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幼少期

教育的指導と不穏な疑惑

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「うおおぉぉぉおお!」
 アルベルトは、耳障りな汚い奇声を上げながら剣を振り下ろしてくる。
 一歩後ろに引いて難なく避ける。
 突きを繰り出すが横に避ければ、横に薙ぎ払おうとするの避けた。
 十分くらい拳一つ分くらいの感覚で避け続けると、案の定というべきかアルベルトが息を切らし始めた。
「ぜぇぜぇ…お前! 逃げるな…んて、卑怯だっぞ! 決闘をなんだと思っているんだ」
「これも立派な戦術ですが何か?」
「そんなわけないだろうがー!! ふざけるな! やってられるかっ」
 剣を地面に叩きつけたので、
「これは、試合放棄ということで私の勝利で宜しいでしょうか?」
と問いかけたら逆ギレされた。
「剣が無くても魔法で勝てばいいんだ! ウォーターボール!!」
 アルベルトの手に魔力が集中し、出来上がった水の弾が私に向かって飛んでくる。
 王族の直系は、魔法を使えば己に跳ね返ってくるはずだろう!!
 何で魔法が、私に向かって飛んでくるんだ??
 まともに当たれば痛いので避けさせて貰うが、ヒールで動き回るのは正直足が痛い。
「クソクソクソッ! アイスショットッ」
 氷の飛礫を避けきることは出来ず、仕方なしに魔法を使うことにした。
「フレイムガード」
 高温の炎の壁でアイスショットを消した。
 狂ったようにアイスショットを乱発しているが、私が出した炎の壁の前では蒸発して消えてしまう。
 魔力切れしたのか、へたり込んだアルベルトを見てフレイムガードは消した。
「ニコー少佐、この決闘は殿下の反則負けで私の勝ちで宜しいでしょうか?」
「は、はい!」
 その言葉を聞いて、私はツカツカとへたり込むアルベルトの前に立った。
「では、殿下に教育的指導で・す・わっ!」
 胸倉を掴み往復ビンタを気が済むまでやった。
 バシーンッバシーンと痛い音に身を竦ませる者も居たが気にしない。
 最初はギャーギャー騒いで抵抗しようとしていたが、身体強化した私の腕力に勝てるはずもなく暫くすると無言になった。
「あの……リリアン様、そのくらいになさった方が…」
「まだ足りないわよ」
「殿下が気絶してますから…その辺で…」
 ニコーの言葉に、アルベルトを見直すと顔面をパンパンに腫らして気絶していた。
 同じ場所を何度も叩いたせいか、顔が腫れ上がっている。
「静かになったと思っていたら気絶していたのね。なんて軟弱なのかしら。まあ良いわ。ニコー少佐、殿下を運んで頂戴。王妃様に報告するから付いてきなさい。後、この場に居る者たち全員に命じます。決闘について口外してはなりません。口外した者は、厳しい処分を下します」
 私の命令に、兵士達はその場で敬礼した。
 「イエス、マム」の大合唱に、全身に鳥肌が立った。
 何これ? 何のプレイなのよ?
 変な団体化しちゃっている気がしたが、精神衛生上気にしたら負ける気がした。
 私は、アルベルトを姫抱っこしたニコー少佐を引き連れて鍛練所を後にした。


 アルベルトの寝室に彼を放り込んで、事の次第を王妃と父に報告する事になった。
 どちらを優先しようか悩んだが、王妃を立てるべきだろうと考え途中で父を拾ってハレムの薔薇の宮へ向かった。
 勿論、私と父とニコー少佐の三人でだ。
 至急、報告すべき事案ということで無理を聞いて貰いハレムに入れて貰った。
 通された部屋では、凄く嫌そうな顔で王妃が出迎えてくれた。
 言いたいことは分かってますとも。
 毎回、アルベルトの事をチクッていますから。
 今回もアルベルト関連と身構えているんでしょう。
「あら、リリアンだけではなかったのね。ジョーズとニコー少佐も一緒なんて珍しい組み合わせだ事」
「ニコー少佐は重要参考人ですわ。王妃様、申し訳ありませんが人払いをお願いします」
 私の言葉に、王妃の顔が険しくなった。
 めっちゃ怖い!!
 王妃は、大きな溜息を吐いてメイドや外にいる兵も下がらせた。
 私は精霊に、声が外に漏れないように出来ないか相談すると出来ると返ってきたので防音して貰った。
「お察しの通り殿下の事です。結論を申し上げますと、決闘しまして勝ちました」
 王妃と父の顔が崩れた。
 どちらも美人なのに、鳩が豆鉄砲を食らったような間抜けな顔になっている。
「……消すか」
「……消しましょう」
 怒気を孕んだ二人を制し、話を続けた。
「順を追って説明しますので、まあ聞いて下さい」
と経緯と決闘した経緯と勝利した対価を説明し、その証人として審判を務めたニコーを連れて来たと言うと二人して頭を抱えていた。
「決闘の件は、箝口令を敷きましたわ。勝者の権利を勝ち取り、殿下の顔が腫れるまで往復ビンタしました。今は気絶しているので、寝室に放り込みましたわ」
「……色々と言いたいことがあるのだが、何故そんな危険をおかしたんだ!」
「公に手を上げる機会を掴んだだけですわ」
 ツンとソッポ向くと、父はガックリと肩を落とした。
 王妃も眉間に深い皺が刻まれている。
「貴女の身に傷一つ付いたら、何が起こるか分からないのですよ。もっと、慎重になさい」
 精霊が暴走しかねないんだぞと暗に指摘され、私は素直に謝罪した。
「ニコー少佐は、もう持ち場に戻って良いわよ」
「ハッ! 御前失礼します」
 ビシッと敬礼してキビキビした動きで退出していった。
 それを見届けて、私は二人に向き直り言った。
「先ほどの決闘の話には続きがあるんです。決闘は剣のみというルールで行ったにも関わらず、殿下は魔法を使いました。王族直系の者は、ファーセリアの呪いで魔法が跳ね返されます。しかし、殿下は跳ね返されませんでした。アルベルト殿下は、本当にイグナーツ陛下の御子でしょうか?」
 托卵を示唆すると、二人は思い当たることがあったらしい。
「学園時代から尻軽だったのは分かっていた。まさか、堂々と別の男の子を宿して王子に据えるなんて何て恥知らずなの!」
「私も粉を掛けられたことがありますが、寵姫に収まってからはアプローチも無かったので油断しました。しかし、厄介な事になりましたな。王族は魔法が使えなくなったのは、ごく一部の重鎮のみ。アルベルト殿下が魔法を大勢の前で使ってしまった事実は覆せない。王家は、精霊の怒りを買っている。その上、第一王子は托卵したとなれば王家の威光は失墜する。国そのものが揺らぎます」
 マリアンヌの死は免れない。これは確定だ。
 次にアルベルトは王子として育てている手前、今更王族じゃないと公表すれば権威が失墜してしまう。
 アルベルトの王位継承権は内々に剥奪して、馬鹿をやらかした頃合いを見計らって国外追放して、どこかの国で暗殺するのはどうだろうか。
 そんなことをツラツラと考えていると、重い沈黙を王妃が破った。
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