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8   人間界

1   冒険者

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 魔窟は人間界の北の外れにある。

 北の街には大きなギルドがあり、冒険者に指令を出し、賃金を払う。

 冒険者の二人は、ジスとカルサという名前らしい。アリアと年齢も同じくらいだろうか?

 まだ若く、それでも剣の腕前はそれなりにあるのだろう。

 長い魔窟を横断し、魔界まで行ってしまう力を持っている。

 アリアを順に背負いながら、長い道のりを二人は歩いて行く。


「名前はなんて言うんだよ?聖女様」

「アリアよ」

「今まで魔窟で会った事はなかったな?」

「そうね、わたしみたいな小さな存在は、誰にも見つからないわ」

「何を食べて生きてきたんだ?」

「ゴブリンに食事をもらっていたの」

「ゴブリンに?」


 ここまで来たら、嘘を並べるより仕方が無い。


「魔窟で祈りを捧げていたら、お供えになったのよ」

「教会も魔窟で祈りを捧げさせるなんて、無茶な命令をさせるようになったんだな?」

「……どうせ使い捨てよ」

「なに?聞こえなかった」

「何でもないわ」


 アリアは自分の痛む足を治さなかった。エスペランスが迎えに来てくれるのを待っている。ズキズキ痛む足をそのままにして、冒険者に運ばれていく。


「ずいぶん遠いのね」

「俺たちは朝一番で出かけて、スライム退治をして帰ってくるんだ。魔界まで出たのは初めてだったけど」

「魔窟で火事が起きたの」

「それでゴブリンまで人間界まで出てきていたのか?」

「洞窟の中で火事になったら、人もゴブリンもスライムだって苦しいわ」

「そうか、火を放てばいいのか?」

「そんなことをしたらいけないわ。均衡が崩れてしまうわ」

「均衡?」

「人間界と魔界の均衡よ。魔界から大量に強い軍勢が押し寄せてきたら、人間界は滅亡してしまうわ」

「そうなのか?」

「火事が起きたことは秘密にしてくれる?わたしが余計な事を話してしまったわ」

「効率的だと思ったんだけどな」


 ジスは、少し残念そうに言葉を零した。


「聖女様が言うなら、危険な事なのだろう。ジス、このことは秘密にしておこう」


 アリアを背負っているカルサが、ジスを宥める。

 とうとう街まで到着してしまった。

 ジスとカルサはギルドの受付で、報酬をもらい、魔界まで出た事を知らせ、聖女を救出したことを説明した。

 二人の報酬は、大金になった。


「後は、こちらから教会に送る。ご苦労だった」

 ジスとカルサは嬉しそうに、アリアに「元気でな」と告げて帰って行った。



「さて、そちらのお嬢さんは、本物の聖女様なのだろうか?」

「私はアリアと申します。ある日突然見知らぬ者が現れて、魔窟に運ばれました。魔窟で祈りを捧げよと言われました。洋服も装飾品も私を運んだ男がくれました。装飾品は私の力を増幅させてくれる物です。均衡を保てと指示を出されました」

「取り敢えず、教会に送ろう」

「お願いします」

「足を怪我されたのか?聖女様なら怪我の一つくらい治せるだろう?」

「その時間がありませんでした。今、ここで治してもよろしいでしょうか?」

「ああ、聖女の証を見せてもらおう」


 アリアは、本当は治したくはなかったが、治癒の歌を歌った。

 足は捻挫だ。

 歌を15分ほど歌ったら、腫れが引いてきた。


「まだ靱帯が緩んでいるので、安静は必要ですけれど、短距離なら歩くことはできると思います」

「どうやら本物の聖女様のようだな」

「疑われても仕方がありません」


 アリアはそのまま馬車に乗せられた。馬車は教会に向かって走っていく。

 教会には明日の朝に着くらしい。
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