裸足のシンデレラ

綾月百花   

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第十七章

15   内緒のお披露目

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 正式に離婚して、有喜が中国に旅だって2ヶ月になる。

 夏の親睦会の時に、四人で写した記念写真は夏の終わりに我が家に送られてきた。

 そこに彼等の連絡先が記されていた。

『困った事があれば、いつでも連絡して欲しい』と〆に書かれていた。

 代表で送ってくれたのは、雅人だった。

 12月になって、わたくしは、両親にこの離婚を手伝ってくれた息子達の親に合わせたいと相談した。

 一年も有喜を監視して、証拠集めをしてくれた彼らに、どうしたらお礼ができるのだろうと考えていた。

 彼らは子供に会いたいと言っていたので、それが最大のお礼になるような気がしたのだ。

 母は少々、呆れていたけれど、父は許してくれた。


「1日だけ、家を空けてやろう。コックや家政婦にも休みを与えよう。一人の力で、子供の世話ができるなら、招きなさい。お昼のランチは、準備してもらうように頼んでおく」

「ありがとう、お父さん」


 わたしは雅人に連絡した。

 学校がいつ終わるのか分からなかったので、夜の8時に連絡してみた。

 10コール待って繋がらなかったら電話を切ろうと思った。

 9コール目で電話は繋がった。


「円城寺雅人さんのスマホで間違いありませんか?」

『そうです。もしかしたら、桜子お姉さん?』

「ええ、そうです」

『うわっ、嬉しいです』

「今日は離婚ができたお礼をしたくて、子供を見せたいと思ったの。どうかしら?」

『今、俺たち集まっているんだ。会わせてもらえるなら、会わせて欲しい』

「いつ都合がいい?家族もお手伝いさんも席を外してくれるって、内緒の事だから」

『俺たちは学校があるから、土日のどちらかで』

「学校のテストは大丈夫?」



 わたくしは美緒の事を思い出した。

 いつも勉強ばかりしていたから、時間はあまりないかもしれない。

 三人の相談している声が聞こえる。

 そこにいるのだと思うと、なんだか温かい気分になる。



『それなら、遅くなるけれど12月の第四土曜日でもいい?冬休みに入るんだ』

「その日に合わせるね。時間はどうする?お昼の準備はできるけれど」

『それなら10時くらいに行くね』

「その日、わたくしと子供だけになるから、大騒ぎになると思うけれど、覚悟して来てね」

『はい』

「それじゃ、待っているわ」



 ちょうどクリスマスが終わった時期だ。

 小野田の家に戻って来てから、気がかりだった椿と百合が、すぐに立ち上がった。

 まだ上手ではないけれど、歩き回れるようになった。

 会話をすると、話もするようになってきた。

 やはりベビーベッドの中に閉じ込められていたのがよくなかったのだろう。

 雇われていた保育士も、よい人ではなかったのかもしれない。

 食べ物も普通食が食べられるようになった。

 雅人は3歳8ヶ月。巧己は2歳8ヶ月。椿と百合は1歳11ヶ月。琉真は8ヶ月になる。

 同じ名前なので、彼らをどう呼んだらいいのか、わたくしにはまだ分からない。

 かけた電話を登録して、『雅人』と記入した。

 両親に約束の日付を知らせた。
 



 …………………………*…………………………




 約束の日は、料理を温めるだけの物を用意された。

 コックが電子レンジの使い方を教えてくれる。

 本当は出来たての料理の方が美味しいと思うけれど、文句は言えない。

 メインは温めなくてもいいちらし寿司にされた。お吸い物はかき混ぜながら、コンロで温めるのだと言う。

 実際にやってみた。お肉料理は電子レンジにかける。ちらし寿司とサラダはラップがかけられている。

 子供達は生ものが食べられないので、特性のお子様ランチが用意された。

 椿や百合も二人に合わせた物が、用意されている。


「両親が頑張りなさい」と言って出かけた。


 わたくしも子守をするようになったけれど、一人で五人の世話をしたことがない。

 雅人と巧己は、もうトイレにも行けるので、それほど大変ではないと思うけれど、椿と百合と琉真が一度に泣きだしたら、手が足りない。

 インターフォンが鳴って、わたくしは急いで扉を開けた。

 三人の彼らは、黒っぽいコートを着て立っていた。



「桜子お姉さん、いきなり扉を開けたら危ないよ」

「俺たちじゃなかったらどうするの?」

「泥棒かもしれないよ?」

「そうね。そうだったわ。いつも出ないから、慌ててしまって」


 彼らは笑っている。


「入って、寒かったでしょう?」

