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第2章 不思議な僧侶と世紀末的砂けむり事件

第23話 力不足と危機的クエスト

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【ヴァルガンナ跡 休憩所】
「戻ったか。それで、ゴーレムはどうなった?」

 休憩所で待っていたアルゴ王は、帰ってきたタクマ達に訊ねる。

「とりあえず危機は去りました。ですが、逃走したのでまだ安心だとは言えません……」

 ノエルは残念そうにしながらも、キョーハイで起きた事をを全て話した。

「そうか。おや?それよりタクマ君、何だか難しい顔をしておるが、どうかしたかい?相談なら乗るぞ」
「なんていうか、ここままで良いのかなって」

 タクマは、王の心配に対しそう答えた。
 そして、メアもノエルも、顔を俯かせた。

「なるほどな。とりあえず、お茶でも飲んで話をしよう」


「それで、一体何を迷っているんだい?」

 王は、ティーカップに紅茶を入れながら訊く。

「あのゴーレム、俺たちよりも遥かに強かった。それに、オーブ集めの使命を持っている俺には、必ずアイツよりも大きな敵が現れる筈なんです」
「成る程。ゴーレムすら倒せないようじゃ、オーブ集めなんか到底無理な話だ。と言う訳だな?」
「ちょっとパパ、何てこと言うのじゃ!タクマはこの通り、必死で考えておるのじゃぞ!」

 王の言い方に腹を立てたメアは、テーブルを強く叩き、今にも殴りかかる勢いで王に怒鳴った。
 それに驚いたノエルは、一瞬猫のようにビクリとしたが、すぐにメアを落ち着かせに行った。

「メア、気持ちは分かるけど、王の言ってることは正解だ。今の俺じゃ、魔王討伐どころか、その過程のオーブ集めすらできない」
「タクマさん……」
「だから俺、強くなりたいんです!その使命を全うする為にも、ゴーレムの脅威からウォルの人々を救う為にも!だからお願いします!強くなる方法を教えてください!

 タクマは力強く答え、王に頭を下げた。すると、王はそんなタクマを見てため息を吐き、そっと席を立った。
 そして、カーテンを開け、窓を開くと「そんな方法はない」と答えを返した。

「えっ……?」
「王様、私も知りたいです。馬鹿力だけじゃ駄目だから、私もっ」
「妾からも頼む。修行とか、そんな感じのは無いのか?」

 ノエルもメアも、王に向かって頼み込んだ。
 すると王は、メアの言った“修行”と言う言葉に反応し、「そうか!」と閃いた。

「力になれるかどうかは分からぬが、修行なら我が国の近衛兵長であるロード兄弟を尋ねるといい」
「ロード兄弟?それは一体……」

 タクマは訊いた。すると王は、2人がどんな人物なのか、簡潔に説明した。

「兄のブレイクはアルゴ一の剣使い、弟のメイジュは数多の魔法を得意とする魔術師。君達の修行にはうってつけの兄弟だよ」
「ぷっ、くくっ」

 するとその時、メアが急に笑いを堪え出した。

「どうしたメア?その兄弟に何か心当たりあるのか?」

 一体何がそんなにツボにハマったのか分からないが、タクマはメアの背中を撫でつつ訊いた。

「……テガミ……フフッ」
「手紙?」

 タクマが訊くと、メアは笑いを堪えながら二枚の手紙を出した。
 そこには、謎のポエムなどが書かれていた。内容を要約すれば、どちらもメアへのラブレターのようだが、見ていてもこっちが恥ずかしくなるほど、痛々しい。
 しかも、送り主はブレイクとメイジュ、あの兄弟だった。

「うわぁ……これがアルゴ一ですか……」
「うん……何の感想すら出てこないわ……」
「どれどれ、見せてくれ」

 王やノエルも、その手紙を手に取り読んだ。
 そして王は、それを読み終えた後、笑顔でそれを握り潰した。

「あの兄弟には、後でキツく言っておくとして、2人の腕に関しては折り紙付きだから安心してくれ」
「は、はい。相談に乗ってくれてありがとうございました」
「じゃあ、2人に会ったら王の大目玉覚悟しておけ、と伝えておいてくれ」
「分かりました。メアさんも、笑ってないですぐにアルゴへ行きますよ」

 そうして、タクマ達はアルゴへ向けて出発した。

「可愛い子には旅をさせよ、か。ま、タクマ君なら安心だろう」

【アルゴ城前】

「とは言ったものの、そんな優秀ブラザーズ本当に居るのか?」

 タクマは、城下町を歩きながら探索する。だが、何処を見ても普通の兵士しか見えない。
 こんな時間から酒を呑んでいたり、八百屋のおっさんと世間話をしていたりと、兵長っぽい人は見当たらない。
 タクマは何か知っていそうな兵士に聞き込みをする事にした。
 しかし……

「ロード兄弟?……すまない、それについては本人らから口止めされてんだ」
「最強狩りで噂のアイツがアルゴに現れるのを防ぐ為、身を隠すとかって書き置きを兵長室に置いてったきりだ」
「どこに行ったかなんて、話したら意味ないから知らないよ」

 タクマ達は聴き込みをしたが、城下の兵士達は皆言葉を濁らすか、身を隠している、そして口を揃えて「知らない」と言うだけで、全然居場所は掴めなかった。
 そんな事を続けているうちに、時間は流れ……

「はぁ、昼までロード兄弟の情報探ったけど、知らない、か」

 ため息をつきながら、タクマは中央噴水前のベンチに座り、ホットドッグにかじりついた。
 最強狩りの死神と恐れられるオニキス、その名の通り“最強”と名乗る者は善だろうと悪だろうと倒す神出鬼没のお尋ね者。
 確かにアルゴ一の兵士ならば、狙われる可能性は大いにある。
 それに相手は二人、もし自分がオニキスならば、これほど面白そうな闘い、黙ってはいないだろう。

「にしても、一体どこに身を隠してるんでしょう」

 ノエルもクロワッサンをちまちまと食べつつ考える。
 するとその時、タクマ達の目の前に矢が飛んできた。

「な、何奴じゃっ!!」
「待て、なんか付いてるぞ」

 タクマは矢に付いていた紙を取り、それをベンチに広げた。
 そこには、雑ではあるが、星印付きの地図のようなものが書かれていた。
 タクマは、アルゴ王から受け取った地図と照合してどの辺りの地図なのか調べた。
 位置的にはアルゴの南、アルメラ海付近の砂浜に星印がある。

「まさか、ここにロード兄弟が居るとでも……?」
「だったらいいけど。とにかく、ここ行きの馬車を見つけよう」


【ギルド 受付】

「ごめんね、その馬車なんだけど……」

 そう言い、受付のお姉さんはギルド停留所の馬車を指差す。
 そこにあった馬車は、酷く壊れていた。
 しかも不幸な事に、材質なども平原行きや砂漠行きと違うため、修理・再発には時間がいるとの事。遅くても一週間は再発不可能との事だった。

「何故、こんなボロボロになって帰って来たのじゃ?」
「それが、アルメラ海への道に火竜が住み着いてたらしくて、しかも輸送車としての運行時だったからなす術も無く」

 それを聴き、タクマは受付の隣にデカデカと貼られている火竜討伐クエストの貼り紙を見た。
 ロード兄弟からの修行も大事だが、それにはその火竜討伐が必要となる。
 かといってウォルのゴーレムを放ったらかしにすると言う訳にも行かない。

「ねぇボウヤ、この件大変だとお・も・わ・な・い?」

 そう言いながら、お姉さんは大きな胸を強調させ、タクマに顔を近付けた。

「いやでも、私達には無理が……」

 ノエルが断ろうとした時、隣でドンッ!と何かを叩きつけるような音がした。

「確かに大変だ。だから目のやり場に困るから……」

 その正体は、お姉さんの暴走に負けたタクマだった。

「何サラッと受注しようとしとんじゃワレェ!」
「ギャッ!!」

 ノエルはタクマに対してムーンサルトキックを放ち、タクマはそのまま倒れ込んでしまった。

「全く、ゴーレムがいつ現れるかも分からぬと言うのに、お人好しも良い所じゃ」
「でも火竜がどれほど強いか分からないけど、修行の一環にはなるかと……」

 タクマの発言に、メアは「うーん……」と唸りながら考えた。

「仕方がない。修行せずまたゴーレムと対峙しても前と同じじゃからな。今回はタクマの案に乗ろう」
「それじゃあ、コイツお願いします」

 そう言って、タクマは【火竜討伐】のクエスト用紙を出した。
 そして、それと同時にアルゴ領循環馬車のアナウンスが流れる。

「それでは、頑張ってきてくださーい!」

 そうして、タクマ達は馬車に乗りアルメラ海付近の火竜討伐へ向かったのであった。

 ──── 一方その頃、キョーハイ砂漠の名もなき遺跡。
 ここに、次の“最強”を求めてオニキスが歩いていた。

「君だネ、最強狩りの死神って言うのハ」
「貴様、何者だ」

 オニキスは剣を引き抜き、後ろから声をかけてきたDr.Zの方を向いて構えた。
 Zは思わず後ろに後退してしまうが、すぐに両手を上げ怖い怖いと、ジェスチャーをする。

「まあまあ、そう攻撃的にならないでくださイ。私はDr.Z、アナタを導いてくださるお方の使イ。とでも申しましょうカ」
「全く、ただのイカれた宗教信者か。俺みたいな神に背いてばっかのはぐれ者は、何しようが日向の道を歩く権利などない。勧誘なら他当たれ」

 そう言うとオニキスは、剣をしまい、Zを無視してまた歩き始めた。
 しかしZはオニキスの目の前に瞬間移動し、行手を阻む。

「アナタですよネ、タクマ達の協力をしたフードの男ハ」
「だったら何だ?イカレ教祖様の邪魔立てはすんなってか?それとも、ここで俺を殺すか?」

 そうして、オニキスは背中の剣の持ち手に手をかけ構えた。

「話は最後まで聴くモノですヨ、オニキス君」

 すると、Zは虚な目の瞳孔を開きオニキスを睨んだ。それにより、オニキスはその状態のまま動くことが出来なくなってしまった。

「ぐっ……俺がこの程度の魔術に……ありえん!」
「大丈夫でス、我々の総統はアナタを大層気に入っていらっしゃる。我々と共に来れバ、アナタに力を与えてくれる事間違いナシ」

 そう言い、Zはオニキスの所へ近付いてきた。
 オニキスは動こうと必死になるが、何度やっても身体が言うことを聞かなくなっている。

「この件のご返答に関しましては、数日後にウォルで行う、私の素晴らしきショーを観覧して頂いた後にお伺いしまス。ですが覚えておいてくださイ」

 Zは、目に見えない速さでオニキスの首元にメスを突き付け、光を受け付けない虚な目を見開き、オニキスを睨んだ。

「その日の返答次第では、アナタを処刑しても良いと言われているので、そこんところご注意下さいますようニ」
「っ……!?」
「キョーハイ砂漠の古い高台で、お待ちしております。逃げるような真似などすれば……フッフッフ」

 そうして、Zは不気味で狡猾な笑い声を上げながら、砂嵐の中へと消えていった。
 それと同時にオニキスの金縛りも解け、勢い余ってオニキスは砂へと転ける。

「この俺が恐れを抱くだと……?そんなはずは無い!」

 捨てた筈の感情が復活した事に、オニキスは混乱した。

「……だが、素晴らしきショーか。自分で言うほどならば面白いのだろうな」

 オニキスは呟き、またどこかへと歩いて行く。
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