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3   御曹司と出張

3   出張ってデートですか?

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「午後の仕事はいいんですか?」
 ホテルの売店で、水着を買ってもらいプールに入っている。
 ビキニは胸が目立って恥ずかしいが、大きな胸は変えられない。
 中学生の時に、急激に成長してセーラー服が窮屈になった。高校生の時もどんどん成長して下着を何度も買い換えた。胸が目立たないようにベストを常用していたが、あるものはある。
 あだ名は乳牛になったが、からかわれるだけで虐めは起きなかった。
「乳がでるの?」と興味深そうに真顔で男子に聞かれたが、出るはずもない。
 高校生の時、両親が亡くなって、一人になってからメイド喫茶に勧誘されてバイトを始めたが、メイド喫茶に務めたら、風俗に誘われて、断るのに大変だった。
 メイド喫茶の店長に守られて、大学生の時もそのままメイド喫茶に務め続けた。
 メイド喫茶の店長に「このままここに就職してもいいよ」と誘われたが、メイド喫茶では年齢に限界が出てくる。
 30歳になったら、絶対に似合わないメイド服を着て仕事はできない。
 どうしてもきちんと就職したかった。
「亜梨子、ボール取っておいで」
 やっと就職した会社は頭がピン色に染まってしまいそうなエッチな仕事場だった。
 爽やかでかっこいい社長が、上半身裸で手を振っている。
 平日のホテルのプールは貸し切り状態で、プールの真ん中でビーチボールを投げて遊んでいる。
(これが仕事ですか?社長)
 胸は成長したが、身長が145㎝しかない亜梨子は、プールの中ではあっぷあっぷしてしまう。
「社長、手加減してください」
 泳ぎも得意ではないので、泳ぐこともできない。
 やっとボールの浮いている場所まで移動すると、目の前に突然、誉が顔を出した。
「うわぁ」
 まったく心臓に悪い。
 誉は潜水で泳いできたのだろう。
 髪から滴る水が爽やかすぎる。
「亜梨子は泳げないの?」
「中学まで学校にプールはあったんですけど、先生に秩序が乱れるから水着は着るなと言われてプールは見学でした。高校はプールがなかったんです」
 ぎゅと正面から抱きしめられて、胸が誉の肌に潰されてしまう。
 身長差がありすぎて、胸が誉のお腹にあたる。
「小さくて可愛いな」
 お尻に手を添えられて、抱き上げられて唇にキスが一つ。
 亜梨子の長い髪は、サイドで三つ編みにして頭の上でピンで留めている。
「亜梨子は僕のこと、どう思ってる?」
「社長です」
 がくりと誉は項垂れて、ザブンと亜梨子を抱いたままプールに倒れた。
(わーわーわー!!溺れるってば)
 じたばた溺れる亜梨子の体を立たせると、誉は首の後ろで縛っている水着の紐を引っ張った。
「うわ!社長、やめてください」
 胸がポロンと出てきて、片手で胸を隠すが、全部は隠せない。
「社長、虐めないでください。ここは公共の場です」
 肩まで水に浸かって、水着の紐を結ぼうと誉に背中を向けると、背後から腕を回された手が亜梨子の胸をもきゅもきゅと揉む。
 従順な下僕の亜梨子は、お腹の中がキュンキュンとして、また悶々としてくる。
「僕は亜梨子を好きだよ」
「私の胸が好きなんですね」
「僻まないでくれよ。亜梨子の全部が好きだ。結婚が不安なら婚約しないか?」
「軽はずみな告白はやめてください」
 誉の手を引き剥がして、急いでビキニの紐を結び直す。
 もともと小さめの水着なので、危うい。
「亜梨子以外に考えられないんだ」
「私は両親も親戚もいません。家もないし、貯金もありません。後継人になってくれる人もいません。社長とは住む世界が違うんです」
「僕は家柄とか住む世界とか別に気にしない。好きなものは好きではいけないのか?」
「本気ですか?」
「本気だよ。考えておいてくれるか?」
 誉は亜梨子を抱きしめている。
 素肌と素肌が触れあって、気持ちがいい。
「頭の隅に置いておきます」
 亜梨子は頷いた。
 好きなものは好きだ。けれど亜梨子のモヤモヤを作っているのは紛れもなく目の前のエッチ大魔王だ。
 唇が近づいてきて、亜梨子は目を閉じた。
 今度は大人のキスだ。舌と舌が絡まる。
 気持ち良くて、トロンとしてくる。
 目的地はここだったように、誉はゆっくり亜梨子を抱き、プールの端まで連れてく。
「そろそろ部屋に戻ろう。太陽が海に沈むところが見えるんだ。亜梨子に見せたい」
「素敵ですね」
 誉は勢いよく、プールサイドに上がった。
 亜梨子ははしごをよじ登った。
 誉の手が、亜梨子の手を握る。
 まるで仲のよい恋人同士だ。
 照れくさい。
「亜梨子の返事は、その赤い顔でいいのかな?」
 頬が赤いと指摘されて、亜梨子は自分の頬に触れる。
 それから、頷いた。
「私も好きです」
 エッチだけど、変態だけど、好きになってしまった。
 優しい彼を誰よりも好きになってしまった。

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