「そうだね。でも、天気がよくて良かったよ」

「「「お邪魔します」」」



 初めて、三人を招いた。

 わたくしの後を追いかけてきた雅人と巧己が、ポカンと三人を見上げている。


「ママのお友達よ。雅人、巧己」

「「こんにちは」」


 二人はきちんとご挨拶をした。



「「「こんにちは、雅人君と巧己君」


 恥ずかしいのか、わたくしの後に隠れようとしている。


「ここは寒いから居間にどうぞ」


 居間は家族がゆったり暮らせるように、ソファーとテレビが置かれている。

 床に座ってもいいように、絨毯も敷かれているので、ここで子供達の世話をしている。

 琉真のベビーベッドもここに置かれている。

 この時間は寝ている。

 床では、双子が玩具で遊んでいる。テレビにはアニメが流されている。

 その部屋に招き入れた。


「足の踏み場がないほど子供達がたくさんいるから、踏まないようにね」


 彼らが笑った。


「踏まないよ」

「踏むわけ、ないでしょう?」

「お姉さん、面白い」


 部屋は暖かなので、彼らは上着を脱いだ。

 リュックと一緒に上着を部屋の端に置くと、ソファーに座らずに、床に座って、子供達の目線に合わせた。


「お兄さん、なんて名前なの?」


 雅人が代表で、質問している。


「実はね、雅人君達と同じ名前なんだ」


 雅人君が代表で答えている。


「ママが真似っこしちゃったの」


 わたくしは、急いでフォローをする。


「格好いい、名前でしょう?だからね」


 子供達はどんな反応をするのか、緊張してきた。

 わたくしは緊張しているけれど、彼らは少しも緊張していない。



「雅人です。まー兄ちゃんでいいよ」

「巧己です。たー兄ちゃんでいいよ」

「琉真です。りゅー兄ちゃんでいいよ」



 彼等は自己紹介をしてくれた。



「「わー、ほんとうに同じだ」」


 雅人と巧己が目をまん丸にしている。

 椿と百合がスクッと立ち上がると、「「だっこよ」」と雅人と琉真に抱きついていった。

 二人は小さな娘達を抱っこしてくれた。

 まるで親に縋るように、抱きついている。



「雅人君、巧己君、たー兄ちゃんのところにおいで」


 雅人は躊躇っていたけれど、巧己は抱きついていった。


「雅人君、おいで」

「まー兄ちゃん、抱っこ」


 雅人は雅人君に抱きついた。

 血が血を呼ぶのか、相性なのか?

 顔立ちを見ると、よく似ている。

 やはり血が血を呼ぶのかもしれない。

 椿と百合は本能だろう。


「まー兄ちゃんのお膝には、ぼくと椿が抱っこね。たー兄ちゃんのお膝には巧己が抱っこね。りゅー兄ちゃんのお膝には、百合が抱っこね」



 雅人が嬉しそうに言った。

 彼らは大切に抱っこしてくれている。

 わたくしは、その様子を、一人ずつ写真に写した。


「後で、送ってくれる?」

「「俺も」」



 彼らは嬉しそうにしている。


「遺伝子かな?」と琉真が言っている。


 椿と百合の父親の事を考えたことはなかったけれど、こうして抱かれている姿を見て、似ていると思う。

 大騒ぎになるかと思ったけれど、子供達は遊んでもらえて喜んでいる。

 わたくしは、何枚も写真を撮った。

 琉真が起きて、わたくしはオムツを交換してから、ミルクを作りに出た。

 戻ってくると、琉真が琉真に抱かれていた。

 立って、ゆらゆらとあやされている。

 百合は巧己が抱いていた。

 いつもは大泣きするのに、喜んで声を上げている。


「りゅー兄ちゃん、すごい」


 雅人と巧己が、また目をまん丸にしている。


「ミルク、飲ませてもいい?」

「いいよ」


 琉真は座ると、ご機嫌になった琉真を抱いて、ミルクを飲ませ始めた。

 その姿も写真に写していておく。

 いつもより、穏やかな顔をしているように見えるのは、きっと錯覚ではないと思う。

 ミルクを飲んでいる姿を、雅人と巧己もじっと見ている。


「ママ、おなかすいた」

「ぼくも」

「ごはん、ほちい」

「ママ、ごはん」


 子供達は、急にお腹が空いたのか、一斉に訴えてきた。


「見てて、もらえます?」

「任せて」

「急いで怪我しないようにね」

「お願いします」

 わたくしは、急いでダイニングに移動して、まず子供達の食事の準備をすると、スープを温め、電子レンジでお肉を温めて、ガスコンロの前に戻った。

『混ぜていてくださいね』と言われた事を思いだした。

 沸騰する前にガスコンロの火を消すと、スープカップに移して、運んで行く。

 電子レンジからお肉を出すと、大皿に移し替えて、それも運んで行く。

 ちらし寿司とサラダのラップも外して、割り箸も並べた。

 お茶も淹れて、並べた。


(なんとかできた)



