155 / 181
オブシディアン領で労働中
クランシャフト商会に行こう
しおりを挟む
「フリック、泳がせていたクランシャフト商会に出向こうと思うのだけど」
雑務をしていたフリックに声をかけると、
「そろそろ仰ると思っておりました。準備は出来ております」
私の言葉に驚くことなく、先回りされていた!!
出来る男だとは思っていたが、ここまで完璧だと嫌味すら出ない。
「用意が良いわね」
「お嬢様が欲しがっていたものが、試作品とはいえ完成したのでしょう。お部屋から奇声が聞こえてきましたよ。なら、次は行動に移られるかと思いまして準備させて頂きました」
クツクツと笑うフリックに、私は羞恥心で頬を赤らめる。
喜び勇んで、雄たけびを上げていたのか。
無意識だったわ。
気を付けよう。
「んんっ! フリックもこれをかけて頂戴」
「眼鏡ですか? それにしては、度は入ってませんね。フレームの細工は見事ですね。売れますよ」
手渡した伊達眼鏡をフリックは観察している。
彫り細工に見えるのは、神言のスペルだ。
それも特殊な文字を使っている。
通常の漢字・平仮名・片仮名で構成したものと、カタカムナ文字で作ったものの2種類がある。
カタカムナ文字は、実在不明のカタカムナ神社のご神体とされた書物で、独自の文字で綴られた古史古伝の一つである。
日本語が神言になるのなら、カタカムナ文字も神言の一種と捉えることが出来るだろう。
機能を多く搭載するのであれば、漢字などを使う方が効率が良い。
機能は少ないが、性能を特化させるならカタカムナ文字の方が良かった。
一長一短なので、組み合わせて使うことが出来るかはノームの腕次第となる。
現在も改良を重ねて貰うために、ガツガツ試作品を作って貰っている状態だ。
話は戻すが、フリックに眼鏡を掛けて貰った。
眼鏡姿も似合うイケおじになった。
「どう?」
「かけ心地は良いです。普通の伊達眼鏡ではなさそうですが、何も起きませんよ」
かけただけなら、何も起きなくて当然だ。
「魔力を流してみて」
「畏まりました」
私の指示にフリックは、伊達眼鏡に魔力を流した。
すると、丸く目を大きく見開いている。
「これは……。リリアン様が持ち帰ったアレよりも、何倍も優れています。どうやって作ったんですか?」
「それは企業秘密。これ自体は、売る気はないのよ」
そう答えると、フリックも危険性を察知したのか無言で頷いている。
「他の者に知られれば、色々と厄介と危険が付きまとうかと」
「私もそう思うわ。フリックなら、厄介者をサクッと排除できると思ったから渡したの。利用者登録だけは済ませてね」
フリックに針を渡す。
彼は、針を受け取り人差し指に刺して眼鏡に血を垂らした。
うむ、これで渡した眼鏡はフリックしか使えないようになった。
「これなら、相手の素性や隠したい情報もまるっと覗き見放題! 変装して、クランシャフト商会へ堂々と乗り込んでやろうじゃないの」
「ふふ、変装はリリアン様の十八番ですからね。私も着替えてきます」
「急ぎの仕事はあるかしら?」
「ありません。今のところは私かフェディーラで十分できます」
頼もしいわ。
結構な無茶を押し付けたと思っていたけれど、あの程度の難易度の仕事なら私を通す必要も無しと判断出来るところが良い。
お爺様が、度々王都の自宅を抜け出して放浪しているのもフリックのお陰なのかもしれない。
「30分後に、ホールに集合で良いかしら? 外見が質素に見える馬車の手配もしてね」
「畏まりました」
そこで話を打ち切り、私は自室へと戻った。
自室のベッドの上には、ファーセリアが堂々と本を読んでいる。
ノームはテーブルの上で眼鏡の試作品を作っている。
ウンディーネとシルフの姿が見えないが、創造神テトラグラマトンのお使いでも頼まれているのだろう。
「これから視察に出かけるわ。この部屋は、わたくしが戻るまで人が入らない様にしてくれるかしら?」
その言葉に、ファーセリアが顔を上げチラリとこちらを一瞥した。
「それは、燃やして良いということか?」
「燃やすのは、馬鹿ベルトだけにして頂戴。精々、威嚇して追い払う程度で良いわ。従業員には、私が戻るまで入らないように言っておくから、多分誰もこないと思うけれど。侵入しようとするものが居たなら、間者の可能性が高いわね。蟻1匹通さないでね」
「ふむ、それでは面白みが欠ける」
「ファーセリア、面白いかどうかで部屋を燃やすのは止めて頂戴。修繕費も馬鹿にならないんだから」
「あい、分かった。侵入しようとしたものは、外に放り出してから燃やそう」
全然分かってない!!
