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旅立ち

グリフォンをテイムする

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 現在、私はグリフォンに跨って空を駆ける。
 響きは良いが、実際は素敵なものではない。
「ヒィィーッ!! 寒い寒い寒い! 息苦しい!! 風が顔に当たって超痛いんですけどー!」
 高所恐怖症ではないが、命綱無しの空中飛行は恐怖でしかない。
 酸欠で落下するか、操縦を誤って落下するかの二択の未来が見える。
(ググル先生、何とかして!)
(風の抵抗を最小限に抑える為、多重結界を発動しますか?)
  そこは、私が変わりますって場面じゃないんですか?
「態とですか? ボケてるんですか? 自動行動オードモードでサポートするとか言ってたでしょう!」
 半泣きになりながらググル先生に文句を言うと、
(是。自動行動オートモードに移行した場合、現時点のマスターの技量では多重結界を発動させながら騎乗することが出来ないと判断しました。騎乗スキルを取得すれば、自動行動オートモードに切り替えても安定して空を飛べると判断します。自動行動オートモードに移行しますか?)
 使えねぇ!
 肝心なところで使えねぇ!
 騎乗スキルは、グリフォンに乗っていれば近い内に取得出来るだろう。
 ここは、多重結界一択でしょう。
「多重結界でお願いします」
(多重結界構築。成功しました。発動しますか?)
(YES!)
 顔に容赦なく当たり呼吸の阻害を射ていた風圧が消え、息苦しさも無くなった。
 息が出来るだけで、ちょっと冷静になれた。
 そりゃ行き成りグリフォンに跨ったのは私だけどさ。
 こうなる事を予想出来たなら、もっと早くに魔法を展開するとかしてくれても良いのに。
マスターの指示がありませんでしたので、問題ない判断しました)
 私の愚痴に対し、ググル先生はシレッと悪くないアピールしている。
 問題大有りだよ!
 身体を乗っ取ったばかりの私に、ググル先生は何を期待しているんだ。
 私は、ハァと大きな溜息を吐いた。
「レイア市国の方角は合ってるの?」
 勢いでグリフォンに跨って空を飛んでいるけど、現在地が分からない。
(是。方角は合っています。ダービー山脈を越えた先に関所があります。この速度で飛び続ければ二日で到着します)
 ニ日間も不眠不休で飛び続けるって、どんな苦行だよ。
 ブラック企業さながらじゃねぇか。
 動物愛護団体が、この世界に存在したら即通報されるレベルだよ。
「却下! 一日二回は、休憩を挟みながら関所まで行く。ググル先生は、野宿出来そうな場所を探して」
(了。タービー山脈手前に森があります。そこで野宿する事を推奨します)
 私、ググル先生に揶揄われたのだろうか?
 聞かなくても野宿出来そうな場所をちゃんと調べている。
「グリちゃん、タービー山脈の手前にある森が今日の寝床だよ。野宿出来そうな場所を見つけたら、ゆっくり降下して」
 グリフォンの首元をポンポンと軽く叩くと、分かったと言っているのかグルルと鳴いた。
「ねえ、ググル先生。私の声をグリフォンと共有することは出来ないの?」
使役テイムする事で、思念伝達が確立可能です)
「買っただけでは、駄目って事ね」
(是。そうなります)
 グリフォンを使役テイムして良いものだろうか?
 この子は、親と呼べる存在に捨てられて人間不信だ。
 移動手段の目的で手に入れたけど、縛るのは良くない気がする。
 それに、グリフォンは高位の魔獣だ。
 気位も高いし、気性も荒く国によっては、神獣として敬われているらしい。
 それを使役テイム出来るものなのだろうか?
 美味い飯と刺激的な日常で誘ったが、人間不信のグリフォンだぞ。
 無いわー。
 使役テイム出来るかはさておき、野宿する森まで意識を飛ばさないように手綱を握り直した。


