上 下
20 / 181
幼少期

研究者の勧誘をしてみた

しおりを挟む
 家庭教師をして貰って思ったことは、テプレノン男爵は知識欲の塊で研究者肌だということだ。
 私が新しいことをしていたら、いつの間にか横にいて説明を求められる。
「テプレノン先生、私の教師ではなくアングロサクソン家のお抱え研究者になりませんか?」
と持ち掛けてみた。
 最近は、私に対しておどおどした様子もなくなり多少打ち解けた感じがする。
「研究者ですか?」
「はい! 先生ほど優秀なら色んなところからお声がかかると思うので囲おうと思いました」
 ズバッと本音を言ったら、ずれてもいないメガネを掛けなおしている。
「変わった方だとは思っていましたが、本気で仰っているんですか?」
「本気です! 私の思い描いたものを先生がアドバイスしてくれるので、製品として世に出せるんです。それに、先生は教えるより学ぶ方が好きなんだと思いました」
「……よく見てますね」
「私が色々アイディア出している時に、これは何かと聞いてくるじゃないんですか。簡単な説明だけで、大体把握してアドバイスまでくれるので助かってます。教師という仕事も十分立派ですが、先生は研究者が向いているんじゃないかと思うんです。一緒に商品開発しませんか? 特許や著作権の制度もあるので、今より稼げます」
 ドヤァという顔で言ってのけたら、テプレノン男爵は困ったような顔をした。
「お誘いは嬉しいですが、この見た目なので遠慮し……」
「遠慮は不要ですわ! ただ瞳の色が違うだけではありませんの。そんな些細な事、この屋敷で気にする人はおりません。是非とも研究者に……」
 書類とペンを持ってにじり寄る私の後頭部をスパーンッという音と共に衝撃が走った。
「どこの悪徳貴族だよ。先生、乗り気じゃないだろう。断られているんだから諦めろ」
 ガリオンが、直径三十センチのハリセンを片手に面倒臭そうに言った。
「ちょっと! いきなり何するのよ。痛いじゃない。しかも思いっきり叩いたわね!! 勧誘の邪魔しないでよ」
「ハァハァ言いながら、契約書とペンを手に契約をさせようとするアホなあるじを止めただけだが」
「そんな変態なことしてないわよ! 先生にとって有益な話だと思って持ち掛けているの」
「リリーの言う通り有益な話だと思うけど、先生の意思を無視したらダメだよ」
「アリーシャまでそんなこと言うの。酷いわ」
 シクシクとウソ泣きをしていたら、またしてもハリセンで頭をしばかれた。
「ガリオン、あんたあるじに対する態度じゃないでしょう!」
「今は授業中なので学友ですよー。先生もハッキリ嫌なら断らないと、良いように解釈して契約結ばせようとしますよ」
 ガリオンは、ビシッとハリセンを私に向けて失礼なことを宣った。
 それに対し、アリーシャもうんうんと頷いている。
「二人共酷くない? じゃあ、家庭教師しつつ研究者という事で……」
「悪化しているじゃねーかよ!」
「ふぎゃっ!」
 容赦なくハリセンで頭を叩くのは止めて欲しい。
 アホな頭が、これ以上アホになったらどうしてくれる。
 恨みがましい目でガリオンを睨んでいると、そのやり取りを見ていたテプレノン男爵がクスクスと笑みを零していた。
「ふふ…本当に仲がよろしいのですね」
「まあね! 私の親友たちだもの」
 ふふんっと胸を張って答える私に、テプレノン男爵は少し遠い目をして私たちを見ていた。
「少し羨ましいですね」
「研究者になれば、必然的に人と接する機会も増えますし、お抱えの職人は凝り性なので気が合う人が出来ると思いますよ。是非、研究者に!」
 ビラッと契約書とペンを見せると、テプレノン男爵は首を横に振った。
「家庭教師をしながら研究者をするのは難しいので遠慮させて頂きます」
 キッパリ断られてしまった。
 だが、これで諦める私ではない!
「じゃあ、学園に入れば家庭教師もお役御免になるので是非うちの研究者になって下さいね! あっ! 後、良いアイディアが浮かんだら相談に乗って下さい。相談料は払いますので」
「良いですよ。役に立つかは分かりませんが」
 仕方がないなと苦笑されたが、将来の研究者候補を手に入れることが出来た。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

