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エルブンガルド魔法学園 中等部

エバンス兄妹の受難10

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 リリアンが提示したアルベルトへの処罰と学園側の責任追及について、正式に返答したら案の定と言うべきか納得出来ないと反発が出た。
 アルベルトの件に関しては、一筆貰っているため即時実行することは可能だ。
 しかし、学園側への責任問題については簡単には行かないのは容易に分かる。
 現に、学園長は顔を真っ赤にして怒っているのだから。
「学園側が我が主に頼らず、正当な処罰を下していれば退任にはならなかったと思います」
「リリアン様は、三日後に戻られます。それまでに、身辺整理をされた方が良いですよ」
 アリーシャとガリオンの言葉に、学園長は茫然自失になっている。
 リリアンがやると宣言した以上、学園長の退任は確定したも同然だ。
 オブシディアン家が地図上から消したように、学園長の座を取り上げるのは彼女にとって容易いだろう。
「では、要件は伝えましたので失礼します」
「失礼します」
 ガリオンとアリーシャは、席を立って適当に話を切り上げ学園長室を後にした。


 放送室を占拠して、学園長辞任と入試・編入試験の改定についての署名活動を呼び掛けた。
 今現在、アルベルトは謹慎処分という非常に軽い罰を与えている事実に納得がいかない生徒たちがいる。
 彼等の声を誇張して騒ぎ立て伝えることで、周囲が同調して同じ方向に進むだろうとリリアンが言っていた。
 『集団ヒステリー』を疑似的に起こさせることこそ、アリーシャとガリオンの役割とも言える。
 署名活動を始めて一日も経たない内に、学園の四割の署名が集まった。
 アリーシャは、ヘリオトロープの会のサロンで集まった署名を確認しているとオリバーが分厚い封筒を渡してきた。
「これは?」
「お見合いに掛かる諸経費の請求書です」
 持っていた署名の紙束は一旦横に置き、封筒を覗き見ると三センチは超える請求書の束に眩暈がした。
 ザッと中身を確認して眩暈に加えて頭痛と胃痛がしてきた。
「凄い請求書の束ですね。ああ、項目ごとに仕分けされてて見やすいです。オリバー、ありがとう」
「どう致しまして。しかし、本当にこれだけの費用を負担されるのですか?」
 アリーシャは目元を押さえながら、ガリオンに無言で請求書の束を手渡した。
 見合いを学園で行うことにしているため、場所代はかからない。
 それ以外の釣書代や食事代、給仕を雇うお金など、かなりの大金が動くイベントだ。
 ガリオン達の指示に従って手配したオリバーだが、裕福な貴族であっても易々と出せる金額ではないことは確かだ。
「一時的な立て替えをするだけで実質払うのは別の人。その辺りも、後日ちゃんと説明があるから気にしないで」
「……そうですか」
 無用な詮索はするなとアリーシャに釘を打たれて、オリバーは追及するのを止めた。
 彼女と手下手に藪を突いて蛇を出すような真似はしたくないのだろう。
「オリバーさん、他に上がってくる請求書はありますか?」
「いえ、お渡ししたのが全てです。追加注文があれば別ですが」
「了解です。仕事が早くて助かります。ヘリオトロープの会を立ち上げた張本人が不在でどうなるかと思いましたけど、オリバーさんが上手く回してくれて助かります」
「それな! こっちは、馬鹿と尻軽の対応に追われてたからなぁ。この件が終わったら、特別賞与貰ってゆっくりしたいぜ」
「兄さん、言い方! 本音と建て前は、ちゃんと使い分けなさいよ」
「へいへい。それより、署名の方はどうなってるんだ?」
 アリーシャの指摘に、ガリオンは気もそぞろな返事を返す。
「コレット嬢の被害者は、中等部内で納まっていたから過半数を割るには少し難しい数字ね。高等部や院生にも伝手を使って頼んでみているけど、書いて貰えるかは分からないわ」
「学園長と顔を合わせるのは、特定の行事でしかないからピンとこない人の方が多いだろう」
「他人事のように思っている人間は多いわね。実際は、明日は我が身ってことに何故気付かないのか不思議」
 コレット嬢のようなケースは稀である。
 しかし、全くないとも言い切れないのが世の中だ。
 この学園で、過去に似たような事案があったのだから。
「騎士科は縦、侍女科は横の繋がりが強いと聞いてます。その二つの科からアプローチをしてみては如何でしょうか」
 オリバーの提案に、アリーシャとガリオンは顔を見合わせて言った。
「それだ!」
「それです!」
 そう言うやいなや、慌しく席を立ちどこかへ行ってしまった。
 残された請求書の束と署名の束を手に取り、オリバーは大きな溜息を吐いた。
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