を上げると同時に、足下に突き刺さったカードを拾い上げる。

「クラブのキング、と言うことは初めから分かってたな?」
「さぁ、どうだろうね」

αはオニキスの問いに曖昧な答えを返しながら、玉座に戻ろうとしたその時、αの首元へ向けてカードが飛んできた。
しかし、αはそれが予め来るのを予測していたのか、謎の空間から出現させたレイピアで、飛んでくるカードを突き刺す。

「オニキス君!貴様、α様に対して何たる無礼ヲっ!!いい加減調子に乗るのもやめたまエ!」

あまりにも無礼な態度を取るオニキスに対し、Zはオニキスの胸ぐらを掴み上げて怒鳴った。

「大の首領様が、呑気にトランプタワーなんか作って偉そうにしてんだ、だから本当にやり手か試した。ただそれだけだ」
「貴様、どこまでα様を愚弄するか……」

Zの怒りは爆発寸前に達し、ポケットの中に入ったメスを持とうとする。
するとその時、Zの肩を何者かが叩いてきた。
Zが振り向くと、そこにはさっきまで玉座の前に居たはずのαが居た。

「まぁまぁ、人の個性に一々腹を立てるのはナンセンスだよ。Dr.Z」
「ですがコイツは……」
「そうカッとなるな、私は嫌な気をしていない。それでいいだろう?」

αは、優しめな口調でそうZを宥めた。
それに従い、Zは嫌々ではあるが、オニキスの胸ぐらから手を解く。

「だがZの話にも一理ある、私の力を信用していないみたいだね」
「俺は弱い奴に興味はねぇからな。だが、一概にお前を弱いと決めつけた訳じゃあねぇ」

オニキスは服を直しながら言った後、剣を抜き、剣先をαに向ける。
そして「だから、このオレと一戦交えてもらおう」と、勝負を持ちかけた。
それに対し、αは「やめといた方が良いぞ?」と、忠告する。
しかし、オニキスは黙って剣を構えるだけだった。やる気である。

「そんな忠告はいらん!全力で行かせてもらうっ!!」

オニキスは、その忠告を無視して襲い掛かり、αに力強く斬りかかった。
ガン!と、まるで鉄にぶつかったような音がする。

「やったか?」

だが、オニキスの目の前にαの姿は無かった。

「ふぅ、君の欠点が分かった」

その声がする方向にオニキスが振り向くと、その後ろにはαが立っていた。
何故だ、さっき手応えまであった筈。なのに効いていない!?
それどころか、最初からこの戦いに自分が勝つと確信しているかのような落ち着いた発言。
オニキスは焦りと、自分を舐めているようなαのバトルスタイルに怒りを感じながら、即座に回転斬りを放った。

「舐めんな!」
「一つ、一撃一撃にフルパワーを与えている」

剣先のある方向から声がする。
まさかと思い剣の方を見てみると、その剣の上に、αが立っていた。

「ふざけるなぁ!!」
「二つ、怒り任せに戦うが故に、冷静な判断力が欠落する」

怒りが爆発したオニキスは、素早い斬撃でαを襲った。
しかし、αはその攻撃を予め予測しているのか、フィギュアスケートのような華麗な動きで全て避ける。

「このっ!このっ!何故避けられるっ!!」
「怒りに身を任せるような戦いでは、例え最強の死神君でも、この完璧な私には敵わない」

そう言うと、αはオニキスの隙をついて、蹴りを1発入れた。
それによって、オニキスは玉座の前まで飛ばされる。

「これで満足したかね?」
「まだまだ……オレはやれ……!?」

オニキスは、身体を震えさせながらも、立ち上がる。
しかし、無理矢理にでも諦めさせる為か、瞬間移動したαが、オニキスの首元ギリギリにキングの刺さったレイピアを突きつけた。

「チェックメイト。これ以上は……分かるな?」

そう言われ、オニキスは無言で剣を鞘にしまい、倒れ込んだ。
身体が動かない、しかも何だあの狂気じみたオーラ……
オレは今まで数多くの最強を狩った。死や敵に対する恐怖心なんて言った感情は消えている筈。
なのに、アイツは違う。
あの時Zが放っていた威圧より、圧倒的に強い。
怖い、何故だか自らの手で殺した筈の恐怖の感情が蘇る……

「最強狩りの目的は聞かないが、あまり己が力を過信すると、いつか身を滅ぼすよ」
「あ……」
「それと、私は別にいいのだけど、口には気を付けたまえ。Zが黙っちゃいない」

αは、今まで味わった事のない「自分が追い込まれた」と言う状況に理解できずに、ただ倒れ込むオニキスに対して言った。
すると、その言葉に対して更なる恐怖を感じたオニキスは口を押さえ「ウッ……ウッ……」と、今にも吐き出しそうな声を出した。

「吐きたいなら好きなだけ吐きたまえ、処理くらいは後でしてやる」

αはオニキスの肩を二度さすりながら「Zとは仲良くするのだぞ、死神君」と言い残し、また何処かへと消えた。
そして、それと同時にだんだん身体にのしかかっていた、重い恐怖が消えていった。

(特異体質持ちの彼が、吐き気を催す程の恐怖を抱く気……)
(しかし、これで私の実験も進ム……)
「クックック、これからも宜しく頼みますヨ、オニキス君」
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