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第三章

1   ラクイナミューネ

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 宮殿の中に、高い棟が聳え立っている。

 その棟の最上階は鉄格子がはめられた部屋になっている。

 トイレはあるが、お風呂はない。

 部屋ではなく、牢獄だ。

 週に一度だけ、鉄格子が開けられて、宮殿のお風呂に入ることを許されているが、後は、高い棟の最上階にある鉄格子のある牢屋に、俺は幽閉されている。

 俺はこの王国の第二王子、ラクイナミューネと言う。

 表向きは王女と呼ばれている。

 どうして王女と呼ばれているのかと言えば、俺がこの世界に来たとき、衝動的に隣国の国王陛下と関係を持ってしまったからだ。

 俺は実は転生者だった。

 本名は三根春人という。27歳のオカマバーの店員だった。

 お客の揉め事に巻き込まれて、胸を刃物で貫かれて、そのまま意識がなくなった。目覚めたら、俺はラクイナミューネ、16歳として王宮にいた。

 第二王子としての記憶はない。

 兄のアスビラシオンの顔を見たとき、ここが乙女ゲームの中の世界だと気付いた。

 俺は『俺様の天使』通称『俺天』のゲームを何度もしたことがあった。

 俺はそこに全てのキャラを攻略しないと出てこない、隠しキャラ的な存在の隣国の国王陛下、オブリガシオン・カスティージョ様(25歳)のファンだった。

 俺は気付いたら、乗ったこともない馬に跨がって、画面の簡単な地図しか出てこなかった隣国へと走った。隣国の王宮に辿り着けたことは、殆ど奇跡だった。

 王宮に着くと、なんと王宮の建物も廊下や部屋の配置までゲームと一緒で驚いた。

 なので、オブリガシオン様の部屋に行くのに迷うこともなかった。

 途中で騎士に止められることもなく、王宮内に入れたのは奇跡でも起きているのかと思ったほどだ。

 オブリガシオン様は、情熱的な国王陛下で、漆黒の髪と瞳を持つ一見、ストイックなイメージだ。実のところ来る者拒まず、去る者追わずと、冷たい性格を併せ持っている。そのギャップが面白くて、そして惹かれたのだ。
俺ならオブリガシオン様の側から離れたりしないと、いつも思っていた。

