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第二章

1   テールの都へ

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 朝食を終えると、家の周りにかけていた魔法を全て解除した。

 そうしなければ、迎えが来ないことは分かっていた。

 食器を洗い、布巾で包むと、いつでも帰ってきて、住めるように部屋の中を整えていった。

 ベッドの上にもシーツを掛けた。

 その徹底ぶりを見て、シュワルツは「ここに戻るつもりなのか?」と訊いた。


「分かりません」


 早朝の村に行って、薬の販売を辞めることを告げた。


「割合か?5割はもらいすぎだったかもしれぬ。2割でもいい、薬は置いて欲しい」

「ここを離れることになりました。今ある薬は置いておきます。また戻ることがあれば、またよろしくお願いします」

「出て行くのか?」

「都まで旅に出ます」

「そうかい。気をつけていくんだよ」

「はい」


 フラウムは、売り上げをもらい、新しい薬を置いて店を出た。

 またここに住む日が来たときに、善くしてもらえばいい。

 自宅に戻ると、家の近くに立派な馬車が止まっていた。

 帝国騎士団の制服を着た男性が6人ほどいた。

 皇太子の護衛には、少ないように感じたが、皆、背が高く、帯剣していた。

 家に帰るのが怖くなる。

 馬車の手前で、動けなくなっていると、美しく正装を着たシュワルツが、フラウムを迎えに来た。


「どうした?我が家に入るのも不安になったか?」

「ええ、なんだか怖くて……シュワルツ皇子殿下、別人のようですわ」


 シュワルツは眉を顰めた。


「私に敬称は必要ない。今まで通り、あなたでも、シュワルツとでも呼んでくれ」

「……けれど。不敬で処罰されますよ」


 またシュワルツは眉を顰めた。


「フラウムに何か物申す者があれば、すぐに言うがいい。フラウムは私の命の恩人だ。それに、私の愛する者だ。誰が文句を言うか」


 シュワルツはフラウムを家の中に連れて行った。

 フラウムは旅行鞄に賃金を片付ける。今日は手数料を2割で計算してくれた。

 今日入荷分は、ここに戻ってくるか分からないので、何も言わなかった。

 暖炉の火は消されていた。

 シュワルツが消してくれたのだろう。

 水瓶の水は、転移魔法で小川に流した。シーツで埃が入らないように片付ける。


「荷物は二つで構いませんか?」

「はい」


 騎士が荷物を運び出した。

 後は施錠するだけだ。

 外套を着ると、フラウムは最後に部屋を回って、きちんと施錠を確認して、最後に玄関の扉に鍵をかけた。


「フラウム様、よくご無事で。三年前に行方不明になり、皇妃様はたいそう心を痛めておいででした」

「皇妃様にお詫びをしなくては」

「お顔を見せられたら、皇妃様も喜ばれるでしょう」

「ありがとうございます」

「私どもは、皇太子殿下の従者、エスペル・ノアと申す。隣におるのが、同じく側人のケイネス・リザルドルフと申す」

「よろしくお願いします」


 フラウムは淑女の礼をした。

 平民のワンピース姿では、様にならないけれど……。


「では、馬車にどうぞ」

「フラウム、行くぞ」

 シュワルツはフラウムの手を握ると、馬車まで歩いて行く。

 少し足を引きずるフラウムを見て、村まで一人で行かせた事を悔やんで、華奢な体を抱き上げた。


「足が痛むのであろう」

「これくらいは平気よ。治癒魔法をかけるほどでもないわ」

「甘えればいい」


 頬に頬を寄せられ、フラウムは真っ赤になり硬直した。

 騎士達が拍手をしている。その間を抱きかかえられながら、馬車まで連れて行かれた。

 椅子に座ると、昔を思い出す。

 毎日、この馬車に乗せられ、お妃教育に向かっていたことを……。


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