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第4章

86 レインからの手紙

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 ニナへ

元気にしているか?
俺は、元気だぞ。
ニナの写真を見ながら手紙を書いている。そろそろ生まれる頃ではないかと思って、心配になった。
辺境区は、雪が降り、かなり冷えている。中央都市も寒くなってきているだろう?
身体は冷やさずに、温かな暖炉のある部屋で、ゆっくりしていなさい。
辺境区では、寄宿舎付きの学校を造っている。完成まで、あと四ヶ月くらいだろうか?
学校は出来上がったが、寄宿舎が手間取っている。
一人部屋だと寂しいかもしれないので、二人部屋で造っている。
寄宿舎付きの学校は、専門学部も造りたいと思っている。上位学部の準備もしている。
優秀な人材を、他国にやらないために、研究所も充実させたいと思っている。
孤児院はできたが、この寒さで過ごせるのか不安だ。
小さな子供が通える学校も造る予定だ。
楽しみにしていてくれ。
出産の時、側にいてやれないと思う。背中をさすってやりたいが、長く辺境区を留守にするのも心配なので、一緒にいてやれなくてすまない。
元気な赤ちゃんも待っているが、何よりニナが無事である事を祈っている。
愛している、ニナ。無事な姿を見せてくれ。
ニナに会いたい。

レイン


 レインからの手紙を胸に抱いて、お腹をさする。

 そうね、あっという間に臨月に近づいている。

 私もレインを愛している。

 レインがいた頃は、つわりが酷くて、背中をさすってもらっていた。

 本当はずっと一緒にいて欲しかった。

 会いたい。

 ひとりで、ちゃんと産めるかしら?

 急に不安になる。

 寂しくて、手紙を指でなぞる。

 出産の時は、来てくれると思っていたけれど、そうよね。レインは、ブルーリングス王国の国王陛下ですもの。

 ここには書かれていないけれど、ビストリは何かしていたはずだ。

 きっととんでもない事をしていたから、軽々しく中央都市に戻って来られなくなったに違いない。

 私は大きくなったお腹を撫でる。

 元気な赤ちゃんは、お腹を蹴る。

 私も手紙を書こうと思う。
 


レインへ

お手紙嬉しかった。
辺境区が発展していて、見るのが楽しみです。
おやつが買えるお店があると、学生はきっと喜んでくれると思うわ。
お腹の中で、赤ちゃんが動いています。
レインに触ってもらいたかった。
出産まで、もうすぐです。
きちんと生まれてきてくれることを願っています。
きっとレインにそっくりな子が生まれると思う。
一人で寂しいけど、頑張るから。
早く、会いたい。
レイン、愛している。

ニナ




 私は封筒に名前を書いて、国王陛下の部屋へと向かった。

 階段は、足下が見えなくて、手すりに掴まって歩いている。

 国王陛下の執務室は二階にある。

 ゆっくり一段ずつ下りていく。

 国王陛下の部屋は開いていて、壁をノックして中に入ろうとしたとき、何かが前からぶつかってきて、後ろに弾き飛ばされて、尻餅をついて、床に倒れた。

 お腹の上に乗っているのは、アルフォード王子だった。

 お腹に衝撃があって、ぎゅっとお腹が痛くなった。


「ニナ妃、大丈夫か?」

 
私は首を左右に振った。


「お腹が痛い」

「アルフォード、ニナ妃から離れなさい。室内で走り回ったら、人にぶつかると何度も言ったであろう」

「ごめんなさい」


 アルフォード王子は、急いで立ち上がると、頭を下げて、謝罪をしてくれた。


「ニナ妃、お腹が痛むのではないか?」

「はい、すごく痛いです」

「ニナ妃を部屋まで連れて行きなさい」と、国王陛下の近衛騎士に言っている。

「歩かせるな。抱き上げろ」


 騎士達は怖々、触れてくる。


「大丈夫よ、歩いていけるわ」と言ったが、お腹が痛んで動けない。

「直ぐに医師を呼んでこい」

「国王陛下、手紙を持ってきたの」と、言ったが、手紙は握りしめていた。


 でも、書き直す余裕はない。


 国王陛下の近衛騎士は、私を抱き上げる事ができなかった。

 私、重いのかしら?


「それでも、近衛騎士か?どけ」


 国王陛下が、私を抱き上げてくれた。


「国王陛下、危ないわ。私は重いみたいよ?」

「たいしたことはない」と言って、国王陛下は、私の部屋まで運んでくれた。


 近衛騎士が掛布を捲ってくれた。


「侍女はどうした?」

「マリアは洗濯場に、シュロはお腹が痛いと言うからお休みにしました。ラソは備品が足りないからと、出ています。国王陛下、レインへの手紙を書いたので、一緒に届けてもらおうとしていたのです」

「ノックの音は聞こえていた。悪いのはアルフォードだ。私に甘えてきて、部屋で走り回っていたのだ。すまない」

「子供は元気が一番です」と言って、お腹が痛む。

「医師はまだか?」と国王陛下は声を上げる。

「そこの近衛、フラウの侍女を連れてこい」

「承知しました」


 騎士がひとり、走って行った。

 国王陛下と国王陛下の近衛騎士と、まだ上手く意思疎通ができていないようだ。そもそも、体力がないようです。この近衛騎士では、国王陛下は守れない。

 王妃様と王妃様の侍女が部屋に入って来た。


「どうしたの?まだ予定日ではないでしょう?」と王妃様が言っている。

「アルフォードが部屋を走り回っていて、ニナ妃を押し倒して、腹の上に乗ったのだ」

「なんてこと?」

「いま、ニナ妃の侍女が、皆出払っている。手伝ってやってくれ」


 王妃様の侍女達が、素早く動き出した。


「医師は呼んだの?」

「まだ来ない」

「なんてこと?そこの近衛、呼びに行きなさい」と王妃様が、国王陛下の近衛に言っている。


 まだ、名前も呼んでもらえないのね?

 その気持ちも分かるが、近衛騎士のやる気も出ないかもしれない。

 サンシャインは、国の中枢を壊していったのだと思った。

 どこかから攻められたら、今のニクス王国は負けてしまう。

 赤ちゃん、死んじゃうのかしら?

 お腹が痛い。お腹が痛い。

 レイン、ごめんなさい。

 王妃様の侍女に着替えをしてもらって、髪の金具も外してもらって、髪は自由になった。掛布を掛けてもらうと身体は温かくなるが痛みは消えない。

 お腹を撫でて、赤ちゃんが動いていない。

 どうしよう。


「赤ちゃんが死んでしまった」


 私はお腹を抱えて、泣いていた。


「レイン、ごめんなさい。赤ちゃんが動いてないの。死んじゃった」

「早く、医師を呼んでこい」


 国王陛下の声が頭に響く。


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