琴陵姉妹の異世界日記

もっけさん

文字の大きさ
上 下
115 / 148
ハルモニア王国 王都

114.介護されました

しおりを挟む
 アンナが予約した女性専用のカプセルホテルは、風呂とトイレ共同以外は至って快適な広さがあった。
 服を脱いだ時は、卵はポケットからコロコロ転がり、意思を持っているのか私の足元にピタッとくっついている。
 剥がそうとしても離れないので、仕方なくそのまま足元の卵を抱き上げた状態でお風呂に入った。
 私とアンナ以外、風呂に人がいなくて良かった。
 お湯に濡れた卵を丹念に拭いて、清掃cleaningを施したカンガルーポケットのパーカーを着込む。
 卵はポケットに収めて、その日は早々に寝た。
 一日でここまで大きくなるって、一体何なの?
 はたから見たら、臨月の妊婦に見えるくらい腹が膨らんでいる。
 厳密に言えば卵が育っただけなのだが、パーカーのポケットから卵を取り出すのは難しくなった。
 自宅に戻ったら、容子まさこに卵専用の服でも作って貰おうかな。
 今日はお洒落するつもりだったが、断念して森ガール風のカジュアルスタイルに落ち着いた。
 化粧しなくても良いくらい肌の調子が良いので、色付きの保湿リップを付けて、名古屋駅を出発だ。
 腹を突き出す形を取り続けるので、腰の負担が半端ない!
 これじゃあ、マッサージを受けることなんて出来ない。
「ううっ、腰が痛いよぉ」
 神様から預かったものだからね。
 無責任なことが、出来ないのが辛い。
「ネズミの国は諦めますか?」
「嫌だ!! 絶対行く。ここまで来たのに帰るなんて嫌」
 愛しのネズミー達が、私をランドで待っているんだ。
 歩行も難しい状態で絶対行くんだと聞かない私に、アンナが大きな溜息を吐いた。
「分かりました。ですが、この状態では移動もままなりません。車椅子に乗って下さい」
と拡張空間ホームから取り出して言われた。
 慌てて周囲を見渡すが、誰も私達に注意を払っていなかったのか見られてなかったことに安堵した。
「外で堂々と拡張空間ホーム使うな」
「こちらの世界では、拡張空間ホームは存在しないスキルなんでしたね。済みません。気を付けます」
「分かってくれたんなら良いけど。何で車椅子持ってるのさ?」
 病院で使われているような量産型ではなく、明らかに特注品と思われる車椅子に顔が引きつる。
 一体幾らしたのか聞きたい気もするが、聞いたら魂持って行かれそうになるから止めておこう。
「売れると思ったので買いました。容子まさこ様に複製copyして貰って、イスパハンに分解させようかと思っただけです。あわよくば、改良版を作って売り出そうかと」
 はい、キターーーー!
 地球では、ガチアウトな発言頂きました。
 本当お金が大好きだよね、アンナは。
「流石に、容子まさこでもコレは複製copy出来ないんじゃない? 詳細な構造とか分からないでしょう」
 複製copyは、あくまで自分が作った物に限る。
 スキルを延ばせば、他の物も複製copy出来るかもしれないが、現時点では不可能の三文字しかない。
「そうですか。仕方がありません。座り心地など聞かせて下さいね。現物をイスパハンに渡して、解析・分析して貰いますので」
 そして、作れるようにして売り出すんだね。
 需要はなくはないと思う。
 ただ、相当高価な物になると思う。
 神社に松葉杖と一緒に貸し出しできるように置くのもありかもしれない。
 売り飛ばせないように、スラム街から持ち出した時点で戻ってくるように設計すれば盗難防止にはなるだろう。
「介護される年じゃないんだけどなぁ……」
「下手に動いて卵を割ったらどうするんですか」
 手厳しい指摘に、私は渋々車椅子に乗った。
 電動らしく自分で動かすことが出来るみたいで、色々弄ってたら怒られた。
「壊したら弁償して貰いますよ」
「すみませんでした!」
 大人しく車椅子に乗って、押して貰う事になった。
 その間も、時間が経つにつれて徐々にお腹に入れた卵が大きくなる。
 そして、私の体力も時間を追うごとに尽きてきた。
 異様に疲れるのだ。
 原因は卵にあると踏んでいるが、確証はない。
 アンナに車椅子を押して貰いながらネズミの国で買い物&スーベニアでランチをして、千葉の工場の視察はカットして直帰した。
 無理無理、体力吸われて指動かすのも辛いんだもん。
 トイレもアンナに体を支えて貰わないと入れないとか、拷問&羞恥プレイなんですけど。
 そんなこんなで、私の三が日はこうして終わった。
 容子まさこが、経費と云いつつ年末年始をヒャッハーしながら楽しんでいるとは知らず。
 私は這う這うの体で自宅へと帰り、着替えもせずベッドで爆睡したのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

