琴陵姉妹の異世界日記

もっけさん

文字の大きさ
上 下
137 / 148
容子の追憶と暗躍

136.宥子の帰還とステータス

しおりを挟む
「ただいまー」
 宥子ひろこの軽快な帰宅の声に振り向くと、血塗れの姉が立っていた。
 どこぞのチープなホラーか!?
 いやいや、底じゃないだろう自分。
 宥子ひろこの様子からして、服に付着しているのは返り血なのだろう。
「お帰りーぃぃいって、何その恰好!?」
 全身血まみれでヘラヘラと笑う宥子ひろこは、サラリと爆弾を投下してきた。
「ボス戦してた」
とテヘペロされて、イラッときたが我慢。
 宥子ひろこは、ヘラヘラした顔で重要な事を告げてくる。
 無残な姿に変わり果てたゴスロリコートは、もう着られない。
 定価2万2千832円が、ゴミになった瞬間である。
「それ、私が誕生日プレゼントに上げた奴!! お気に入りだったのに、服を汚すなんて! 宥子ひろこは、馬鹿だけど何時からアホに成り下がったの? この服の値段は、2万2千832円! 2万2千832円なんだよ! 壊されたパソコンは替えが聞くけど、これは注文して作ってもらった一点物なんだよ!? そこ解ってんの?」
 バンバンと机を叩き抗議をすると、宥子ひろこは唇を尖らせて拗ねたように言った。
「そこは、姉ちゃんの心配をしてくれよ」
 半生の色の無い宥子ひろこを冷たい目線で一睨みし、
「馬鹿! それ一着三千円のシャツと違って高いんだから! 宥子ひろこは、殺してもしなないじゃん。シャツの方が大事」
 ふんっとあしらったら、宥子ひろこは肩を落としてしょんぼりしながら風呂場へ向かった。
 今後、こんな事が起こるなら汚れても良い服を用意しておかないならない。
 RPGの世界で、ジャージ姿は目立ちそうだ。
 向こうの世界の縫製技術が、どれくらい優れているのかによって着せる服も変わりそうだ。
 暫くは、白シャツと黒パンツでも履いて過ごして貰おう。
 武器も良いタイミングで届いたし、一緒に数日分の服でも持たしておこう。
「こういう時だけ、宥子ひろこが洒落っ気がない女で良かった。取り合えず、芋ジャージ以外を着せよう」
 気を抜けば、学生時代のジャージを引っ張り出して着倒している。
 流石に、貧乏くさいしダサイので止めて欲しいのだが、本人にその気がないので若干諦めの局地にいる。
 夕飯は、宥子ひろこの嫌いな椎茸とグリーンピースを中心としたメニューにしようっと。
 これぐらいの嫌がらせは、許されるだろう。
 台所で夕飯を作っていると、いつの間にか風呂から上がった宥子ひろこが冷蔵庫を漁って缶ビールを取り出していた。
 ソファーにどかりと座り、ビールに口を付けながら半透明のボードを弄っている。
 そんな様子を尻目に、宥子ひろこのおっさん化がどんどんと進んで行っている。
 料理も一通り作り終え、気配を殺して半透明のボードを後ろから覗き込んだ。
 俗にいうステータスボードのようだ。
 私が背後に立っていることに気付かない宥子ひろこは、ソファーの背にもたれながら唸っている。
「スキルと言っても色々ある上に、PTポイントも結構かかるんだ。ですよねー! ちくせう」
 ポイントでスキルを購入したかと思うと、ガックシと肩を落とし、ブツブツ恨み辛みを吐いている。
 声を掛ける勇気はなかったので暫く放置していると、何か思いついたのか宥子ひろこは、財布を片手にラフな格好で外へ出て行った。
 三十分くらいで戻って来て、両手には100円均一の大きな袋を下げている。
 チラリと中身を見ると、香辛料と瓶、砂糖といった調味料が入っていた。
 確かに香辛料や調味料なら安定した収入にはなりそうだ。
 私が無理矢理勧めてやらせた戦争RPGの知識が役に立ったようだ。
 ゲーム主人公の軍資金集めで、交易させていたいのを覚えていたのだろう。
 部屋いっぱいに調味料や砂糖を広げて、の詰め替えをするのは止めて欲しい。
「ご飯できたよー」
「ちょっと待って。今行く」
 ご飯、ご飯とウキウキしながら食卓に来た宥子ひろこは、椎茸とグリンピースずくしの料理の食卓を見て顔を青くしながら膝から崩れ落ちた。
「愚妹よ、嫌がらせか? 姉ちゃん、白米しか食べられないじゃん!!」
 食べられない事はないのだが、昔からこの二つは苦手で自炊するようになってからは、食事当番時は絶対に出さない食材である。
「心配かけた罰だよ。お残しは許しません」
 私が持っていたお玉を宥子ひろこに向けて宣言するに、彼女はガクッと肩を落とした。
 もそもそと夕飯を咀嚼する宥子ひろこに、私は今日の成果を聞いた。
宥子ひろこのステータスは、今どうなっているの?」
「ちょっと待って。ステータスオープン」
 宥子ひろこは私にステータスを見せてくる。
 こんなに無防備で、やっていけるのだろうか?
 ザッとステータスを見るが、スキルを取得しても横に0の文字が表示されている。
 これは、スキルの熟練度を現しているのだろうか?
「スキルが0って何? これだと使えないものを持っているのと同じだと思うだけど」
「う~ん……私もそう思う。土台はあるから、地道に訓練するとか? 出刃包丁振り回しただけで剣術1を獲得出来た事を鑑みるに、スキルの取得方法はPTの消費か、地道な訓練で習得する二種類があると思うんだ。でも、取得しても0だと使えないし八方ふさがりだよ」
「PTでスキルが取得できるなら、熟練度もPTで上げることが出来るんじゃない? ちょっとやってみてよ」
 そう指摘すると、宥子ひろこは名案とばかりにスキルを弄っている。
 宥子ひろこが、隠密をタップしてみると詳細が出てきた。
 熟練度は0/100と表示されている。
 100PTを熟練度にドロップしたところで、隠密1に変更された。
「やっぱり思った通りだ。PTを使用することでスキル取得やスキル熟練度を上げることが出来るのよ」
 私は、パチンと指を鳴らしドヤ顔をすると、宥子ひろこは眉間に皺を寄せている。
「隠密・隠ぺい・索敵はMAXまで上げて、それ以外は取り敢えずレベル1で良いと思う」
と助言をすると、宥子ひろこは分かってないのか首を傾げて聞いてきた。
「その心は?」
「加護持ちだと分かれば利用されかねないでしょう。ステータスを偽装はお約束! それに索敵は敵を見つけたり、避けるのに役立つし。隠密は敵に見つからず後ろから急所をグサッと出来る。一撃必殺ってやつだね」
と説明すると、なんかドン引きされた。
 その態度失礼じゃない?
「分かった。取り敢えず、ご飯食べ終えたらステータス弄るから見てよ」
「オケ」
 TVのニュースをBGMにしながら夕飯を平らげる。
 食事が終わり、いよいよステータスを弄る時間がきた。
 ∞とMAXに違いはあるのだろうか?
 契約テイムは∞になっている。
 ポチポチと操作していた宥子ひろこの手が止まり、私は隣でステータスボードを見ていると、MAXまであげるにはポイントが足りない事が判明した。
「上げられるところまで上げてみよう」
と提案して以下のステータスになった。

