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1 聖女の証
7 妹の裏切り(7)
しおりを挟むイグレシアはプリュームに犯されてから、王宮から離れて別邸で暮らしている。
アリエーテを裏切った事を申し訳なく思い、自分の油断が招いた結果について、悔やんでいた。
プリュームを愛することはできない。
心の中には、アリエーテしかいない。
幼い頃からアリエーテの事を想い、大人になったら結婚し欲しいと求婚したのはイグレシア本人だ。それなのに、アリエーテの双子の妹と結ばれてしまうなんて……。
「……情けない」
戦場から戻って来たアリエーテに、その功績も称えていないし、愛しているとも言えていない。会いに行ける顔もない。こんなに愛しているのに……。
「イグレシア殿下、お食事は召し上がってくださいね」
側近のアンスタンとブフリストは、急に別邸に行くと言い出したイグレシアに付いてきている。コックと侍女を一人ずつ連れてきたので、別邸で食事と身の回りの心配はないが、肝心の主が心許ない。
イグレシア殿下に男女の営みがあったことは、侍女から聞いて知っているが、その女性を避け、別邸に逃げてきているところを見ると、これは襲われたかと勘ぐってしまう。イグレシア殿下は、何も口にしないので、なんと言っていいのか?
年齢は25歳としっかり成人しているので、性経験があっても不思議はないが、もしかしたら初めてだったのかもしれない。
一向に食事に手を付けないイグレシア王子に、側近は人払いをした。
「殿下、悩みがあれば、打ち明けてください」
アンスタンは30歳と殿下より年上だ。家には可愛い妻がいて、目に入れても痛くない息子がいる。
「お一人で抱え込まないでください」
ブフリストも35歳と殿下より年上だ。家には美しい妻がいて、目に入れても痛くない息子と娘が二人いる。
「……プリュームに犯されたのだ」
ああ、やっぱりと二人は思う。
「初めてはアリエーテと決めていた。なのに、その双子の妹に襲われ処女を奪ってしまった」
イグレシアは食事を避けて、頭を抱える。
「アリエーテを裏切ってしまった」
「襲われたのなら、奪ったのではなく、プリューム様は勝手に処女を捨てたのでしょう」
「殿下ほどの年齢なら、女性経験があっても不思議ではありません。現国王陛下はハーレムを作らなかったが、先代にはハーレムがいたではありませんか。初めてを無理矢理奪われて、ショックを受けるのも分かりますが、これは事故だったと言えば、アリエーテ様はお許しになるでしょう」
アンスタンとブフリストは殿下を慰める。
「プリュームは妻になれると思っている。父上に告げて、アリエーテと婚約破棄をして、プリュームと結婚すると公表してしまった。婚約パーティーなど行いたくはない」
「国王陛下にすべてをお伝えしては如何か?」
「25歳にもなって、恥でしかない」
「それでは、プリューム様と婚約パーティーを行うのですか?」
「それは嫌だ」
これでは堂々巡りだ。
二人の側近は、早く我が家に帰りたかった。
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