 恐怖の空中旅行一日目が終わり、グリフォンの背中から滑るように地面に落ちた。
「さ、寒い……」
 寒さと恐怖でガチガチと歯を鳴らしながら、当たりを見渡す。
 街道から離れているが、随分と広く開けた場所があったものだ。
 人目につかない分、夜盗や魔物に襲われる可能性はないのだろうか。
(否。この辺の魔物であれば、グリフォンの気配を察知すれば逃げ出します。夜盗と遭遇する確率は極めて低いので問題ありません)
 ググル先生が問題ないと言うなら、問題ないのだろう。
(土魔法で屋根のある建物を作る事って出来る? コンテナハウスみたいなの)
 テレビで見たコンテナハウスを思い浮かべると、
(是。材料が揃えば、細部まで再現可能です。ただし、エアコンなどの電化製品は、再現出来ません)
 材料が無ければ、駄目か。
 因みに、どんな材料が必要になるの?
(内装の木材が不足しております)
 木を切って加工したところで、直ぐに使えないのは分かっている。
 それならば、外側だけを作って内装は後回しにすれば良い。
 今は、プライバシーを重視した部屋が欲しいのだ。
「ググル先生、外側だけで良いのでコンテナ作っちゃって下さい」
(了。大きさの指定をお願いします)
「料理は外で作るから、空間収納に収まっているベッドとグリフォンが入るくらいの大きさでお願いします。それとは別に、トイレとお風呂も宜しく」
(トイレは汲み取り式、お風呂は水風呂になります。作成しますか?)
 ああ、やっぱりそうなるのね。
 分かっていたけど、ちょっとくらい夢見ても良いじゃんか。
 ググル先生が、呆れた顔をしている気がする。
「……寝床だけで良いです」
(了。錬成魔法を構築。成功しました。土を鉄に錬成します。成功しました。鉄のインゴットをベースにコンテナハウスを創造します。……成功しました)
 地面に魔法陣が現れ、ググル先生が魔法を行使する度に魔力が搾り取られて行く。
 鉄のインゴットが、ねんどのように縦横無尽に動きコンテナハウスが数分で完成した。
 私が、想像したのと同じデザインだ。
 グリフォンが入れるように、大きめの引き戸もついている。
 玄関部分のドアを開けると、何も無い三十畳の部屋だ。
 ご丁寧に靴箱を用意している辺り、ググル先生は分かっていらっしゃる。
 私は靴を脱いで中に入り、城からパクってきたベッドを設置する。
「先生、コンテナハウスとは別にトイレも作って」
(了)
 汲み取り式便所もといボットン便所の穴は、落ちたら自力で登れそうもない深さになっている。
 掘った穴の土は、一体どこにいったのだろう。
(空間魔法で収納してます)
 何で、そんなものを収納するのだろう?
(土に砂鉄含まれておりました。鉱山が近くにある可能性があります)
 リリスの記憶に、この辺り一帯に鉱山があったという記憶はない。
 国も領主も気付いていない可能性が高い。
「婚約破棄の慰謝料替わりに、ここら一帯の地下資源を根こそぎ貰って行きたいわ」
(否、現時点のマスターの魔力量では翌朝までに地下資源を集めることは出来ません)
 ですよね。
 コンテナハウスを作るだけで、魔力の大半を持って行かれたのだ。
 それくらい分かっている。
「話は変わるけど、グリフォンのご飯は何を上げたら良いんだろう?」
(グリフォンは、雑食です。マスターと同じ物を与えても問題ありません)
 雑食だったとしても、味とか色々好みがあるだろうに。
 どうしたものかと考えたが、良い案が浮かばない。
 食べるか分からないが、飯を作ってみることにした。
 身体が冷えていたのもあり、温かいものが食べたい。
 ソーセージと野菜たっぷりのトマトスープを作ることにした。
 ググル先生に急ごしらえの竈を作って貰い、油を引いた鍋を火にかけて温める。
 極小の屑火魔石1つあれば、魔力を注ぐだけで火が簡単に起こせるのは便利だ。
 一口サイズに切った人参・玉ねぎ・白菜・キノコを鍋に投入して炒め、火が通ったのを確認してから水を入れて沸騰させる。
 10分ほどグツグツ煮込んだら、灰汁を取って切ったトマトと調味料を入れて水分を1/4ほど飛ばす。
 最後にスプーン1杯牛乳を入れて、胡椒で味を調えたら完成だ。
「ご飯出来たよ~」
 コンテナハウスで寛いでいたグリフォンを呼んで、木のボール(大)にトマトスープを入れてやる。
「熱いから気を付けてね。頂きます」
 私は、小さな木のボールにトマトスープを注いで硬いパンを浸して食べる。
「く~、冷えた身体が温まる」
 トマトの甘酸っぱさと胡椒のピリリとした粒がアクセントになって食が進む。
 それでも日本で食べていた物に比べると、やはり味は劣ってしまう。
 皇国を出たら、色んな国に行って食材を探してみるもの悪くない。
 そんな事を考えていたら、ガシャンという音が聞こえたか。
 振り返ると、グリフォンが鍋を嘴で摘みトマトスープを一気飲みしている姿があった。
「おぉぉおい!! 私、まだ一杯しか食べてないんですけどぉぉ???」
 トマトスープを飲み干したグリフォンは、クルルと鳴いている。
 地面に転がっている鍋は、無惨にも凹んでいる。
 oh……買ったばっかりなのに。
「新品のお鍋が……。君の食べっぷりを見て、不味くはなかったというのは伝わったよ。お代わりが欲しいなら、私に言ってくれよ。毎回調理器具を壊されたら、お金が幾らあっても足りない!」
 バシバシとグリフォンを叩きながらぼやくと、
(個体グリフォンより使役テイムの申請があります。使役テイムをしますか?)
とググル先生が言って来た。
「よく分からんが、YESで」
(個体グリフォンに名前付けをしてください)
「んー、グリちゃんで」
(個体名グリちゃん、使役テイム成功しました。グリちゃんと思念伝達が可能になりました。行いますか?)
 え? マジであんなクソ適当な名前を受け入れちゃったわけ?
 嘘でしょうと突っ込みたかったが、言わぬが花。
(YES)
(主殿、先程の赤い食べ物は美味だった。また、食べたいぞ)
 グリちゃんという名前で良いのかとツッコミたかったが、本人が気にしていないみたいなので無視スルーしておこう。
「グリちゃんが食べたのは、トマトスープだよ。もっと美味しい食べ物がいっぱいあるから、旅をしながら色々食べようね!」
(ふむ。楽しみにしているぞ、主殿)
 クルルルと鳴くグリちゃんを清掃魔法で綺麗にして、コンテナハウスに追いやり、私は買ったばかりの凹んだ鍋と食器を水魔法で洗って空間魔法で仕舞った。
 明日の朝ごはんと昼ごはんを作りながら、チラッとグリちゃんを鑑定してブフォッと咽た。