このドS精霊は、燃やす以外の選択肢がないのか?
「……物理的な結界を張れば済む問題じゃない」
「それは、それでつまらん。物が持ち出せぬようにしておいてやる。だから侵入者を燃やさせろ」
物を取られる心配がないのなら、ファーセリアの意見も一部聞いても良いかも?
私は、暫し考えた後にファーセリアに是と答えた。
「殺しは無しよ。回復出来る程度に炙るならOK」
「承知した」
ファーセリアが脅した光の精霊がいるので、多分大丈夫だと思いたい。
私は、大富豪のお嬢様風な衣装に着替える。
髪も軽くサイドアップにして、髪色が変わるヘアピンを身に付ければ完成だ。
メイクは地味っぽさを前面に出して、鑑定眼鏡を着用する。
これで準備は整った。
ホールに向かうと、フリックが既にスタンバイしていた。
「お嬢様、準備が整っております」
「では、参りましょうか」
私達は、クランシャフト商会へと正面から殴り込みに行った。
雑務をしていたフリックに声をかけると、
「そろそろ仰ると思っておりました。準備は出来ております」
私の言葉に驚くことなく、先回りされていた!!
出来る男だとは思っていたが、ここまで完璧だと嫌味すら出ない。
「用意が良いわね」
「お嬢様が欲しがっていたものが、試作品とはいえ完成したのでしょう。お部屋から奇声が聞こえてきましたよ。なら、次は行動に移られるかと思いまして準備させて頂きました」
クツクツと笑うフリックに、私は羞恥心で頬を赤らめる。
喜び勇んで、雄たけびを上げていたのか。
無意識だったわ。
気を付けよう。
「んんっ! フリックもこれをかけて頂戴」
「眼鏡ですか? それにしては、度は入ってませんね。フレームの細工は見事ですね。売れますよ」
手渡した伊達眼鏡をフリックは観察している。
彫り細工に見えるのは、神言のスペルだ。
それも特殊な文字を使っている。
通常の漢字・平仮名・片仮名で構成したものと、カタカムナ文字で作ったものの2種類がある。
カタカムナ文字は、実在不明のカタカムナ神社のご神体とされた書物で、独自の文字で綴られた古史古伝の一つである。
日本語が神言になるのなら、カタカムナ文字も神言の一種と捉えることが出来るだろう。
機能を多く搭載するのであれば、漢字などを使う方が効率が良い。
機能は少ないが、性能を特化させるならカタカムナ文字の方が良かった。
一長一短なので、組み合わせて使うことが出来るかはノームの腕次第となる。
現在も改良を重ねて貰うために、ガツガツ試作品を作って貰っている状態だ。
話は戻すが、フリックに眼鏡を掛けて貰った。
眼鏡姿も似合うイケおじになった。
「どう?」
「かけ心地は良いです。普通の伊達眼鏡ではなさそうですが、何も起きませんよ」
かけただけなら、何も起きなくて当然だ。
「魔力を流してみて」
「畏まりました」
私の指示にフリックは、伊達眼鏡に魔力を流した。
すると、丸く目を大きく見開いている。
「これは……。リリアン様が持ち帰ったアレよりも、何倍も優れています。どうやって作ったんですか?」
「それは企業秘密。これ自体は、売る気はないのよ」
そう答えると、フリックも危険性を察知したのか無言で頷いている。
「他の者に知られれば、色々と厄介と危険が付きまとうかと」
「私もそう思うわ。フリックなら、厄介者をサクッと排除できると思ったから渡したの。利用者登録だけは済ませてね」
フリックに針を渡す。
彼は、針を受け取り人差し指に刺して眼鏡に血を垂らした。
うむ、これで渡した眼鏡はフリックしか使えないようになった。
「これなら、相手の素性や隠したい情報もまるっと覗き見放題! 変装して、クランシャフト商会へ堂々と乗り込んでやろうじゃないの」
「ふふ、変装はリリアン様の十八番ですからね。私も着替えてきます」
「急ぎの仕事はあるかしら?」
「ありません。今のところは私かフェディーラで十分できます」
頼もしいわ。
結構な無茶を押し付けたと思っていたけれど、あの程度の難易度の仕事なら私を通す必要も無しと判断出来るところが良い。
