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第六章

1   チェリーの出産   1

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 おれのお腹ははち切れそうになっている。

 アスビラシオン様はおれのお腹を撫でる。

 こんなに膨らんだお腹が、ちゃんと萎むのか心配になるほどだ。

 どうやら出産が近いようで、お腹がキュッと痛くなってきた。

 おれの誕生日なのに、それどころじゃないようだ。
 

 出産予定日は、おれの誕生日あたりとは聞いていたけれど、まさか誕生日に陣痛がくるなんて想像もしていなかった。

「はあ、はあ、ふう、ふう……」

 陣痛が来る度に、おれは練習していたように、呼吸法で痛みを紛らわす。

 まだ陣痛の間隔が、遠いので、生まれるまでに、時間がかかるだろうと、宮殿のお医者様が言っていた。


「大丈夫か?」

「本当に産まれてくるのかな?」

 アスビラシオン様は笑顔だ。

 すごく嬉しそうな顔をしている。

 おれは不安だらけなんだけど……。

「食事は食べられそうだね?」

「うん」

「ここに運んでもらうか?」

「ダイニングに行くよ。赤ちゃんが降りてくるように、歩いた方がいいんだって」

「それなら、ゆっくり歩いて行こう」

「うん」

 アスビラシオン様は先に立ち上がると、おれの手を取った。

 ゆっくりと立ち上がると、ずっしりとお腹が重い。

 手を繋いでもらって、ゆっくりと廊下を歩いて行く。

 ラウ様とカナル様もおれの歩みに合わせて、ゆっくり歩いてくれる。

 そういえば、ラウ様とモモの結婚式だったはずなのに、おれの陣痛が始まってしまったので、ラウ様は急遽、結婚式を延期して、おれの一大事に備えてくれた。

「ラウ様、結婚式に申し訳ございません」

 ラウ様は微笑んでいる。

「国の一大事に、王宮にいなくては王太子の側人の役目を果たせません。どうぞ気にせず、出産に集中なさって下さい」

 モモは怒っているかもしれないけれど、確かにおれの出産は、国の一大事かもしれない。

 生まれてくるのが男の子なら、第一王子になる。

 お世継ぎの誕生だ。

 女の子なら第一王女になる。

 アスビラシオン様は、どっちが生まれてもいいと言ってくれたけれど、国王陛下はお世継ぎを望んでいるようだ。

 ちょっとプレッシャーだよな。

 階段を降りる前に、また陣痛が来て、おれはアスビラシオン様にしがみついて、また痛みが治まるまで、呼吸法で痛みを紛らわす。

「はあ、はあ、ふう、ふう……」

 アスビラシオン様が腰をさすってくれる。

 そうなんだ。

 陣痛が始まったら、腰が痛くなってきたんだ。

 さすってもらえると、すごく助かる。

「うん、もう大丈夫」

「そうか?」

 ゆっくり階段を降りていく。

 お腹が大きいから、階段がよく見えないんだ。

 降りるときは、危険だよな。気をつけないと……。

 やっと階段を降りると、ダイニングに到着した。

 椅子に座ったら、また陣痛が来た。

 温かなご飯が目の前にあるのに、おれはまた呼吸法で痛みを紛らわす。

 赤ちゃんはおれと同じ誕生日になるのかな?

 そう思うと、ちょっとは頑張ろうと思えてくる。

 誕生日以外はいっぱいあるのに、たった1日の誕生日に合わせて生まれてくれるなんて、まるでプレゼントのようだ。

 おれが陣痛で痛みを紛らわしている間は、アスビラシオン様はおれの腰を撫でながら、おれの事をじっと見てくれる。

 おれ、すごく愛されているよね。

「もう大丈夫」

「それなら、今のうちに食べなさい」

「うん」

 おれはスープから飲んで、朝食をきちんと食べた。

 食後のプリューンもちゃんと食べて、お茶も飲む。

 今日のご飯も美味しかった。

 せっかく降りてきたので、外の庭園に散歩に出かける。

 この世界は真夏と冬はなくて、春と秋のような気候だ。

 暑くはないが、肌寒く感じる事はある。

 過ごしやすい気候であるけれど……。

 貴族の間では、半袖を着る事はない。半袖自体、売っていないのだ。

 庭園には春の花と薔薇の花が絶えず、咲いている。

 美しい庭園の中で、また陣痛が来て、呼吸法で痛みを紛らわす。

「はあ、はあ、ふう、ふう……」

 アスビラシオン様に掴まって、陣痛が治まるまで、じっと待つ。
 
 いつも同じコースを散歩するだけで、お昼になりかけていた。

 頑張って歩いたので、陣痛の間隔も短くなってきた。

 昼ご飯は、軽く食べて、パンは部屋に持ち帰ろうとしたら、後でお届けしますとメイドに言われた。

 王太子妃がパンを持って歩いていたら、確かにみっともないかもしれない。

 自分の部屋に、やっと戻ると、おれは陣痛が激しくなって、アスビラシオン様にしがみついて、泣き出しそうになっていた。

 男の子は痛みに弱いんだよ。

 医師の診察があって、なんと医師は、また散歩に出かけて下さいと言ってきた。


 子宮口が開いていないと言う。

「陣痛が10分間隔になってきたら、戻って来てください」

 鬼か!

 今でも十分痛いのに、もっと痛くなるまで、散歩をして来いだなんて……。

「チェリー、頑張ろう」

「……うん」

 母親になる試練だと思えば、ここは頑張りどころだ。

 アスビラシオン様に手を引かれて、おれはまた散歩に出かけた。

 すぐに陣痛が来て、アスビラシオン様にしがみつく。

 カナル様が陣痛の間隔を調べてくれている。

「陣痛の間隔は、15分ですね」

「あと5分って、どれくらい歩いたらいいんだろう?」

「チェリー、いざとなったら、抱き上げて戻るから、ここは頑張ろう」

「……うん」

 アスビラシオン様に励まされ、おれはまた歩き始めた。

 階段を降りて、庭に行く。

「はあ、はあ、ふう、ふう……」

 庭で涙目になって、アスビラシオン様にしがみつく。

「うう、痛いよ」

「よしよし」

 アスビラシオン様はおれの腰を撫でている。
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