裸足のシンデレラ

綾月百花   

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第十五章

7   夏の親睦会

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 今年の夏の親睦会は9日にホテルに入って、夜のパーティーで光輝さんはスピーチと乾杯をする。

 10日はダンスパーティー。11日は花火。12日は会議、夜はパーティー。13日の朝食を食べたら帰宅予定。

 わたしは妊娠5ヶ月の中期に入る。安定期に入るので、子供達に花火を見せてあげたい。

 二人には甚平を買った。

 寝間着にもなるので、色違いのお揃いだ。

 晴輝は2歳10ヶ月。輝明は1歳。

 また部屋でお留守番になるが行きたいか?と聞いたら、晴輝は行きたいと言った。

 ティファさんに会えるのが、楽しみなのだろう。


「ティファお姉さんと約束したんだ」


 フッと笑みが浮かぶ。

 今年はティファさんに頼んで、プールに入れてもらってもいいだろう。

 去年のご褒美でもらったタブレットで、晴輝はティファさんと定期的に会話をしている。

 ティファさんは英語を教えているようで、英語で話して、理解できないときは日本語で教えているようだ。マンツーマンの英会話は、なかなか効率よくネイティブな英語を話せるようになっている。

 なので、わたしが妊娠したことも知っている。

 うちのことは、全て筒抜けだ。

 時々、輝明が出て、意味不明な言葉を話している。

 それでも、相手になってくれている。

 我が子達には、いい刺激になっている。




 …………………………*…………………………


 

 ホテルに到着すると、既に和真さんとティファさんが来ていた。

 晴輝がティファさんの姿を見て、走って行く。


【元気だったか?】

【会いたかった】


 まるで恋人同士のように抱き合う二人を見て、光輝さんと笑う。


「早かったな」

「ああ、ティファが早く行きたがってね。仕事が終わったら、その日の最終便で飛行機に乗ったんだよ」

「晴輝が予定を教えたんだな?」

「ああ、兄さんの家のことは何でも知っているよ。全部、晴輝が教えてくれる」

「隠し事もできないな」

「食事のメニューまで教えてくれるよ」

「参ったな」


 光輝さんは少しも困った様子はないように笑っている。


「それで、美緒ちゃんは順調?」

「今回はつわりも軽くて、入院もせずに安定期に入ったの。よかったよ」


 わたしはお辞儀をした。

 輝明は光輝さんが抱いている。


「画面でいつも見ているけど、実物を見ると、二人とも大きくなったな」

「ああ、輝明も重いぞ」


 光輝さんは輝明を和真さんに抱かせた。

 輝明は、キョトンとしている。

 顔は見たことがあるので、困惑しているようだ。


「ママ」


 輝明は、わたしに手を伸ばしてきた。

 泣かなかっただけ偉い。

 わたしは輝明を抱いた。

 むぎゅっと抱きついてくる。


「恥ずかしかったのかな?」

「今年も会議が終わったら帰るのか?」

「ああ、翌日の朝に帰るつもりだ。一緒に来るか?」

「そうさせてもらうよ。晴輝と遊ぶ約束をしているんだ。特にティファがな」

「ここは暑い、部屋に行こう。ティファ、晴輝を連れて来てくれ」

「おう」


 光輝さんは、わたしから輝明を抱くと歩き始めた。

 確かに、ロビー近くは暑い。

 晴輝はティファさんに抱かれている。




 …………………………*…………………………




 今年の写真撮影は子供二人にスーツを着せた。

 二人とも新調した。

 わたしはマタニティードレスを数着新調してもらった。

 落ち着いた桃色のマタニティードレスを着て写真を撮ってもらった。

 晴輝も輝明もそれぞれ写真を撮られて、わたしと光輝さんのツーショットも撮られた。

 広報誌に使われる写真だ。

 子供達の写真は載せないでと言いたいが、毎回、成長を楽しみにしている老人もいるそうなので、最低限にして欲しいと頼んで、光輝さんが許可を出している。

 ティファさんは、美しい白銀のドレス姿だ。髪をアップして、ダイヤモンドが散りばめられたアクセサリーでデコルテを飾っている。

 髪にも美しい髪飾りが輝いている。

 その姿を、晴輝は「きれい」と呟きながら感動している。

 ティファさんに微笑まれて、頬を赤くしている。

 これは、もしや、晴輝の初恋ではないか?と心配してしまう。

 和真さんはダークグレーのスーツを着ていた。わたしが贈ったネクタイをしてくれている。心遣いが嬉しい。

 写真撮影を終えると、部屋に戻って、二人をお風呂に入れて、寝間着を着せると、夕食を食べさせる。

 いつもより早いが、出された物は食べてくれる。

 歯磨きまで終わらせて、玩具で遊ばせる。


「晴輝、輝明と遊んであげてね」

「はい」

「DVDも見ていいから。お仕事が終わるまで、待っていてね」

「はい」

「いい子だ」


 光輝さんは大袈裟なほど二人を褒めた。

 水野さんと五十鈴さんと加羅さんに頼んで、SPも室内と扉前に待機してもらう。


「行ってきます」

「いってらっしゃい」


 晴輝は、手を振ってくれた。

 寂しそうだけれど、『パパの仕事』と理解している。



 …………………………*…………………………




 始めに光輝さんのスピーチ、乾杯から親睦会が始まった。

 二十歳に出会って、わたしも26歳になった。親睦会も11回目となると慣れてきた。

 最初の頃は飾りだったけれど、一緒に会話もできるようになった。

 初日はお肉祭りで、バイキングがある。

 その脇で、6人掛けのテーブルに座って、総帥に直々に話ができるスペースが作られている。

 挨拶だけの人もいるけれど、いろんなお願いを言ってくる人もいる。

 最初に来たのは桜子さんと有喜さん夫婦だった。


「総帥、お祝いをありがとうございました」

「年子で双子の育児は大変じゃないか?」

「住み込みの保母を二人と通いの家庭教師を一人雇っています。一時期、桜子さんのお母様が家政婦を連れて手伝いに来てくださいました。今は実家からも母や家政婦が来てくれるので、それほど大変ではありません。ベビースイミングは母達が雅人と巧己を入れてくれています」

