上 下
40 / 66
第六章

4   モモの結婚式

しおりを挟む


 チェリーに赤ちゃんが生まれて、チェリーは乳母も付けずに、自分で母乳を与えて育てると言い出した。

 その事により、私の結婚式は想像以上に待たされた。

 プロエレシフ王子が1歳を迎えたが、すぐに卒業式が行われるので、この際、学校を卒業したらどうだとラウ様に言われて、私はちゃんと学校を卒業した。

 もうなんの障害もなく結婚式が迎えられるわ。

 私の結婚式は、街の教会で身内だけでこっそり行われた。

 ラウ様が王宮にいないことで、王宮や王太子の護衛が手薄になるためだ。

 たった1日休むだけでも、騎士団の配置が換わるらしい。

 チェリーが、チェリーの赤ちゃんを連れてきたので、護衛の騎士達がぞろぞろ来ている。

 アスビラシオン様も一緒に来てくれたので、騎士の数も半端ではない。

 久しぶりに見るチェリーは、美しく、すっかりお母さんの顔をしている。

『僕』と呼んでいた呼び名が『わたし』に変わっていることに驚いた。

 私と交代しているときは、『わたし』と自分の事を呼んでいたけれど、自分の意思で『わたし』と呼ぶようになったのは、我が子の母親としての目覚めだろうか?

 洋服も燕尾服ではなくドレスを着ている。

 桜色をしたドレスは豪華で、私はその美しさに目を奪われた。

 子供産んでも、私よりウエストが細くて、白銀の髪は綺麗に結い上げられていた。

 両親は私の結婚式より、チェリーの赤ちゃんに夢中になり、『天使だわ』と声を上げている。

 確かに、少し歩けるようになったプロエレシフ王子は、綺麗な金髪で、瞳までとろけそうな黄金色。まるでアスビラシオン様を小型化した姿をして、片言に、「ママ」「パパ」と二人の事を呼んでいる。その姿は、教会の天井に描かれた天使より愛らしく、ついつい目で追ってしまう。

 けれど、今日の主役は、モモモーニアである私よ。

 今日の為に、美しいウエディングドレスも用意して貰った。

 シンプルだけど、美しいシルエットをしているのよ。

 ラウ様の妹のメアリーは「素敵!」と言って、私に抱きついてきた。

 彼女のお腹もいつの間にか、ふっくらしている。

 コンスルタと仲良く暮らしているのだろう。

 コンスルタは学校に残ったが、メアリーは結婚と同時に学校を退学して、自宅とコンスルタの家を行ったり来たりしていた。

 最近、ラウ様のお宅にお邪魔しても、メアリーの姿がなくて、少し寂しく思っていた。

 きっと私を驚かせようとしたに違いない。

「モモ、そろそろ時間だ。教会に行くぞ」

「はい、ラウ様」

 いよいよ、私の結婚式が行われる。

 ジミ婚だけど、愛さえあれば、そんなこと気にならないわ。

 私とラウ様は、神父の前まで進むと、同時に招待客が教会の質素な椅子に座る。

 アスビラシオン様とチェリーが最前列に座って、チェリーの赤ちゃんのプロエレシフ王子は付き人が抱っこしている。

 その側には騎士達が集まり、教会の入り口や外まで警護している。

 ラウ様は警護の様子に満足したのか、やっと私を見てくれた。

 神父の前で愛を誓って、口づけを交わす。

 触れるだけの優しいキスだが、これでやっと二人は夫婦だ。

 拍手で私達は祝福された。

「あうあう」と喃語が聞こえる。

 プロエレシフ王子には、きっと退屈なのだろう。

 付き人の腕の中から、チェリーに手を伸ばしている。

 チェリーはぐずりだしたプロエレシフ王子を抱き上げて、宥めている。

 私達は皆の前でお辞儀をした。

 教会の外へと歩いて行く。

 参列者が、私達の後から外に出てくる。

 教会の外は庭園になっている。

 これから、ちょっとしたパーティーが開かれる。

 ガーデンパーティーは、ラウ様と我が家のシェフ達が協力をして、小規模のパーティー会場を作っていた。

 招待客に両親達と一緒に頭を下げる。

 立食パーティーになっているので、皆、それぞれに食事を楽しみながら、私達に話かけてくれる。

 まだ教会の出入り口に騎士達が、警護している。

 チェリー達は、まだ教会の中にいるようだ。

 ぐずっていたから、プロエレシフ王子がおねむなのかもしれない。

 ずいぶん経ってから、チェリーとアスビラシオン様が出てきた。

 プロエレシフ王子は付き人に抱かれている。

 やはりおねむの時間だったようだ。

 警護の騎士達もパーティー会場に移動してきた。

 ラウ様は私達の結婚式なのに、まるで警護をしているみたいに、視線は辺りを見ている。

 こういう所は、ゲームとは違うんだよね。

 ゲームの中のラウ様は、私しか見ていなかったから。

 ちょっと嫉妬してしまう。

 チェリーとアスビラシオン様が帰ったら、私だけを見てくれるかしら。

 そう思っていたら、アスビラシオン様がチェリーをエスコートして、私達の前までやって来た。

「今日はおめでとう。しばらく休んで、新婚生活を堪能してくれ」

 アスビラシオン様はラウ様に休暇を与えた。

「ありがとうございます」

 ラウ様は恭しく、お辞儀をする。

 私も急いでお辞儀をする。

「モモ、おめでとう。やっとラウ様と一緒になれるんだね。幸せにね」

 チェリーは私とそっくりな顔で、眩しいほど爽やかに言葉を発する。

「ありがとう。チェリー。殿下も、今日は参列ありがとうございます」

「どうぞ、お幸せに」

 アスビラシオン様は、こちらも眩しいほど爽やかに言葉を発する。

「ラウ、我々は先に王宮に戻ることにする。どうか楽しんでくれ」

「はい。お気を付けて」

 ラウ様は騎士の礼をした。

 部下への配慮だろうか?