名 前:グリちゃん
種 族:グリフォン
職 業:聖獣騎士ホーリーナイト
レベル:12
H P:3000/3000
M P:6000/6000
スキル:風魔法・状態異常耐性・詠唱破棄・思考加速・思念伝達
称 号:聖女の守護者
加 護:女神レアの加護
装 備:手綱・鞍
持ち物:なし

 高位の魔物だけあって、レベルが低くてもスペックが高い。
 いや、それより色々ぶっ飛んだ設定になってるんだが。
 私の目が可笑しくなったのだろうか?
 聖女の守護者って何さ??
 職業が、そもそもおかしいでしょう!
 私は、慌てて自分のステータスを確認して膝から崩れ落ちた。

名 前:リリス・ガイア
種 族:人
職 業:冤罪で国外追放されたガイア皇国の元第二皇女・聖女
レベル:8
H P:128/128
M P:21/184
スキル:成長促進・鑑定眼・HP自動回復・MP自動回復・空間収納・状態異常耐性無効・詠唱破棄・魔導の極み・カウンター100%・並列演算・並列思考・思考加速・隠蔽・隠密・武闘・神託
称 号:全魔法属性適合者
加 護:女神レアの加護
装 備:丈夫な乗馬服・丈夫な鞄
持ち物:???の卵・丈夫な鞄
使 役テイム:グリちゃん

 職業がおかしなことになってる!!
 そう言えば、レアが加護を与えるとか言っていたけど。
 まさか、聖女にされるとは予想外だ。
「皇女の次は、聖女ですか。面倒事が増えた気がするんですけど? どうしてこうなったぁぁあーっ」
 私は、思わずそう叫ぶことしか出来なかった。
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