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Side愛梨、楸、薫、亮
しおりを挟むその日のお昼、楸と薫と亮は事務所に向かった。
社長に面会を頼んだら、意外とあっさりと通された。
「全国を回らせていただきましたが、ここを辞めたいと思います」
楸が言って、三人で頭を下げた。
「辞めてくれて構わない。君たちには華がない。この先、投資しても売れないだろう。反抗ばかりする態度も悪い。ちょうどこの先の仕事は入れていない。入れるつもりもなかった」
プロダクションの社長は少しもangelをよく思っていなかった。
マネージャーが、契約の破棄の書類を持ってきた。
「どちらにしてもクビだったんですね」
楸はangelをスカウトしてくれたプロデューサーに言葉を発した。
「夢を見られただけでも良かったんじゃないか?」
プロデューサーの言葉は、正しいのかもしれないが、それなら何故、愛梨と引き離されたのだろう。
返したい言葉はたくさんあったが、もうここには未練はない。
三人は喜んで署名捺印をして、心の底からすっきりした。
「「「お世話になりました」」」
返事は返ってこなかった。
「俺たちが選んだ道は間違っていたんだ。楸、すまなかった。ずっと大学に行きたいって言っていたのに、俺たちがその気になっていたから、断れなかったんだよな」
薫が頭を下げ、亮も頭を下げた。
「もう過ぎ去ったことだ」
過去は戻らないし、あの時、もっと自分の意見を突き通す意志の強さが楸にはなかった。
きっと愛梨なら、契約書を見ただけで、断っていただろう。
「まだ次の機会があるって」と笑ったはずだ。
身を引いた愛梨は、すぐに養護教諭に連れられて病院に向かったから、契約の内容まで知らなかったはずだ。
真っ赤に染まったハンカチのまま、最後まで歌を聴いて、プロデューサーの言葉を聞くまで気丈に振る舞っていた愛梨の姿は今でも思い出せる。
教師に連れ出されて行くときの愛梨の落胆した顔を思い出し、二度と愛梨にあんな顔はさせないと、心に誓った。
事務所を出ると、目の前が明るい。
この事務所の前は、こんなに明るい景色だったのだろうか?
ずっとどんよりとしていた空気だったのに、景色が変わっていくようだ。
なんて気持ちがいいんだろう。
晴れ晴れとした気持ちだ。
「楸」
愛梨が手を振って迎えてくれた。
「お待たせ」
楸は愛梨の元に駆けていく。
二人も楸の後から駆けてきた。
「俺たちには、もう仕事はなかったらしい」
「ゴミ箱行きだったようだ」
薫と亮も清々し顔をしていた。
「すぐに行こう」
愛梨は軽やかに歩き出した。
キーボードを持ち歩く姿は、キーボードが歩いているように見えるが、その足取りはしっかりしている。
力強い足取りに、三人の表情が明るくなる。
「さあ、行こう」
楸は薫と亮に声をかけて、愛梨の後を追う。
午前中に挨拶に出かけた安西プロダクションの社長に会いに出かけた。
楸も薫も亮も契約できて、angelが再結成された。
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