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しおりを挟む持ち帰ったわんこのボディーに、学習させたAIを取り付けて、動きのチェックをしていく。
仕事が優先なので、菜都美が篤志と遊んでいる間に、細かな調整をしていく。
ボディーに配線を通して、初期動作のチェックもしていく。
動き出す音も静かで、不快さはない。
先ずはランニング用にセッティングしたので、お散歩から走る。速度の調整は自動でできるようになっている。
口はないので、ボールを取ってくることはできない。
この子に、求めているのは、散歩からランニングロボットである事だ。
周りに人がいるときは、接触を避けて停止する。
「あっちゃん、公園に行ってくる」
「それじゃ、菜都美も行くか」
「あう、んぱんぱ、あーあー」
どうやら公園に行きたいようだ。
「わんこも一緒だよ」
「わうわう」
「わんこね」
俺はわんこ一号を散歩モードに設定して、今はSTOPにしている。
菜都美に日焼け止めをぬると、可愛い夏の帽子をかぶせる。
日差しは強いようだ。
季節ももう八月になり、初盆ももうすぐ迎える。
お寺から手紙が来ていた。今週の土曜日の午後一番だろう。
何かと実家に頻繁に帰らなくてはいけなくて、篤志と篤志のご両親との軋轢に油を注ぎそうで心配だ。
篤志を置いていくと言うと、きっと篤志は怒る。
田舎なので、新幹線で静岡に着いても、実家まではバスと徒歩で一時間だろう。
そこから寺までは、徒歩一時間以上かかるだろう。
菜都美の体力を考えても、無理だと思う。
車がなければ暮らせない土地であるから、俺も車に乗ろうかと思うが、10年ペーパードライバーの俺に車に乗せるのは危険だと篤志は言う。
確かに、自信はないけれど、自立できてないようで嫌だ。
だが、普段暮らしているのは東京の中心街なので、車は要らない。
職場も近いから、歩いていける。
普段は車は不要なのだ。
菜都美の支度ができたようなので、菜都美はベビーカーで家を出て行った。その後をわんこを連れて、出て行く。
片手にノートパソコンを持って、わんこと散歩をする。
前で、菜都美が「んぱんぱんぱんぱ」と呼んでる。
「菜都美、わんこ可愛いか」
可愛いに反応して、菜都美は自分の頭をポンポンしている。
「菜都美も可愛いな。いい子いい子するか?」
「んぱんぱんぱんぱ、あーあー」
篤志が頭を撫でてくれたようだ。
「あーあーあー、わうわう」
「わんこも可愛いな」と篤志が言うと、足をバタバタ動かした。
歩くのは、ちょっと早いよな。
歩きそうに見えるが、まだ寝返りもできない。
「これ、散歩だけど、どう?」
「一人で散歩したくない人にはいいかもな」
「緊急連絡先は二件登録できるんだ。個人で登録してもらうか、救急か警察か入れて置く?」
「個人設定でもいいんじゃないか?」
「三件にして、一件は警察にすることもできるんだ。あとGPSつけているから、スマホで位置情報を確認できる。盗難防止にならないかな?」
「ないより、あったほうがいいかもな?」
「ウォーキングはいい感じだけど、あっちゃん、走れる?」
「どうかな?最近、走ってないな。カナダではやることがなくて、朝と夕方、走っていたけれど」
「だったら走れるよね」
「まあ、たぶん」
「調べたんだけど、厚生労働省によると、ランニングと定期される運動の速度は、分速134メートル。1キロあたり7~8分が走るペースの目安になるみたい。大学の時は、陸上部に頼んだけど、あっちゃんできそう?」
「分速134メートルがどれくらいの速さか分からないけど、一度、走ってみるか?」
「めっちゃ助かる。俺、走るの遅いから」
真夏の公園は、人がいない。
ラッキー。
篤志はポロシャツとスラックスを履いているけれど、走らせるって言えばよかったかな?
