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20   魔術の練習  攻撃魔法(2)

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 ダークホールのように、闇を吐き出したり吸い取ったりする類いの魔法は、たくさんあった。

 シャドーダンスは相手の影を闇の力で縛り付けて、相手を思うまま操ることができる。

 わたしは、アクセレラシオン様の影を縛り付けて、操ってみた。

 とても面白くて、お人形の操り人形みたいだと思った。

 攻撃に使うときは、関節を逆の方に曲げたりして、やっつける方法が初歩的だと教わった。

 ドッペルゲンガーは、わたし自身や敵の影を闇の力で作り出すのだという。

 影なので、似ていればいいと言われた。

 わたしは自分の分身を作ってみた。

 漆黒のわたしがいたが、アクセレラシオン様が作った分身は色も同じだった。

 これは訓練次第でできるようになるという。

 イメージを具現化するのだという。

 一人の時に、練習するように言われた。

 けれど、わたしには、いつも誰かが一緒にいてくれるのだ。

 練習時間は工面しなければならないだろう。

 マローとメリアは、この魔術を使えるだろうか?

 使えるならば、教わってもいいかもしれない。

 ダークミストは、少し難しかった。

 闇を放つことはできるが、その闇を操り、敵を殺したり痛めつけたりして、最終的に眠らせるのだという。

 この場合の眠らせるというのは、気絶をさせるという意味があるようだ。

 空間に闇を充満させて、闇の魔力を循環させる訓練をしてみたが、思うように魔力が動き回らない。

 ダークゾーンができたので、同じだと言われた。

 これも宿題になった。

 一度、食事に戻り、皆さんと食事をして、ゆっくりお茶を飲んでから、午後の練習をしに、今度はわたしが、ダークホールを作り、先ほど練習をしていた場所に移動した。

 印はなんとなく見つけた赤い石だ。

 親指大の赤い石が、地面に埋まっていたのだ。

 そこをめがけて闇を深くして、飛び込んだら、アクセレラシオン様に褒められた。

 どうやら、その石は、ここの練習場の場所を示した印だったようだ。

 何気なく見つけた物まで、褒めてくれるなんて、どれだけ、甘やかしたら気が済むのかしら?

 確かに印のことは教わっていなかったけれど、なんとなく気になった物を目印にすることは一般的だと思うのだ。

 今日のアクセレラシオン様は、飴と鞭を上手く使って、わたしにいろんな事を教えてくれる。

「午後からは、闇で武器を作ってみようと思う。たぶん、今のミルメルなら、大きな物の方が作れるだろうと思うから、俺の方をよく見て」

「はい」

 わたしはアクセレラシオン様をじっと見た。

 アクセレラシオン様は、わたしに微笑んでから、さっと腕を伸ばした。

 その手には、黒い剣が握られている。

 金の装飾がついた武器は、ものすごく綺麗だ。そして、

「格好いい」

 わたしは、つい口に出して言ってしまった。

 アクセレラシオン様の片手が、わたしを抱き寄せて、唇が重なった。

 アクセレラシオン様の甘美な魔力が、わたしの体に入ってくる。

 とても気持ちがよくて、とても甘い魔力は、わたしの大好物になっている。

 もっとちょうだい。

 わたしもアクセレラシオン様にしがみついて、強請ってしまう。

 流される。

 今は練習の時間なのに。

 唇が離れると、わたしの体内には、わたしとアクセレラシオン様の魔力が混ざり合って、力も満ちている。

「魔力を剣の形に変化させるだけだ」

「はい」

 わたしはアクセレラシオン様がしたように真似て、さっと腕を伸ばした。

 わたしの手にはアクセレラシオン様と似た剣が握られていた。

 金の装飾まで着いている。

「やった!」

 ものすごく嬉しい。

 剣はできると思っていたけれど、金の装飾まではできないかもしれないと思っていた。けれど、アクセレラシオン様の魔力をもらったから、もしかしたら同じ物ができるような気もしていた。

「よくやった」

「アクセレラシオン様のお陰です。お力をいただいたから」

 わたしは剣を振り回してみるが、剣術などやったこともないので、当然、剣が踊っているようだ。

 アクセレラシオン様は、とうとう声を出して笑い出した。

「これは、剣術も教えなくてはならないか?」

「そんなに笑わなくても」

「だが、剣は作れても使い方が分からなければ、何の役にもたたぬぞ?」

「それは、そうかもしれないけれど、とても綺麗な剣よ。格好いいし」

「そうだな、はははっ!確かに美しく、格好いい。だが、これでいいのかもしれぬ。剣などで戦って、怪我でもしたら大変だ。闇の力では、怪我を治すことは不可能だ。どうしても光の魔術師に劣るとすれば、怪我や病気を治せないことだ」

 確かに、光の魔術師は治癒魔法が使える。

 闇属性にないスキルであることは、間違いがない。

 光の魔術師でも、治癒魔法を全ての者が使えるわけではない。
 
 特別に力がある者しか、その力は継承されない。

「そういえば、わたしを治療してくださった光の魔術師の先生は、どうして、闇の一族しかいないテスティス王国にいらっしゃるのですか?」

「コスモス医師は、確かに光の魔術師だ。出身は、ヘルティアーマ王国であるな。国王陛下の国の政策に不満があって、国を出てきたと言っておった。闇属性しかいない我が国なら、快く受け入れてくれるのではないかと思い、旅をしてきたと言っておった。一生を、この国の為に仕えるつもりだと宣言していた。この国で、妻も娶り、王宮の離れで暮らしておる」

