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オブシディアン領で労働中

サンドバッグ2号爆誕

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 笑みを浮かべる私と比例して、コレットの表情は硬い。
 あっさりと実母たちを捨てているので情は無いと思っていたが、意外とそうではなかったようだ。
「……何をさせるつもり」
「わたくしの手駒になりなさい。そうね、今のところは貴女が持っている乙女ゲームの知識かしら。私側につけば、貴女の実母たちは守ってあげるわ。ただ、ピューレ現当主は無理ね。貴女がこさえた借金と賠償金で首が回らなくなるでしょうし、そうなれば領地管理能力なしと国に判断されて没収されるわ。彼も貴方も貴族でなくなるの。理解できたかしら?」
 どう転んでも貴族の位を剥奪されるところまでやらかしている。
 その原因はコレットなのだが、私からすればそんなことは関係ない。
 私の手駒となりピューレ当主を捨てて実母たちを守るか、もう一度平民として野に放たれるかだ。
 まあ、コレットがこさえた負債額を考えれば良くて娼館落ち、悪ければ他国へ養子と言う名の奴隷落ち。
「……………少し考えさせて」
 長い沈黙の後に、コレットの絞り出した言葉を一刀両断する。
「嫌です。わたくし、貴女に付き合ってあげるほど暇ではなくてよ。今、この場で決めなさい」
 そう答えを突きつけると、コレットは歯軋りをしながら是と答えた。
「~~~ッ!! 分かったわよ。やるわ! これで良い?」
「その決意表明は何? 馬鹿にしているの? わたくしは、使えるべき主人なのよ。きちんとした言葉遣いをなさい。後、わたくしは口約束など信用していないの。フリック、例の物を持ってきて頂戴」
「どうぞ」
 私の欲しいものをサッと差し出すフリックの仕事ぶりに惚れる!
 本当にうちの執事は、有能過ぎて困る。
 アングロサクソン語で書かれた契約書を受け取り、コレットの前にペンと共に渡した。
 所々、漢文も交じっているが気にしない。
 コレットの学力は、日本の中学1年生くらいだ。
 アルベルトの口車に乗るくらいだもの。
 ちゃんと読まずにサインすると思うが、念には念を入れた方が良いと判断して漢文交りの誓約書を作成した。
「……ねえ、ここの文字は何て書いてあるの? どうして、ここだけ漢字なのよ」
 チッ、引っかからなかったか。
 私の思惑に反して、コレットは漢文のところをしきりに気にしている。
「精霊魔法を使った誓約書だから神言しんごんが所々に使われているんですよ。その程度の文章も読めないのですか? 自称転生者が呆れますわ」
 答えてやっても良いが、そんな義理は無いので煽ってみることにした。
「馬鹿にしないで! ふ、ふん!! これくらい私だって分かるんだからね」
 そう怒鳴り返して、勢いよくサインした。
 やっ・た・ぜ! これでサンドバッグ2号ゲットだ。
「わたくしの命令は絶対順守。コレット、最初の命令よ。四つん這いになり、その場で三回まわってワンと鳴いた後に、『リリアン様、申し訳ありませんでした。私の愚かさをお許しください』と土下座しながら謝罪しなさい!」
 コレットはその言葉に顔を真っ赤にしていたが、私の言葉通り椅子から降りてテーブルの周りを3回まわってワンと鳴いた後に、一言一句違わぬ屈辱的な謝罪をした。
 これが、神言しんごんを使った誓約書の効果だ。
 頭に血が上ってサインをしなければ、こんな無様な姿を晒すことはなかっただろうに。
 本当に残念だ。
「何をしたの!? 魔法で私を操ったのね!」
「金切り声で喋るのを止めて下さる? 言葉遣いも制限した方が良いかしら」
 チラッとコレットを見ると、プルプルと肩を震わせながら口をギュッと噤んだ。
 先程の三回まわってワンと土下座謝罪が利いたようだ。
「誓約書にサインしたでしょう。あの誓約書は、分かりやすく言えば、わたくしに対する絶対服従を結ぶもの。命令すれば、貴女がどう思おうと身体が命令に従うようになるの。だから、口の利き方や態度には気を付けあそばせ。殺生与奪の権利をわたくしが握っていることを忘れないでね。フリック、コレットの教育を頼むわ。後、ピューレ家が没落するまではコレットの所在が分からないように偽装をしておいて頂戴。コレット、貴女が言っていた乙女ゲームの情報を報告書に纏めて1週間以内に提出しなさい。出来るだけ詳しく丁寧に書いて頂戴ね。後、このやかたから出ることは当面禁止するわ。不要なことを喋るのも禁止。必要かどうかはフリックが判断して頂戴」
「畏まりました。お嬢様の希望に沿えるように教育したいと思います」
 ペンと誓約書を回収し終えたフリックは、コレットの襟首を掴むと綺麗な礼をして部屋を出て行った。
 仕事が早くて何よりです。
 まあ、これでコレットの身柄は抑えられた。
 使いようによっては、有効なカードになるかもしれないが、フリックの教育次第と言ったところだろうか。
 サンドバッグ2号が、手に入って少し気分が良い。
 ムカついたら、今度はブタの真似でもやらせようかななどと思っていた。
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