 チェリーは昔と変わらず、私に手を振って、パーティー会場から出て行く。

 大勢の騎士達も警護して移動していく。

 アスビラシオン様とチェリーとプロエレシフ王子を抱いた付き人は、馬車に乗り込んだ。

 馬車が走り出すと、馬に乗った騎士達が馬車を護衛しながら立ち去っていく。

 無事に馬車を見送ったラウ様は、やっと私を見てくれた。

「殿下が気を遣ってくれたのだろう」

 私は頷く。

 アスビラシオン様は、ラウ様を大切にしている。

 自分たちが側にいる限り、ラウ様は仕事意識から離れられないと思ったのだろう。

「お休みがもらえて、良かったですわ」

「そうだな?だがしかし、俺はアスビラシオン様の側人だ。俺が留守にしている間に、他の誰かに奪われるのかと思うと心配でならない」

 どこまでも、忠実な付き人のようだ。

「心配しすぎですわ」

 アスビラシオン様の付き人は、いつもラウ様だった。

 それはどんなストーリーを進めても変わらなかった。

 だから、この先も変わらないだろう。

「今日くらいは忘れて、私だけ見ていてくださいな」

「そうだな」

 アスビラシオン様が帰った事で、招待客達がリラックスしているのが分かる。

「ご配慮、ありがいたい」

 ラウ様は、私を連れて、私を紹介するために歩き出した。
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜

きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員 Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。 そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。 初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。 甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。 第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。 ※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり) ※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り 初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

孤狼のSubは王に愛され跪く

ゆなな
BL
旧題:あなたのものにはなりたくない Dom/Subユニバース設定のお話です。 氷の美貌を持つ暗殺者であり情報屋でもあるシンだが実は他人に支配されることに悦びを覚える性を持つSubであった。その性衝動を抑えるために特殊な強い抑制剤を服用していたため周囲にはSubであるということをうまく隠せていたが、地下組織『アビス』のボス、レオンはDomの中でもとびきり強い力を持つ男であったためシンはSubであることがばれないよう特に慎重に行動していた。自分を拾い、育ててくれた如月の病気の治療のため金が必要なシンは、いつも高額の仕事を依頼してくるレオンとは縁を切れずにいた。ある日任務に手こずり抑制剤の効き目が切れた状態でレオンに会わなくてはならなくなったシン。以前から美しく気高いシンを狙っていたレオンにSubであるということがバレてしまった。レオンがそれを見逃す筈はなく、シンはベッドに引きずり込まれ圧倒的に支配されながら抱かれる快楽を教え込まれてしまう───

すべてはあなたを守るため

高菜あやめ
BL
【天然超絶美形な王太子×妾のフリした護衛】 Y国の次期国王セレスタン王太子殿下の妾になるため、はるばるX国からやってきたロキ。だが妾とは表向きの姿で、その正体はY国政府の依頼で派遣された『雇われ』護衛だ。戴冠式を一か月後に控え、殿下をあらゆる刺客から守りぬかなくてはならない。しかしこの任務、殿下に素性を知られないことが条件で、そのため武器も取り上げられ、丸腰で護衛をするとか無茶な注文をされる。ロキははたして殿下を守りぬけるのか……愛情深い王太子殿下とポンコツ護衛のほのぼの切ないラブコメディです

完結・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら、激甘ボイスのイケメン王に味見されました

美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!

塾の先生を舐めてはいけません(性的な意味で)

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
個別指導塾で講師のアルバイトを始めたが、妙にスキンシップ多めで懐いてくる生徒がいた。 そしてやがてその生徒の行為はエスカレートし、ついに一線を超えてくる――。

幽閉王子は最強皇子に包まれる

皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。 表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。

無冠の皇帝

有喜多亜里
BL
「連邦」、「連合」に次ぐ銀河系内の第三勢力「帝国」。その宗主であった「連合」五星系の一つザイン星系は「帝国」の再植民地化をもくろみ侵攻しようとするも「帝国」宇宙軍と皇帝軍護衛艦隊に阻まれる。「帝国」の元皇太子アーウィンが司令官を務める皇帝軍護衛艦隊の鉄則はただ一つ。〝全艦殲滅〟。――なーんて感じの「なんちゃってSF」。コメディ寄りのボーイズラブ(自称)。大佐(変態だけどまとも)×元皇太子(ツンデレストーカー)。 ---- ◆BOOTH様で同人誌を通販しています。既刊4冊(https://aarikita.booth.pm/)。 ◆表紙はかんたん表紙メーカー様で作成いたしました。ありがとうございました(2023/03/16)。 ---- ◆「第11回BL小説大賞」(2023)で奨励賞をいただきました。ありがとうございました。 ◆「第12回BL大賞」(2024)で奨励賞をいただきました。ありがとうございました。

処理中です...