「それは、すごいな」

「はい、母が張り切っておりますので、母が若返ったと父が言っております」

「桜子は、ゆっくり休めているか?」

「ええ、子育てはお義母さんが仕切っているので、わたくしがすることもあまりないのよ。だから、ゆっくりさせてもらっているわ」


 桜子さんは、産後7ヶ月だと思うけれど、スタイルも戻って、以前より美しくなったような気がする。

 ドレスは、青いスリットドレスを着ていた。

 結婚前と少しも変わらないような気がする。

 ダイヤモンドのアクセサリーで、胸元を飾って、耳にもお揃いのようなピアスをしている。

 指先は水色と白のグラデーションに染められ、銀色に輝くビーズが爪の根元に並んでいる。

 子育てをしていない指だと思った。


「今回も子供は置いて来たのか?」

「はい、子守にあてる人が足りませんので」

「そうか、上の子供達だけ連れてきて、花火を見せてやったら喜びそうだが」

「まだおとなしくできませんので」


 相当、家の中は慌ただしいのだろう。

 桜子さんの子供は、一人も見たことはない。

 また、桜子さんもうちの子を見たことはないと思う。

 有喜さんは、興味はありそうだが部屋に訪ねて来たことはない。

 わたしは、あまり関わり合いたくないので助かっている。

「それでは」と二人とも席を立った。

 今回の親睦会もいつもと変わらない。

 定期挨拶に、縁談のお願い。心配事の相談。弁護士対応の物は、円城寺家の弁護士事務所を紹介する。

 所長の名刺を渡している。

 あっという間に21時になった。

 時間に終わるように、光輝さんの秘書が人数制限をしているので、トラブルがなければ、時間に終わる。

 時間になったので、ふたりで急いで部屋に戻った。


 

 …………………………*…………………………



 以前は部屋に入ると、輝明が泣いていたけれど、今回は二人とも仲良く遊んでいた。


「「ただいま」」

「パパ、ママ、お帰り」

「パパ、ママ」


 わたしの姿を見ると、輝明がスクッと立ち上がった。

 晴輝はわたし達の方に駆けてくる。

 晴輝を抱き上げて、頭を撫でる。

 重いので、すぐに光輝さんが受け取ってくれた。

 わたしは、まだ歩けない輝明に近づく。

 三歩、前に出て、ストンと座った。


「すごいわ。三歩歩けた?」

「歩いたな」


 光輝さんにも見えたようだ。

 輝明は両手を上げて、待っている。


「ママ」

「ただいま、いい子だったね」


 抱き上げると、輝明は甘えてくる。

 泣き声のない部屋で、二人の成長を感じる。

 わたし達が戻ってきたので、水野さん達は、部屋に戻ってもらった。

 部屋の外には、2人体制で、警備が付くが、部屋の中は家族だけになった。


「美緒、先に風呂に入っておいで」

「それじゃ、お願いします」

「晴輝はお片付け、一緒にしよう」

「はい」


 光輝さんは輝明を抱いて、晴輝と一緒にラグの引かれた床に座る。

 その様子を見てから、ゲストルームに入って、着替えと化粧ポーチを持つと、お風呂に向かった。

 光輝さんはタキシードの上着を脱ぐと、ラグの上に畳んで置いた。

 以前なら投げていたが、晴輝の躾のために、気を遣っている。

 わたしは、メイクを落とすと、洗顔をして頭と体を洗った。

 少しだけ温泉に浸かって、シャワーを浴びて寝間着を着た。

 洗面所の中で髪を梳かして、肌を整えるとドライヤーで髪を乾かす。

 それから、光輝さんと代わった。

 晴輝と輝明は、そろそろ寝る時間だ。

 二人をトイレに連れて行って、寝室に入った。

 ダブルベッドが二つ並んでいる。

 晴輝と輝明を並べて、添い寝をする。


「おやすみ」

「おやすみ」

「みー」


 子守歌を歌うと、すぐに寝てくれる。

 母乳をあげていたときの歌は、今は子守歌になっている。

 二人が眠ったのを見てから、ベッドから下りて、寝室を出た。

 ダイニングテーブルの上に食事が並べられていた。



「寝たか?」

「ぐっすり」

「食事にしよう」

「お酒を注ぎましょうか?」

「いや、今夜はいい。この時間から食べると胃もたれを起こすな」

「そうね。パーティーの前に食べたらどうかな?帰ったら、軽く食べるか、お酒を飲むか?」

「明日から、パーティー前に食べるか?」



 お風呂に入って、子供を寝かせると、時間が益々遅くなる。

 二人だけの時とは違うので、パーティー時の生活スタイルを変えなくては、自分たちが疲れ切ってしまう。



「美味しそうなスイカ」

「この時間から食べ過ぎると、夜中にトイレに行きたくなるよ。まあ、それを考慮して、少なめではあるが」

「お腹が空いたわ」

「食べよう」

「「いただきます」」



 豪華な料理を食べて、寝る支度だけはしてしまう。

 ソファーに移動して、料理を下げてもらう。



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