公園の木陰にベビーカーを置くと、俺は菜都美の頭を「いい子、いい子」って撫でた。
頭を撫でられた菜都美は機嫌がいい。
篤志はポロシャツを脱ぐと、Tシャツ姿になった。
「準備はできたぞ」
「じゃ、ランニングに設定した。あっちゃんの速度に合わせて走るよ。GO!で出発、緊急で止めるときはSTOPで停止ね。あっちゃんが自然に止まるときは、一緒に止まる。誰かが近づいたら、緊急停止をするよ」
「分かった。行ってくる。GO!」
篤志は走り出した。篤志と並走してわんこが走る。
俺はスマホでGO!から撮影を始めた。
「んぱんぱ、あーあー」
「あっちゃん早いね」
篤志は広い公園の広場をぐるっと回って走ってきた。
俺達の前で、篤志は止まった。
「どうだった?」
「珍しそうに、見ている人が多かったな」
「そっちの質問じゃなくて、ちゃんと並走できた?」
「ギザギザにも走ってみたが、ちゃんと並走してくれた。本物のわんこより賢いな」
「明日、朝霧さんは事務所にいるかな?」
「連絡してみるか?」
篤志は朝霧さんに電話を掛けた。
ワンコールで出て、驚く。
『どうした?菜都美が病気なら、直ぐ診てくれる医師を紹介するぞ』
「そうじゃなくて、真がわんこ一号を完成させたんだ。明日、見せに行ってもいいかって?」
『今、どこだ?』
「会社の近くの大きな公園ですけれど」
「直ぐに見に行く」
プツリと電話が切れた。
「朝霧さん、もしかしたら事務所にいるのかも?直ぐに来るって」
「仕事かな?」
「それとも自宅が近所とか?俺達も近所にマンション借りているし」
菜都美は自分でお座りはできないけれど、ベビーカーでは角度を付けて、視界が広がって、機嫌がいい。
菜都美のわんこには、散歩機能も付けよう。
GPSと緊急通話は当然付ける。
歩き出した菜都美に、わんこが寄り添う姿を想像すると、やる気が漲ってくる。
10分と経たないうちに、朝霧さんと前島さん、佐伯さん、安井さんが集まった。
「みんなで仕事してたんですか?」
「私と前島は同居だけど、みんな近所に住んでいるんだ。貴重な実験をするって教えてくれたら、最初から見に来てたよ」
「気が回らなくてすみません」
「で、どうするの?」
「このわんこは、お散歩とランニングを一緒にしてくれるわんこです。GO!で出発します。人が急に近づいてきたら、緊急停止します。緊急で止めるときはSTOP!で止まります。これは散歩でもランニングでも同じです。並走して走ります。先ほど篤志に走ってもらったんですけれど、きちんと並走して隣を走ってくれるって言ってくれました」
一応、録画した映像を見せるが、一緒に走った方が分かりやすいだろう。
「よかったら、散歩もランニングも自動で切り替わるので、試してみてください」
「じゃ、私が最初だね」と朝霧さんが手を上げた」
朝霧さんは、わんこの隣に行って、「GO!」と言って、歩き出した。
ちゃんと散歩している。暫くして、走り出した。
朝霧さん、走るのが速い。篤志と同じ速度くらいだ。
俺もランニングの練習しようかな。
その前にウォーキングの練習かな。
朝霧さんが戻ってきて、「祐二、飛び出してみて」と言った。
「分かった」と前島さんが、わんこに近づくと、わんこは緊急停止をした。
「これ、ぶつかって、わんこが倒れたら、自力で起き上がるのか?」
「今は、その機能は付けてないですけど、自力で起き上がるのは、たぶん無理だと思います。転んだら、足が骨折すると思います。ボディーにもかなりの傷ができると思うので、走る人が、人混みや人が飛び出す可能性のある場所で走らないことを使用の禁止事項に書き加える必要がいります」
「そうか、ぶつかったらお終いってことだね」
「子供がぶつかってきた時は、「STOP!」して、抱えるのが一番だと思います。我が子でも、人がぶつかってきたら、抱きかかえるでしょう?」
「まあ、そう言われたら、そうだね。ウォーキングもランニングも素晴らしくよかったよ」
「ありがとうございます」
「みんな試してみてください」
「じゃ、俺が行く」と言ったのは、前島さんだった。
わんこの横に行くと「GO!」で出発した。だんだん速度を上げていく。そのままランニングを始めた。ダッシュをしたり、止まってみたりして、色々、試しているようだ。最後はランニングで戻って来た。