しっかり者のエルフ妻と行く、三十路半オッサン勇者の成り上がり冒険記

スィグトーネ
ファンタジー
 ワンルームの安アパートに住み、非正規で給料は少なく、彼女いない歴35年=実年齢。  そんな負け組を絵にかいたような青年【海渡麒喜(かいときき)】は、仕事を終えてぐっすりと眠っていた。  まどろみの中を意識が彷徨うなか、女性の声が聞こえてくる。  全身からは、滝のような汗が流れていたが、彼はまだ自分の身に起こっている危機を知らない。  間もなく彼は金縛りに遭うと……その後の人生を大きく変えようとしていた。 ※この物語の挿絵は【AIイラスト】さんで作成したモノを使っています ※この物語は、暴力的・性的な表現が含まれています。特に外出先等でご覧になる場合は、ご注意頂きますようお願い致します。

かつてダンジョン配信者として成功することを夢見たダンジョン配信者マネージャー、S級ダンジョンで休暇中に人気配信者に凸られた結果バズる

竜頭蛇
ファンタジー
伊藤淳は都内の某所にあるダンジョン配信者事務所のマネージャーをしており、かつて人気配信者を目指していた時の憧憬を抱えつつも、忙しない日々を送っていた。 ある時、ワーカーホリックになりかねていた淳を心配した社長から休暇を取らせられることになり、特に休日に何もすることがなく、暇になった淳は半年先にあるS級ダンジョン『破滅の扉』の配信プロジェクトの下見をすることで時間を潰すことにする. モンスターの攻撃を利用していたウォータースライダーを息抜きで満喫していると、日本発のS級ダンジョン配信という箔に目が眩んだ事務所のNO.1配信者最上ヒカリとそのマネージャーの大口大火と鉢合わせする. その配信で姿を晒すことになった淳は、さまざまな実力者から一目を置かれる様になり、世界に名を轟かす配信者となる.

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

自衛官、異世界に墜落する

フレカレディカ
ファンタジー
ある日、航空自衛隊特殊任務部隊所属の元陸上自衛隊特殊作戦部隊所属の『暁神楽(あかつきかぐら)』が、乗っていた輸送機にどこからか飛んできたミサイルが当たり墜落してしまった。だが、墜落した先は異世界だった!暁はそこから新しくできた仲間と共に生活していくこととなった・・・ 現代軍隊×異世界ファンタジー!!! ※この作品は、長年デスクワークの私が現役の頃の記憶をひねり、思い出して趣味で制作しております。至らない点などがございましたら、教えて頂ければ嬉しいです。

世界樹の下で

瀬織董李
ファンタジー
神様のうっかりで死んでしまったお詫びに異世界転生した主人公。 念願だった農民生活を満喫していたある日、聖女の代わりに世界樹を救う旅に行けと言われる。 面倒臭いんで、行きたくないです。え?ダメ?……もう、しょうがないなあ……その代わり自重しないでやっちゃうよ? あれ?もしかしてここ……乙女ゲームの世界なの? プロット無し、設定行き当たりばったりの上に全てスマホで書いてるので、不定期更新です

狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~

一片
ファンタジー
バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。 しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。 流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。 その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。 右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。 この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。 数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。 元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。 根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね? そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。 色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。 ……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

平凡冒険者のスローライフ

上田なごむ
ファンタジー
26歳独身動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物・魔法・獣人等ファンタジーな世界観の異世界に転移させられる。 平凡な能力値、野望など抱いていない彼は、冒険者としてスローライフを目標に日々を過ごしていく。 果たして、彼を待ち受ける出会いや試練は如何なるものか…… ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。

処理中です...