「光属性なのに、闇属性の妻と結婚できるのですか?」

「婚姻に属性は、関係ないようだ。コスモス医師には、二人子供がいる。男の子と女の子だ。男の子は闇属性だが、女の子は光属性らしい。国の秘密にされておる。三人目の子が奥方のお腹におるそうだ。どんな属性の子が生まれてくるか、楽しみにしておる」

「光と闇なのに、仲良くできるなんて、羨ましいわ」

「ミルメルは、家族には恵まれなかったから、仕方があるまい。我がテスティス王国では、家族は仲がよい。属性への差別は、今の所、ないな。コスモス医師の子に光属性がいると知った国民が、どう変化するかは、今の所、秘密にして先延ばしにしておる。俺が妖精王だと言うことも秘密にされておる」

「わたしの事も秘密ね」

「ああ、危険は最小限に。俺としては光属性の子が生まれたとしても、受け入れてもらえると信じておる」

「そうね」

「さて、その剣は消してしまってもいいか?」

「勿体ないわ」

「ならば、剣に継続的に魔力を注ぎ込まなくてはならないが、できるのか?」

「できるかしら?」

「ミルメルに聞いておる」

「消えるまで、送り続けてみるわ」

「そうか、やってみるといい。魔力の暴走も起きなくなるだろう」

「そうなのね、それなら尚更、頑張ってみるわ」

「では、最後の魔法を教える。これは、初級、子供でもできる物だ。さて、できるか?」

 アクセレラシオン様は、手を開いた。掌に掌と同じ大きさの剣を出した。

「小さな剣ね」

「ああ、小さくてもいい」

 その小さな剣を空中に浮かせたが、剣が増えている。

 アクセレラシオン様の体の周りに、たくさんの剣が静止している。

 体の輪郭を三倍にしたくらいの多さだ。

 数は数えられない。

「この剣達を、敵へと飛ばすだけだ。下手な剣も数打ち当たるという初級魔法だ」

「えー!これが初級魔法なの?」

「上級になれば、この大量な剣の行き先を魔術で固定させる。だが、今求めているのは、初級魔法の剣を作り出し、投げるだけの簡単な魔法だ。さあ、今日はこれが終わったら、練習も終える。やってみなさい」

 わたしは折角作り出した剣を、地面に置くと、掌に掌大のナイフを作り出した。

 それを浮かせる事はできた。

 けれど、一つずつしか作れない。

「そうではない。無の所からナイフを作り、大量なナイフを浮かせるのだ」

「難しい」

「おやつの時間はなくなってしまうよ?」

「でも、難しい」

「子供でも作れるものだ。コツだけだ。やってみなさい」

「はい」

 わたしは頭の中でイメージを作る。

 ナイフは掌で作らずに、空中で作り出すように魔術を練る。

 アクセレラシオン様は、魔術で作ったソファーにゆったり座って、見物をしている。

 本当に初級魔法なのかしら?

 今まで、一番難しく感じるのだけれど?

「初級だよ」

「アクセレラシオン様、心は読まないでくださいね?」

 ね?

 集中、集中、集中よ。

 ナイフ、ナイフ、ナイフがいっぱい。

 いっぱい出てこい。

 闇のナイフ、いっぱい、いっぱい出てきて。

 わたしの周りに浮かんで。

 意識していないと、剣への魔力が途切れてしまう。

 難しい。

 剣を手放せば、ナイフは作りやすいのかしら?

 でも、剣は持ち帰りたい。

 小さなナイフは浮かんでいない。

 地面を見ると、小さなナイフが、けっこうたくさん地面に落ちている。

「ミルメル、ナイフを浮かせて」

「やってるけど、浮かばないの」

「魔力を回転させるように動かしてみてごらん」

「回転させて、動かすのね」

 ぐぬぬ。

 魔力は体の中から出てくる。

 出てきた魔力がナイフを作り出して、落ちて行く。

 落ちるんじゃなくて、回す。

 回れ、回れ、回れ!

 風が出てきて、木々が揺れている。

「回すのは大気ではなくて、ナイフだ」

「やってるつもり」

 風がうねる。

 うねりと共に、ナイフが浮かび、ナイフが縦横無尽に飛び出した。

「ミルメル。やめだ。ストップ。気を鎮めて、ナイフも風も止めろ」

「できない、きゃ!」

 飛んでいるナイフが腕を裂いた。

 痛い。

 魔力の暴走だ。

 止めないと。

 消えろ。ナイフ消えろ。

 暴風と共にナイフが飛び交っている。

「どうしよう」

 ナイフがわたしを切り裂いていく。

 痛くて、涙が出てくる。

 わたしは、そうね、自殺しようとして森の中に入ったんだもの。

 罰かしら?

 切り裂かれるたびに、真っ赤な血が、風に乗ってそこら中に散らばる。

 わたしは死んじゃうの?

 闇が濃くなると、視覚も聴覚も失った。

 魔力の制御ができない。

 ただの沈黙が訪れた。

 魔力が膨らんでいく。

 ああ、弾けるのね?

 それでもいいかもしれない。

 わたしの終焉ね。

 アクセレラシオン様、最後に素敵な思い出をありがとう。

 さようなら。

 死を覚悟したときに、その体をアクセレラシオン様が抱きしめた。

 瞬間に、暴風は消えた。

 なんて言ったの?

 何か言ったわよね?

 立っていられなくて、わたしはアクセレラシオン様にしがみついたまま意識を手放した。


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