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第四章
4 円城寺の実家、激怒
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昨日はずらりと並んでいたメイド達は、今日はいなかった。けれど、いきなり開けられた玄関で掃除をしていたメイドは、慌てて一礼した。
「ご尊父様、お帰りなさいませ」
「真澄はいるか?ついでに香織さんも連れてきてくれ、第一応接室だ」
「畏まりました」
メイドは慌てて、屋敷の中に入っていった。
第一応接室と第二応接室は、どう違うのだろう?
昨夜は第二応接室だった。
今日の光輝さんは、手を繋いだままだ。
お爺さまは、一つの扉の前で足を止めると、扉を開いた。
「わぁ……」
つい声が出てしまった。
昨日の部屋も豪華だったけれど、この部屋は大きな花瓶に花が生けられて、ソファーセットも豪華で広めだ。部屋自体も広く明るい。
部屋の中に入ると、花の香りがする。電灯も小さなシャンデリアのようで洒落ている。壁にはひまわりの絵画が飾られていた。
「綺麗なお部屋ね」
「ここが正式な客間だ。昨日は嫌がらせを受けていたのだ」
「そうなのね、あの部屋も美しい絵が飾られていて、立派なソファーが置かれていたわ」
「まあ、それなりだ」
お爺さまは一人がけのソファーに座った。
光輝さんとわたしは、4人掛けのソファーに座った。
扉がノックされて、「失礼します」と女性の声が聞こえた。メイドが部屋に入ってきて、お茶が並べられた。
メイドは一礼して、部屋から出て行った。
(今日は日本茶が出されたわ)
美しい黄緑の緑茶が美しい白磁器に入れられていた。
お爺さまはお茶を飲んで、ひとつ頷いた。
「美緒さんも飲みなさい」
「はい、いただきます」
湯飲みを持って飲んでみると、甘みのある美味しいお茶だった。
「美味しいです」
「そうか、よかったな」
お爺さまの眼差しは、ずっと優しげだ。
光輝さんもお茶を飲んでいる。
「質は落ちていないようですね」
「あの愚息は、安物を出した事があったからな。まったく……」
(まったく……なんだろう?愚息って、光輝さんのお父様の事だよね?仲が悪いのかな?光輝さんをネグレクトしていたから?)
暫く待つと扉がノックされて、開けられた。
「父上、急にどうなさったのです?」
そう言って入って来たのは、光輝さんのお父様だった。その後に、お母様も入って来て、すぐに二人はわたしを見て、そして光輝さんを見た。
「光輝、父上に縋ったのか?」
「いいえ、ご挨拶に窺っただけです」
「真澄、先に座りなさい」
「……すみません」
光輝さんのご両親は、お爺さまに逆らえないようだ。
二人はソファーに座った。
「先ほど円城寺グループの総帥の座を光輝に譲った」
凜と響くような声でお爺さまは告げた。
「どうして、いきなり光輝が継ぐのです?この私ではないのですか?」
「おぬしには人を引っ張る素質はない。海外出張と言って豪遊していることに気付かぬと思っていたか?」
「それは違います。接待です」
「接待か?便利な言葉だ。この不景気な世だからな、人員整理もせねばならぬと考えておった。金食い虫は、円城寺グループには要らぬ」
「父上!考え直してください」
光輝さんのお父様は、絨毯の敷かれた床に膝をついて、お爺さまの椅子に縋り付いた。
「鬱陶しい!離れよ」
「……はい」
お父様はソファーに戻ったけれど、顔色は蒼白だ。お母様もお父様と同じ顔色をしていた。
「わしは光輝が子供の頃から、次に継ぐ者は光輝として教育をしてきた。
現在も名だけわしになっておるが、仕事をしておるのは光輝だ。
いつまでも影武者では光輝の実力を見せつけられないであろう。
わしもいい歳だ。後継者に譲ってもいいかと思ったのだ。これからは、光輝に傅くがいい」
二人の視線が光輝さんに向かった。
「光輝、私は光輝の父だ」
「そうですね。この世に誕生させていただきました。けれど、俺を育てたのは、お爺さまと叔母達です。血の繋がりよりも、もっと濃い物があることを教えていただきました」
「光輝!」
「両親の腕で眠った記憶はありません。どうぞ、心置きなく隠居していただきたい。俺も所帯を持ちましたので、ご安心ください」
光輝さんは、ジャケットの内ポケットから書類を出した。それを広げてテーブルの上に置いた。婚姻届受理証明書だった。
「勝手に入籍したの?」
お母様は悲鳴のような声を上げた。
「はい、お爺さまには許していただきました。この縁をくださったのはお爺さまですので」
「わしはいい縁だと思っておったぞ」
「この先は、お爺さまから譲られた総帥として、美緒と歩いて行きます」
わたしは内心で拍手していた。
(光輝さん、格好いいです!ブラボーです!素敵すぎます!これこそ、仕返しです!)