お爺様が、度々王都の自宅を抜け出して放浪しているのもフリックのお陰なのかもしれない。
「30分後に、ホールに集合で良いかしら? 外見が質素に見える馬車の手配もしてね」
「畏まりました」
そこで話を打ち切り、私は自室へと戻った。
自室のベッドの上には、ファーセリアが堂々と本を読んでいる。
ノームはテーブルの上で眼鏡の試作品を作っている。
ウンディーネとシルフの姿が見えないが、創造神テトラグラマトンのお使いでも頼まれているのだろう。
「これから視察に出かけるわ。この部屋は、わたくしが戻るまで人が入らない様にしてくれるかしら?」
その言葉に、ファーセリアが顔を上げチラリとこちらを一瞥した。
「それは、燃やして良いということか?」
「燃やすのは、馬鹿ベルトだけにして頂戴。精々、威嚇して追い払う程度で良いわ。従業員には、私が戻るまで入らないように言っておくから、多分誰もこないと思うけれど。侵入しようとするものが居たなら、間者の可能性が高いわね。蟻1匹通さないでね」
「ふむ、それでは面白みが欠ける」
「ファーセリア、面白いかどうかで部屋を燃やすのは止めて頂戴。修繕費も馬鹿にならないんだから」
「あい、分かった。侵入しようとしたものは、外に放り出してから燃やそう」
全然分かってない!!
このドS精霊は、燃やす以外の選択肢がないのか?
「……物理的な結界を張れば済む問題じゃない」
「それは、それでつまらん。物が持ち出せぬようにしておいてやる。だから侵入者を燃やさせろ」
物を取られる心配がないのなら、ファーセリアの意見も一部聞いても良いかも?
私は、暫し考えた後にファーセリアに是と答えた。
「殺しは無しよ。回復出来る程度に炙るならOK」
「承知した」
ファーセリアが脅した光の精霊がいるので、多分大丈夫だと思いたい。
私は、大富豪のお嬢様風な衣装に着替える。
髪も軽くサイドアップにして、髪色が変わるヘアピンを身に付ければ完成だ。
メイクは地味っぽさを前面に出して、鑑定眼鏡を着用する。
これで準備は整った。
ホールに向かうと、フリックが既にスタンバイしていた。
「お嬢様、準備が整っております」
「では、参りましょうか」
私達は、クランシャフト商会へと正面から殴り込みに行った。
0
お気に入りに追加
2,919
あなたにおすすめの小説
40歳独身で侍女をやっています。退職回避のためにお見合いをすることにしたら、なぜか王宮の色男と結婚することになりました。
石河 翠
恋愛
王宮で侍女を勤める主人公。貧乏貴族の長女である彼女は、妹たちのデビュタントと持参金を稼ぐことに必死ですっかりいきおくれてしまった。
しかも以前の恋人に手酷く捨てられてから、男性不信ぎみに。おひとりさまを満喫するため、仕事に生きると決意していたものの、なんと41歳の誕生日を迎えるまでに結婚できなければ、城勤めの資格を失うと勧告されてしまう。
もはや契約結婚をするしかないと腹をくくった主人公だが、お見合い斡旋所が回してくれる男性の釣書はハズレればかり。そんな彼女に酒場の顔見知りであるイケメンが声をかけてきて……。
かつての恋愛のせいで臆病になってしまった女性と、遊び人に見えて実は一途な男性の恋物語。
この作品は、小説家になろうにも投稿しております。
扉絵は汐の音さまに描いていただきました。
みんながまるくおさまった
しゃーりん
恋愛
カレンは侯爵家の次女でもうすぐ婚約が結ばれるはずだった。
婚約者となるネイドを姉ナタリーに会わせなければ。
姉は侯爵家の跡継ぎで婚約者のアーサーもいる。
それなのに、姉はネイドに一目惚れをしてしまった。そしてネイドも。
もう好きにして。投げやりな気持ちで父が正しい判断をしてくれるのを期待した。
カレン、ナタリー、アーサー、ネイドがみんな満足する結果となったお話です。
【完結】名ばかり婚約者だった王子様、実は私の事を愛していたらしい ~全て奪われ何もかも失って死に戻ってみたら~
Rohdea
恋愛
───私は名前も居場所も全てを奪われ失い、そして、死んだはず……なのに!?
