上 下
32 / 51

32   攻撃に備えて

しおりを挟む
「父上、大変です」

「どうした?ミルメルが妊娠したか?」

「ミルメルが妊娠したかは分かりませんが、魘されているミルメルの声を辿ったら、リバール王国が、ヘルティアーマ王国に一方的に侵略されておりました。ミルメルを苦しめていたのは、悲鳴と泣き声のようでした」

「それは、本当の事か?」

 父上は、ふざけた顔から、真顔になった。

「だが、ヘルティアーマ王国はずいぶん遠い国だ。リバール王国まで、一年以上かかるのではないか?ミルメルがエリン・マスタード侯爵令息を連れ帰ってから、それほど時間は経っていないが」

「ミルメルの話しでは、土の魔術師が土を動かす魔術を使うと言っておりました。毎日、一国ずつを倒しているとしたら、目指している国は、我がテスティス王国の可能性があります。一週間以内に我が国に到着する可能性があります」

「何故、戦を始めた?」

「元々、ヘルティアーマ王国は軍事国家だったと言っておりました。これは憶測ですが、ミルメルが消えて、妖精の力が同時に消えた可能性があります。ミルメルがいることで、潤っていた大地の恵みが消え去ったとしたら、水は涸れ、作物も枯れ果てている可能性があります。エリンが、我が国の事を話していた可能性はあります。我が国は肥沃の大地と豊富な水があります。それが目的ならば、王族は、真っ先に殺されるでしょう。我が国は闇の属性持ちの国ですが、そのことを知っているかどうかまでは分かりません。国民にも魔力を使う許可を至急出して、敵国が攻めてきた時に、応戦できる者を増やしておくべきです」