「週明けにも辞令を出そう。身の丈にあった生活をしなさい」
お爺さまは、それだけ言うと、席を立った。
光輝さんは、わたしの手を掴むと立ち上がって、お爺さまの後に続いた。
「ご尊父様、お帰りなさいませ」
「真澄はいるか?ついでに香織さんも連れてきてくれ、第一応接室だ」
「畏まりました」
メイドは慌てて、屋敷の中に入っていった。
第一応接室と第二応接室は、どう違うのだろう?
昨夜は第二応接室だった。
今日の光輝さんは、手を繋いだままだ。
お爺さまは、一つの扉の前で足を止めると、扉を開いた。
「わぁ……」
つい声が出てしまった。
昨日の部屋も豪華だったけれど、この部屋は大きな花瓶に花が生けられて、ソファーセットも豪華で広めだ。部屋自体も広く明るい。
部屋の中に入ると、花の香りがする。電灯も小さなシャンデリアのようで洒落ている。壁にはひまわりの絵画が飾られていた。
「綺麗なお部屋ね」
「ここが正式な客間だ。昨日は嫌がらせを受けていたのだ」
「そうなのね、あの部屋も美しい絵が飾られていて、立派なソファーが置かれていたわ」
「まあ、それなりだ」
お爺さまは一人がけのソファーに座った。
光輝さんとわたしは、4人掛けのソファーに座った。
扉がノックされて、「失礼します」と女性の声が聞こえた。メイドが部屋に入ってきて、お茶が並べられた。
メイドは一礼して、部屋から出て行った。
(今日は日本茶が出されたわ)
美しい黄緑の緑茶が美しい白磁器に入れられていた。
お爺さまはお茶を飲んで、ひとつ頷いた。
「美緒さんも飲みなさい」
「はい、いただきます」
湯飲みを持って飲んでみると、甘みのある美味しいお茶だった。
「美味しいです」
「そうか、よかったな」
お爺さまの眼差しは、ずっと優しげだ。
光輝さんもお茶を飲んでいる。
「質は落ちていないようですね」
「あの愚息は、安物を出した事があったからな。まったく……」
(まったく……なんだろう?愚息って、光輝さんのお父様の事だよね?仲が悪いのかな?光輝さんをネグレクトしていたから?)
暫く待つと扉がノックされて、開けられた。
「父上、急にどうなさったのです?」
そう言って入って来たのは、光輝さんのお父様だった。その後に、お母様も入って来て、すぐに二人はわたしを見て、そして光輝さんを見た。
「光輝、父上に縋ったのか?」
「いいえ、ご挨拶に窺っただけです」
「真澄、先に座りなさい」
「……すみません」
光輝さんのご両親は、お爺さまに逆らえないようだ。
二人はソファーに座った。
「先ほど円城寺グループの総帥の座を光輝に譲った」
凜と響くような声でお爺さまは告げた。
「どうして、いきなり光輝が継ぐのです?この私ではないのですか?」
「おぬしには人を引っ張る素質はない。海外出張と言って豪遊していることに気付かぬと思っていたか?」
「それは違います。接待です」
「接待か?便利な言葉だ。この不景気な世だからな、人員整理もせねばならぬと考えておった。金食い虫は、円城寺グループには要らぬ」
「父上!考え直してください」
光輝さんのお父様は、絨毯の敷かれた床に膝をついて、お爺さまの椅子に縋り付いた。
「鬱陶しい!離れよ」
「……はい」
お父様はソファーに戻ったけれど、顔色は蒼白だ。お母様もお父様と同じ顔色をしていた。
「わしは光輝が子供の頃から、次に継ぐ者は光輝として教育をしてきた。
現在も名だけわしになっておるが、仕事をしておるのは光輝だ。
いつまでも影武者では光輝の実力を見せつけられないであろう。
わしもいい歳だ。後継者に譲ってもいいかと思ったのだ。これからは、光輝に傅くがいい」
二人の視線が光輝さんに向かった。
「光輝、私は光輝の父だ」
「そうですね。この世に誕生させていただきました。けれど、俺を育てたのは、お爺さまと叔母達です。血の繋がりよりも、もっと濃い物があることを教えていただきました」
「光輝!」
「両親の腕で眠った記憶はありません。どうぞ、心置きなく隠居していただきたい。俺も所帯を持ちましたので、ご安心ください」
光輝さんは、ジャケットの内ポケットから書類を出した。それを広げてテーブルの上に置いた。婚姻届受理証明書だった。
「勝手に入籍したの?」
お母様は悲鳴のような声を上げた。
「はい、お爺さまには許していただきました。この縁をくださったのはお爺さまですので」
「わしはいい縁だと思っておったぞ」
「この先は、お爺さまから譲られた総帥として、美緒と歩いて行きます」
わたしは内心で拍手していた。
(光輝さん、格好いいです!ブラボーです!素敵すぎます!これこそ、仕返しです!)
「週明けにも辞令を出そう。身の丈にあった生活をしなさい」
お爺さまは、それだけ言うと、席を立った。
光輝さんは、わたしの手を掴むと立ち上がって、お爺さまの後に続いた。
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