---------STATUS---------
名前:ヒロコ(琴陵 宥子ことおか ひろこ
種族:人族/異世界人
レベル:30
職業:魔物使いテイマー
年齢:25歳
体力:73/125
魔力:200/200
筋力:85
防御:63
知能:108
速度:60
運 :600
■装備:バスタオル
■スキル:縁結び・契約テイム∞・剣術2・索敵7・隠ぺい7・隠密7・魔力操作1・初級魔法1[全属性]・生活魔法1
■ギフト:全言語能力最適化・アイテムボックス・鑑定・経験値倍化・成長促進
■称号:なし
■加護:須佐之男命・櫛稲田姫命
■ボーナスポイント:70pt
-------------------------------
 隠蔽レベル7では、この先行きが不安だと思うのは私だけだろうか?。
 しかし、ステータスを見る限りソロプレイ縛りで活動しなくてはならない。
 下手にパーティーを組んだら、色々と面倒臭いことになりそうだ。
 宥子ひろこも、その辺りは理解しているのかソロプレイで活動するつもりのようだ。
「ポイントも減ったけど、これならそう簡単には死なないと良いな……」
と不穏な事を言って、宥子ひろこは早々に就寝した。
 宥子ひろこが寝静まってから、私は考えた。
 宥子ひろこ曰く、邪神が某MMORPGを模して作った世界なら、ある程度スキルレベルが上がれば上位互換スキルに統廃合される可能性が高い。
 選別したスキルをMAXまで上げて進化させよう。
 宥子ひろこはアホだから、スキルが進化する事まで考えているのだろうか?
 翌日、意気揚々とお弁当を持ってサイエスへ渡った宥子ひろこを見送り、私は新しい武器を求めて骨董店巡りした。
 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