「分かった。直ぐに、勅令を出す。刑務官の訓練場を開放して、魔力の練習の許可を出そう」

「よろしくお願いします」

「ミルメルはどうした?」

「強制的に魔力と妖力を混ぜて、俺の力で、定着させました。無茶なやり方をしたので、発熱して、眠っております」

「そうか、よく発見してくれたとお礼を言いたかったが、また後だな」

「今は、やるべき事があります。ミルメルが声を聞き取ってくれたお陰で、不意打ちを食らうことは避けられそうです」

「では、私は、勅令を出しに行ってくる」

「俺は、訓練所に行ってきます。母上と姉上には、安全な地下神殿に移動してもらいましょう」

「ああ、そう伝えておく」

「国民の魔力の使えない者も地下神殿に匿ってもいいでしょうか?」

「いいだろう」

「では、お願いします」

 俺は、刑務官の訓練所に向かった。

 平和な我が国でも、万が一の為に、訓練はしている。防衛できるように、魔術を磨いている。

 普段は俺の護衛をしている側近達が集まってきた。

「この国が狙われている。敵国が来るまでに、およそ一週間以内だ。国民に攻撃魔法の許可を出した。訓練ができるように、訓練所を開放してくれ」

「畏まりました」

 側近の一人が消えた。

「魔術が使えない者は、地下神殿に保護するように」

「畏まりました」

 側近の一人が消えた。

「食料の備蓄を地下神殿に」

「畏まりました」

 側近の一人が、また消えた。

 側近達は、刑務官に指示を出しに行くのだ。

 ダークホールで移動しているので、移動は一瞬だ。

 俺には腕の立つ側近が、十人ほど付いている。

 中には、妖精の姿が見えたり、声が聞こえたりする者もいる。

 俺の周りには、大勢の妖精達がいる。

 ミルメルの周りにも、妖精達が着いている。

 ミルメルの妖力が安定したので、フラウも力を付けるだろう。

『ミルメルはどうだ?』

『ぐっすり眠っています』

 フラウの声が聞こえた。

 会話もできるようになった。

 ミルメルとも早く会話がしたい。

 俺達の未来のために、この戦は、被害が出る前に抑えたい。

 できれば、ミルメルが目を覚ます前に、全て終わらせたい。

 国民達への勅令は、使い魔が行う。

 一瞬で、国中に伝わるだろう。

 オンが、俺の横に並んで歩いている。

『伝わったか』

『国王陛下の使い魔が、勅令を届けた。戦など馬鹿な事を考える』

『ああ、その通りだ。ところで、アイは?』

『ミルメルのベッドの上で転がっていると思うぞ』

『そのベッドは、俺の寝床だが』

『ケチケチするな。今は意識がない。何かあれば、ミルメルを連れて避難する』

『妖精の国に飛んでもいい』

『精霊王がいないのに、ミルメルが悲しむぞ』

『俺は死ぬつもりはない』

 刑務官の訓練所に到着すると、既に一般国民も来ている。

 この国で、ダークホールと使い魔を出すのは、一般常識になっている。

 訓練所に、次々と人が集まってくる。


しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

スコップ1つで異世界征服

葦元狐雪
ファンタジー
超健康生活を送っているニートの戸賀勇希の元へ、ある日突然赤い手紙が届く。 その中には、誰も知らないゲームが記録されている謎のUSBメモリ。 怪しいと思いながらも、戸賀勇希は夢中でそのゲームをクリアするが、何者かの手によってPCの中に引き込まれてしまい...... ※グロテスクにチェックを入れるのを忘れていました。申し訳ありません。 ※クズな主人公が試行錯誤しながら現状を打開していく成長もののストーリーです。 ※ヒロインが死ぬ? 大丈夫、死にません。 ※矛盾点などがないよう配慮しているつもりですが、もしありましたら申し訳ございません。すぐに修正いたします。

【完結】王女様の暇つぶしに私を巻き込まないでください

むとうみつき
ファンタジー
暇を持て余した王女殿下が、自らの婚約者候補達にゲームの提案。 「勉強しか興味のない、あのガリ勉女を恋に落としなさい!」 それって私のことだよね?! そんな王女様の話しをうっかり聞いてしまっていた、ガリ勉女シェリル。 でもシェリルには必死で勉強する理由があって…。 長編です。 よろしくお願いします。 カクヨムにも投稿しています。

30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。

ひさまま
ファンタジー
 前世で搾取されまくりだった私。  魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。  とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。  これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。  取り敢えず、明日は退職届けを出そう。  目指せ、快適異世界生活。  ぽちぽち更新します。  作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。  脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。

愛など初めからありませんが。

ましろ
恋愛
お金で売られるように嫁がされた。 お相手はバツイチ子持ちの伯爵32歳。 「君は子供の面倒だけ見てくれればいい」 「要するに貴方様は幸せ家族の演技をしろと仰るのですよね?ですが、子供達にその様な演技力はありますでしょうか?」 「……何を言っている?」 仕事一筋の鈍感不器用夫に嫁いだミッシェルの未来はいかに? ✻基本ゆるふわ設定。箸休め程度に楽しんでいただけると幸いです。

【完結】聖女にはなりません。平凡に生きます!

暮田呉子
ファンタジー
この世界で、ただ平凡に、自由に、人生を謳歌したい! 政略結婚から三年──。夫に見向きもされず、屋敷の中で虐げられてきたマリアーナは夫の子を身籠ったという女性に水を掛けられて前世を思い出す。そうだ、前世は慎ましくも充実した人生を送った。それなら現世も平凡で幸せな人生を送ろう、と強く決意するのだった。

異世界転移からふざけた事情により転生へ。日本の常識は意外と非常識。

久遠 れんり
ファンタジー
普段の、何気ない日常。 事故は、予想外に起こる。 そして、異世界転移? 転生も。 気がつけば、見たことのない森。 「おーい」 と呼べば、「グギャ」とゴブリンが答える。 その時どう行動するのか。 また、その先は……。 初期は、サバイバル。 その後人里発見と、自身の立ち位置。生活基盤を確保。 有名になって、王都へ。 日本人の常識で突き進む。 そんな感じで、進みます。 ただ主人公は、ちょっと凝り性で、行きすぎる感じの日本人。そんな傾向が少しある。 異世界側では、少し非常識かもしれない。 面白がってつけた能力、超振動が意外と無敵だったりする。

婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです

青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。 しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。 婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。 さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。 失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。 目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。 二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。 一方、義妹は仕事でミスばかり。 闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。 挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。 ※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます! ※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

処理中です...