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第三章

7   助手

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「アミ、わしが治療したテリだが、もしや皮膚が硬くなっていたら、再手術を頼んでもいいか?わしは、美を意識せずに、再生魔法で治しただけだ。男なら、それでも、構わないだろうが、年頃の女の子だ。治せるなら、元通りに治してやってほしい」

「分かりましたわ、お父様」


 朝食の時、お祖父様が、アミの顔の状態を気にして、母に再手術を頼んでいた。

 確かに、アミの手術は皮膚を再生しただけだった。鏡の術も使ってなかったので、今までの顔とは違っていてもおかしくはない。

 顔の半分を火傷していたテリの気持ちを考えると、やはり気の毒だ。


「アミ、フラウムを助手に連れて行きなさい。フラウムにとって、いい勉強になる」

「勉強になるけれど、彼女たちの気持ちを考えると、連れて行っていいものか?」

「アミの術式をフラウムに教える機会ではないか?」

「それもそうね。フラウム、助手になりますか?」

「是非、お願いします。いろんな術式を学べるなら、学びたいです」


 ということで、テリとナターシャの治療について行けることになった。

 食事を終えると、学校が始まる前に、テリとナターシャの家を訪ねる。

 まずはナターシャの家を訪ねると、ナターシャは眠らされていた。傍らに、モナルコスが付き添っていた。


「夜中に目覚めて、錯乱したので、眠らせました」

「そう、お疲れ様でした」

 本人に対しての術は、術者が起きていないと効果が持続しない。

 フラウムが家にかけていた魔術は、水晶魔術ではなかったので、眠っていても持続できた。
 
 水晶魔術は強力なものが多いが、魔術を呪文で唱える魔術は、どちらかというと地味だ。しかし、持続するので、使用方法を正しくすれば、かなり使える魔術だ。


「診察しますね」

「お願いします」


 メーロスが付き添いで部屋の中に入ってきた。父親らしき人も心配げに見ている。

 母はナターシャを起こさないように、包帯を外す。外した包帯は、フラウムに渡す。フラウムは、持ってきた鞄の中に片付けた。

 皮膚は思った以上に、引き攣っていた。

 母はブレスレットの水晶に触れて、魔力を貯めると、両手を使って、ナターシャの皮膚を柔らかにしていく。手は触れずに、かざしているだけだ。それでも、フラウムには母の魔力が視えていた。

 包帯を外した直後より、皮膚が柔らになっていくのが分かる。


「モナルコス、魔法を解いてくださいますか?」

「では、起こします」


 モナルコスがナターシャの肩に触れると、ナターシャは目を見開いて、「いやー」と叫んだ。


「ナターシャ、診察に来ましたよ」

「アミ先生?……どうしてフラウムがいるの?」

「わたくしの助手よ」

「嫌よ。助手なんて」

「ナターシャ、指は見えるかしら?」


 母はなんともない目を隠して、目の前に指を立てた。


「はい、見えます」

「フラウム、足下に立って」

「はい」

 フラウムは、ベッドの足下に立って、指を一本立てた。

「見えますか?」


 できるだけ元気に聞く。



「見えます」

「何本ですか?」

「一本」

「正解です」

 母が微笑んだので、フラウムも一緒に微笑んだ。


「よかったわ。昨日よりよくなっています。毎日、皮膚を柔らかくしていきますから、顔には触れてはいけません。いいですね?」

「はい」


 ナターシャは不安げに返事をした。


「フラウム、包帯を」


「はい」


 フラウムは、新しい包帯を巻いていく。

 まだ顔は見ない方がいい。

 母が言うように、昨日より皮膚が柔らかくなっている。

 続ければ、綺麗になっていくはずだ。


「アミ、ありがとう。思ったより綺麗で安心しました」


 母は微笑んだ。


「アミ、ありがとう」

「兄様、続ければ、もっと綺麗になっていくわ」

「頼む」


 フラウムはお辞儀をした。


「兄様、娘のフラウムよ。フラウム、兄のビステイスよ」

「よろしくお願いします」

「アミによく似ている」 


 フラウムは母に似ていると言われて、嬉しかった。


「では、次に行くわ」


 母は二人にお辞儀をすると、テリの家に向かった。


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