上 下
51 / 66
第七章

10   密告

しおりを挟む


 ラクイナミューネがこの国を去った数ヶ月後、一人の男が謁見を申し込んできた。

 その男は乳児の遺骨を持って来た。

「この遺骨はシャルロット王女の物です」と男は言った。

 俺は慎重に話を聞いた。

「国王陛下と王妃が守ろうとした姫は、あの時、一緒に亡くなったのです。その遺体を私が動かしました。そうして、ボシシオン王国の娘を置き去りにしたのです。盗賊の娘です」

 信じがたい言葉だった。

 国王陛下崩御の報せを聞いたとき、すぐに兵を引き、押し寄せるボシシオン王国の兵士を倒しに行った。

 そうして、助けたのがシャルロットだった。

 倒れている両親の隣に、赤子が眠っていた。

 その子がシャルロットだと思って連れ帰った。

 だが、しかし違和感はあったのは確かだった。

 シャルロットが着ていた肌着ではなかった。

 着ていたはずのドレスを身につけていなかった。

 顔が同じか誰も判断できなかった。

 まだ生まれたばかりの赤子で、乳母も首を傾げていた。

 けれど、両親の亡骸の側に横たわっていたのならば、我が妹だと思ったのだ。

 シャルロットはすくすく育っていった。

「何故それを今になって報告に来たのだ?」

「私の妻がボシシオン王国の王宮に捕らわれていたのです。妻の命と引き換えに、私は王家の指示に従い赤子の入れ替えをしました。妻が病気になった事でやっと王家から妻を取り戻す事ができましたので、こうして懺悔に参りました」

 男はひれ伏していた。

 どんな罪も受けようと覚悟してきているのが分かる。

 俺は男を解放した。

 男の行方は、影に探らせた。

 男の家には、窶れた妻が床に臥せっていたという。

 帰ってきた男を見た妻は、しゃくり上げ謝罪をしていたと報告があった。

 疑う事ができなくなった。

 シャルロットが10歳を迎える前から、異国の影が、シャルロットに接触していると、俺の影が報告してきた。

 異国の影は、俺を殺せと指示を出しているようだった。

 けれど、シャルロットは俺に懐いていた。

 もし、異国の娘であったとしても、素直でいい子に育ってくれたら、それでいいと思った。

 両親が命をかけて助けたと思えば、愛せた。

 だが、しかし、影との接触は一度や二度ではなかったようだ。

 俺の影の一人が、異国の影を追いかけた。

 その影は、ボシシオン王国の王家の宮殿に入っていったと言う。

 異国の影は、シャルロットの寝室に現れ、出自の事も教えたらしい。

 けれど、幼いから理解できていないと信じていた。

 影からの報告を聞く度に、愛おしいシャルロットが悪に染まっていくような、嫌な予感していた。

 俺の影には異国の影が現れたら、接触させるなと指示を出した。

 だが、しかし、とうとうシャルロットは、俺に刃物を振り下ろしてしまった。

 俺は信じていたかったのだ。

 悔しさが湧き上がる。

 それでも、万が一の事を考えて、俺は洋服の下に鉄板が仕込まれた洋服を身につけていた。

 それを提案したのが、弟のエグジスタンスだ。

 弟は、シャルロットを信頼していなかった。

 10歳はもう幼子ではないと言い放った。

 男が訪ねてきたときに、話された内容を信じて、遺骨を受け取っていた。

 それを慎重に調べていった。

 小さな遺骨が包まれていたのは、血が変色して染みついたベビードレスと下着で、ドレスと下着にはシャルロットの名前が刺繍されていた。

 疑いようもない状態だった。

 そうして、人知れず、両親の墓の隣に埋葬したのだ。

 石碑にはシャルロットと書かれている。

 ただ、俺は妹としている、シャルロットを信じたかったのだ。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜

きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員 Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。 そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。 初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。 甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。 第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。 ※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり) ※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り 初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

完結・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら、激甘ボイスのイケメン王に味見されました

美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!

孤狼のSubは王に愛され跪く

ゆなな
BL
旧題:あなたのものにはなりたくない Dom/Subユニバース設定のお話です。 氷の美貌を持つ暗殺者であり情報屋でもあるシンだが実は他人に支配されることに悦びを覚える性を持つSubであった。その性衝動を抑えるために特殊な強い抑制剤を服用していたため周囲にはSubであるということをうまく隠せていたが、地下組織『アビス』のボス、レオンはDomの中でもとびきり強い力を持つ男であったためシンはSubであることがばれないよう特に慎重に行動していた。自分を拾い、育ててくれた如月の病気の治療のため金が必要なシンは、いつも高額の仕事を依頼してくるレオンとは縁を切れずにいた。ある日任務に手こずり抑制剤の効き目が切れた状態でレオンに会わなくてはならなくなったシン。以前から美しく気高いシンを狙っていたレオンにSubであるということがバレてしまった。レオンがそれを見逃す筈はなく、シンはベッドに引きずり込まれ圧倒的に支配されながら抱かれる快楽を教え込まれてしまう───

塾の先生を舐めてはいけません(性的な意味で)

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
個別指導塾で講師のアルバイトを始めたが、妙にスキンシップ多めで懐いてくる生徒がいた。 そしてやがてその生徒の行為はエスカレートし、ついに一線を超えてくる――。

幽閉王子は最強皇子に包まれる

皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。 表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

悩める文官のひとりごと

きりか
BL
幼い頃から憧れていた騎士団に入りたくても、小柄でひ弱なリュカ・アルマンは、学校を卒業と同時に、文官として騎士団に入団する。方向音痴なリュカは、マルーン副団長の部屋と間違え、イザーク団長の部屋に入り込む。 そこでは、惚れ薬を口にした団長がいて…。 エチシーンが書けなくて、朝チュンとなりました。 ムーンライト様にも掲載しております。 

処理中です...