いや、自由に生きろって言われても。

SHO
ファンタジー
☆★☆この作品はアルファポリス様より書籍化されます☆★☆ 書籍化にあたってのタイトル、著者名の変更はありません。 異世界召喚に巻き込まれた青年と召喚された張本人の少女。彼等の通った後に残るのは悪人の骸…だけではないかも知れない。巻き込まれた異世界召喚先では自由に生きるつもりだった主人公。だが捨て犬捨て猫を無視出来ない優しさが災い?してホントは関わりたくない厄介事に自ら巻き込まれに行く。敵には一切容赦せず、売られたケンカは全部買う。大事な仲間は必ず守る。無自覚鈍感最強ヤローの冒険譚を見よ! ◎本作のスピンオフ的作品『職業:冒険者。能力:サイキック。前世:日本人。』を並行連載中です。気になった方はこちらも是非!*2017.2.26完結済です。 拙作をお読み頂いた方、お気に入り登録して頂いた皆様、有難う御座います! 2017/3/26本編完結致しました。 2017/6/13より新展開!不定期更新にて連載再開! 2017/12/8第三部完結しました。

砕けた愛は、戻らない。

豆狸
恋愛
「殿下からお前に伝言がある。もう殿下のことを見るな、とのことだ」 なろう様でも公開中です。

【完結】どうして殺されたのですか?貴方達の愛はもう要りません  

たろ
恋愛
処刑されたエリーゼ。 何もしていないのに冤罪で…… 死んだと思ったら6歳に戻った。 さっき処刑されたばかりなので、悔しさも怖さも痛さも残ったまま巻き戻った。 絶対に許さない! 今更わたしに優しくしても遅い! 恨みしかない、父親と殿下! 絶対に復讐してやる! ★設定はかなりゆるめです ★あまりシリアスではありません ★よくある話を書いてみたかったんです!!

【完結】公女が死んだ、その後のこと

杜野秋人
恋愛
【第17回恋愛小説大賞 奨励賞受賞しました!】 「お母様……」 冷たく薄暗く、不潔で不快な地下の罪人牢で、彼女は独り、亡き母に語りかける。その掌の中には、ひと粒の小さな白い錠剤。 古ぼけた簡易寝台に座り、彼女はそのままゆっくりと、覚悟を決めたように横たわる。 「言いつけを、守ります」 最期にそう呟いて、彼女は震える手で錠剤を口に含み、そのまま飲み下した。 こうして、第二王子ボアネルジェスの婚約者でありカストリア公爵家の次期女公爵でもある公女オフィーリアは、獄中にて自ら命を断った。 そして彼女の死後、その影響はマケダニア王国の王宮内外の至るところで噴出した。 「ええい、公務が回らん!オフィーリアは何をやっている!?」 「殿下は何を仰せか!すでに公女は儚くなられたでしょうが!」 「くっ……、な、ならば蘇生させ」 「あれから何日経つとお思いで!?お気は確かか!」 「何故だ!何故この私が裁かれねばならん!」 「そうよ!お父様も私も何も悪くないわ!悪いのは全部お義姉さまよ!」 「…………申し開きがあるのなら、今ここではなく取り調べと裁判の場で存分に申すがよいわ。⸺連れて行け」 「まっ、待て!話を」 「嫌ぁ〜!」 「今さら何しに戻ってきたかね先々代様。わしらはもう、公女さま以外にお仕えする気も従う気もないんじゃがな?」 「なっ……貴様!領主たる儂の言うことが聞けんと」 「領主だったのは亡くなった女公さまとその娘の公女さまじゃ。あの方らはあんたと違って、わしら領民を第一に考えて下さった。あんたと違ってな!」 「くっ……!」 「なっ、譲位せよだと!?」 「本国の決定にございます。これ以上の混迷は連邦友邦にまで悪影響を与えかねないと。⸺潔く観念なさいませ。さあ、ご署名を」 「おのれ、謀りおったか!」 「…………父上が悪いのですよ。あの時止めてさえいれば、彼女は死なずに済んだのに」 ◆人が亡くなる描写、及びベッドシーンがあるのでR15で。生々しい表現は避けています。 ◆公女が亡くなってからが本番。なので最初の方、恋愛要素はほぼありません。最後はちゃんとジャンル:恋愛です。 ◆ドアマットヒロインを書こうとしたはずが。どうしてこうなった? ◆作中の演出として自死のシーンがありますが、決して推奨し助長するものではありません。早まっちゃう前に然るべき窓口に一言相談を。 ◆作者の作品は特に断りなき場合、基本的に同一の世界観に基づいています。が、他作品とリンクする予定は特にありません。本作単品でお楽しみ頂けます。 ◆この作品は小説家になろうでも公開します。 ◆24/2/17、HOTランキング女性向け1位!?1位は初ですありがとうございます!