公爵令嬢のドロレスは、両親から愛され幸せな生活を送っていた。
そんなドロレスのたった一つの不満は婚約者の王子様。
王家と家の約束で生まれた時から婚約が決定していたその王子、アレクサンドルは、
人前にも現れない、ドロレスと会わない、何もしてくれない名ばかり婚約者となっていた。
そんなある日、両親が事故で帰らぬ人となり、
父の弟、叔父一家が公爵家にやって来た事でドロレスの生活は一変し、最期は殺されてしまう。
───しかし、死んだはずのドロレスが目を覚ますと、何故か殺される前の過去に戻っていた。
(残された時間は少ないけれど、今度は殺されたりなんかしない!)
過去に戻ったドロレスは、
両親が親しみを込めて呼んでくれていた愛称“ローラ”を名乗り、
未来を変えて今度は殺されたりしないよう生きていく事を決意する。
そして、そんなドロレス改め“ローラ”を助けてくれたのは、名ばかり婚約者だった王子アレクサンドル……!?
今さら、私に構わないでください
ましゅぺちーの
恋愛
愛する夫が恋をした。
彼を愛していたから、彼女を側妃に迎えるように進言した。
愛し合う二人の前では私は悪役。
幸せそうに微笑み合う二人を見て、私は彼への愛を捨てた。
しかし、夫からの愛を完全に諦めるようになると、彼の態度が少しずつ変化していって……?
タイトル変更しました。
デブだから婚約破棄?!上等だ、お前なんかこっちから願い下げだ!!
ともどーも
恋愛
「俺、デブは嫌いなんだ。新しく聖女になったミアと婚約するから、お前、用済みな」
「はぁ……?」
貴族御用達のレストランで突然、婚約者に捨てられた。
私はクローヴィア・フォーリー(20)
フォーリー伯爵家の長女だ。
昔は金髪青眼の美少女としてもてはやされていた。しかし、今はある理由で100キロを越える巨体になっている。
婚約者はいわゆる『デブ専』を公言していたにも関わらず、突然の婚約破棄。
しかも、レストランに浮気相手を連れてきて私を誹謗中傷とやりたい放題。
フフフ。上等じゃない。
お前なんかこっちから願い下げよ!
後で吠え面かくなよ!!
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
14話で完結です。
設定はゆるいです💦
楽しんで頂ければ幸いです。
小説家になろう様にも同時掲載しております。
婚約破棄をなかったことにする、たったひとつの冴えたやり方
杜野秋人
大衆娯楽
社交シーズン終わりの、王宮主催の大夜会。そのさなかに王子がやらかした。
そう、長年の婚約者に対して婚約破棄を突きつけたのだ。
だが、それに対して婚約者である公爵家令嬢は小首を傾げて、そして人差し指をスッと立てた。
「もう一度言ってほしい」というジェスチャーだ。
聞き取れなかったのならばと王子は宣言を繰り返す。だが何度も聞き返され、ついには激高した。
「なんで聞き取れへんのやお前ェ!この距離やぞ!」
◆単話完結の読み切りショートショートです。読めば分かりますがただのコメディです(笑)。
思いついてしまったからには書かずにおれませんでした。
◆一応は異世界設定ですが、普段の作者の世界設定とは無縁ということでお願いします(笑)。
◆この作品は小説家になろう、及びカクヨムで先行公開しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる