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5 北の王国の流行病
1 流行病(1)
しおりを挟むモレキュール王国は寒波に襲われていた。例年より雪が多く、気温が上がらない。寒さで凍死する村人も出るほどだ。貧しい村人は食べ物もなくなり、凍死した人を食料にして飢えを凌いでいた。そんな村人から、今度は疫病が流行りだした。高熱が出て、熱が下がらない。 流行病は、高熱を出し、致死率が高く、貧しい村人は、流行病で亡くなった人も食べるようになった。すると、それを食べた者も病気に感染し、更に強い症状が出るようになった。
高熱を出し、咳が止まらない。肺を傷め更に致死率が上がった。村人は、村を治める貴族に助けを求めた。村を治めている貴族は医師を派遣した。治療薬の効果はなく、今度は医師も疫病にかかり、倒れる始末。貴族の間でも疫病は流行り、上流階級の貴族にまで病気が流行り始め、王宮での議会に出る貴族に感染し、国王が病床に臥せった。
貴族が倒れ、王宮も感染した北の国は、指導者を失い、人々は放浪する。
街にも疫病が流行り、店も閉まり、食糧不足になった。備蓄のある農家は、食料倉庫を襲われ、抵抗した農家の住民は感染者との接触で感染する。国中に感染者が蔓延して、人々は国から逃亡しようと考える。まだ感染していない者が、国境に押し寄せる。
エスパルダ王国は、早々に国境を封鎖し、高い壁を作り、エスパルダ王国に入れないようにした。人々が集まった国境地帯でも感染が始まり、人々が道に倒れていく。エスパルダ王国の国境警備隊は早々に避難し、エスパルダ王国側は閑散としている。離れた場所に管理棟があり、壁の向こう側が見えるが、死者は増える一方だ。国境警備隊は王宮に手紙を書いた。
『エスパルダ王国に感染の予兆あり。国境地帯にはモレキュール王国からの逃亡者が押し寄せ、国境で感染が蔓延していている。死者も多数出ている様子』
その手紙を見た国王陛下とイグレシア殿下は、至急の議会を開いた。
「モレキュール王国で感染している疫病が、この国でも感染の予兆が出てきた。国境地帯ではモレキュール王国からの人々が押し寄せ、そこで感染が起きているようだ。壁一枚では感染は防げないでしょう。街から街への移動を禁止した方が安全ではないかと思いますが、どうでしょうか?」
イグレシアは提案した。
「街を跨いで働きに出ている者も多いし、食糧不足になると思いますが」
「最低限の移動という御触れではいけませんか?食料の運搬、医療物資の運搬だけ等は許可を出し、他は自粛してもらうように」
「いったん、感染者が出たら、大流行になる恐れがあります。ここは慎重にしなくてはならないでしょう」
いろんな意見が出ている。
「では、最低限の移動のみで、街から街への移動は禁止にする。学校も一時閉鎖、住民には外出自粛を食べ物以外の仕事も最低限に減らすように御触れを出してくれ」
国王陛下は、決定事項を皆に報告をする。
「感染が出た場合は、隔離しかないようだ。薬の効果はなさそうだ」
「感染者を見捨てるようで心苦しいが、そうする以外に方法はないだろう?」
「ここは聖女様のお力をいただき、清めてもらうのは如何か?」
「それはダメだ。ここ最近では頻繁に力を使い、聖女様は弱っておられる」
イグレシアは強く言い放ったが、しかし、国王が「それは最終手段だ」と言い直した。
議会は一度解散した。決定した事項を国民に報せる役目がある。下級貴族に指示を出し、一般国民へと知れ渡る。
モレキュール王国の国境で、一人の青年が厳重に張られた有刺鉄線の向こうを歩いていた。国境は大きな壁で封鎖されていて、正面からの突破は無理だ。それなら森の中に入り、こっそり抜け出せないかと国境地帯を歩き回る。彼は25歳の公爵家の長男で、名をレヨン・レイ・ラディウスという。感染の予兆はない。聖女様にモレキュール王国をお救い願いたくて、王都から馬で駆けてきた。人が集まる場所を避け、斜めがけの大きな鞄には、戦の時の非常食を詰めて、やって来た。幸い、ラディウス一家は皆、無事に過ごしている。議員をしている父が「聖女様にお願いしに出かける」と言いだし、それなら若い自分がその役目を果たしに行こうと決めた。レヨンは国境から離れた場所で立ち止まった。目の前には壁があり、壁の上には有刺鉄線が何重にも引かれている。土を掘り抜け出すことは不可能だろう。それなら壁の上から行くしかあるまいか?国境の間際には木は生えていないが、たまたま大木が生えていて、枝が大きく伸びている。有刺鉄線があるが枝はその上を走っている。
レヨンは誰もいないか再度確認する。
エスパルダ王国へモレキュール王国の国民を入れてはいけない。そのことは理解している。万が一、モレキュール王国の国民がなだれ込んだら、エスパルダ王国でも感染が始まる事は予想される。
レヨンは誰もいないことを確認すると、木に登り始めた。高くまで登り、枝の上を慎重に歩いて行く。荷物を先に放り込むと、レヨンは飛んだ。壁の向こうは川になっていた。水嵩はそれほどないことを幸運に思いながら、斜面を転がり落ちる。全身を打ち付け、身体は痛むが、どうやら国境は越えられたようだ。荷物を掴んで、急いで川を渡り、畑を駆け抜ける。
レヨンは幸い、エスパルダ王国に来たことがある。道はなんとか覚えている。コートの下で汗をかくほど走った。公爵家に生まれた嫡男なので、教育もされていて言葉も話せる。
途中で馬を買い、馬で王都に向かう。夜は旅館に泊まった。内風呂だったので、コート以外の服を洗った。部屋は火鉢が置かれていて、それほど寒くはない。部屋に洗濯物を干していたら、女将が暖炉のある部屋に招いてくれて、そこで服を乾かすことはできた。非常食以外の食事を何日ぶりかに食べて、一息ついた。病気の兆候は出ていない。発熱もなさそうだ。自分は感染をしていないのだろう。早めに休んで、早朝に朝食を食べて出発した。王都に着いたら、国王陛下に謁見を申し込み、聖女様にこの流行病を治していただきたいとお願いをするのだ。
レヨンは念のために、父が書いた手紙を持っている。正式な議員からの要請の嘆願書だ。
念のため人に接触しないように気をつけながら、王都へと向かう。
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