しっかり者のエルフ妻と行く、三十路半オッサン勇者の成り上がり冒険記

スィグトーネ
ファンタジー
 ワンルームの安アパートに住み、非正規で給料は少なく、彼女いない歴35年=実年齢。  そんな負け組を絵にかいたような青年【海渡麒喜(かいときき)】は、仕事を終えてぐっすりと眠っていた。  まどろみの中を意識が彷徨うなか、女性の声が聞こえてくる。  全身からは、滝のような汗が流れていたが、彼はまだ自分の身に起こっている危機を知らない。  間もなく彼は金縛りに遭うと……その後の人生を大きく変えようとしていた。 ※この物語の挿絵は【AIイラスト】さんで作成したモノを使っています ※この物語は、暴力的・性的な表現が含まれています。特に外出先等でご覧になる場合は、ご注意頂きますようお願い致します。

かつてダンジョン配信者として成功することを夢見たダンジョン配信者マネージャー、S級ダンジョンで休暇中に人気配信者に凸られた結果バズる

竜頭蛇
ファンタジー
伊藤淳は都内の某所にあるダンジョン配信者事務所のマネージャーをしており、かつて人気配信者を目指していた時の憧憬を抱えつつも、忙しない日々を送っていた。 ある時、ワーカーホリックになりかねていた淳を心配した社長から休暇を取らせられることになり、特に休日に何もすることがなく、暇になった淳は半年先にあるS級ダンジョン『破滅の扉』の配信プロジェクトの下見をすることで時間を潰すことにする. モンスターの攻撃を利用していたウォータースライダーを息抜きで満喫していると、日本発のS級ダンジョン配信という箔に目が眩んだ事務所のNO.1配信者最上ヒカリとそのマネージャーの大口大火と鉢合わせする. その配信で姿を晒すことになった淳は、さまざまな実力者から一目を置かれる様になり、世界に名を轟かす配信者となる.

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

自衛官、異世界に墜落する

フレカレディカ
ファンタジー
ある日、航空自衛隊特殊任務部隊所属の元陸上自衛隊特殊作戦部隊所属の『暁神楽(あかつきかぐら)』が、乗っていた輸送機にどこからか飛んできたミサイルが当たり墜落してしまった。だが、墜落した先は異世界だった!暁はそこから新しくできた仲間と共に生活していくこととなった・・・ 現代軍隊×異世界ファンタジー!!! ※この作品は、長年デスクワークの私が現役の頃の記憶をひねり、思い出して趣味で制作しております。至らない点などがございましたら、教えて頂ければ嬉しいです。

平凡冒険者のスローライフ

上田なごむ
ファンタジー
26歳独身動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物・魔法・獣人等ファンタジーな世界観の異世界に転移させられる。 平凡な能力値、野望など抱いていない彼は、冒険者としてスローライフを目標に日々を過ごしていく。 果たして、彼を待ち受ける出会いや試練は如何なるものか…… ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

処理中です...