 俺はオカマバーで勤める事でも、分かると思うが男にしか興味が湧かず、一般的にゲイと言われている。男の恋人はいたが、既婚者で俺はスペアーだった。

 だから、一見冷たいけど、俺を一途に愛してくれるオブリガシオン様にのめり込んでいった。

 俺がオブリガシオン様の部屋に行くと、オブリガシオン様は部屋の中にいた。

 第一声が「好きです」だった。しかし、俺は隣国の王子だと言うこと忘れていた。

 ゲームの中では、第二王子はお話には、少し出てくるけれど、モブ扱いだった。

 顔すら描かれていない、ただの通りすがりの王子だ。

 俺は侵入者として捕らわれてしまった。

 牢獄に入れられて、何日も尋問された。

 けれど、俺はオブリガシオン様に恋をして、どうしても会いたくて……としか答えられなかった。

 すると、大好きなオブリガシオン様が、俺を救い出してくれた。


 使用人に俺をお風呂に入れさせると、真新しい洋服を準備してくれた。

「それほど、俺のことが好きならば、その身を俺の物にしてもいいのだろうな?」

 俺は縋るように頷いた。

 俺はオブリガシオン様に抱かれたかった。

 けれど、これはゲームのバグなのか、俺の体に女性器が作られ、胸まで突き出ている。

 初めて身を差しだしたとき、俺は体を作り替えられてしまった。

 俺は突然、作られた女性器に戸惑い、そして声を出して子供のように泣いてしまった。

 抱かれることなく、快感だけ与えて、俺は嬉しくて、よがって、声を出して悦びを露わにしていたのに。

 挿入されることもなく、俺の快楽の時間は終わってしまった。

 俺は拒絶されたのだと思ってしまったのだ。

 オブリガシオン様は、戸惑っていた。

「男としての魅力はありませんか?」

 俺は確かそんな事を聞いていたような気がする。

「美しい、その体に不満でもあるのか?」

 オブリガシオン様は、俺の女性器に張形を挿入すると、俺の事は使用人任せて、姿を見せなくなった。

 張形を定期的に交換しなくてはならないらしく、俺は拒んで暴れた。

 すると、俺の体は鎖で縛られて、ベッドに繋がれてしまった。

 定期的に使用人が、俺の女性器の中に挿入された張形を交換するだけで、オブリガシオ様を呼んでも、来てはくれなかった。

 俺はさめざめと泣いた。

 そんな日が続いたある日、俺の国の国王陛下が、俺の事を探して、この国まで足を運んでくれたようだった。

 俺は張形をやっと抜いて貰って、ワンピースを着せられ、国王陛下である父の元に、出された。

 父王は俺の変わり果てた姿を見て、俺を連れて国へ帰って行った。

「誰に手込めにされたのだ?王子である身で、情けないと思わないのか?そんな姿にされるのであれば、舌でも切り自害をすればよいものを。その身に子種を植え付けられてはいまいな?」

 帰りの馬車の中で、父王は怒りのこもった声で、俺を詰った。

 俺はどうしてこうなったのか、分からなかった。

 子種はどうやって植え付けるのだろうか?

 この国の摂理など、知るはずもなかった。

 俺は「分かりません」と答えることしかできなかった。

 女として国に戻った俺を待ち受けていたのは、俺の葬儀だった。

 第二王子は、不慮の事故で死んだと、国中に御触れが出た。

 俺は王女として迎えられた。

 国に戻った日から、塔の最上階にある鉄格子のある牢屋に幽閉された。

 異国の、敵国の子を宿ったかもしれない俺は、誰の目にも触れないように隔離された。

 兄の、アスビラシオン様が一度、俺の顔を見に来たが、何も話さなかった。

 俺は醜いのだろうか?

 風呂に入りに宮殿に下ろされたとき、天井から男が現れた。

「オブリガシオン陛下の元に戻りますか?」

 影と呼ばれる者だろう?

 黒ずくめの服を着て、顔も隠している。

 俺は頷いた。

 オブリガシオン様に会いたい。

 どうして俺をこんな姿にしたのか知りたかった。

 オブリガシオン様のお子が俺のお腹の中にいるのかどうかも知りたかった。

 しかし、俺が黒ずくめの男の手を握ったとき、俺を監視していた影と騎士団が動き出して、オブリガシオン様の影は捕らえられそうになった。その時、影は自害した。

 俺は飛び散る血しぶきを浴びて、呆然としてしまった。

 俺は血しぶきを洗い流され、幽閉された。それ以来、以前より監視の目が厳しくなった。

 ゲームの中では、全てハッピーエンドを迎えられたのに、どうして俺は幽閉されなければならないのだろうか?

 俺が第二王子だったからだろうか?

 第二王子のイベントはなかったはずだった。

 そう言えば、続編が出ると予告がされていたような気もする。

 新しい続編のストーリーも分からないし、誰がメインキャラクターになるかも秘密にされていた。

 もしかして、第二王子様がメインキャラクターになっていたなら、ゲームの修正が入る可能性もある。

 俺はどうなるんだろう?

 棟の最上階には、届く場所に窓はない。

 天井の近くの窓までは、どう頑張っても登れないし、鉄格子が付けられた窓から逃げる事もできない。

 俺は簡素なベッドに横になった。

 いつまで、閉じ込められるのだろう?

 父上を怒らせた俺は、父上が言ったように、舌でも噛み切り死ねば良かったのだろうか?

 それでも、オブリガシオン様に会いたかった。
 
 
 
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