 居間に戻ると、ミルクを飲み終えた琉真が、甘えるように琉真に抱かれていた。

 部屋の中が、信じられないほど静かだ。


「食事の支度できたよ。雅人と巧己は手を洗ってね」

「「はーい」」


 二人は手を洗いに出かけていった。


「ダイニングにどうぞ。ついでに抱いていってもらえると助かるわ」

「「「任せて」」」


 わたくしは使用済みの哺乳瓶を持って、ダイニングルームに皆を連れて行った。

 既に、雅人と巧己が椅子に座っていた。椿と百合を順番に受け取って、椅子に座らせる。


「空いている席にどうぞ」

「「「ありがとう」」」


 最後に琉真をベビーベッドに寝かせると、椿と百合の手をお手拭きで拭いて、やっと椅子に座れた。


「いただきます」

「「「「「いただきます」」」」」

「「いたましゅ」」


 雅人と巧己は自分で食べられるけれど、椿と百合はまだ手伝いが必要だ。

 この家に来て、いろんな事ができるようになったが、まだ放置はできない。

 左右に座らせて、順番に食事を介助する。

 わたくしや子供達の様子を見ながら、彼らも食事を始めた。

「お肉は、大皿でごめんなさい。取って食べてね」

「料理も作ったの?」

「料理はコックが作ったのよ。それを温めただけよ。お料理は苦手なの」



 彼らは微笑んで、お肉をサラダの横に盛り付けてくれる。

 先に食事終えた彼らは、子供達を見ていてくれる。

 わたくしは、急いで食事をしようと焦っていると、「ゆっくりどうぞ」と声をかけてくれる。

 子供達は彼らによく懐き、ホッとして、ゆっくり食事ができた。

 食器をキッチンに運んで、洗い物は水に浸けておく。

 テーブルの上を片付けると、もう一度、居間に移動する。

 琉真を抱こうとしたら、琉真が琉真を抱いてくれた。


「ありがとう」

「人の子とは思えなくてね」


 わたくしは微笑んだ。

 最後に生まれた子は、確かに彼に似ている。

 居間に移動すると、彼らはリュックの中からプレゼントを出した。


「雅人君、おいで」

「はい」

「まー兄ちゃんからのプレゼント」

「ありがとう」


 雅人は大喜びしている。

 箱を持って、わたくしに見せに来た。


「よかったね」

「巧己君、おいで」

「はい」


 名前を呼ばれるのを待っていた巧己は、すっと立った。


「たー兄ちゃんからのプレゼント」

「ありがとう」


 駆け寄って、プレゼントをもらうと、巧己もわたくしにプレゼントを見せに来た。


「よかったね」

「あけてもいい?」

「「いいよ」」


 二人は座りこんで、包装を開けだした。


「椿ちゃん、おいで」

「あい」

 
 椿は立ち上がると、雅人の前まで歩いて行くと、膝にちょこんと座った。


「プレゼントだよ」


 プレゼントをもらって、袋を上下に上げて喜んでいる。


「百合ちゃん、おいで」

「あい」


 百合は琉真の前まで行くと、やはり膝にちょこんと座った。

 頭を撫でてから、琉真は百合にプレゼントの袋を渡した。

 やはり袋を上下に揺らして喜んでいる。

 椿と百合は包装を開けてもらうと、出てきた色違いのクマのぬいぐるみをもらった。

 タオル地でできたぬいぐるみは、手で掴めるので、あの子達にはちょうどいい。


「あーと」

「あーと」


 と、二人とも初めてのぬいぐるみとじゃれ合っている。

 雅人と巧己は、人気の戦隊物の変身ベルトをもらって、大喜びだ。

 色違いなので、間違うことはないだろう。


「まー兄ちゃん、ありがとう」

「たー兄ちゃん、ありがとう」

「「どういたしまして」」


 四人が笑顔になっている。

 最後に琉真が包みを取り出した。

 それを開けると、タオル地のウサギのぬいぐるみだった。

 大きさは手で持って遊べる大きさだ。


「琉真、プレゼントだよ」

「あうあう」


 琉真の手に持たせると、琉真は手を振り回している。

 ひとしきり遊ぶと、子供達は疲れてお昼寝タイムになった。

 居間にダブルの布団が置かれていて、それを伸ばすと、コロンと横になって、寝てくれる。

 玩具を抱えたまま、四人はすっかり眠った。

 毛布を二枚掛けて、やっと落ち着いた。

 琉真も寝てくれたので、ぬいぐるみは縁に寄せて、ベビー毛布を掛けた。



「今日はありがとう」

「こちらこそ、招いてもらえて嬉しかった」

「会いたかったけれど、会えないと思っていたから」

「抱っこさせてもらえるとは思ってなくて、嬉しかった」


 わたくし達は連絡先を交換した。ラインも交換してグループも、作った。


「時々、写真を載せるわ」

「そうしてもらえると嬉しい」

「俺も成長が楽しみだ」

「成長を見られるなんて、本当に嬉しい」


 彼らは美緒と同じで司法試験まで合格できているらしい。

 わたくしは、弁護士になるまで頑張って欲しいとお願いした。

 卒業したら就職すると言っていたので、努力を無駄にして欲しくはなかった。

 わたくしが騙すように誘ってしまった事を謝罪した。

 子供達の責任は、彼等にはない事も話した。

 だから、自分の道を歩いて欲しいとお願いした。

 彼等には彼等の未来がある。

 わたくしの都合に合わせて欲しくはなかった。

 いつか好きな人が現れたら、その人と結ばれて欲しいと話した。

 彼等は黙って、わたくしの話を聞いてくれた。

 そして最後には「分かりました」と答えてくれた。

 わたくしは、三人を順番に抱きしめて、そして、彼等は帰っていった。

 
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