妹がいなくなった

アズやっこ
恋愛
妹が突然家から居なくなった。 メイドが慌ててバタバタと騒いでいる。 お父様とお母様の泣き声が聞こえる。 「うるさくて寝ていられないわ」 妹は我が家の宝。 お父様とお母様は妹しか見えない。ドレスも宝石も妹にだけ買い与える。 妹を探しに出掛けたけど…。見つかるかしら?

【完結】婚約者に忘れられていた私

稲垣桜
恋愛
「やっぱり帰ってきてた」  「そのようだね。あれが問題の彼女?アシュリーの方が綺麗なのにな」  私は夜会の会場で、間違うことなく自身の婚約者が、栗毛の令嬢を愛しそうな瞳で見つめながら腰を抱き寄せて、それはそれは親しそうに見つめ合ってダンスをする姿を視線の先にとらえていた。  エスコートを申し出てくれた令息は私の横に立って、そんな冗談を口にしながら二人に視線を向けていた。  ここはベイモント侯爵家の夜会の会場。  私はとある方から国境の騎士団に所属している婚約者が『もう二か月前に帰ってきてる』という話を聞いて、ちょっとは驚いたけど「やっぱりか」と思った。  あれだけ出し続けた手紙の返事がないんだもん。そう思っても仕方ないよでしょ?    まあ、帰ってきているのはいいけど、女も一緒?  誰?  あれ?  せめて婚約者の私に『もうすぐ戻れる』とか、『もう帰ってきた』の一言ぐらいあってもいいんじゃない?  もうあなたなんてポイよポイッ。  ※ゆる~い設定です。  ※ご都合主義です。そんなものかと思ってください。  ※視点が一話一話変わる場面もあります。

女官になるはずだった妃

夜空 筒
恋愛
女官になる。 そう聞いていたはずなのに。 あれよあれよという間に、着飾られた私は自国の皇帝の妃の一人になっていた。 しかし、皇帝のお迎えもなく 「忙しいから、もう後宮に入っていいよ」 そんなノリの言葉を彼の側近から賜って後宮入りした私。 秘書省監のならびに本の虫である父を持つ、そんな私も無類の読書好き。 朝議が始まる早朝に、私は父が働く文徳楼に通っている。 そこで好きな著者の本を借りては、殿舎に籠る毎日。 皇帝のお渡りもないし、既に皇后に一番近い妃もいる。 縁付くには程遠い私が、ある日を境に平穏だった日常を壊される羽目になる。 誰とも褥を共にしない皇帝と、女官になるつもりで入ってきた本の虫妃の話。 更新はまばらですが、完結させたいとは思っています。 多分…

別れてくれない夫は、私を愛していない

abang
恋愛
「私と別れて下さい」 「嫌だ、君と別れる気はない」 誕生パーティー、結婚記念日、大切な約束の日まで…… 彼の大切な幼馴染の「セレン」はいつも彼を連れ去ってしまう。 「ごめん、セレンが怪我をしたらしい」 「セレンが熱が出たと……」 そんなに大切ならば、彼女を妻にすれば良かったのでは? ふと過ぎったその考えに私の妻としての限界に気付いた。 その日から始まる、私を愛さない夫と愛してるからこそ限界な妻の離婚攻防戦。 「あなた、お願いだから別れて頂戴」 「絶対に、別れない」

処理中です...