「これ、面白いな。俺も欲しい」
「経費では出さないから、自分で買え」と朝霧さんが言っている。
その後、佐伯さんと安井さんが続けて、試している。
「これ、自分専用にできるのか?」
「できますよ。設定を付けて、音声を覚えさせることで、自分専用のわんこもできます。今は付けていませんが、大学時代は、専用のわんこも作ってみました」
「それはいい」と前島さんが満足げに答えた。
皆が戻ってきたら、幾らで売るか話し合いが始まった。
「幾らで作れた?」
「一般的な作業時間は入れないのだったら、AIの基板の料金、ボディーで5万くらいです。AIにプログラムを入れるのは、今の所、俺しかできないので、作業時間は24時間作動で、3週間くらいです。一般的は100万から300万円くらいと言われています。研究費などを入れると1000万から5000万かかることもしばしば。物によっては一億円近い物もあります。このわんこだったら2500万から300万くらいでしょうか」
「真は夜中も作業をしていたので、朝9時~夕方5時だったら、もっと時間がかかると思います」
「24時間もパソコン動かしているなら、電気代は会社持ちにしないと、電気代は経費で出してくれ」
「俺たち、ご飯も食べているし」
「ご飯はガスだろう」
「ぼけているのか、炊飯器は電気で動いている」
「そうだったけ?」
篤志に、デコピンをされて、おでこが痛い。
言われてみれば、炊飯器はコンセントで繋がっていたことに気づいた。
俺、電気、使いすぎだったんだ?
「朝霧さん、助かります。電気代がかなり高くて、真に会社での作業をするように言うのですけど、菜都美が遊べないからって、家から出ないんです」
「真君は、始めたら作り終えるまで、満足できないんだろうね」
「はい」
俺、座敷童みたいに、パソコンの前から動いてない。
「プログラムは打ち始めたら、一気に打ち込んでいきますから。菜都美が寝ている間に、作業はできます。菜都美がおきたら、遊んでやれるから。その間にAIが学習していきます」
朝霧さんはおとなしい菜都美の頭を撫でる。
「菜都美、可愛いね。お姉ちゃんと遊ぶか?」
「おーおーおー」
「そう、お姉ちゃんだよ」
朝霧さんは菜都美を少しくすぐって、遊んでいる。
菜都美はキャキャッと声を出して嬉しそうだ。
「作業方法は人それぞれだから、無理に9時5時にしなくてもいいけど、お給料はそんなに上げられないよ」
「で、幾らで売り出す?」
「2500万くらいでしょうか?この子は走るだけですから。でも、一般家庭に売り出すなら25万から30万くらいにしないと誰も買ってはくれないかも。次は足に膝関節を付ける子を作ります。膝関節は、手間なので、ボディーを作る段階で値段が違ってきます。その代わりお座りもするし、お手や犬らしいことをするので、より身近に感じられると思います。
ボールを投げると取りに行く事もしますから、顔ができて、15センチ以内の物を咥えて、戻って来ます。その子の値段は、今のわんこの二倍くらいかかってしまいます。ボールを取りに行かない子だったら、もうちょっと値段は抑えられますけど、どうしますか?」
「一度、全装備を付けてみてくれるか?」
「分かりました」
「ボールを投げて、どうやって探して取ってくるんだ?」
「鼻や匂いで認識するのではなくて、スタイリッシュな顔の部分に付けられた、カメラで認識します。認識させても、あまり遠くまで飛ばしたり、草のある場所に入ってしまったりすると探し出せなくなります。フリスビーを投げた時は、わんこがジャンプをして取るので、壮観だと思います。人がいる場合は緊急停止して動きません。これは扱う人が、使用方法を正しく理解しないと作動はしない物です」
「使用方法の説明書は必読と書いておかないと駄目な奴だね。説明書も真君が作ってくれないと分からないな」
「勿論、俺が作ります」
「次のわんこは関節が動くのだな。出来上がりが楽しみだ」
「はい、直ぐにプログラムを作ります」
「その前にお散歩君の特許を取るから、提出する作業をしてくれるか」
「分かりました」
俺は嬉しかった。
人に認められるのは、やはり嬉しい。
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